デング熱-WHOアメリカ地域

Disease outbreak news 2023年7月19日

発生状況一覧

2023年に入ってから、WHOアメリカ地域では大規模なデング熱の流行が記録されており、今年これまでに報告されたデング熱の疑い例および確定症例は300万例に迫り、2022年通年のデング熱登録症例数280万例を上回っています。2023年7月1日までに報告されたデング熱症例総数(2,997,097例)のうち、45%が検査確定例、0.13%が重症型デング熱に分類されました。2023年現在まででデング熱患者数が最も多いのは、ブラジル連邦共和国(以下、「ブラジル」という。)、ペルー共和国(以下、「ペルー」という。)、ボリビア多民族国(以下「ボリビア」という。)です。さらに、同期間中、WHOアメリカ地域では1,302人の死亡が報告され、致死率(CFR)は0.04%でした。

アルボウイルス疾患の予防と制御のために、アルボウイルス疾患の統合管理戦略(IMS-Arbovirus)の実施の一環として、WHOは加盟国と積極的に連携して医療と監視能力を強化しています。

WHOは、ヤブカ属の蚊(特にネッタイシマカ(Aedes Aegypti))が広範囲に分布していること、重症化や死亡のリスクが継続していること、過去の流行地域から感染発生地域が拡大し、そこではリスク集団や医療従事者を含む人々が疾病の危険信号やサインに気付いていない可能性があることから、地域レベルでデング熱のリスクは高いと評価しています。

WHOは、現在までに得られた情報に基づき、現在デング熱が流行しているアメリカ大陸の国々に対し、渡航や貿易の制限を勧告していません。

発生の概要

デング熱は、WHOアメリカ地域のアルボウイルス関連疾患で最多の患者数を占めており、流行は3~5年ごとに周期的に発生します。2023年上半期に、南米で大規模なデング熱の流行が記録されました。 2023年の第1疫学週(「疫学週」以下「週」という。)から7月1日までの第26週の間に、WHOアメリカ地域では、死亡者1,302人を含む合計2,997,097人のデング熱患者が報告され、致死率は0.04%、人口10万人当たりの累積罹患率は305人でした。2023年第26週までのデング熱患者総数のうち、1,348,234例(45%)が検査確定例、3,907例(0.13%)が重症型デング熱と分類されました。デング熱患者数が最も多かったのはブラジルで2,376,522人、次いでペルーが188,326人、ボリビアが133,779人でした。

累積罹患率が最も高かったのは、人口10万人当たり862人のサザンコーン(Sothern Cone)地域、次いで人口10万人当たり268人のアンデス(Andean Subregion)地域、そして人口10万人当たり59人の中米地峡(Central American Isthmus)およびメキシコ合衆国(以下、「メキシコ」という。)でした。

重症デング熱患者が最も多かったのは以下の国々でした: ブラジルの1,249例、ペルーの701例、コロンビア共和国(以下「コロンビア」という。)の683例、ボリビアの591例、メキシコの141例です。

WHOアメリカ地域にはデングウイルスの4つの血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)すべてが存在します。2023年7月1日までの第26週の間に、ブラジル、コロンビア、コスタリカ共和国(以下、「コスタリカ」という。)、グアテマラ共和国(以下、「グアテマラ」という。)、ホンジュラス共和国、メキシコ、ベネズエラ・ボリバル共和国「以下、「ベネズエラ」という。」では4つの血清型すべての同時流行が検出され、アルゼンチン共和国(以下、「アルゼンチン」という。)、パナマ共和国(以下、「パナマ」という。)、ペルー、プエルトリコではDENV-1、DENV-2、DENV-3の血清型が、ニカラグア共和国(以下、「ニカラグア」という。)ではDENV-1、DENV-3、DENV-4の血清型が流行しています。

2022年には、WHOアメリカ地域で2,811,433例のデング熱患者が報告され、2016年と2019年に次いで過去3番目に多い年となりました。2019年には、史上最多のデング熱症例数が記録、WHOアメリカ地域の症例数は310万例を超え、うち重症デング熱症例数は28,203例、死亡者数は1,823人でした。

2023年6月12日から7月1日にかけて、サザンコーン地域およびアンデス地域の一部の国、特に主にサザンコーン地域で、防疫措置の実施、気温や気候の変化などの複数の要因により、患者数が減少しています。また、中米およびカリブ海諸国の一部では、患者データの通知が遅れています。その結果、患者数が減少し、以下の疫学曲線に見られるように減少傾向にあります。


図1. WHOアメリカ地域における2022年および2023年第26週までのデング熱患者数と過去5年間の平均値

出典 アメリカ大陸保健情報プラットフォーム(PLISA, PAHO/WHO)に、同地域の国・地域の保健省・保健機関が入力したデータ。(https://opendata.paho.org/en) 2023年7月11日時点のデータ。


図2. 2023年7月1日現在、WHOアメリカ地域**の最も影響を受けている国々におけるデング熱の疑い患者数(A)および人口100万人当たりの累積発生率(B)
** WHOアメリカ地域諸国で全症例数に対して99%を報告した国
出典 アメリカ大陸保健情報プラットフォーム(PLISA, PAHO/WHO)に、同地域の国・地域の保健省・保健機関が入力したデータ。(https://opendata.paho.org/en) 2023年7月11日時点のデータ。


図3. WHOアメリカ地域におけるデング熱による死亡者数(A)と致死率(B)2023年第26週現在
出典 アメリカ大陸保健情報プラットフォーム(PLISA, PAHO/WHO)に、同地域の国・地域の保健省・保健機関が入力したデータ。

主要国別概要
デング熱は南米、中米、カリブ海地域のほとんどの国で流行していますが、今シーズンは、過去5年間の平均患者数を上回り、過去の流行地域から感染発生地域が拡大してデング熱患者の増加が観察されています。以下は、PAHO/WHOに報告された、WHOアメリカ地域の感染発生国におけるデング熱の疫学的状況の要約です。

アルゼンチン
アルゼンチンのIHRに基づく国の連絡窓口からの報告によると、2023年第26週(7月1日に終わる週)までに、126,431例のデング熱が報告され、そのうち118,089例が海外渡航歴のない感染、1,398例が輸入症例、6,944例が調査中です。症例の53%が検査確定例、304例(0.24%)が重症型デング熱と分類されました。この期間中に合計65人の死亡が報告され、致死率は0.05%でした。2019/2020年シーズンに同国で記録された前回のデング熱の疫学的流行(2020年59,264症例)と比較すると、2022/2023年期間の症例数は47%増加しています(2023年126,431症例)。

ブラジル
2023年第26週までに報告されたデング熱症例2,376,522例のうち、1,051,773例(44.2%)が検査確定例で、1,249例(0.05%)が重症型デング熱と分類されました。2023年第26週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して13%増加、過去5年間の平均と比較して73%増加しています。同期間中、合計769人の死亡が報告され、致死率は0.03%でした。

ボリビア
2023年第25週までに報告されたデング熱症例133, 779例のうち、22,761例(17%)が検査確定例、591例(0.44%)が重症型デング熱と分類されました。2023年第25週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して16倍、過去5年間の平均と比較すると5倍となっています。同期間中77人の死亡が報告され、致死率は0.06%でした。

コロンビア
2023年第25週までに報告されたデング熱症例50,818例のうち、25,958例(51%)が検査確定例、683例(1.34%)が重症型デング熱と分類されました。2023年第25週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して66%多く、過去5年間の平均と比較すると47%増加しています。同期間に29人の死亡が報告され、致死率は0.06%でした。

コスタリカ
2023年第25週までに報告されたデング熱症例2,712例のうち、254例(9.3%)が検査確定例、重症型デング熱症例はありませんでした。2023年第25週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して16%多く、過去5年間の平均と比較して19%増加しています。同期間において、死亡例は報告されていません。

グアテマラ
2023年第24週までに報告されたデング熱症例4,529例のうち、699例(15%)が検査確定例、6例(0.13%)が重症型デング熱と分類された。2023年第24週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して80%多く、過去5年間の平均と比較して45%増加しています。同時期に5人の死亡が報告され、致死率は0.11%でした。

メキシコ
メキシコのIHRに基づく国の連絡窓口よると、2023年第26週までに報告されたデング熱症例31,549例のうち、4,400例(14%)が検査確定例、141例(2%)が重症型デング熱と分類されました。2023年第26週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して2.5倍、過去5年間の平均と比較して58%増加しています。同時期に5人の死亡が報告され、致死率は0.02%でした。

ニカラグア
2023年第25週までに報告されたデング熱疑い症例56 ,780例のうち、1,016例(1.8%)が検査確定例、10例(0.02%)が重症型デング熱と分類されました。2023年第25週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して2.7倍、過去5年間の平均と比較して2.1倍となっています。同期間中に1人の死亡が報告され、致死率は0.002%でした。

パナマ
2023年第24週までに報告されたデング熱症例3176例のうち、2161例(68%)が検査確定例、7例(0.22%)が重症型デング熱と分類された。2023年第24週までに登録された症例は、2022年の同時期と比較して54%、過去5年間の平均と比較して63%増加しています。同期間において、死亡例は報告されていません。

ペルー
2023年第26週までに報告されたデング熱症例188,326例のうち、105 215例(55.9%)が検査確定例、701例(0.37%)が重症型デング熱と分類された。2023年第26週までに登録された症例は、2022年の同時期に報告された症例の3.1倍です。同期間において、疑い例と確定例の間で合計325人の死亡が報告され、致死率は0.17%でした。

デング熱の疫学

デング熱は蚊から人に感染するウイルス感染症です。熱帯や亜熱帯の気候に多く見られます。デング熱に感染しても、ほとんどの人に無症状です。発症した場合、最も一般的な症状は、高熱、頭痛、体の痛み、吐き気、発疹です。ほとんどの人は1~2週間でよくなりますが、中には血漿漏出によるショックや呼吸困難、重度の出血、臓器障害、死亡などの重症型デング熱を発症する人もいます。

重症の場合、デング熱は死に至ることもあります。デング熱のリスクは、特に日中に蚊に刺されないようにすることで回避できます。現在のところ、デング熱に対する特異的な治療法はないため、症例管理はアセトアミノフェンによる疼痛症状の管理が中心となります。重症例のいくつかは二回目感染(別の血清型に二度目の感染をすること)例です。

WHOに報告されたデング熱の症例数は2000年の505,430例から2019年には全世界で520万例に増加しており、罹患率はここ数十年で世界中で劇的に増加しています。症例の大半は無症状または軽症で自己管理されているため、デング熱の実際の症例数は本来より少なく報告されています。また、多くの症例が他の発熱性疾患と誤診されています。

デング熱は現在、WHOのアフリカ、南北アメリカ、東地中海、東南アジア、西太平洋地域の100カ国以上で流行しています。アジアが全世界の感染者の約70%を占め、アメリカ大陸、東南アジア、西太平洋地域が最も深刻な影響を受けています。

世界で報告されたデング熱患者数が過去最大となったのは2019年でした。すべてのWHO地域が感染し、アフガニスタンでは初めてデング熱の感染が記録されました。WHOアメリカ地域では310万人の症例が報告され、25,000人以上が重症型に分類されました。バングラデシュ(101,000人)、マレーシア(131,000人)フィリピン(420,000人)、ベトナム(320,000人)で多くの症例が報告されました。

公衆衛生上の取り組み

保健省(MoH)の対応
・国や地域の保健当局との定期的な会合。一部の国では、適切なアウトブレイク対応のために緊急対策センター(EOC)を設置しています。
・症例の早期発見のためのサーベイランス活動の強化。
・感染発生地におけるベクターコントロール活動の強化。
・検査ネットワークの強化。
・医療従事者に対し、重症型デング熱の警告シグナルの発見に関する研修を実施。
・ファクトシートやサーベイランス資料の共有による医療従事者の意識向上や、リスクコミュニケーション・メッセージを用いた地域住民への啓発の促進。
・一部の国では、各国の保健省の指示のもと、アルボウイルス疾患の臨床専門家の全国ネットワークがあり、現地レベルでの臨床研修の実施を担っている。

WHOの対応
・アルボウイルス疾患の予防と制御のために、アルボウイルス疾患の統合管理戦略(IMS-Arbovirus)の実施の一環として、WHOは加盟国と積極的に連携して医療と監視能力を強化しています。
・WHOは、保健サービスの組織化を含め、起こりうるアウトブレイクへの準備と対応において加盟国を支援しています。
・WHOは、ガイドラインの発行、疫学的サーベイランス資料の提供、国家当局への技術支援を通じて、加盟国による効果的な統合的媒介蚊サーベイランスとコントロールの実施を支援しています。
・WHOは、地域全体で迅速かつ正確な診断と症例発見を可能にするため、検査能力の向上を支援しています。
・WHOは、症例管理に関する勧告や臨床研修を通じて、医療従事者の能力向上を支援しています。
・WHOの専門家は、大規模なアウトブレイクが発生している国々に派遣されています。
・2020年、WHOは、ボリビア、コロンビア、チリ共和国、エクアドル共和国、ペルー、ベネズエラにおけるアルボウイルス病の予防と制御のための国家技術能力を強化するために、アンデス保健機関-ヒポリート・ウナヌエ協定(the Andean Health Organization-Hipólito Unanue Agreement:ORAS-CONHU)との協力を開始しました。この協力は、WHOによって承認された「アルボウイルス病の予防と制御のための統合管理戦略」の枠組みの下で行われています。
・WHOと加盟国間の共同サーベイランスの取り組みとして、仮想協力空間(VCS)が構築され、さまざまな疫学分析、状況判断、疫学速報の自動作成が可能になり、デング熱やその他のアルボウイルスに関する疫学サーベイランスが強化されています。
・WHOはまた、リスク評価やリスクコミュニケーションに関する助言も提供しています。

WHOによるリスク評価

デング熱は蚊が媒介するウイルス性疾患(アルボウイルス)で、公衆衛生に深刻な影響を及ぼす可能性があります。この感染症の原因となるウイルスは、ヤブカ属の蚊(主にネッタイシマカ)が広く分布しているため、数十年前からWHOアメリカ地域で流行しており、流行は3~5年ごとに周期的に起こっています。デング熱の流行は過去に複数回同地域で記録されています。

アルボウイルスは、感染した旅行者を経由して運ばれ、輸入症例となることもあり、媒介蚊と感受性のある集団の両方が存在すれば、限定的に新たな感染発生地域ができる可能性があります。アルボウイルスによるため、ネッタイシマカが存在する地域に住むすべての集団が危険にさらされていますが、アルボウイルス感染症プログラムがアウトブレイクに対応するための十分な資源のない地域の最も弱い立場の人々に大きく影響します。

現在の感染拡大傾向は、協調的な公衆衛生対応と臨床管理のための能力、南半球におけるアルボウイルスシーズンの早期開始、蚊の密集度の高さ、南半球における気候変動とエルニーニョ現象の影響の可能性、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック時の媒介蚊のサーベイランスと制御活動の欠如、地域におけるアルボウイルス感受性人口の割合の高さなど、いくつかの要因に左右されています。現在のデング熱の感染拡大傾向は、現在も継続している他のアウトブレイクや緊急事態の状況下で生じています。同時多発的な緊急事態の影響により、アルボウイルス感染症の流行に対応する保健システムの能力が妨げられ、疾病管理や適切な臨床管理に影響を及ぼす可能性があります。それらには、以下のような影響が考えられます。(i)デング熱の症状が非特異的で、チクングニア熱、ジカ熱、麻疹など他の感染症に似ていることから、誤診が生じ、症例管理が不十分になる可能性があること。(ii)症例数が多く、他の感染症の流行も同時に発生しているため、一部の地域では医療施設で医療ひっ迫が発生していること。 (iii) COVID-19パンデミックの影響により、アルボウイルス感染症プログラムに割ける資源が減少していること、また、媒介蚊駆除活動を行うための設備や殺虫剤の維持・調達だけでなく、媒介蚊駆除や保健医療従事者の能力向上や研修の必要性があること。

デング熱は南米のほとんどの国で流行しています。しかし、デング熱の発生が確認されている2023年上半期の流行時期には、過去5年間に記録された平均患者数を上回るレベルで患者数が増加し、さらにデング熱が過去の記録されている感染地域を越えて拡大しています。

ヤブカ属の蚊はアメリカ大陸地域に広く分布しているため、デング熱の国際的な感染が広がる可能性があります。さらに、2023年下半期には、アメリカ大陸地域の一部の国、特に中米とカリブ海地域の降雨量が増加すると予想されており、その規模やデング熱流行地域への影響によっては、デング熱の発生が増加し、感染地域の保健システムにとってアルボウイルス性疾患の新たな脅威となる可能性があります。

地域レベルのリスクは、特にネッタイシマカのような媒介蚊が広く分布していること、重篤な疾患や死亡のリスクも継続的に存在すること、過去の感染地域を越えて感染拡大していること、そこではリスク集団や医療従事者を含むすべての住民が感染の危険な兆候に気付いていない可能性があることから、高いと評価されています。

流行しているデングウイルスの血清型に関する情報は限られています。このような地域では、人口の大部分が現在流行しているウイルスに感染していないことが予想され、これがアウトブレイクにつながる可能性があります。さらに、これらの地域の人々は注意すべき兆候に気付いていない可能性があり、病院受診が遅れるかもしれません。

地域によっては医療施設が不足しており、地理的なアクセスも限られているため、人々が基本的な医療を受けることが難しいです。特にこうした地域では、人々は自己治療を行う傾向があり、デング熱の場合、イブプロフェン、アセチルサリチル酸(アスピリン)、その他の非ステロイド性抗炎症薬は、胃炎や出血を悪化させ、死亡リスクの増加につながるため禁忌とされています。

地域の加盟国から報告されたその他の課題には、予防と対策に不可欠な物資の在庫切れ、検査診断のための試薬や消耗品の不足、現場チームや医療従事者の再教育の必要性などがありますが、これらに限定されるものではありません。さらに、中米と北半球では、今年下半期に媒介蚊の活動に適した天候が続くため、今後数カ月は感染率の上昇が予想されます。

WHOからのアドバイス

デング熱はフラビウイルス科のRNAウイルスであるデングウイルス(DENV)によって引き起こされます。このウイルスには4つの血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)があり、感染から回復すると、その血清型に対する生涯免疫が得られます。デング熱のほとんどの症例は軽症ですが、複数の血清型に連続して感染すると、血漿漏出によるショックや呼吸困難、重篤な出血、臓器障害、死亡を含む重症型デング熱を発症するリスクが高まります。

予防のために、この地域で最も一般的な媒介蚊となるヤブカの監視と駆除に重点が置かれています。しかし、特にデングウイルスが年間を通じて流行している地域では、媒介蚊の監視と駆除を継続することは困難であるため、重症化した症例を早期に発見し、適切な治療を受けることが重症化率、ひいては致死率を下げる鍵となります。地域社会では、職場や学校、家庭の両方において、個人の予防策と感染源となる蚊の駆除を図る必要があります。チクングニア熱とデング熱に対する特異的な抗ウイルス治療は存在しません。臨床管理は、輸液や解熱剤を含む支持療法が基本となり、回復すればデング熱の場合、その特定の血清型に対する免疫が得られます。また、これらアルボウイルスの症状は重なっているので、臨床疫学的な診断は難しいことがあり、デングウイルスとジカウイルスの免疫グロブリンM抗体とG抗体(IgMとIgG)の交差反応性があるため、正確な診断が妨げられ、不適切な症例管理につながり、効率的な疫学サーベイランスが損なわれる可能性があります。正確な診断のためRT-PCRによる分子診断が推奨されます。

アメリカ大陸のWHO加盟国は大いに警戒し、アルボウイルスの予防、早期発見、診断、制御のための行動強化のために、しっかりと準備することが非常に重要です。これには、症例や予測される合併症を見極めること、重症化の可能性があるリスク集団の特定、適切な臨床管理、死亡を防ぐための症例のフォローアップに関する医療従事者への訓練と注意喚起が含まれます。 2023年下半期には、デング熱患者の増加が予想されます。対象を絞った総合的な媒介蚊サーベイランス、デング熱媒介蚊の殺虫剤耐性のモニタリング、防除対策は、感染率の減少に役立ちます。一般的な予防策として、WHOは忌避剤(虫よけ等)の使用を含め、蚊に刺されないようにすることを推奨しています。デング熱の感染リスクが最も高いのは日中と夕方です。

WHOは全加盟国に対し、1) 感染者の確定診断を適時に行う検査能力、2)患者を迅速に発見し、管理するための医療能力、3)発生率の傾向を迅速に察知し、コントロールするためのサーベイランス能力、を強化することの重要性を改めて強調します。近隣諸国で感染者が発生する可能性があるため、国境を越えた連携と情報共有を積極的に行い、地域の状況を注意深く監視することが重要です。

WHOは、現在入手可能な情報に基づき、現在デング熱が流行しているアメリカ大陸の国々に対し、渡航や貿易の制限を勧告していません。

出典

Dengue – the Region of the Americas
Disease Outbreak News 19 July 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON475