髄膜炎-ナイジェリア連邦共和国

Disease outbreak news 2023年4月27日

発生状況一覧

2022年10月1日から2023年4月16日の間に、ナイジェリア連邦共和国(以下、「ナイジェリア」という。)では、合計1,686名(うち死者124名)の髄膜炎の疑い例が報告され、致死率は7%でした。
 
髄膜炎は、脳と脊髄を覆う膜である髄膜におこる重篤な感染症です。致命的な疾患で、公衆衛生上の大きな課題となっています。髄膜炎の主な原因菌は、 髄膜炎菌(Neisseria meningitidis )、肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、B群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)です。ワクチンで髄膜炎菌の予防が可能です。

発生の概要

2022年10月1日から2023年4月16日までに、ナイジェリアの連邦首都圏(FCT: Federal Capital Terrirory)を含む36行政州のうち22州の81地方行政区(LGA)から、合計1,686件の髄膜炎疑い例、532件の髄膜炎確定例、124件の髄膜炎による死亡例(致死率7%)が報告されました。
 
疑い例全体の57%にあたる961例が男性です。報告された症例の中で最も割合が高いのは、1歳から15歳の子供です。ジガワ(Jigawa)州が全疑い例の74%にあたる1,252例を占め、この州は、2022年10月から髄膜炎の発生が報告されているニジェール共和国のザンデ―ル(Zinder)地域と隣接しています。
 
18州の患者から合計481件の脳脊髄液検体が採取されました。これらの検体のうち、247件がPCR検査により細菌感染陽性と判定されました。陽性例のうち91%にあたる226例は 髄膜炎菌血清群C(Neisseria meningitidis serogroup C(NmC))が原因で、5.4%にあたる13例は肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)が原因、インフルエンザ菌 (Haemophilus influenzae)が原因となった症例はわずか1例(全体の0.4%)であることがわかりました。232検体については陰性で、2検体については結果保留となっています。直近の5週間(疫学週11から週15まで)だけでも、検査した140検体のうち41検体(29%)が髄膜炎菌血清群C陽性でした。確定症例は、ジガワ州231例、ザムファラ(Zamfara)州6例、ヨベ(Yobe)州5例、ベヌエ(Benue)州1例、ゴンベ(Gombe)州1例、カツィナ(Katsina)州1例、オヨ(Oyo)州1例、ソコト(Sokoto)州1例の8州から報告されています。

図1. 2022年10月1日から2023年4月16日までの髄膜炎疑い症例(n=1,686)発生地域
出典 ナイジェリア疾病管理予防センター(NCDC)
 
ジガワ州は27の地方行政区で構成されており、そのうち25の地方行政区で少なくとも1件の髄膜炎疑い例が報告されています。ジガワ州では、66人の死亡が確認されています。今回の流行では、マイガタリ(Maigatari) 地方行政区とスルタンカカ(Sule-tankarkar)地方行政区が人口10万人あたり10件の疑い例という流行基準を超え、それぞれマイガタリ地方行政区で505件、スルタンカカ地方行政区で247件報告され、全報告患者数の60%を占めています。
 
このアウトブレイクの致死率は、国レベルでは7%、ジガワ州レベルでは5%です。


図2.2022年10月1日から4月16日までの髄膜炎患者(n=1,686疑い例)の週次分布図

髄膜炎の疫学

髄膜炎は、脳と脊髄を覆う膜である髄膜におこる重篤な感染症です。致命的な疾患で、公衆衛生上の大きな課題となっています。この疾患は、細菌、真菌、ウイルスなど、さまざまな病原体によって引き起こされますが、世界的に最も深刻な問題になっているのは、細菌性髄膜炎と言われています。
 
髄膜炎は、複数種の細菌によって引き起こされ、肺炎球菌 (Streptococcus pneumoniae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)そして、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis )が最も頻度の高いものです。髄膜炎菌性髄膜炎の原因となる髄膜炎菌は、大規模な流行を引き起こす可能性があります。
 
髄膜炎菌性髄膜炎は、通常、無症状の保菌者の呼吸器系の分泌液の飛沫を介して人から人へ感染します。感染者との密接かつ長期にわたる接触、または保菌者との同居は、本疾患の感染拡大をもたらします。平均的な潜伏期間は4日ですが、2日から10日と幅があります。
 
西はセネガル共和国から東はエチオピア連邦民主共和国にかけて、ナイジェリア北部を含むサハラ以南の26か国が含まれるアフリカの髄膜炎ベルトは、本疾患の最も高い発病率を示しています。 これらの国の髄膜炎は季節的なパターンに従っており、12月から6月の乾季に最も患者数が多く、3月から4月にかけてピークを迎えます。この時期は、湿度が低く粉塵が多くなるため、咽頭粘膜を損傷して髄膜炎菌による鼻咽頭上皮のコロニーができやすくなると考えられています。季節的な流行は、年によってその規模が異なります。
 
症例発見・管理の改善や集団予防接種キャンペーンなど、流行時に実施される対応策が、流行の抑制に寄与しています。
 
ナイジェリアでは、髄膜炎菌性髄膜炎が依然として公衆衛生上の懸念事項となっており、近年、アウトブレイクが報告されています。WHOの支援を受けて、ナイジェリア疾病管理予防センター(NCDC)は、国家レベルで対応策を実施しています。この対策には、ワクチン接種、サーベイランス、積極的な症例発見、検体検査、症例管理などが含まれます。

公衆衛生上の取り組み

WHOの支援を受けて、ナイジェリア疾病管理予防センター(NCDC)は、国家レベルでの対応策を実施しています。その内容は以下の通りです。
 
・2022年12月以降、州および地方行政区レベルで日次の調整会議が開催されています。
・サーベイランス活動では、迅速対応チームが積極的に症例探索を続けています。
・感染例の発生した地方行政区の公衆衛生センターでの症例管理活動が実施されています。
・ジガワ州のマイガタリ、スルタンカカ、グメル(Gumel)、ガガラワ(Gagarawa)などの17区の優先地方行政区でワクチン接種活動が行われています。

WHOによるリスク評価

ナイジェリアは、2011年から2022年にかけて、髄膜炎菌血清群 Aに対する髄膜炎菌A(MenA)結合型ワクチンの導入など、髄膜炎対策への介入を実施してきました。予防接種キャンペーンを通じて、ナイジェリアは1~29歳の1億人以上にワクチンを接種し、2019年からは同国の定期接種スケジュールにも髄膜炎菌Aワクチンが含まれています。髄膜炎ベルトの国々で髄膜炎菌Aワクチンを接種した人々では、髄膜炎菌血清群Aによる髄膜炎の発生率は99%以上減少し、2017年以降、髄膜炎菌血清群Aの症例は確認されていません。しかし、国内では、髄膜炎症例が依然として毎年報告されており、そのほとんどが髄膜炎菌血清群C(NmC)に関連するものです。
 
特にナイジェリア北東部では、非国家武装集団が支配する地域で治安が悪化し、予防接種率に影響を与えています。国レベルでは、2021年現在、予防接種率は50%と決して適切とは言えない状態が続いています。
 
髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌に対する承認ワクチンは長く利用されています。これらの菌にはいくつかの異なる株(血清型または血清群として知られている)があり、ワクチンは設計上最も人体にとって有害となる株から保護することを目的に作られています。時とともに、菌株への有効範囲とワクチンの利用率は大きく改善されましたが、これらの感染症に対する万能なワクチンは未だ存在しません。
 
さらに、2022年11月には、ニジェール共和国のザンデ―ル地方で髄膜炎の発生が確認されました。この地域は、ナイジェリアで現在最も感染被害が大きいジガワ州と国境を接しています。国境を越えて人口が移動するため、国境を越えた感染のリスクは高いです。
 
以上の情報から、ナイジェリアにおける髄膜炎の全体的なリスクは、国家レベルでは高く、WHO地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと評価されます。

WHOからのアドバイス

ワクチン接種によって長期的な免疫を取得させることにより髄膜炎を予防することは、疾病に伴う負担と影響を軽減する最も効果的な方法です。多価結合型髄膜炎菌ワクチンの普及が進むことは、アフリカの髄膜炎ベルトにおける細菌性髄膜炎の流行をなくすための公衆衛生上の優先事項です。
 
早期診断と治療は、全ての髄膜炎菌疾患を管理する上で重要です。流行に対応するためには、適切な症例管理、地域に根ざした積極的な症例探索、感染が発生した地域や集団への対応的集団ワクチン接種が必要です。現在、対応的ワクチン接種キャンペーンが進められています。今後の対策活動の指針とするためには、新たな地域への感染拡大を監視することが重要であり、必要に応じてさらなるワクチンの要請を検討する必要があります。対応的ワクチン接種キャンペーンの適時性は不可欠で、流行閾値を越えてから4週間以内にワクチン接種キャンペーンを開始することが理想です。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、ナイジェリアへの渡航・貿易を制限することを推奨していません。

出典

Meningitis - Nigeria
Disease Outbreak News 27 April 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON454