心筋炎-グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(英国)

Disease outbreak news 2023年5月17日

発生状況一覧

2023年4月5日、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(以下、「英国」という)の国際保健規則(IHR)に則った国の連絡窓口は、ウェールズでエンテロウイルス感染に関連する新生児の重症心筋炎の増加をWHOに通知しました。2022年6月から2023年4月にかけて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査によりエンテロウイルス陽性が確認された入院中の新生児10人が心筋炎を発症していることが判明しました。10例のうち7例はさらにサブタイプ解析が行われ、コクサッキーB3またはコクサッキーB4が確認されました。2023年5月5日現在、1名の患児が入院中で、1名が死亡しています。

エンテロウイルス感染症は新生児や乳児によく見られますが、エンテロウイルス感染症に関連して新生児や乳児に重篤な転帰を伴う心筋炎が増加したという報告は異例です。

発生の概要

2023年4月5日、英国の国際保健規則(IHR)に則った国の連絡窓口は、ウェールズにおけるエンテロウイルス感染に関連した新生児と乳児の重症心筋炎の増加についてWHOに通知しました。

2022年6月から2023年4月にかけて、生後28日未満の新生児10人が心筋炎とみられる所見を呈し、また、エンテロウイルスのPCR検査が陽性となりました。7例は集中治療室で治療され、1例は三次医療機関への移送前に死亡しています。患児は、敗血症、心筋炎、または心肺停止を起こしていました。症例発生のピークは2022年11月で、他の月にも散発的に発生がみられました。

10例全例で実施されたエンテロウイルスのPCR検査(血液、咽頭ぬぐい液、鼻ぬぐい液、鼻咽頭吸引液、脳脊髄液検体のいずれか)で、コクサッキーB3またはコクサッキーB4のサブタイプに当てはまるエンテロウイルスが確認されました。

集中治療室に受け入れられた患児には、挿管、人工呼吸、循環補助などの救命措置が行われました。

2023年5月5日現在、1名の患児が入院中で、1名は死亡しています。

エンテロウイルス感染に関連する新生児および乳児の重症心筋炎の増加が報告されていますが、これは異例の事態です。南ウェールズ地域を管轄する三次医療機関では、2022年6月以前の6年間でも、2例の類似症例の報告があるのみです。

また、イングランド南西部では、同時期にさらに5例の症例が確認されています。これらの症例について、現在までに得られた追加情報はありません。南ウェールズの5例とイングランド南西部からの追加症例のうち3例の詳細が最近発表されました(Ng et al.、2023)。

心筋炎(急性感染性)の疫学

心筋炎は、心臓の筋肉(心筋)に起こる炎症です。心筋炎の最も一般的な原因はエンテロウイルスなどによるウイルス感染ですが、細菌感染、薬剤に対する反応、自己免疫疾患によって引き起こされることもあります。心筋炎の症状には、急性で持続的な胸痛、息切れ、動悸(心臓がバクバクする、ドキドキする)などがあります。

エンテロウイルスは、様々な感染症の原因となり、毎年流行を起こします。通常は軽症ですが、新生児は年長児とは異なる症状で、しばしば重症化することが知られています。特に新生児期には、複数の感染経路が存在します。今回報告された症例は、生後1カ月未満の乳児におけるエンテロウイルス(コクサッキーウイルス)感染の件数と重症度が増加したことを意味します。今回の症例に関連して、罹患率と死亡率が増加しています。

公衆衛生上の取り組み

2023年2月28日、南ウェールズ地域の小児科医に今回の症例について警告が出され、ショックを呈する乳児や新生児には心筋炎を考慮するよう助言が行われました。2023年4月26日にウェールズで行われた症例会議の後、2023年5月3日にウェールズ公衆衛生局から臨床医、微生物学者、保健所、公衆衛生チームに対して報告書が送られました。

英国当局が設置したインシデント管理チームが、すべてのイングランド地域と英国各地からの情報を確認し、対応措置について検討を行っています。疫学的な調査も進められています。

WHOによるリスク評価

英国当局によると、英国ウェールズにある同じ三次医療機関の過去6年間のデータを検証した結果、2022年6月以前の類似症例は2例のみで今回の症例と関連があるかどうかは不明です。

現在までに得られた情報は限られたものですが、それに基づき、WHOは一般の人々における公衆衛生上のリスクは低いと評価しています。しかし、感染性ウイルスの無症候性保有や排出がエンテロウイルス感染症の特徴であり、今回の症例群では、出産前や出産中の母子感染が生じたとの情報はほとんどありませんでした。エンテロウイルス感染症は、WHO加盟国において届出対象疾病に含まれていないことが多いため、新生児エンテロウイルス感染症の重症例が診断されず、あるいは報告されないままでいる可能性があります。

WHOからのアドバイス

非ポリオエンテロウイルスは一般的なウイルスで、世界中に分布しています。感染しても無症状であることが多いですが、軽度から中等度の呼吸器症状を呈するものもあります。症状としては、発熱、鼻汁、体力の低下などがあります。これらのウイルスは、時折、非常に多くの患者が発症し、時として心筋症のように重篤で致死的な疾患を生じるアウトブレイクの原因となることがあります。ショック症状を呈する乳児や新生児を診る臨床医は、心筋炎の診断とエンテロウイルスの検査を検討すべきです。

特異的な抗ウイルス治療はなく、治療は合併症の予防に重点が置かれます。また、このウイルスに対するワクチンはないため、流行時の対策は、頻繁な手洗い、汚れた衣類や物の消毒など、標準的な衛生対策が中心になります。状況によっては、感染の広がりを抑えるために、保育施設や学校を閉鎖することが望ましいかもしれません。

WHOは、現在までに得られた情報に基づき、英国への渡航および/または貿易の制限を推奨しません。

出典

Myocarditis - United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
Disease Outbreak News17 May 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON465