ボツリヌス症-フランス共和国

Disease outbreak news 2023年9月20日

発生状況一覧

2023年9月12日、フランス共和国(以下、「フランス」という。)の地方公衆衛生当局は、死亡例1例を含むボツリヌス症疑い例10例の集団発生を確認しました。2023年9月14日現在、フランスの国際保健規則(IHR)に基づく連絡窓口は、ボルドー(Bordeaux)とイル・ド・フランス(Ile-de-France)で報告されたボツリヌス症疑い症例15例(うち死亡1例)をWHOに通知しています。
 
疫学調査の結果、感染源は、2023年9月4日から10日までの1週間に、ボルドーにある同じレストランにおいて、レストランの自家製イワシの保存食を食べたことであると判明しました。この食品はレストランで調理され、店内で消費されました。 
 
潜伏期間が最長8日間であることと、ラグビーワールドカップ開催期間中であることから、レストランに外国人観光客が集まっているため、9月18日まで、フランス国内、あるいは旅行者の帰国に伴いフランス国外で、新たな感染者が報告される可能性があります。

発生の概要

2023年9月12日、フランスの地方公衆衛生当局は、ボツリヌス症が疑われる10人の集団感染者(うち1人が死亡)を確認しました。 
 
2023年9月14日現在、フランス国内の国際保健規則(IHR)に基づく連絡窓口は、ボルドーとイル・ド・フランスで報告されたボツリヌス症疑い症例15例(うち死亡1例)を報告しています。この15例のうち、10例が入院し、うち8例が集中治療室に入院しています。15例のうち14例は、フランス以外の国籍を有する患者で、カナダ、ドイツ連邦共和国、ギリシャ共和国、アイルランド、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国、アメリカ合衆国の6か国からの訪問者です。疑い症例はすべて、2023年9月4日から10日までの1週間に、ボルドーの同じレストランで異なる日に瓶詰めのイワシの保存食を摂取しています。疫学調査の結果、感染源はこの自家製のイワシの保存食であることが示されました。この食品はレストランで作られ、提供されたものです。

ボツリヌス症の疫学

ボツリヌス症は、ボツリヌス菌が産生する非常に強力な毒素によって引き起こされる重篤な神経疾患です。特に保存状態の悪い食品で発症します。ボツリヌス症は、食品由来のボツリヌス症、乳児ボツリヌス症、創傷ボツリヌス症、吸入ボツリヌス症、またはその他の中毒症を指すことがあります。 

食品由来のボツリヌス症は、重篤で死に至る可能性のある疾患です。ボツリヌス症は、汚染された食品に含まれる強力な神経毒素(ボツリヌス毒素)の摂取によって引き起こされます。ボツリヌス中毒のヒトからヒトへの感染は起こりません。中毒症状はさまざまで、呼吸不全を引き起こすこともある下行性の弛緩性麻痺が特徴です。初期症状には、顕著な疲労感、脱力感、めまいなどがあり、通常、目のかすみ、口の渇き、嚥下および会話困難が続きます。嘔吐、下痢、便秘、腹部膨満が起こることもあります。この病気は首や腕の筋力低下へと進行し、その後呼吸筋や下半身の筋肉に影響が及びます。発熱や意識障害はありません。症状は通常、汚染された食品を摂取してから数時間から8日後に現れます。

ボツリヌス症の集団発生は比較的まれですが、そのような集団発生は、感染源の特定、集団発生のタイプの区別(自然、偶発的、意図的)、新たな症例の発生防止、患者への効果的な治療のために迅速な認識が必要な公衆衛生上の緊急事態とみなされます。治療が成功するかどうかは、早期診断、ボツリヌス抗毒素の迅速な投与、集中的な呼吸器ケアに大きく依存します。

ボツリヌス症の発生率は低いですが、迅速な診断と適切かつ迅速な治療を行わないと死亡率が高くなります。この病気は5%~10%の症例で死に至る可能性があります。 

公衆衛生上の取り組み

・9月11日、食品および血清検体がパリ・パスツール研究所にあるフランス国立科学研究センターの嫌気性細菌・ボツリヌス菌部門に送られ、2023年9月14日、血清検体および食品検体(イワシ)からボツリヌス毒素が確認されました。  
・地元保健当局が同レストランを検査し、同レストランが調理した全製品を回収しました。9月13日、地元保健当局は記者会見を開き、地元の医療関係者に報告を行いました。 
・国の保健当局は、医療従事者に症状および治療法について注意を喚起するため、リスクコミュニケーション・アドバイスを発表しました。 
・外国人から報告された症例に関する情報は、当該国の保健当局と共有されました。 

WHOによるリスク評価

現地の調査では、クレジットカードのレシートから、感染源疑いとなる食品を摂取した可能性の高い25人が特定されました。この感染は局地的に発生しており、レストラン外には持ち出されていないであろう食品の撤去を含め、感染源を排除するための対策が実施されています。しかし、ボツリヌス菌の潜伏期間が8日間と長いこと、また、ボルドーの同レストランを利用したすべての客が特定されていない可能性があることから、この感染源に関連したさらなる感染者が発生する可能性があります。またこの集団感染は、2023年9月4日から開催され、世界中のラグビーファンやチームを魅了しているラグビーワールドカップと同時期に発生しました。 
 
潜伏期間が最大8日間であること、またレストランに外国人観光客が集まっていることから、9月18日までフランス国内またはフランス国外からの観光客の間でさらなる感染者が報告される可能性があります。

WHOからのアドバイス

食品由来のボツリヌス症の予防は、食品の調理、特に加熱・殺菌と衛生管理における適切な慣行によるところが大きいです。食品由来のボツリヌス症は、例えばレトルト食品のような加熱殺菌がされたもの、または缶詰製品中の細菌およびその芽胞を不活性化することによって、あるいはその他の製品中の細菌の増殖および毒素産生を阻害することによって予防することができます。栄養型の細菌は煮沸によって破壊できますが、芽胞は煮沸後も数時間生存可能です。しかし、芽胞は市販される缶詰で行われる非常に高温の処理によって死滅させることができます。 
 
市販の加熱殺菌(真空パックされた低温殺菌製品や熱燻製品を含む)は、すべての芽胞を死滅させるのに十分でない可能性があるため、これらの製品の安全性は、細菌の増殖と毒素の生成を防ぐことに重点を置く必要があります。冷蔵温度と塩分含有量および/または酸性の条件を組み合わせることで、細菌の増殖と毒素の生成を防ぐことができます。
 
神経毒自体は熱に弱く、80℃以上の温度では数分で破壊可能です。したがって、細菌や芽胞が生き残るような不適切に処理された食品だけがリスクを伴います。
 
WHOの「食品をより安全に保つ5つの鍵」(英文)は、食品取扱者を訓練し、消費者を教育する教育プログラムの基礎となります。食中毒の予防においてこれらは特に重要です。 
 
5つの鍵とは、以下の通りです。 
・清潔の保持 
・生鮮物と調理済み食品を分ける 
・十分な加熱 
・食品を安全な温度に保つ 
・安全な水と食材を使用する 

出典

Botulism – France
Disease Outbreak News 20 September 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON489