伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)-インドネシア共和国

Disease outbreak news 2023年4月17日

発生状況一覧

2023年3月17日、インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という。)保健省は、西ジャワ(West Java)州プルワカルタ(Purwakarta)地区の急性弛緩性麻痺(以下、「AFP」という。)を発症した48カ月女児から、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が検出されたとWHOに通知しました。世界ポリオ撲滅推進計画(GPEI: Global Polio Eradication Initiative)のパートナー機関の支援のもと、地方および国の公衆衛生当局が直ちに現地調査を開始しました。新型の経口ポリオワクチン(OPV2)による2回の予防接種が計画され、従前の個人の接種状況にかかわらず、全ての5歳以下の子どもを対象としました。1回目の接種は2023年4月に実施されました。
 

発生の概要

2023年3月17日、インドネシア保健省は、西ジャワ州プルワカルタ地区の急性弛緩性麻痺(AFP)の48ヶ月の女児から伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が検出されたとWHOに通知しました。この患者は、2023年2月16日に麻痺を発症しています。この女児は、経口ポリオワクチン(OPV)または不活化ポリオワクチン(IPV)の接種歴はありません。2023年2月21日に便検体が採取され、2023年3月14日に伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型であることが確認されました。ゲノム塩基配列決定の結果、この分離株はワクチン株から30~31個のヌクレオチドが変化を起こしていると判明しました。全ゲノム塩基配列決定に関しては結果が待たれています。患者とその両親は、AFP発症前の1カ月間に旅行歴はありませんが、この間この家庭には他村からの親族を含む訪問者がありました。
 
インドネシアでは、2022年11月以降、ワクチン由来ポリオウイルス2型の確定症例が計4件報告されています。この中には、アチェ(Aceh)州で急性弛緩性麻痺(AFP)を伴う伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)の3例、西ジャワ州での1例が含まれています。さらに、2022年11月25日には、アチェ州の健康な小児4人が伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型であることが確認されました。このポリオウイルスは、2022年にアチェ州で報告された症例と同じ出現群のものであることが確認されたため、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型に分類されましたが、アチェ州のウイルスとは異なっており、見逃し感染の可能性が示唆されます。2022年11月にアチェ州で発生したアウトブレイクに対して迅速なリスク評価が行われ、国レベルのリスクは高く、地域レベルは中程度、世界レベルは低いと評価されました。
 
西ジャワ州における2018年から2022年の二価経口ポリオワクチン(bOPV4)の接種率は88%から102%、不活化ポリオワクチン(IPV)の接種率は26%から106%であったとのことです。西ジャワ州の接種を逃した方のための接種(キャッチアップ接種) キャンペーンでも、二価経口ポリオワクチンと不活化ポリオワクチンの接種率は90%を超えていました。プルワカルタ地区における2価経口ポリオワクチンの接種率は、2018年から2022年にかけて一貫して高く、2020年の94%から2021年の104%に達しています。一方、不活化ポリオワクチンの接種率は2020年に26%に低下した後、2021年に80%に上昇し、2022年に100%に達しました。
 
しかし、西ジャワ州では、2価経口ポリオワクチンと不活化ポリオワクチンのいずれも接種していない子どもたちが一部残っています。これは主に、保護者による予防接種の重要性の理解不足、ワクチンの安全性に対する懸念(予防接種後の発熱、複数回の注射が必要となること、その他の誤った情報源など)と宗教的信念に関連しています。

ポリオの疫学

ポリオは、主に5歳未満の小児を中心に感染し、感染者の約200人に1人に永続的な麻痺、麻痺者の2~10%は死亡する感染力の強い病気です。  
 
ウイルスは、主に糞口経路で人から人へ感染しますが、それ以外にも頻度は低いものの一般的な経路として、汚染された水や食べ物などを介して感染し、腸内で増殖、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。 潜伏期間は通常7-10日ですが、4-35日の範囲に及ぶこともあります。感染者の90%は無症状か軽い症状があるのみで、通常、病気であると気づかれません。  
 
ワクチン由来ポリオウイルスは、経口ポリオワクチンにもともと含まれていたポリオウイルス株が変異したもので、よく知られているものです。経口ポリオワクチンには弱毒化した生きたポリオウイルスが含まれており、腸内で一定期間複製することで抗体ができ、免疫力が発達します。まれに、消化管内で複製する際に、経口ポリオワクチンの株が遺伝的に変化し、ポリオワクチンを十分に接種していない地域、特に衛生状態の悪い地域や過密な地域で広がることがあります。集団の免疫力が低いほど、このウイルスは長く生き残り、遺伝的変化を遂げます。
 
ごくまれに、ワクチン由来のウイルスが遺伝的に変化し、野生ポリオウイルスと同じように麻痺を引き起こすことがあり、これがワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)と呼ばれるものです。少なくとも2つの異なる感染源から、少なくとも2ヶ月以上の間隔をおいてワクチン由来ポリオウイルスが検出され、それが遺伝的に関連し、地域社会での伝播の証拠を示している場合、「伝播型」ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)として分類されます。

公衆衛生上の取り組み

・西ジャワ州での症例確認後、保健省はWHO、ユニセフ、その他のパートナー機関の支援を受け、少なくとも200世帯を対象としたAFP症例の積極的な探索や病院での記録の確認など、現地調査を完了しました。
・健康な子ども30人から糞便検体を採取し、そのうち6検体がワクチン由来ポリオウイルス陽性となり、ウイルスがすでに蔓延していることが確認されました。
・新型の経口ポリオワクチン(OPV2)による2回の予防接種が計画され、西ジャワ州の全27地区で0~59ヶ月の小児合計3,984,797人にワクチンが接種されました。1回目の接種は2023年4月3日に開始されました。2023年4月11日現在、西ジャワ州では1回目接種率85.6%が達成されています。2回目の接種は5月第3週に予定されています。
・2022年11月25日にアチェ州で発生したことを受け、アチェ州では2022年11月28日から12歳以下の子どもを対象に新型の経口ポリオワクチン(nOPV2)による補完的接種活動(SIA)が2回行われました。1回目と2回目の接種で、接種率96%を達成しました。
・アチェ州に隣接する北スマトラ州では、2023年2月13日から新型の経口ポリオワクチン(nOPV2)による補完的接種活動を開始し、現在も継続中です。現在、0~59カ月児の1回目接種率は93%です。2つの州を合わせた目標接種人口は、2,564,594人です。この数はWHOが推奨する伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型アウトブレイク対策のための補完的接種活動で達成すべき最低目標人数をクリアすることになります。
 

 

WHOによるリスク評価

WHOは、国レベルで今回の事象はリスクが高いと評価しています。インドネシアにはポリオウイルスのアウトブレイクに対応する高い能力があり、西ジャワ州には感染を食い止める中程度から強いアウトブレイク対応能力があるにもかかわらず、予防接種で利用する経口ポリオワクチンを3価から2価に切り替えた後、国民がポリオウイルス2型に対して免疫を持たない状態で、アチェ州、西ジャワ州を含む、インドネシアの他のいくつかの州で不活化ポリオワクチン接種率も十分とは言えません。また、西ジャワ州とインドネシア内の他の州間の人の移動が頻繁にされていることや、感染リスクがある人々のワクチン接種に対する消極的姿勢も問題の一つです。インドネシアでのアウトブレイクは、WHO地域別には中程度のリスク、世界的には低リスクであると評価されます。
 
伝播型ワクチン由来ポリオウイルスが検出されたことを通して、各種のポリオウイルスの蔓延リスクと被害を最小限に食い止めるために、各地で高い水準の定期接種率を維持することの重要性と、あらゆるポリオウイルスを早期に検出するための質の高い監視を担保する必要性を強調しています。
 

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオの影響下にある国や地域と頻繁に旅行や交流がある国は、新規のウイルス輸入を迅速に発見し、迅速な対応を可能にするために、AFP症例の監視を強化し、環境監視の拡大計画を開始することが必要です。また、国や地域は、新規のウイルスの流入による影響を最小限に抑えるため、地区レベルでの定期予防接種率を一様に高く維持する必要があります。
 
WHOの「International travel and health」では、ポリオ感染発生地域への渡航者は、ポリオの予防接種を完了しておくことが推奨されています。
 
国際保健規則(IHR2005)に基づき招集された緊急委員会の助言により、ポリオウイルスの国際的な広がりは、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)であるとされています。ポリオウイルス感染の影響下にある国は、一時的な勧告の対象となります。PHEICの下で出された暫定勧告を遵守するために、ポリオウイルス感染が発生した国は、i)発生を国家公衆衛生緊急事態として宣言する、ii)居住者および長期滞在者に、海外旅行の4週間から12ヶ月前に不活化ポリオワクチン接種を奨励する、iii)接種率データの共有を含む不活化ポリオワクチン接種率を高める努力を更に実施するなどの遂行が求められます。
 
伝播型ワクチン由来ポリオウイルスに関する最新の疫学情報は週単位で更新されています。
 
WHOは、現在までに得られた情報に基づき、インドネシアへの渡航・貿易制限を推奨していません。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 (cVDPV2) - Indonesia
Disease Outbreak News 17 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON458