レジオネラ症-ポーランド共和国

Disease outbreak news 2023年9月14日

発生状況一覧

2023年9月11日現在、ポーランド共和国(以下、「ポーランド」という。)では23人の死者を含む166人のレジオネラ症患者が報告されています。レジオネラ感染症は、より一般的にはレジオネラ症として知られ、細菌によって引き起こされる肺炎のような疾患で、軽症から重症、時には致命的な肺炎まで、重症度は様々です。
 
2023年8月中旬以降、確認された症例数、関連入院患者数、死亡者数の増加は、2016年以降ポーランドで報告された年間症例数を上回っており、極めて稀な事態となっています。
 
ポーランドの保健当局は、クラスター調査活動、追加症例を特定するための積極的な症例発見活動、および予防管理対策を通じて感染を予防し、新たな症例の出現を抑えるための公衆衛生活動を調整しています。9月7日以降、新たな症例は報告されていませんが、感染源はまだ特定されていません。現在も感染源の特定に向けた調査が続けられています。 
 
レジオネラ症は、水や土壌から細菌を吸い込むことで発症します。現在までのところ、ヒトからヒトへの直接感染は報告されていません。

発生の概要

2023年8月18日、ポーランドのジェシュフ(Rzeszów)の公衆衛生当局は、ジェシュフ内の複数の病院に入院した患者から、15例の検査確確定されたレジオネラ症を含む、158例の肺炎の疑い例が検出されたと発表しました。
 
2023年8月18日から9月11日の間に、合計166例の検査確定例(すべて入院)と23例の関連死(致死率14%)が報告さましれた。ほとんどの症例となる67%にあたる112人がジェシュフ市で、23%にあたる38人がジェシュフ郡で、残りの10%となる16人はその他の地域で報告されました。
 
 
図1:2023年8月18日から9月11日までにポーランドで確認されたレジオネラ症患者の地理的分布。
 
現在進行中の疫学調査の速報によると、最初の患者は7月30日に発症し、ほとんどの患者は8月12~16日に発症しました。60歳から90歳の成人が最も多く罹患しています。最近報告された症例の発症日は8月29日です。死亡した23人全員に基礎疾患があり、年齢は53歳から98歳(女性11人、男性12人)でした。


図2:ジェシュフで報告された疫学週毎のレジオネラ症確定症例数

検査結果

レジオネラ属菌の検査は入院症例にのみ実施され、大部分の症例は尿中抗原検査で、11症例は呼吸器検体からPCR法で確認されました。症例は抗生剤で治療されていたため、培養とシークエンス検査は不可能でした。

2023年8月18日から9月11日の間に、合計379件の施設検査が実施されました。合計222件の温水および冷水検体が採取され、調査が継続中です。

レジオネラ症の疫学

レジオネラ症はレジオネラ属菌によって引き起こされる感染症です。レジオネラ属菌は、軽症のポンティアック熱(非肺炎型)、重症の肺炎型(致死的)のレジオネラ症を引き起こします。ほとんどの人は、水や土壌から細菌を吸い込むことでレジオネラ症を発症します。
 
肺炎型のレジオネラ症は、潜伏期間が2~10日(ただし、いくつかの集団発生では最長16日が記録されています)。市中および院内肺炎の主要な原因で、まれではありますが、レジオネラ症は公衆衛生上影響の大きい集団発生を引き起こすことがあります。初期症状は発熱、軽い咳、食欲不振、頭痛、倦怠感、無気力であり、筋肉痛、下痢、錯乱を呈する患者もいます。レジオネラ症の重症度は、軽い咳から急速に致死的な肺炎に至るまで幅広くなっています。未治療のレジオネラ症は通常、最初の1週間で悪化します。
 
レジオネラ症による死亡率は、疾患の重症度、抗生剤使用の有無、レジオネラ菌に感染した環境、免疫抑制を含む基礎疾患の有無によって異なります。未治療の免疫抑制患者では死亡率が40~80%と高くなる可能性があり、臨床症状や徴候の重症度に応じて適切な症例管理を行うことでこれを5~30%まで低下させることができます。全体として、死亡率は通常5~10%です。

公衆衛生上の取り組み

・ジェシュフ市長との危機管理担当者会議は毎日開催されています。
・上水道、患者宅、医療施設、冷却塔、ジェシュフ市・ジェシュフ郡・ロプチチェ(Ropczyce)郡およびセンジシュフ(Sędziszów)郡にある建物の設備から水の検体が採取されました。
・感染源を特定するため、患者または親族への聞き取り調査を含む疫学調査が進行中です。
・すべての陽性症例、採水地、冷却塔のマッピングが進行中です。
・公共の噴水、公共の散水、その他の公共の水源は一時的に停止されています。
・ジェシュフ市上下水道会社は、2023年8月27日、ジェシュフ市と隣接する町の水道の定期消毒を実施しました。
・医療機関と長期介護施設は、給水システムの追加検査を実施するよう指示されました。
・公衆衛生に関するアドバイスが作成され、複数の媒体を通じて共有されました。

WHOによるリスク評価

レジオネラ症は、軽度の熱性疾患から重症で時に致死的な肺炎まで、その重症度は様々であり、汚染された水や鉢植え用混合物に含まれるレジオネラ属菌に曝露されることによって引き起こされます。レジオネラ菌の集団発生は、特に空調や工業用冷却に関連する冷却塔や加湿器、公共施設や民間の建物の温水・冷水システム、ジャクジーなど、整備不良の水システムと関連しています。
 
また、特に感染しやすい入院患者においては、汚染された水や氷の誤嚥によっても感染する可能性があります。現在までのところ、ヒトからヒトへの感染は報告されていません。レジオネラ症には抗生剤による治療が必要で、現在のところワクチンはありません。
 
ポーランドでは以前、レジオネラ症の散発的な発生が報告されています。2017年から2021年にかけて、ポーランドは欧州サーベイランスシステム(TESSy)に年間38~74例のレジオネラ症例を報告しています。2022年には症例数が増加し、111例の報告がありました。
 
現在のアウトブレイクでは、厳重なサーベイランスと対応活動が実施されており、患者数は減少しています。しかし、レジオネラ菌の発生源が特定されていないため、感染地域で働く人々や生活する人々には、レジオネラ症を発症するリスクが引き続き存在します。高齢者、喫煙者、免疫力が低下している人は特に罹患しやすいです。
 
旅行と関連するレジオネラ症(TALD)はしばしば確認されており、ヨーロッパで検出されたレジオネラ症例の平均約20%は旅行と関連すると考えられています。今回の流行は、ウクライナへの援助の活動拠点であり、ウクライナへの国際的な人道的支援の中継地でもある南東部の都市ジェシュフで報告されており、ジェシュフを訪れる人々にTALDが予想されます。
 
欧州疾病予防管理センター(ECDC)によると、2021年、EU/EEAでは人口10万人あたり2.4人のレジオネラ症患者が発生し、年間届出数が最も多かったとのことです。この期間にヨーロッパで報告された罹患率の増加の原因は現時点では不明です。レジオネラ症はEUでは届出対象疾患であり、ECDCおよび欧州レジオネラ症サーベイランスネットワーク(ELDSNet)を通じて、その発生が綿密にフォローアップされています。

WHOからのアドバイス

WHOは、検査機関での分析、症例の特定と臨床治療、接触者追跡、感染源を特定するためのアウトブレイク調査、さらなる感染を防ぐための対策の実施、感染予防管理(IPC)対策の強化の継続を推奨しています。医療施設におけるIPC対策は、COVID-19パンデミックの際にも強化されており、水関連の病原体対策も含め、医療関連感染を防ぐために強化されるべきです。 WHOは、旅行者に対しては特に異なる対策を推奨していません。旅行中または旅行後に呼吸器疾患を示唆する症状が現れた場合、旅行者は医療機関を受診し、旅行歴を医療従事者に伝えることが推奨されます。ポーランドへの渡航後にレジオネラ症例が報告された国は、各地域のIHR(国際保健規則)に基づく国の連絡窓口に通知してください。
 
WHOは、この事象に関する現在の情報に基づき、ポーランドへの渡航や貿易を制限しないよう勧告しています。

出典

Legionellosis - Poland
Disease Outbreak News 14 September 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON487