マールブルグ病-赤道ギニア共和国およびタンザニア連合共和国

Disease outbreak news 2023年5月8日

発生状況一覧

赤道ギニア共和国(以下、「赤道ギニア」という。)は2023年2月上旬から、タンザニア連合共和国(以下、「タンザニア」という。)は3月下旬から、それぞれマールブルグ病(MVD)が発生しています。 
 
赤道ギニアでは、2023年2月13日から5月1日までに、マールブルグ病検査確定例が17例、可能性例が23例報告されています。最後の確定例は、4月20日に報告されました。検査確定例のうち、12例が死亡し、致死率は75%です。確定例1例については、転帰は不明です。確定例のうち、4例が回復しています。可能性例はすべて死亡しています。最も影響を受けている地区はリトラル(Litoral)県のバタ(Bata)地区で、11例のマールブルグ病検査確定例が報告されています。 
 
タンザニアでは、2023年3月16日から4月30日の間に、検査確定例8例と可能性例1例の合計9例のマールブルグ病患者が報告されました。最後の確定例は、2023年4月11日に報告されています。死亡例は、可能性例1例と確定例5例の合計6例(致死率66.7%)が報告されています。確定例のうち、3例が回復しています。すべての症例はカゲラ(Kagera)州にあるブコバ(Bukoba)地区から報告されています。 
 
両国の保健当局は、政治的に本症例対応に強く関与しています。ここ数週間、両国の保健当局は、WHOやパートナー機関の支援を受けて、入国地点を含む疾病サーベイランス、検査確定のための活動、症例管理、感染予防と管理、リスクコミュニケーションとコミュニティ活動、活動支援や 物流支援など、重要な対応機能をさらに強化しています。
 
WHOは引き続き、これら2カ国の状況を注意深く監視し、対応を支援していきます。

発生の概要

赤道ギニア:
2023年2月13日のアウトブレイク宣言以降、5月1日現在、合計17例の検査確定マールブルグ病症例と23例の可能性例が報告されています(図1)。検査確定例のうち、死亡例は12例でした(致死率 75%)。確定例1例については、転帰不明です。可能性例は全例死亡しています。国内8県のうち4県、サントル・スール(Centre- Sur)県、キエンテム(Kié-Ntem)県、リトラル県、ウェレ・ンザス(Wele-Nzas)県にある5地区バタ、エビベイン(Ebebiyin)、エヴィナヨング(Evinayong)、ノソック・ノソモ(Nsock Nsomo)、ノソーク(Nsork)から、確定例または可能性例が報告されています(図 2)。最も被害が大きいのはリトラル州のバタ地区で、検査確定マールブルグ病症例が11例報告されています。
確定例のうち、4例が回復しました。また、確定例のうち5例は医療従事者で報告され、うち2例が死亡しています。
 多くの症例が社会的ネットワークや集会、地理的近接性でつながりを認めるが、明確な疫学的関連性のない症例やクラスターが複数の地区にわたって存在していることから、ウイルス伝搬を覚知できていない可能性があります。
 
マールブルグ治療センターでは、2023年4月26日に最後の患者が退院し、その後現在まで確定例はありません。アウトブレイクが宣言されて以降、生存者は合計4例となりました。 


 
図1.赤道ギニアにおける発症週別*、症例分類別マールブルグ病症例数。 2023年2月13日~5月1日
*発症日が不明の場合、診察日、次いで報告日を使用 
 
年齢と性別の情報があるマールブルグ病検査確定例全 16例では、女性が10例(62.5%)と男性より多く発症し、年齢層別にみると40-49歳で6例(37.5%)と発症が最も多く、30-39歳で3例(18.8%)、10-19歳で2例(12.5%)、0-9歳で2例(12.5%)と続いています。 
 
過去21日間(2023年4月11日から5月1日まで)に、バタ地区から2例の確定例が報告されました(図3)。この2例は、家族間、または医療現場を通じて、確定例との疫学的なつながりが確認されています。 


 図 2. 赤道ギニアにおけるマールブルグ病確定例および可能性例報告地区、または症例との接触報告があった地区の地図。2023年2月13日~5月1日 
 

図3. 赤道ギニアにおいて過去21日間(2023年4月11日~5月1日)にマールブルグ病確定例を報告した地区の地図
 
タンザニア:
 2023年3月21日にマールブルグ病のアウトブレイクが宣言されて以来、2023年4月30日現在、合計9例(検査確定例8例、可能性例1例)が報告されています(図4)。全症例のうち、6例の死亡が確認されました(CFR 66.7%)。確定例のうち、3例が回復し、2例は医療従事者から報告され、うち1例が死亡しています。 
 
4月10日から30日までの21日間で、4月11日に1名の確定例が報告されました。 この患者は、以前報告された18ヶ月の小児マールブルグ病患者の母親で、同日に死亡しました。この母親は、3月に子どもからマールブルグ病が検出されるとすぐに隔離されました。この患者からの追加の接触者は報告されていません。ブコバ地区の治療センターでは、2023年4月21日に確認された患者の退院に伴い、現在、確認されている症例はありません。これにより、アウトブレイクが宣言されてからの生存者は合計3人となりました。 
 
 
図4:タンザニアにおける発症日別マールブルグ病症例(確定例および可能性例)の分布。 2023年4月30日現在。
*発症日が不明の場合、診察日、次いで報告日を使用 

 
図5:タンザニアでマールブルグ病確定例および可能性例を報告している地区の地図。2023年4月30日現在。
 
すべての症例はカゲラ州ブコバ地区から報告されています。 
患者の年齢は1歳から59歳(中央値35歳)で、66.7%にあたる6例が男性と最も多く罹患していました。

マールブルグ病の疫学

マールブルグ病は、感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液、およびこれらの体液で汚染された、寝具や衣類などのような物と、傷のある皮膚や粘膜を介してヒトからヒトに感染します。医療従事者が、マールブルグ病の疑い患者および確定患者を治療中に感染した記録もあります。また、死者の身体に直接触れる形をとる埋葬の儀式も、マールブルグ病の伝播につながる可能性があります。
 
潜伏期間は2日から21日と広範です。マールブルグウイルスによる症状は、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感で、突発的です。重症の出血性症状は、発症から5日から7日の間に現れることがあります。一方、全ての症例で出血症状が現れるわけではなく、致命的な症例の場合では通常、何らかの出血があり、多くの場合複数の部位から出血しています。
 
このウイルスを予防または治療するためのワクチンや抗ウイルス治療は承認されていませんが、赤道ギニアではレムデシビルが特例として、確実な管理のもとで緊急的に使用されています。早期の経口または点滴による水分補給等の支持療法や、特定の症状や同時感染の治療により、生存率の向上が期待できます。血液製剤、免疫療法、薬物療法など、さまざまな治療法の可能性が評価されています。  
 
赤道ギニアとタンザニアの両国でマールブルグ病のアウトブレイクが報告されたのは、今回が史上初めてとなります。その他、ガーナ共和国(2022年)、ギニア共和国(2021年)、ウガンダ共和国(以下、「ウガンダ」という。)(2017、2014、2012、2007年)、アンゴラ共和国(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(2000、1998年)、ケニア共和国(以下、「ケニア」という。)(1990、 1987、1980)、南アフリカ共和国(1975年)でマールブルグ病アウトブレイクが過去報告されています。

公衆衛生上の取り組み

赤道ギニア:
連携
・政府は、保健大臣と大臣代理の主導の下、バタにある地域公衆衛生緊急オペレーションセンターを始動しました。
・保健省は、現在全国的な活動対応計画を策定し、国、地域、地区レベルでの対応活動を調整するための定例会議を開催しています。
・世界的感染症発生警戒・対応ネットワーク(GOARN)のパートナー機関が、対応活動を支援するために動員されました。WHOを通じて数名の専門家が派遣され、症例管理、研究機関、疫学、監視の機能を支援しました。
・WHOを含む国連システムは、コミュニティベースの活動を行うための政府の合意を待ちながら、「性的搾取と虐待の防止」のための提言を続けています。
 
パートナー機関によるサポート
・複数のパートナー機関が、技術的、財政的、運営上の支援を提供することで、政府主導の対応を支援しています。WHO、米国疾病対策予防センター(US-CDC)、キューバ医療旅団(the Cuban Medical Brigade)、アフリカ疾病対策予防センター(Africa CDC)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、国連児童基金(UNICEF)などがそれにあたります。
 
サーベイランス
・保健省がWHOの支援を受けて開発した、地域全体のマールブルグ病警報管理のための警報・派遣センターが稼働しています。しかし、1日に報告されるアラート数は依然として低いままです。
・WHOは保健省に対して、症例調査や接触者追跡活動などの監視活動の訓練や支援監督を行い、積極的な監視のための医療施設との連携を図っています。
・WHOは、US-CDCおよびキューバ医療旅団と、人的資源や活動配分について連携しています。
 
検査機関
・US-CDCとWHOの支援により、マールブルグ病診断のためのRT-PCR能力を備えた検査機関がバタに設置され、国の職員のトレーニングが続けられています。
・WHOは、検体の品質確保と迅速な検査を実施するために、検体収集と検体輸送システムの強化を支援しています。
・WHOは引き続き保健省と連携し、マラボ(Malabo)でのマールブルグウイルス検査とシークエンス能力の確立に向けたパートナーの連携努力を支援しています。
 
臨床管理
・WHOは、バタにあるモンドン(Mondong)治療センターの運営において、保健省を引き続き支援しています。18床のベッドに加え、患者ケアの向上のために2つのキューブが設置され、品揃え豊富な薬局も設置されました。
・WHOは、地域のどの地区からでも疑い患者や確定患者をモンドン治療センターに運ぶ3台の救急車を含む紹介システムの連携において、保健省を引き続き支援しています。
・WHOは、生存者に医療や心理的ケア、検査を提供する生存者のための診療所の設立においても保健省を支援しています。
・WHOは、現地の臨床スタッフと衛生スタッフの継続的なトレーニングを行い、治療センターで臨床指導を行っています。
 
感染予防と制御(IPC)
・WHOは、IPC活動の連携のために保健省の地域タスクフォースと、IPC対応のための国家戦略の支援を続けています。
・WHOは、優先医療施設における評価や改善計画および医療従事者のトレーニングを完了するため監督や指導を行っている保健省への支援を続けています。
・WHOは、パートナー機関とともに、医療施設における水と衛生(WASH)、特に給水と廃棄物管理の改善を提唱し続けています。
・WHOは、優先医療施設におけるチームのトレーニングを含め、医療施設の消毒作業を引き続き支援しています。
・WHOは、バタ、エビベイン、モンゴモ(Mongmo)、エビナヨン、マラボの5つの地区で国家によるIPC連絡窓口を確保し、トレーニングを行いました。
・バタとエビベインでは、安全で尊厳のある埋葬のためのチームが設立されました。死者の口腔内ぬぐい検体採取に関して、チームのトレーニングは継続中で、規模を拡大する必要があります。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティ活動(RCCE)
・WHOは、他の主要なパートナー機関(ユニセフ、IFRC、アフリカCDC、その他)と連携し、RCCEのメッセージや活動が、ウイルスの影響下にある人々や感染リスクのある人々に迅速かつ適切で実行可能な形で届くよう活動しています。
・WHOは、RCCEの国内の専門家、社会動員活動家、コミュニティリーダー(市民社会組織、宗教指導者、女性グループのリーダーなど)に対する公衆啓発と能力開発を支援しています。
・マラボの有力者やモンゴモ地区の感染発生コミュニティに対して、集中的な広報啓発と感化セッションが実施されました。
・宗教指導者、学校代表者とコミュニティへの関与が強められました。
・2023年4月から6月までのRCCE国家計画がパートナー機関とともに策定されました。アウトブレイクに対応するすべての感染発生地区で、実施が進んでいます。マラボでは、準備活動が継続されています。
・バタのメディアネットワークは、現地語、フランス語、スペイン語で、コミュニティに対する予防策のメッセージを理解してもらい、さらに浸透させるために活動中です。
 
国境検疫と入国地
・WHOは、保健当局が主要な渡航・輸送機関を招集し、入国地点における対応能力と予防措置を増強する支援をしています。
・2023年4月26日、WHOはUS-CDCと国際移住機関(IOM)の支援により、感染発生国および近隣諸国に対してマールブルグ病アウトブレイクの対応に必要な国境検疫の準備と対応活動に関する認識を高めるためにウェブセミナーを開催しました。
 
オペレーション、サポート、ロジスティクス(OSL)
・WHOは、マールブルグ治療センターの運営のサポートと後方支援、および構造的な再生、電気と水の供給、サプライチェーン管理などの保守を行いました。
・WHOは、バタ治療センターで24時間365日待機している3台の救急車と、約20台の車両を含む車両管理のサポートを確立しました。WHOは、すべての活動に必要な医薬品と物資を提供しました。調達は継続中です。
・WHOは、バタに必需品のための中央倉庫を設立し、他の地域への配布を支援しています。
 
周辺国の準備と対策
・WHOは、近隣諸国が自国の準備状況を評価し、潜在的なギャップや、マールブルグ病を含むフィロウイルスのアウトブレイクの可能性がある場合に取るべき具体的な行動を特定するのに役立つ準備状況チェックリストを開発しました。チェックリストはいくつかの主要な構成要素からなり、平均点を算出して、国ごとにそれぞれ準備状況のスコアを提供します。カメルーン共和国(以下、「カメルーン」という。)とガボン共和国(以下、「ガボン」という。)に対しては、すべての分野にわたる準備状況の第2回目の評価が行われました。2023年5月3日現在、サブリージョン全体の準備状況は66%と評価されました。
・評価中に特定された不足部分について、ギャップ分析が行われ、カメルーンとガボンと共有され、優先的な準備活動項目決定に役立てられました。明らかになった不足部分は、トレーニング、机上演習、シミュレーション演習など、さまざまな戦略を用いて、運用上の能力に合った方法で対処されることになります。さらに、準備活動の実施を支援するために、専門家の派遣が行われます。
 
タンザニア:
連携
・保健省は毎日、対応会議を開催し、現在進められている対応活動について議論しています。これらの会議には、各分野の長やパートナーが出席しています。
・WHOとユニセフの協力と支援のもと、保健省による資源動員活動が継続されています。
・保健省は、地域対応チームのための能力開発の努力を続けています。
・性犯罪の防止活動は、国レベルで継続的に行われています。この活動には、緊急事態準備・対応(EPR)活動への新規採用者全員への事前説明、WHOのあらゆる活動における行動規範書への署名と掲示、WHO職員全員への再教育、パートナー機関およびコミュニティの両方に対する啓発資料の作成等が含まれています。
・また、WHOは国際協力分野における性的搾取・虐待・ハラスメントからの保護(PSEAH)ネットワークを支援し、コミュニティの意識向上に関する説明会の開催や、コミュニティの全員に通報制度を周知する活動を行っています。さらに、WHOは、PSEAHネットワークと連携して、PSEAHの迅速なリスク評価とリスク軽減策を実施しました。
 
サーベイランス
・接触者追跡活動を継続中です。 4月30日現在、累計212人の接触者が21日間の健康観察期間を終了しています。
・積極的な症例検索と警報管理は継続中です。1日に報告されるアラートの数は、依然として低い水準にあります。4月30日現在、アウトブレイク開始以降、合計176のアラートが報告されています。
 
検査機関
・マールブルグの検体管理と分析について、地域の検査担当者を訓練するための能力開発活動を継続中です。
 
臨床管理と感染予防と制御(IPC)
4月21日に最後の患者が退院して以来、新たな入院はありません。しかし、特定された疑い患者がマールブルグ病検査結果を待つ間、引き続き隔離され治療を受けています。
個人用保護具(PPE)の適切な着脱に関する始動とオリエンテーションが継続されています。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティ活動(RCCE)
・活動内容は、ラジオを通じた広報活動、ブコバ地区の地域医療従事者やコミュニティ指導者へのマールブルグ病に関する一斉啓発と情報発信です。
・保健省は、ソーシャルメディアプラットフォームを通じて、マールブルグ病に関する情報を提供し続けています。
・噂や誤情報の継続的な追跡は、コミュニティベースの既存のネットワークを利用して行われています。
・情報教育およびコミュニケーション資料の見直しと配布を継続し、オフラインのソーシャルリスニング調査結果(Africa Infodemic Response Alliance、Afyaコールセンター、コミュニティ投票調査)も公表しています。
 
国境検疫と入国地
・海外・国内旅行者ともに対象として、マールブルグ病の疑いまたは可能性例を見つけるため、入国地点(PoE)でのスクリーニングを強化する活動が継続されています。4月30日の時点で、25万人以上がスクリーニングを受けました。
・該当する入国地点は評価され、健康教育資料、手洗い設備、医療品、スクリーニングと隔離のためのインフラの提供を通じて機能が増強されています。
 
オペレーション、サポート、ロジスティクス(OSL)
・WHOの支援により、赤外線温度計、スプレーポンプ、サージカルマスク、フェイスシールド、埋葬袋、その他のPPEを含む医療用品が提供されています。
・国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)との共同評価を経て、WHOは現在、キゴマ(Kigoma)地域のUNHCR敷地内に国連職員用の8床の隔離ユニットを準備する提案を支援しています。
 
周辺国の準備と対策
・ブルンジ共和国、コンゴ民主共和国、ケニア、ルワンダ共和国(以下、「ルワンダ」という。)、ウガンダを対象に、WHOの準備状況評価の第1回目が実施されました。2023年5月3日の時点で、このサブリージョン全体の準備状況は70%と評価されました。
・評価において特定された不足部分について、ギャップ分析が行われ、優先的な準備活動項目を知らせるため、上記5カ国と結果が共有されました。不足部分に関しては、トレーニング、机上演習、シミュレーション演習など、さまざまな戦略を用いて、運用上の能力に合った方法で対処されることになります。さらに、準備活動の実施を支援するために、専門家の派遣が行われます。
 

WHOによるリスク評価

赤道ギニア、タンザニアともに今回初めてマールブルグ病のアウトブレイクが報告されました。
 
赤道ギニアでは、多くの症例が社会的ネットワークや集会、地理的近接性でつながりを認めるが、明確な疫学的関連性のない症例やクラスターが複数の地区にわたって存在していることから、ウイルス伝搬を覚知できていない可能性があります。最後の感染者は、赤道ギニアで最も人口が多く、経済の中心地であり、空港と海港があるバタで発生したため、対応が困難でした。国内の監視システムは依然として不完全であり、アラートもほとんど報告されていません。さらに、本土と島嶼部の異なる地区間で人の移動が発生しています。カメルーンやガボンと国境を接する地区では、頻繁な人の移動があり、更には国境も簡単に越えられてしまうとの報告がなされており、陸上入国地点での監視は適切になされていると言えない状況です。また、カメルーンやガボンとの国境に沿って管理されていない無数の抜け道もあります。
 
タンザニアでは、感染の発生したカゲラ州は北はウガンダ、西はルワンダ共和国とブルンジ共和国の3か国とビクトリア湖に接しており、国境を越えた人の移動により感染症伝播のリスクが高まる可能性があります。近年、コンゴ民主共和国で2022年4月23日~7月3日、8月21日~9月27日にエボラウイルス病(エボラ出血熱)が発生し、ウガンダでは2022年9月20日~2023年1月11日にスーダン型エボラウイルス病(エボラ出血熱)が発生したことから、タンザニアを含むサブリージョン内の近隣諸国はフィロウイルス疾患に対する備えの能力構築を進めてきました。 しかし、現在も行われている疫学調査では、感染源は明らかになっておらず、感染発生地域の住民にさらなる被害をもたらす可能性があります。
 
2023年3月、WHOは赤道ギニアとタンザニアで発生したマールブルグ病がもたらす公衆衛生リスクを、国家レベルで非常に高い、アフリカサブリージョンレベルで高い、WHO地域レベルで中程度、世界レベルで低いと評価しました。 WHOは、これら2カ国の状況を引き続き注意深く監視しています。

WHOからのアドバイス

マールブルグ病のアウトブレイク対策は、早期の隔離と適切な支持療法、積極的な症例検索、症例調査、接触者追跡を含む監視、優れた検査体制、感染予防と管理、安全で尊厳ある埋葬、社会動員など、さまざまな介入を行うことにかかっています。リスクコミュニケーションと地域社会の関与は、マールブルグ病アウトブレイクを制御するための鍵です。マールブルグウイルスに感染する危険因子と、個人ができる防御策についての認識を高めることで効果的に人への感染を抑制できます。
 
マールブルグ病の確定または疑い患者をケアする医療従事者は、患者の血液や体液、あるいはそれらで汚染された物との接触を避けるために、標準的な予防策や感染症予防策、個人防護具の着用、手指衛生の徹底などのIPC措置を適用すべきです。医療施設においては、医療従事者がIPC措置を実践できるように、十分な水、衛生設備、衛生環境の管理、安全な感染性廃棄物管理プロトコルの整備を確認する必要があります。さらに、医療施設では、疑い症例の適切なスクリーニング、隔離、適切な施設への紹介を行う必要があります。WHOは、男性のマールブルグ病治癒者に対しては、発症から12ヶ月間、または精液検査で2回マールブルグウイルス陰性を確認するまで、より安全なセックスの実践を推奨しています。WHOは、血液検査でマールブルグウイルスが陰性となった男女の回復期の患者の隔離は推奨しません。
 
現在までに得られた情報と現在のリスク評価に基づき、WHOは、警戒管理、症例調査、接触者リストの作成、接触者の追跡、健康観察、積極的な症例検索を通じて、国内でのサーベイランスを強化するよう助言しています。加えて、WHOは、赤道ギニアとタンザニアの感染発生地における出入国地点で、症例を把握するためのサーベイランスを強化すること、感染の危機にさらされている人々を特定し、それらの人々に公衆衛生対策を実施するため、国境を越えた人々の移動をマッピングすること、感染発生地区、入国地点、陸路国境近くの隣接するコミュニティに対しては公衆衛生情報と助言をすべての関連言語で提供することを助言しています。さらに、疑い例、可能性例、確定例とその関係者は、海外を含む旅行には行かないようにも助言しています。また、現在までに得られた情報に基づき、WHOは赤道ギニアとタンザニアに対して、国際渡航や貿易に係るいかなる措置も行わないよう勧告しています。WHOの勧告よりも厳しい国際渡航・貿易関連措置を採用する締約国は、国際保健規則(IHR2005)第43条に基づき、WHOに報告するよう要請されます。
 
アウトブレイクの終息を宣言するために必要な、最後の患者から42日間の観察期間について検討を開始する前に、確定例または可能性例としてリスト化された接触者全員の、21日間の健康観察期間が終了し、発症者がいないことを確認することがまずは推奨されます。それなしでは、接触者が患者となる可能性が残ります。
 
すべての接触者が21日間の健康観察期間を終えたら、以下の2つのシナリオいずれかに基づいて、マールブルグ病の可能性例または確定例と最後に接触した可能性のある日を設定することになります。:
シナリオ1)患者はマールブルグ病検査確定例。患者の回復後、少なくとも48時間以上の間隔で採取した2つの血液検体のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、マールブルグ病陰性と判定された。42日間の計算は、2回目のPCR陰性検体を採取した日の翌日から開始。
シナリオ2)患者はマールブルグ病の確定例または可能性例で死亡し、埋葬が行われた。42日間の計算は、埋葬の翌日から開始。

出典

Marburg virus disease - Equatorial Guinea and the United Republic of Tanzania
Disease Outbreak News 8 May 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON467