ジフテリア-ナイジェリア連邦共和国

Disease outbreak news 2023年4月27日

発生状況一覧

2023年に入り、ナイジェリア連邦共和国(以下、「ナイジェリア」という。)では557例のジフテリア患者が確認され、国内全36州のうち21州に加え連邦首都圏で感染者が発生しています。
 
2022年12月、ナイジェリア疾病管理予防センター(NCDC)は、カノ(Kano)州とラゴス(Lagos)州でジフテリアの発生疑いがあると通知を受けました。2022年5月14日から2023年4月9日までに、1,439例の疑い例が報告され、そのうち557例(39%)が検査確定し、確定例のうち73例が死亡しました(致死率13%)。ナイジェリアでは、これまでにもジフテリアの流行が報告されており、2011年に報告された最も大きなものは、同国北東部にあるボルノ(Borno)州の農村部で発生しました。ジフテリアは、ワクチンで予防可能な伝染力の強い疾病で、主に直接接触や呼吸器飛沫を介した空気感染によって人々の間に広がります。この病気はすべての年齢層がかかる可能性がありますが、予防接種を受けていない子どもは特にリスクが高く、感染者は死に至る可能性もあります。
 
ジフテリアは、抗生剤あるいはジフテリア抗毒素を投与することで治療可能です。ジフテリアに対するワクチン接種により、ジフテリアの死亡率や罹患率は劇的に減少しています。

発生の概要

ナイジェリア疾病管理予防センター(NCDC)は、2022年12月1日、カノ州とラゴス州でジフテリアの疑いがある集団発生の通知を受けました。2023年1月に確定症例数が増加し、2023年の第4週(2023年1月28日まで)に150例以上のピークを迎えましたが、それ以降、週ごとに減少する傾向が認められます。2022年5月14日から2023年4月9日までに、ナイジェリアの21州から1,439例の、ジフテリアの疑い例が報告され、その大部分にあたる83%は、カノ州(1,188例)、ヨベ(Yobe)州(97例)、カツィナ(Katsina)州(61例)、ラゴス(Lagos)州(25例)、ソコト(Sokoto)州(14例)、ザムファラ(Zamfara)州(13例)から報告されています。1,439例の疑い例のうち、39%にあたる557例が確定(検査確定51例、臨床適合504例、疫学的関連2例)、34%にあたる483例が不検出、28%にあたる399例が分類待ちとなっています。検査確定例は、カノ州(45例)、ラゴス州(3例)、カドゥナ(Kaduna)州(1例)、カツィナ州(1例)、オスン(Osun)州(1例)から報告されました。557例の確定症例中、73例の死亡が確認され、致死率は13%です。ジフテリア抗毒素(DAT)がより容易に入手できるようになったため、致死率は発生当初から大幅に低下しています。

ナイジェリアでは、過去にもジフテリアの流行が記録されており、最も大規模な発生が報告されたのは、2011年2月から11月にかけてナイジェリア北東部ボルノ州の農村部で発生したもので、98例の患者が報告されています。

図1.ナイジェリアにおけるジフテリア患者の年別/疫学週別流行曲線(2022年疫学週19から2023年疫学週14まで)

図2:2022年疫学週19から2023年疫学週14までのナイジェリアの州別ジフテリア患者分布

ジフテリアの疫学

ジフテリアは、ジフテリア毒素を産生するコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)によって引き起こされる、ワクチンで予防可能な強い伝染力を有する感染症です。主に直接接触か呼吸器飛沫を介して空気中に広がることでヒトからヒトへ拡がります。本疾患はすべての年齢層で発症する可能性がありますが、予防接種を受けていない子どもは特にリスクが高く時に致死的となりえます。症状は、喉の痛みと発熱から始まり、徐々に進行することが多いです。重症の場合は、細菌が毒素を産生し、喉の奥に灰色や白色の厚い斑点ができます。この毒素は気道を塞ぎ、呼吸や飲み込みが困難になり、また咳が出るようになります。リンパ節が腫れるため、首が腫れることもあります。治療には、ジフテリア抗毒素の投与と抗生剤の投与が必要です。ジフテリアに対するワクチン接種により、ジフテリアの死亡率や罹患率は劇的に低下しています。一方、感染者全体の5~10%の確率で致死的となり、幼児では特に死亡率が高くなります。また、ジフテリア抗毒素の入手が困難な環境では、致死率が40%になることもあります。

公衆衛生上の取り組み

・ナイジェリア疾病管理予防センター(NCDC)主導の下で、毎週開催されるジフテリア国家技術作業部会を通じて、国内のジフテリア監視・対応活動の連携と監視が継続されています。
・迅速対応チーム(RRT)は、カツィナ州、オスン州、ヨベ州に派遣され、対応活動を支援するためにカノ州、ラゴス州にも再び派遣されました。
・州や研究所間のサーベイランスや検査データの統合が進められています。
・迅速対応チームが派遣された州では、ジフテリアの発症、予防、監視について、臨床および監視担当者の啓発や訓練が行われました。
・アブジャ(Abuja)のナイジェリア疾病管理予防センター国立基準研究所(NRL)で研修を受けた研究者や医師の一部が、それぞれの州で研修を実施しました。
・試薬、サンプル収集・輸送材料、培地処理のための資材調達が開始されました。
・各州から送られてきた分離株について、ナイジェリア疾病管理予防センター国立基準研究所で薬剤感受性試験が行われています。
・2022年12月以降感染が発生した州へのジフテリア抗毒素の配布は続いています。
・全国で定期予防接種活動の強化が続いています。

WHOによるリスク評価

ナイジェリアでは、ジフテリアの症例はあまり報告されておらず、過去に発生した報告もほとんどありません。最後のアウトブレイクは、2011年2月から11月にかけて、ナイジェリア北東部ボルノ州のキンバ(Kimba)村とその周辺集落で98例が報告されたものです。ナイジェリアにおけるジフテリアトキソイド含有ワクチンの3回目接種率は、理想値からほど遠い状況です。2021年ナイジェリアでの調査(MICS: Multiple Indicator Cluster Survey)および全国予防接種普及率調査(NICS)によると、2021年の5価ワクチンの3回目接種率は57%でした。
 
ナイジェリアは現在、ラッサ熱、コレラ、mpox(サル痘)、髄膜炎などの公衆衛生上の緊急事態や、同国北東部での人道的緊急事態に直面しています。特にナイジェリア北東部の非国家武装集団が支配する地域では治安の悪化に伴いワクチン接種率が依然として理想的と言えない状況です。そのため、ジフテリアの発生は、すでに大きな負担を強いられている国の限られた資源をさらに圧迫しています。ジフテリア抗毒素(DAT)の世界的な供給量は限られており、必要な用量を迅速に入手することも難しい可能性があります。
 
ナイジェリアにおけるジフテリアの全体的なリスクは、国レベルで高い、WHO地域レベルで低い、世界レベルで低いと評価されました。

WHOからのアドバイス

ジフテリアの発生を早期に発見するための疫学的サーベイランスは、すべての国で実施されるべきであり、すべての国は、ジフテリア毒素を産生するコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)を確実に同定することができる検査施設を設置する必要があります。また、患者の適切な医療管理のために、十分な量のジフテリア抗毒素が国内または地域で入手できる状態にあるべきです。
 
WHOは、ジフテリアが疑われる症例を早期に報告し、管理することで、症例の治療と接触者のフォローアップを適時に開始し、ジフテリア抗毒素の供給を確保することを推奨しています。症例管理はWHOのガイドラインに従って行われ、毒素を中和する抗毒素と細菌を死滅させる抗生剤を投与し、合併症と死亡率を減らす必要があります。
 
ワクチン接種は患者の発生やアウトブレイクを予防する鍵であるため、5歳未満の小児、学童、ジフテリア患者の濃厚接触者、医療従事者などの高リスク集団は、優先的にジフテリア含有ワクチンの接種を受けるべきです。連携対応と地域社会の関与は、現在も継続しているアウトブレイクのコントロールに重要です。
 
渡航者がジフテリアに感染するという特別なリスクはありませんが、ジフテリアが発生している地域へ渡航する者に対しては、国の予防接種制度に基づき、適切な予防接種を受けるよう当局が注意を促すことが推奨されています。最後の接種から5年以上経過している場合は、ブースター接種が推奨されます。
 
WHOは、現在までに得られた情報に基づき、ナイジェリアへの渡航・貿易制限を勧告していません。

出典

Diphtheria - Nigeria
Disease Outbreak News 27 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON452