インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルス-オランダ王国

Disease outbreak news 2023年9月13日

発生状況一覧

2023年9月2日、オランダ王国(以下、「オランダ」という。)保健福祉スポーツ省は、オランダのノールト・ブラーバント(North Brabant)州で豚由来のインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスに感染したヒトの検査確定例をWHOに通知しました。これは2023年にオランダで報告されたインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによる最初のヒト感染例です。 
 
インフルエンザA(H1N1)変異型の世界的な散発的ヒト感染例は、オランダを含め、以前にも報告されています。国際保健規則(IHR2005)によれば、新型インフルエンザAウイルス亜型によるヒトへの感染は、公衆衛生に大きな影響を与える可能性のある事象であり、WHOへの報告が必要です。 
 
この患者は、呼吸器疾患の定期サーベイランスの一環として発見されました。入手可能な情報によれば、感染源は明らかではなく、豚との直接的な接触は報告されていません。9月7日現在、この症例に関連した有症状の接触者はおらず、定期的なサーベイランスでもそれ以外の検出は報告されていません。5人の濃厚接触者全員を最大潜伏期間である10日間追跡調査しましたが、症状を発症した者はいませんでした。従って、ヒトからヒトへの感染の証拠はなく、この症例はインフルエンザA(H1N1)変異型の散発的なヒト感染例と考えられます。地域レベルでの人への感染の可能性、および/または国際的な感染拡大の可能性は低いです。 
 

発生の概要

2023年9月2日、WHOは欧州委員会の早期警戒対応システム(EWRS)を通じて、オランダで豚インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによるヒトへの感染が確認されたことを通知しました。 
 
患者はノールト・ブラーバント州の成人で、基礎疾患はなく、動物への職業的曝露歴もありません。2023年8月20日、患者は疲労感と全身倦怠感を発症し、翌日、悪寒、くしゃみ、咳、頭痛、全身の脱力感を伴う急性呼吸器感染症を発症し、8月22日に発熱を認めました。 
 
2023年8月21日、患者は急性呼吸器感染症の参加型サーベイランスの一環として症状を報告し、自分で採取した鼻とのどを合わせたぬぐい検体を検査室に提出しました。2023年8月22日、この検体は国立公衆衛生環境研究所(RIVM)のオランダ国立インフルエンザセンターに送られ、8月23日に市販された24の病原体マルチプレックス核酸増幅アッセイでA型インフルエンザウイルス陽性、A(H1N1)pdm09陰性と判定されました。 
 
8月24日と25日には、RT-qPCRアッセイを用いて、さらに定型的な亜型分類が行われました。季節性インフルエンザウイルスとH5ウイルスの検査は陰性でした。さらに、検査機関の開発検査(LDT)と市販の汎用A型インフルエンザウイルス検出アッセイにより、検体中にA型インフルエンザウイルスの存在が確認されました。 
 
8月28日、ナノポア法を用いた定期的な全ゲノム配列決定とウイルス分離が開始されました。8月30日、配列決定の結果、A/Netherlands/10534/2023というウイルスはA(H1N1)変異型ユーラシア鳥類様系統1C.2.2豚インフルエンザウイルスであることが判明しました。HAゲノムセグメントは、2022年および2023年にオランダで発生した最近の系統1C.2.2豚インフルエンザウイルスと密接に関連していましたが、オランダで発生した以前の系統1C.2.2 A(H1N1)変異型(2019年)およびA(H1N2)変異型(2020年)ウイルスとはあまり密接に関連していませんでした。薬剤感受性については、このウイルスはノイラミニダーゼ阻害薬のオセルタミビルおよびザナミビルに感受性があります。 
 
このウイルス分離株は、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国のロンドンにあるWHO協力センター、および英国動植物衛生庁(APHA)にある国際獣疫事務局(WOAH)の鳥および豚インフルエンザ標準研究所と共有されます。配列はGISAIDデータベースのaccession EPI_ISL_18168180から入手可能です。 
 
9月13日現在、患者は回復しています。調査の結果、この患者は養豚場やその他の豚に関わる業務に従事しておらず、医療に従事していないことが報告されました。従って、感染源は明らかではありません。

インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスの疫学

インフルエンザA(H1) ウイルスは、世界のほとんどの地域で豚の間に蔓延しています。豚で通常流行しているインフルエンザウイルスがヒトから検出された場合、「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。H1N1、H1N2およびH3N2は豚のA型インフルエンザウイルスの主なサブタイプであり、ヒトに感染することが時にありますが、そのような感染は通常は豚や汚染された環境に直接または間接的にさらされた後に認めます。
 
変異型ウイルスのヒトへの感染は、臨床症状的には軽度となる傾向がありますが、より重篤な疾患になり入院した例や、死亡した例もあります。
 
オランダではこれまでにもインフルエンザA(H1N1)変異型およびA(H1N2)変異型ウイルスによる散発的なヒト感染が報告されており、持続的なヒトからヒトへの感染は認められていません。 
 
これは2023年にオランダで報告された豚インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによる初のヒト感染例であり、過去5年間で3例目のヒト感染例です。1986年以来、オランダでは9例の人における変異型症例が記録されています。

公衆衛生上の取り組み

国家当局は、患者とその濃厚接触者全員を監視しました。9月7日現在、濃厚接触者5人のうちで症状を訴えた者はいません。さらなる抗原ウイルスの特性解析が進行中です。人獣共通感染症センターと獣医師が調査を行いましたが、感染源となりうるものは特定されませんでした。 従って、動物のモニタリングや検査は実施されませんでした。 
 
現在オランダで検出されているインフルエンザウイルスはいくつかありますが、今回報告された症例を除けば、いずれも豚インフルエンザA型の変異型ではありません。 
 
オンラインの参加型サーベイランスは、www.influenzanet.info の一環で、病院で治療を受けない人々を対象とした症候学的サーベイランスに重点を置いており、17,000人以上の参加者を対象とした自己検査が含まれています。参加者は毎週、症状があるかどうかを尋ねられます。のどの痛み、鼻水、咳または呼吸困難を訴えた人の中から、毎週最大200人に、国立公衆衛生環境研究所で検査を実施するために、鼻とのどを合わせたぬぐい検体を送るよう呼びかけています。2022年10月以降、5,500個以上の検体が検査されています。

WHOによるリスク評価

ほとんどのヒト感染例は、感染した豚との接触や汚染された環境を通して豚インフルエンザ・ウイルスに暴露されることによって起こります。感染源が特定されていない場合もあります。 
 
これらのウイルスは世界中の豚の間で検出され続けているため、感染した豚との直接または間接的な接触によるヒトへの感染例がさらに増えることが予想されます。
 
現在のところ、これらのウイルスはヒトの間での感染を継続する能力を獲得していないことが示唆されています。変異型インフルエンザウイルスのヒトからヒトへの継続した感染は限られており、継続的な市中感染は確認されていません。今回の事例では、症候性疾患を引き起こすヒトからヒトへの感染は検出されず、定期的なサーベイランスでもそれ以上の検出は報告されていません。 
 
この事例に関連した新たな症例が検出されるリスクは低いと思われます。 
 
疫学的またはウイルス学的な情報がさらに入手できるようになれば、必要に応じてリスクアセスメントが見直されます。 
 

WHOからのアドバイス

サーベイランス :
・今回のケースは、公衆衛生対策と季節性インフルエンザのサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。 
・WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの現状に関して、入国地での特別な渡航者スクリーニングや制限を勧告するものではありません。 
・インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を与える可能性のある流行しているインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のためのタイムリーなウイルス情報共有の重要性を引き続き強調しています。

届出と調査  
・国際保健規則(IHR2005)の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによる最近のヒト感染症例が検査確定された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。病気の証拠は必要ありません。 
・パンデミックを引き起こす可能性のある新型インフルエンザウイルス(変異型ウイルスを含む)によるヒトへの感染が確認された、または疑われた場合には、動物への暴露歴、旅行歴、接触者の追跡など、徹底した疫学的調査を行う必要があります。疫学的調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆するような異常な呼吸器系に関連する事象の早期発見も含まれるべきです。症例の発生時に発生場所から採取した臨床検体は検査され、さらなる特徴を調べるためにWHO 研究協力センターに送られるべきです。 

渡航と貿易 :
・WHOは、現在入手可能な情報に基づき、オランダへの渡航および/または貿易の制限を推奨していません。

予防対策:   
・動物に触れる前後の手洗いや、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を遵守する必要があります。 
・動物のインフルエンザの発生が確認されている国への旅行者は、農場、生きた動物市場での動物との接触、動物が屠殺される可能性のある場所への立ち入り、動物の糞便で汚染されていると思われる物との接触を避けるべきです。 
・豚に感染するインフルエンザウイルスは、ヒトのインフルエンザウイルスとは異なります。インフルエンザA(H1N1)変異型感染症に対するワクチンは、ヒトへの使用が認可されていません。しかし、一部のパートナー機関は、パンデミック対策活動の一環として、パンデミックの可能性のある新型人獣共通感染症インフルエンザウイルスに対するワクチン候補ウイルス(CVV)を開発しています。 
一般に、ヒトのインフルエンザウイルスに対するインフルエンザワクチンは、通常ブタに流行するインフルエンザウイルスからヒトを守ることは期待できません。季節性インフルエンザワクチンは豚のウイルスを予防するものではありませんが、WHOは季節性インフルエンザウイルスの感染による重症化を避けるため、季節性インフルエンザワクチンの接種を推奨しています。 
 

出典

Influenza A (H1N1) variant virus - the Netherlands 
Disease Outbreak News 13 September 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON486