インフルエンザA(H1N2)変異型ウイルス-アメリカ合衆国

Disease outbreak news 2023年8月11日

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2023年8月4日、アメリカ合衆国(以下、「米国」という。)の国際保健規則(IHR)に基づく国の連絡窓口は、PAHO/WHOに対し、ミシガン(Michigan)州で新型インフルエンザA(H1N2)変異ウイルスのヒトへの感染例が確認されたと報告しました。これは8月2日に米国疾病予防管理センター(CDC)で逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により検査確定されました。

この患者は入院に至らず、回復しています。地元の公衆衛生当局の調査により、患者が農業フェアで豚への曝露歴があったと判明しています。

現在、患者に対するサーベイランスの強化など、公衆衛生に関する追加的な対応が進められています。公衆衛生上の影響を鑑み、これらのウイルスによる人への感染は注意深く監視する必要があります。今回の発生では、ヒトからヒトへの持続的な感染の証拠は報告されておらず、患者は軽症で、地域におけるインフルエンザ変異ウイルスのさらなる感染は確認されていません。

発生の概要

2023年8月4日、米国のIHRに基づく国の連絡窓口は、PAHO/WHOに対し、ミシガン州で新型インフルエンザA(H1N2)変異ウイルスのヒトへの感染例が確認され、米国CDCにより検査確定されたことを報告しました。

報告によれば、患者はミシガン州在住の18歳未満の者で、合併症はなく、2023年7月29日に呼吸器疾患を発症しました。患者は発熱、咳、咽頭痛、筋肉痛、頭痛、息切れ、下痢、吐き気、めまい、倦怠感を呈し、7月29日に救急外来を受診し、7月30日に上気道検体が採取されました。検体は同日インフルエンザAウイルス陽性でした。8月1日、患者は抗インフルエンザウイルス治療(オセルタミビル)を受けました。

7月31日、検体はミシガン州保健福祉局(MDHHS)で検査され、RT-PCRの結果はインフルエンザAウイルス陽性でしたが、最新のヒトインフルエンザウイルスで見られる(H1) pdm09または(H3)亜型の診断検査では反応を示しませんでした。この検体は、さらなる検査のために米国CDCに送られ、8月2日に受理されました。同日、検体のRT-PCR分析からインフルエンザA(H1N2)変異型ウイルスが検出されました。このウイルスは分離され、遺伝子配列決定を含む詳細な解析が進められています。

患者は入院せず、地元の公衆衛生局の調査により、発症10日前の7月23日から29日にかけて開催された農業フェアで豚への曝露歴があると判明しています。追加調査では、患者の家族や濃厚接触者に呼吸器疾患は確認されませんでした。この農業フェアと関連した追加症例も確認されていません。今回の症例に関連したインフルエンザA(H1N2)変異型ウイルスのヒトからヒトへの感染は確認されていません。また2023年8月10日現在、A(H1N2)変異型ウイルスによる人への追加感染例は確認されていません。

これは今年米国で確認された最初のインフルエンザA(H1N2)変異型ウイルス感染症となります。2005年以降、米国では37件のインフルエンザA(H1N2)変異型ウイルスによるヒト感染例を含めた、512件のインフルエンザA型変異型ウイルス感染(すべての変異型を含む)が報告されています。

インフルエンザA(H1N2)の疫学

豚インフルエンザ A(H1N2)ウイルスは、世界の多くの地域の豚の間で流行しています。通常、豚に流行するA型インフルエンザウイルスは、ヒトから分離された場合、「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。ヒトへの感染は、通常、豚または汚染された環境への直接的または間接的な曝露によるものです。ヒトの間で世界的に流行している季節性インフルエンザウイルスと、豚で通常流行しているインフルエンザウイルスとの間には、抗原性や遺伝的に重要な違いがある可能性があります。ウイルスの変異やヒトの間での感染を早期に特定するためには、注意深い監視が必要です。

ヒトに感染する非季節性または人獣共通感染症のインフルエンザウイルスは、軽度の結膜炎から重症の肺炎、さらには死に至るまで、様々な疾患を引き起こす可能性があります。通常、人獣共通感染症のインフルエンザウイルスによるヒトへの感染は、感染した動物や汚染された環境との直接的な接触によって起こります。2005年以降、米国では今回の感染も含めて37件のインフルエンザA(H1N2)変異型ウイルスによるヒトへの感染が報告されています。

公衆衛生上の取り組み

地方当局が主導した公衆衛生対策には、症例に対するサーベイランスの強化が含まれました。地元保健局は、農業フェアの出展者とその家族に連絡を取り、さらなる罹患者を確認するため、積極的な症例調査を行いました。さらに、農業フェアに参加した人や最近豚と接触した人の呼吸器疾患に注意するよう、地元の医療機関に通達しました。

WHOによるリスク評価

豚インフルエンザ A 型ウイルスは、世界の多くの地域で豚の間で流行しています。地理的位置よって、これらのウイルスの遺伝的特徴は異なります。豚に通常流行していて、ヒトには流行していないA型インフルエンザウイルスがヒトから検出された場合、それは「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。ヒトへの感染例のほとんどは、感染した豚との接触や汚染された環境を通して豚インフルエンザA型ウイルスに曝露されたためです。これらのウイルスは世界中の豚から検出され続けているため、さらなるヒトへの感染も予想されます。

IHRによれば、新型インフルエンザA変異型ウイルスによるヒト感染は、公衆衛生に大きな影響を与える可能性のある事象です。新型A型インフルエンザウイルスは、(1)そのウイルスがヒトに感染し、ヒトの間で効率的に伝播する能力を確立し、(2)現在ヒトに広く流行している季節性ヒトインフルエンザウイルス(すなわち、A/H1またはA/H3)とは異なり、ヘマグルチニン(HA)遺伝子(またはタンパク質)が季節性のインフルエンザの変異型ではないこと、(3)集団がウイルスに対する免疫をほとんど持っていない、または全く持っていない場合に、パンデミックを引き起こす可能性があると考えられています。 

現在までのところ、米国ではインフルエンザA(H3N2)、A(H1N1)、A(H1N2)変異型ウイルスによる散発的なヒト感染のみが報告されており、ヒトからヒトへの持続的な感染の証拠はありません。インフルエンザ変異型ウイルスのヒトへの感染は、軽度の臨床症状を引き起こすだけの傾向がありますが、より重篤な疾患で入院した例もあります。公衆衛生に影響を及ぼす可能性があることから、これらのウイルスによるヒト感染は注意深く監視される必要があります。今回の事例では、ヒトからヒトへの持続的な感染の証拠は報告されておらず、疾患は軽症で、地域におけるインフルエンザ変異型ウイルスのさらなる感染は確認されていません。

変異A型インフルエンザウイルスのヒト-ヒト感染は限定的かつ非持続的で、継続的な地域での感染は確認されていません。現在のところ、これらのウイルスはヒトの間で持続的に感染する能力を獲得していないことが示唆されています。リスクアセスメントは、疫学的またはウイルス学的な情報がさらに入手可能になった場合、必要に応じて見直されます。

豚に感染するA型インフルエンザウイルスは、ヒトのA型インフルエンザウイルスとは異なります。現在、ヒトへの使用が認可されているインフルエンザA(H1N2)変異型ウイルス感染に対するワクチンはありません。従って、ヒトのインフルエンザウイルスに対するインフルエンザワクチンは、一般的に、通常豚に流行するインフルエンザウイルスからヒトを守ることは期待されていません。

WHOからのアドバイス

今回のケースは、季節性インフルエンザに対する公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。

WHOは、ヒトと動物とのかかわりの中でインフルエンザウイルスの現在の状況に関して、入国地での特別な旅行者スクリーニングや渡航の制限を勧告してはいません。インフルエンザウイルスの影響下にある国からの動物や関連製品の安全な取引に関する勧告については、WOAHのガイダンス(英文)を参照してください。
一般市民は、野生動物を含め、原因不明で病気になったり死んだりしている動物との接触を避けるべきであり、死んだ野鳥や哺乳類を見つけた場合は、地元の野生動物当局や獣医当局に連絡して駆除を要請する必要があります。

WHOは、動物でのインフルエンザの発生が確認されている国への旅行者は、農場、生きた動物市場での動物との接触、動物が屠殺される可能性のある場所への立ち入り、動物の排泄物で汚染されていると思われる物との接触を避けるよう勧告しています。さらに、旅行者は石鹸と水による手洗いが励行されます。それに加え、食品の安全性と衛生に関する正しい習慣を守るべきです。

インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を及ぼす可能性のある、流行中のインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出し、リスク評価のためにウイルスの情報を適時に共有するための世界的なサーベイランスの重要性を強調し続けています。動物やヒトへの感染を検出するため、感染地域や近隣地域では引き続き警戒が必要です。動物衛生部門とヒト衛生部門の協力が不可欠です。動物におけるインフルエンザウイルスの流行の程度は明らかでないため、疫学的、ウイルス学的サーベイランスと、ヒトへの感染が疑われる症例の追跡調査を組織的に継続する必要があります。非季節性インフルエンザおよびその他の新興急性呼吸器疾患の調査に関するガイダンスは、WHOのウェブサイト(英文)に掲載されています。

パンデミックの可能性のある新型インフルエンザウイルスの出現に対する警戒を維持すべきです。WHOは、SARS-CoV-2とインフルエンザウイルスの同時流行に関する統合サーベイランスのための実践的ガイダンスを作成しました。ガイダンスはこちら(英文)から入手可能です。

新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染はすべて、国際保健規則(IHR2005)に基づき届出義務があります。IHR2005の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによるヒト感染例が検査確定された場合、直ちにWHOに報告することが義務付けられています。この報告には、発病の証拠は必要ありません。 
 
これらの動物またはヒト由来のインフルエンザウイルスは、動物やヒトの健康に関する適切なインフルエンザ基準研究所で、完全に解析されることが極めて重要です。WHOのパンデミックインフルエンザ対策(PIP)の枠組みにより、加盟国はパンデミックの可能性のあるインフルエンザウイルス(IVPP)を、WHOが調整する公衆衛生研究所のネットワークである世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)と定期的かつ適時に共有することが期待されています。共有されたウイルスは、公衆衛生研究所がパンデミックインフルエンザのリスクを評価し、それに関連したワクチン候補ウイルスを開発するために使用されます。

出典

Influenza A(H1N2) - United States of America 
Disease Outbreak News 11 August 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON482