ギラン・バレー症候群-ペルー共和国

Disease outbreak news 2023年7月25日

発生状況一覧

 2023年6月26日、ペルー共和国(以下、「ペルー」という。)国立疫学・予防・疾病管理センター(CDC)は、国内の様々な地域でギラン・バレー症候群(GBS)症例が異常に増加しているため、疫学的警報を発令しました。2019年のアウトブレイクを除く過去のデータによると、ギラン・バレー症候群症例の登録数は全国平均で月20例未満です。しかし、2023年6月10日から7月15日の間に、ギラン・バレー症候群の疑い例が130例報告されています。このうち44例が確定診断されおり、予測を上回る症例数が確認されています。
 
ペルー大統領府は2023年7月初旬、この予期せぬ症例増加を受けて国家保健緊急事態を宣言し、公衆衛生上の対応を強化しました。今回のギラン・バレー症候群発症増加の原因については、現在も調査中です。 
 
WHOは加盟国に対し、神経疾患、特にギラン・バレー症候群の発生率と傾向を継続的に監視し、予想される基準値に対する変動を特定し、患者管理を改善するためのプロトコルを実施するよう助言しています。これらの状況を注意深く観察・追跡することで、各国はいかなる変化にも効果的に対応し、潜在的な公衆衛生上の懸念に対処するための適切な手段を確保することができます。 
 

発生の概要

第1疫学週(「疫学週」以下「週」という。)から2023年7月15日に終わる第28週までの間に、ペルー国立疫学・予防・疾病管理センター(CDC)により、ギラン・バレー症候群の疫学サーベイランスと臨床検査診断のための技術衛生基準が定義され、その定義に当てはまる疑い症例が、ペルー国内24州のうち20州から合計231例報告されました。症例の56%(130例)は、第23週(2023年6月10日)から第28週(2023年7月15日)の間に報告されています。 今年に入ってから、ギラン・バレー症候群症例数が最も多かったのは、国内24州のうち7州で、内訳は リマ(Lima)州とカヤオ(Callao)憲法特別市(75例)、ラ・リベルタ(LaLibertad) 州(39例)、ピウラ(Piura) 州(21例)、ランバイェケ(Lambayaque) 州(20例)、カハマルカ(Cajamarca) 州(17例)、フニン(Junin) 州(12例)、クスコ(Cusco) 州(10例)です。2023年7月15日現在、100例がギラン・バレー症候群定義と適合しており、うち4例が死亡、致死率(CFR)1.7%となっています。 
 
最も罹患した年齢層は30歳以上の成人(158例)でしたが、17歳未満の小児は19%(44例)でした。報告された症例の半数以上(133例;57.6%)は男性でした。 
 
第23週(2023年7月10日)から第28週(2023年7月15日)までに報告された130例の初期の臨床症状には、胃腸感染、呼吸器感染、発熱が含まれます。また、これらの症例の72.3%(94例)は神経学的症状として上行性麻痺を呈し、その他の症例は何らかの後遺症を呈していました。 
 
ペルーにおけるギラン・バレー症候群の疫学サーベイランスと臨床検査診断のための技術衛生基準に従って、症例から検体を採取しました。第23週から第28週の間に22検体が採取され、そのうち14検体(63%)がカンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni(ギラン・バレー症候群の最も一般的な危険因子の1つ)陽性となっています。検体の出どころは、ラ・リベルタ州(5例)、リマ州(4例)、ピウラ州(3例)、クスコ州(1例)、ランバイェケ州(1例)です。またランバイェケ州の検体は、遺伝子型ST2993(Campylobacter jejuni sequence type (ST)2993)でした。 
 

ギラン・バレー症候群の疫学

ギラン・バレー症候群(GBS)は、致死的な転帰を含む臨床的重症度が多様な稀な神経疾患です。世界的にも最も多くみられるのは急性弛緩性麻痺のタイプで、運動機能低下、筋反射の欠如、感覚異常、および脳脊髄液中の蛋白濃度上昇(細胞アルブミン解離)を特徴とします。多くの場合、上気道症状または胃腸症状がギラン・バレー症候群に先行することが一般的です。 
 
現在のところ、ギラン・バレー症候群の治療法はありません。しかし、ギラン・バレー症候群患者には支持療法を行い、時に集中治療や経過観察が必要です。現在可能な治療法のほとんどは、症状の管理、回復過程のサポート、そして罹病期間の短縮に資するものです。ほとんどの症例は、最も重篤な症例であっても完全に回復しますが、ほぼ全身で麻痺を生じることもあります。カンピロバクター・ジェジュニ感染症は最も多い原因であり、通常、ギラン・バレー症候群の急性運動性軸索型ニューロパチーと関連しています。本疾患は成人と男性に多いですが、あらゆる年齢の人が罹患する可能性があります。 
 
2019年、ペルーでは、国内の複数の地域を巻き込んだ前例のないギラン・バレー症候群のアウトブレイクが報告され、700例近くの症例が報告されました(発生率:1.2人/人口10万人当たり)。臨床疫学的特徴と同定された病原体の解析から、このアウトブレイクはカンピロバクター・ジェジュニの遺伝子型ST2993と関連していると結論づけられました。さらに、2020年には国内で合計448症例が報告され、週平均11症例でした。2021年には合計210症例が報告され、週平均4症例でした。同様に、2022年には225例が報告され、週平均は一貫して4例でした。 






 図1. ペルーにおける2021年、2022年、2023年第28週までのギラン・バレー症候群患者動向
出典:ペルー国立疫学・予防・疾病管理センター(CDC)ギラン・バレー症候群の状況-ペルー、2023年第28週まで
 

公衆衛生上の取り組み

ペルー保健省の国立疫学・予防・疾病管理センター(CDC)は、2023年6月26日に疫学的警報を発令し、ギラン・バレー症候群の状況対応室を通じて状況の監視を続けています。 
 
2023年7月8日、ペルー大統領府は、ギラン・バレー症候群患者数の予期せぬ増加のため、国家保健緊急事態を宣言しました。政令は次のように定めています。

・ギラン・バレー症候群患者の治療、回復促進、合併症予防のためのヒト免疫グロブリン7,000人分を含む、保健分野における戦略的資源提供のための資金調達を含む行動計画の実施。 
・可能性のある症例に対する監視、予防、対応措置の強化。 
・医療従事者へのリスクの周知と、予防措置を講じるように住民たちへのキーメッセージの発信。 
・医療従事者および一般住民に対するギラン・バレー症候群に関する助言、情報提供、指導。 

WHOはペルーの保健当局を支援しています。

WHOによるリスク評価

ギラン・バレー症候群はまれな疾患で、成人や男性に多いですが、あらゆる年齢の人が罹患する可能性があります。原因は完全には解明されていませんが、ほとんどの場合、ウイルスや細菌に感染した後に発症します。その結果、免疫系が身体そのものを攻撃するようになります。胃腸炎を引き起こすカンピロバクター・ジェジュニという細菌への感染は、ギラン・バレー症候群の最もよく見られる危険因子の一つです。また、インフルエンザやサイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルス、ジカウイルスなどのウイルス感染後にギラン・バレー症候群を発症することもあります。まれに、予防接種がギラン・バレー症候群発症のリスクを高めることがありますが、その可能性は極めて低いです。研究によると、感染症を予防するために接種したワクチン(この研究ではインフルエンザワクチン)よりも、インフルエンザなどの感染症でギラン・バレー症候群を発症する可能性の方がはるかに高いです。時には、手術がギラン・バレー症候群を誘発することもあります。 
 
現在までのところ、ペルーで報告されているギラン・バレー症候群発症増加の潜在的な原因については依然調査中となっています。第23週以降に検査された22検体のギラン・バレー症候群症例の63%でカンピロバクター・ジェジュニの感染が検査確定されています。2019年、ペルーは国内の複数の地域で前例のないほど多数のギラン・バレー症候群のアウトブレイクを報告し、これはカンピロバクター・ジェジュニST2993遺伝子型の存在と関連すると結論づけられました。 
 
今回の症例増加につながる可能性のある原因特定のためには、さらなる調査が必要です。今のところ、現在のデング熱流行との関連は見つかっておらず、ジカウイルスの感染も国内では少ないです。また、アメリカ大陸の他の国々では、同様の感染者急増の報告はありません。 
 

WHOからのアドバイス

加盟国に対するWHOのアドバイスは、神経疾患、特にギラン・バレー症候群の発生率と傾向を引き続き監視し、予想される基準値に対する変動を特定すること、ギラン・バレー症候群患者の急激な増加によって生じる医療施設への追加的な負担を管理するために十分な患者管理プロトコルを作成し実施すること、医療従事者の意識を高めること、公衆衛生サービスと官民の臨床医との連携を確立または強化することです。 
 
WHOは、今回の事態を受けて、ペルーに対して特に渡航制限や貿易制限を課すような勧告は出していません。 
 

出典

Guillain-Barré Syndrome - Peru 
Disease Outbreak News 25 July 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON477