インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルス-ブラジル連邦共和国
Disease outbreak news 2023年6月16日
発生状況一覧
2023年6月7日、ブラジル連邦共和国(以下、「ブラジル」という。)は、パラナ(Paraná)州内において発生した豚由来のインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスに感染したヒトの検査確定死亡例をWHOに届け出ました。
インフルエンザA(H1N1) 変異型ウイルスの散発的なヒトへの感染例は、これまでにもブラジルを含め報告されています。国際保健規則(IHR)2005で、新型インフルエンザAウイルスサブタイプによるヒトへの感染は公衆衛生に大きな影響を与える可能性のある事象であり、WHOに通知するものと義務付けられています。
現在までに得られた情報に基づき、WHOはこの事象を散発的なケースとみなしており、ヒトからヒトへの感染を示す証拠はないとしています。ヒトの間でコミュニティレベルで広がったり、ヒトを介して国際的に疾病の広がる可能性は低いとされています。
インフルエンザA(H1N1) 変異型ウイルスの散発的なヒトへの感染例は、これまでにもブラジルを含め報告されています。国際保健規則(IHR)2005で、新型インフルエンザAウイルスサブタイプによるヒトへの感染は公衆衛生に大きな影響を与える可能性のある事象であり、WHOに通知するものと義務付けられています。
現在までに得られた情報に基づき、WHOはこの事象を散発的なケースとみなしており、ヒトからヒトへの感染を示す証拠はないとしています。ヒトの間でコミュニティレベルで広がったり、ヒトを介して国際的に疾病の広がる可能性は低いとされています。
発生の概要
2023年6月7日、ブラジルにおけるIHRに基づく国の連絡窓口は、リオデジャネイロのオズワルドクルス財団国立インフルエンザセンター(NIC)が検出した豚由来インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによるヒト感染死亡例をWHOに通知しました。
患者は、基礎疾患のある42歳の女性で、養豚場の近くに住んでいました。2023年5月1日に発熱、頭痛、咽頭痛、腹痛を発症し、5月3日に重症急性呼吸器感染症で入院しました。5月4日に集中治療室(ICU)に入院し、5月5日に死亡しました。
現在進められている調査によると、患者は豚との直接の接触歴はありませんでしたが、彼女の濃厚接触者のうち2名が養豚場で働いていたと報告されています。この2人の接触者は呼吸器系疾患の発症はなく、インフルエンザ検査も陰性でした。現在までのところ、この患者に関連するヒトからヒトへの感染は確認されていません。
患者は入院中、定期的な呼吸器ウイルス監視活動の一環として、インフルエンザおよび新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査のために、鼻咽頭拭い液検体が採取されていました。パラナ州中央公衆衛生研究所でリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)が実施され、検体からはサブタイプとしてインフルエンザA/H1ウイルスが確認されました。また、この検体は、RT-PCRにより豚インフルエンザAウイルスマーカーが陽性であることが判明しました。
同検体はリオデジャネイロのオズワルドクルス財団国立インフルエンザセンター(NIC)に送られ、追加の補完的分析と遺伝子配列決定が行われました。5月25日にNICに届いた検体は、5月30日の配列解析によってインフルエンザA(H1N1) 変異型ウイルスであることが確認されました。検出された遺伝子は、2022年にパラナ州トレド(Toledo)市で検出された他のインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスのヘマグルチニン(HA)と高い同一性を示しています(99%一致)。また、2015年にブラジルで豚から採取されたウイルスのHAと96%の同一性を示しています。
6月8日、ブラジル保健省(MoH)が国際保健規則に基づきWHOに通知した後、NICはさらなる解析のため、患者の検体を米国疾病管理予防センター(US CDC)のWHO協力センターに送る手続きを開始しました。
患者は、基礎疾患のある42歳の女性で、養豚場の近くに住んでいました。2023年5月1日に発熱、頭痛、咽頭痛、腹痛を発症し、5月3日に重症急性呼吸器感染症で入院しました。5月4日に集中治療室(ICU)に入院し、5月5日に死亡しました。
現在進められている調査によると、患者は豚との直接の接触歴はありませんでしたが、彼女の濃厚接触者のうち2名が養豚場で働いていたと報告されています。この2人の接触者は呼吸器系疾患の発症はなく、インフルエンザ検査も陰性でした。現在までのところ、この患者に関連するヒトからヒトへの感染は確認されていません。
患者は入院中、定期的な呼吸器ウイルス監視活動の一環として、インフルエンザおよび新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)検査のために、鼻咽頭拭い液検体が採取されていました。パラナ州中央公衆衛生研究所でリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)が実施され、検体からはサブタイプとしてインフルエンザA/H1ウイルスが確認されました。また、この検体は、RT-PCRにより豚インフルエンザAウイルスマーカーが陽性であることが判明しました。
同検体はリオデジャネイロのオズワルドクルス財団国立インフルエンザセンター(NIC)に送られ、追加の補完的分析と遺伝子配列決定が行われました。5月25日にNICに届いた検体は、5月30日の配列解析によってインフルエンザA(H1N1) 変異型ウイルスであることが確認されました。検出された遺伝子は、2022年にパラナ州トレド(Toledo)市で検出された他のインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスのヘマグルチニン(HA)と高い同一性を示しています(99%一致)。また、2015年にブラジルで豚から採取されたウイルスのHAと96%の同一性を示しています。
6月8日、ブラジル保健省(MoH)が国際保健規則に基づきWHOに通知した後、NICはさらなる解析のため、患者の検体を米国疾病管理予防センター(US CDC)のWHO協力センターに送る手続きを開始しました。
インフルエンザA(H1N1)ウイルスの疫学
インフルエンザA(H1) ウイルスは、世界のほとんどの地域で豚の間に蔓延しています。豚で通常流行しているインフルエンザウイルスがヒトから検出された場合、「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。H1N1、H1N2、H3N2は豚のA型インフルエンザウイルスの主なサブタイプであり、ヒトに感染することが時にありますが、通常は豚や汚染された環境に直接または間接的にさらされた後です。
変異型ウイルスのヒトへの感染は、臨床症状的には軽度となる傾向がありますが、より重篤な疾患になり入院したケースや、死亡するケースもあります。
これまでブラジルでは、インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスおよびA(H1N2)変異型ウイルスによる散発的なヒトへの感染が報告されていますが、継続してヒトからヒトへ感染したことは確認されていません。
今回の感染例は、2023年にブラジルで報告されたインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによる最初のヒト感染例であり、パラナ州で報告された3番目のヒト感染例です(1番目は2021年、2番目は2022年に検出されています)。
変異型ウイルスのヒトへの感染は、臨床症状的には軽度となる傾向がありますが、より重篤な疾患になり入院したケースや、死亡するケースもあります。
これまでブラジルでは、インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスおよびA(H1N2)変異型ウイルスによる散発的なヒトへの感染が報告されていますが、継続してヒトからヒトへ感染したことは確認されていません。
今回の感染例は、2023年にブラジルで報告されたインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによる最初のヒト感染例であり、パラナ州で報告された3番目のヒト感染例です(1番目は2021年、2番目は2022年に検出されています)。
公衆衛生上の取り組み
地方および国の保健当局は、以下の公衆衛生対策を実施しました:
・さらなる疫学調査の実施、および家族、地域、医療施設における接触者のフォローアップの実施。
・周辺自治体(同一保健地域内)におけるインフルエンザ様疾患(ILI)および重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランス、特にインフルエンザウイルスの監視活動を行い、地域における呼吸器ウイルスの動向や傾向の分析に努めること。
・リスクグループにおける季節性インフルエンザのワクチン接種キャンペーンを強化すること。
・さらなる疫学調査の実施、および家族、地域、医療施設における接触者のフォローアップの実施。
・周辺自治体(同一保健地域内)におけるインフルエンザ様疾患(ILI)および重症急性呼吸器感染症(SARI)のサーベイランス、特にインフルエンザウイルスの監視活動を行い、地域における呼吸器ウイルスの動向や傾向の分析に努めること。
・リスクグループにおける季節性インフルエンザのワクチン接種キャンペーンを強化すること。
WHOによるリスク評価
現在までに得られた情報に基づく限り、本事例は散発的な感染と考えられ、さらなる伝播は検出されていません。
変異型インフルエンザウイルスの限定的かつ非継続的なヒトからヒトへの伝播は報告されていますが、継続的な地域伝播は確認されていません。現在のところ、これらのウイルスは、ヒトの間で継続的に伝播する能力を獲得していないことが示唆されています。
現在、インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスの感染に対するワクチンで、ヒトへの使用認可が下りているものはありません。ヒトのインフルエンザウイルスに対する季節性インフルエンザワクチンは、一般的に、通常豚に流行するインフルエンザウイルスのヒトへの感染を予防する期待はできませんが、ヒトおよび変異型のインフルエンザウイルスの両方で病気を引き起こす可能性を低減することができます。
WHOは、この事象がもたらす、ヒトを介した国際的な疾病伝播や、コミュニティレベルでヒトからヒトへの伝播のリスクを低いと評価しています。このリスクレベルは、各国当局が現在行っている調査によって修正が妥当と判断される場合には修正されます。
変異型インフルエンザウイルスの限定的かつ非継続的なヒトからヒトへの伝播は報告されていますが、継続的な地域伝播は確認されていません。現在のところ、これらのウイルスは、ヒトの間で継続的に伝播する能力を獲得していないことが示唆されています。
現在、インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスの感染に対するワクチンで、ヒトへの使用認可が下りているものはありません。ヒトのインフルエンザウイルスに対する季節性インフルエンザワクチンは、一般的に、通常豚に流行するインフルエンザウイルスのヒトへの感染を予防する期待はできませんが、ヒトおよび変異型のインフルエンザウイルスの両方で病気を引き起こす可能性を低減することができます。
WHOは、この事象がもたらす、ヒトを介した国際的な疾病伝播や、コミュニティレベルでヒトからヒトへの伝播のリスクを低いと評価しています。このリスクレベルは、各国当局が現在行っている調査によって修正が妥当と判断される場合には修正されます。
WHOからのアドバイス
サーベイランス:
・本件は、季節性インフルエンザの公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
・インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは、ヒト(または動物)の健康に影響を与える可能性のある、広まっているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出する国際的なサーベイランスや、リスク評価のためにタイムリーにウイルスを共有することの重要性を引き続き強調しています。
・動物やヒトへの感染を検出するために、感染地域や近隣地域でも継続的な警戒が必要です。動物保健部門と人間保健部門の協力が不可欠です。動物でどの程度インフルエンザウイルスが広まっているのか不明であるため、疫学的およびウイルス学的なサーベイランスと、ヒトにおける疑い症例の追跡調査を体系的に継続する必要があります。非季節性インフルエンザやその他の新たな急性呼吸器疾患の調査に関する指針は、WHOのウェブサイトから入手できます。
・パンデミックの可能性を持つ新型インフルエンザウイルスの出現に対し警戒を続ける必要があります。WHOは、新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)とインフルエンザウイルスの同時流行を考慮した統合サーベイランスのための実践的指針を作成しました。
・動物やヒトから採取されたインフルエンザウイルスは、動物あるいはヒトの保健を扱うインフルエンザ基準研究所で完全に特性評価をされることが重要です。WHOのパンデミックインフルエンザ対策(PIP)体制では、加盟国はパンデミックの可能性のあるインフルエンザウイルスを、世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)で定期的かつタイムリーに共有することが期待されています。
通知と調査:
・新型インフルエンザのサブタイプによるヒトへの感染はすべて国際保健規則により届出対象で、締約国においてはパンデミックを引き起こす可能性のあるインフルエンザウイルスAによるヒトへの感染例について、検査確定例を直ちにWHOに通知することが求められています。この報告には、病気の証拠は必要ありません。
・パンデミックを引き起こす可能性のある新型インフルエンザウイルス(変異ウイルスを含む)によるヒトへの感染が確認された場合(疑い例も含む)、動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡など、徹底した疫学的調査を行う必要があります。疫学調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示す可能性のある、平時には検出されないような異常な呼吸器系に関連する事象の早期発見も含まれます。患者が発生した時間にその場所から採取された臨床検体は検査され、さらなる特徴付けのためにWHO協力センターに送られなくてはなりません。
渡航と貿易:
・WHOは、今回の報告に関して入手している情報に基づき、ブラジルへの渡航および/または貿易の制限を推奨しません。
渡航者の予防策:
・WHOは、動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者に対し、農場や生きた動物を扱う市場での動物との接触、動物が屠殺される場所への立ち入り、動物の排泄物で汚染されていると思われる物との接触を避けるように助言しています。また、旅行者は、石鹸と水を使用した手洗いを頻繁に行うようにしてください。すべての人が、食品の安全性と衛生に関する正しい方法を守るべきです。
・WHOは、ヒトと動物の共通の問題であるインフルエンザウイルスの現状を踏まえ、入国地点での特別な旅行者スクリーニングや制限を行うことは勧めていません。
・本件は、季節性インフルエンザの公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
・インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは、ヒト(または動物)の健康に影響を与える可能性のある、広まっているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出する国際的なサーベイランスや、リスク評価のためにタイムリーにウイルスを共有することの重要性を引き続き強調しています。
・動物やヒトへの感染を検出するために、感染地域や近隣地域でも継続的な警戒が必要です。動物保健部門と人間保健部門の協力が不可欠です。動物でどの程度インフルエンザウイルスが広まっているのか不明であるため、疫学的およびウイルス学的なサーベイランスと、ヒトにおける疑い症例の追跡調査を体系的に継続する必要があります。非季節性インフルエンザやその他の新たな急性呼吸器疾患の調査に関する指針は、WHOのウェブサイトから入手できます。
・パンデミックの可能性を持つ新型インフルエンザウイルスの出現に対し警戒を続ける必要があります。WHOは、新型コロナウイルス感染症(SARS-CoV-2)とインフルエンザウイルスの同時流行を考慮した統合サーベイランスのための実践的指針を作成しました。
・動物やヒトから採取されたインフルエンザウイルスは、動物あるいはヒトの保健を扱うインフルエンザ基準研究所で完全に特性評価をされることが重要です。WHOのパンデミックインフルエンザ対策(PIP)体制では、加盟国はパンデミックの可能性のあるインフルエンザウイルスを、世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)で定期的かつタイムリーに共有することが期待されています。
通知と調査:
・新型インフルエンザのサブタイプによるヒトへの感染はすべて国際保健規則により届出対象で、締約国においてはパンデミックを引き起こす可能性のあるインフルエンザウイルスAによるヒトへの感染例について、検査確定例を直ちにWHOに通知することが求められています。この報告には、病気の証拠は必要ありません。
・パンデミックを引き起こす可能性のある新型インフルエンザウイルス(変異ウイルスを含む)によるヒトへの感染が確認された場合(疑い例も含む)、動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡など、徹底した疫学的調査を行う必要があります。疫学調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示す可能性のある、平時には検出されないような異常な呼吸器系に関連する事象の早期発見も含まれます。患者が発生した時間にその場所から採取された臨床検体は検査され、さらなる特徴付けのためにWHO協力センターに送られなくてはなりません。
渡航と貿易:
・WHOは、今回の報告に関して入手している情報に基づき、ブラジルへの渡航および/または貿易の制限を推奨しません。
渡航者の予防策:
・WHOは、動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者に対し、農場や生きた動物を扱う市場での動物との接触、動物が屠殺される場所への立ち入り、動物の排泄物で汚染されていると思われる物との接触を避けるように助言しています。また、旅行者は、石鹸と水を使用した手洗いを頻繁に行うようにしてください。すべての人が、食品の安全性と衛生に関する正しい方法を守るべきです。
・WHOは、ヒトと動物の共通の問題であるインフルエンザウイルスの現状を踏まえ、入国地点での特別な旅行者スクリーニングや制限を行うことは勧めていません。
出典
Influenza A(H1N1) variant virus - Brazil
Disease Outbreak News 16 June 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON473
Disease Outbreak News 16 June 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON473