ジフテリア - ギニア共和国

Disease outbreak news 2023年10月18日

発生状況一覧

2023年9月5日、保健省はギニア共和国(以下、「ギニア」という。)でのジフテリア発生をWHOに通知しました。2023年7月4日から10月13日までに、ギニア中東部のカンカン(Kankan)地域で合計538人のジフテリア患者が報告されています。全報告症例のうち、520例が疑い例、18例が確定例であり、確定例13例を含む58例が死亡しました。全症例の致死率(CFR)は11%となっています。報告症例のうち、1~4歳の年齢層が最も大きな割合を占めています。ジフテリアは、感染者全体の5~10%の確率で致死的となりうる、幼児では特に死亡率が高い、主にジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)によっても引き起こされるワクチンで予防可能な感染力の強い疾患です。
しかし、ジフテリア抗毒素の入手が困難な環境では、致死率は40%に達することもあります。ジフテリアは、定期ワクチン接種率が低い国では依然として重大な健康問題となっています。WHO/ユニセフの各国予防接種率推計(WUENIC)によると、ジフテリア破傷風トキソイド・百日咳(DTP3)含有ワクチンの接種率は、ギニアでは2022年に47%と報告され、2014年以降50%を下回ったままです。これは、地域社会の健康を維持するために必要な接種率とされる80~85%には不十分です。WHOは、慢性的に低いワクチン接種率を考慮すると、ギニアにおけるジフテリアのリスクは高いと評価しています。 
 

発生の概要

 2023年9月5日、ギニア保健省は同国でのジフテリアの発生をWHOに通知しました。2023年7月4日、2歳と4歳の子ども2人が呼吸困難、失声症、発熱、咳の症状で、ギニアのカンカン地方にあるシグイリ県立病院(Siguiri prefectural hospital)の耳鼻咽喉科を受診しました。彼らは扁桃炎と呼吸器感染症と診断され入院し、抗生物質による治療を受けた後、追加治療のためにカンカン地方病院に紹介されました。 
 
7月4日以降、2023年10月13日の時点で、18人の確定例を含む538人の症例が報告されています。確定例13人を含む58人が死亡し、461人の接触者が追跡調査を受けています。全症例中の致死率(CFR)は11%となっています。報告症例のうち、62%が女性です。また、1~4歳が445例と最も多く、82%を占め、次いで5~9歳が5%、10歳以上が5%となっています。生後12ヵ月未満の小児が報告症例の7%を占めています。538例のうち、ワクチン接種を受けた人はいませんでした。
 
カンカン地方は5つの県に分かれていますが、ケルアネ(Kérouané)県のみ現在までに感染者が報告されていません。 
最も感染者が多いのはシギリ(Siguiri)県で、510人(95%)です。シギリの治療センターに入院した363人の患者のうち、37人(10%)が死亡ました。 
 
その他の県では、マンディアナ(Mandiana)県13例、カンカン県13例、クルーサ(Kouroussa)県2例が報告されています。 カンカンの治療センターに入院した15人の患者のうち、12人(80%)が死亡しています。 
 
国内の治療センターは、適切な治療を行うための人的資源や物的能力を有していません。疑い例と確定例には、第一選択療法としてアモキシシリンとアジスロマイシンが投与されました。直接接触者にはアモキシシリン、アジスロマイシンによる抗生物質の予防投与が行われました。 

 図1:2023年10月13日現在のギニア、カンカン地域におけるジフテリア患者の地理的分布 


図2:2023年10月13日現在のギニアにおける疫学週別のジフテリア疑い患者数 

 

ジフテリアの疫学

ジフテリアは、主にコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、あるいはコリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)によっても引き起こされるワクチンで予防可能な感染力の強い疾患です。主に人々の直接接触か、空気中の呼吸器飛沫を介して感染が広がります。本疾患はすべての年齢層が罹患する可能性がありますが、予防接種を受けていない小児が最もハイリスクです。
 
症状は多くの場合、咽頭痛と発熱から始まり、徐々に進行します。重症の場合は、細菌が毒素を産生し、喉の奥に灰色や白色の厚い斑点ができます。これが気道を塞ぎ、呼吸や嚥下が困難になり、犬吠様咳嗽が出ることもあります。リンパ節腫脹のために首が部分的腫れることもあります。
 
治療には、ジフテリア抗毒素(DAT)と抗生物質の投与が必要です。ジフテリアに対するワクチン接種により、ジフテリアの死亡率や罹患率は劇的に低下します。一方、感染者全体の5~10%の確率で致死的となり、幼児では特に死亡率が高くなります。また、ジフテリア抗毒素の入手が困難な環境では、致死率が40%になることもあります。
 

公衆衛生上の取り組み

・ギニアは、症例の早期発見と症例管理のために疫学サーベイランスを強化しています。 
・WHO、ベルギーの国境なき医師団(MSF)、その他の地域のパートナー機関の支援を受けて、地域の保健監察官が中心となり、地域レベルで対応活動に関する毎日の調整とモニタリング会議が行われています。 
・ジフテリアが疑われるすべての症例の探知、調査開始、可能な限り早期の接触者の監視が強化されています。 
・接触者の追跡調査、クルーサ県のバラト(Balato)保健所における隔離区域の設置、医療従事者への症例定義と予防対策に関する説明が進んでいます。 
・MSFの支援により、抗生物質治療(アモキシシリン、アジスロマイシン)、疑い例の治療、直接接触者への抗生物質予防投与(アモキシシリン、アジスロマイシン)、治療センターでの無償治療などの症例管理活動が行われています。 
・また、地域社会における意識の向上や、説明者を特定した患者やその親への指導など、リスクコミュニケーションと地域社会への関与を深める取り組みも継続中です。

WHOによるリスク評価

ジフテリアは、外毒素を産生するコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)によって引き起こされるワクチンで予防可能な疾患であり、濃厚な身体的・呼吸器的接触を通じて人から人へ感染します。鼻咽頭の感染を引き起こし、呼吸困難や死に至ることもあります。ジフテリアは5~10%の症例で致死的であり、幼児では死亡率が高いです。治療にはジフテリア抗毒素(DAT)と抗生物質の投与が必要です。ジフテリアに対するワクチン接種により、ジフテリアの死亡率と罹患率は劇的に減少しました。 
 
現在、ジフテリア抗毒素の供給は非常に限られており、現在の需要に応えるには不十分です。それは製造業者が限られていることに加え、世界のさまざまな地域で大規模なアウトブレイクが報告されていることによるものです。 
 
ギニアにおけるジフテリアのリスクは、発生地におけるDTP3ワクチン接種率が低いこと(2023年の世帯調査によると接種率は36%)、2014年から2022年の間のギニア国内のDTP3ワクチン接種率がWHO/ユニセフの推計によると47%であることから、高リスクと考えられ、WHO地域レベルでのリスクは中程度、世界レベルでは低いとされています。このアウトブレイクの特徴は、確定例の致死率が高いことです。その他のリスク要因としては、このアウトブレイクの中心であるシギリ保健地区の人口過多、弱体化した医療システム、同地域での複数の同時流行が挙げられます。 
 
アウトブレイクの中心であるシギリ保健地域の人口過多、適格な保健医療従事者の不足、保健医療での物的資源不足が、このアウトブレイクへの対応力を弱めています。さらに、この地域では百日咳、ポリオ、狂犬病など、いくつかの疾病が同時に発生しています。さらに、鉱山採掘による、人口移動が著しく、大気の質が低下し、洪水や地滑りなどの自然災害のリスクが高まり、この地域自体が脆弱となり、人々の健康に影響を及ぼしています。 
 
以上から、ギニア全土、特に疾病発生の中心地でのジフテリアワクチン接種率を向上し、ジフテリア症例に対応する病院施設での症例管理を強化することが喫緊の課題です。

WHOからのアドバイス

ジフテリアの制圧は、ワクチン接種による住民の高い免疫力の確保による一次予防と、感染者の迅速な治療のための濃厚接触者の迅速な調査による二次予防が基本です。 
 
ジフテリアの発生を早期に発見するための疫学的サーベイランスがすべての国で実施されるべきであり、すべての国で毒素原性のジフテリア菌を確実に同定するための検査施設を利用できるようにすべきです。十分な量のジフテリア抗毒素が、症例の治療のために全国的または地域的に入手可能となる必要があります。
 
ワクチン接種は、症例およびアウトブレイクを予防するために不可欠であり、適切な臨床管理には、毒素を中和するジフテリア抗毒素の投与と、合併症および死亡率を減少させる抗生物質の投与が含まれます。 
 
WHOは、ジフテリアが疑われる症例を早期に報告し、症例管理を行うことで、症例の適時治療と接触者の追跡調査を開始し、ジフテリア抗毒素の供給を確保することを推奨しています。 
 
WHOは、医療現場で以下の感染予防・管理(IPC)対策を実施するよう勧告しています: 
 
スクリーニング/トリアージでは、上気道感染症(URTI)の症状がある患者を、診察が終わるまで直ちに別の場所に隔離します。可能性例であれば同症状の患者と一緒に隔離をします。隔離エリアは他の患者処置エリアから隔離します。
 
標準予防策に加え、呼吸器関連のジフテリアの確定または疑い患者は飛沫予防策をおこないます。皮膚のジフテリアの確定または疑い患者は、接触予防策を用います。患者と患者の間隔を最低1メートルに保ち、患者の処置エリアは換気をよくします。隔離区域外への患者の移動や搬送を避けましょう。隔離区域外への移動が必要な場合は、患者に医療用マスクを使用させ、患者の身体の傷や病変を覆ってもらう必要があります。 
 
症例管理はWHOのガイドラインに従って行われる必要があります。さらに、5歳未満の幼児、学童、高齢者、ジフテリア患者との濃厚接触者、医療従事者などのハイリスク集団は、優先的にワクチン接種を受けるべきです。協調的な対応と地域社会の関与は、さらなる伝播と現在進行中のアウトブレイクの制御の支援となります。
 
濃厚接触者には7日間の予防的抗生物質(ペニシリンまたはエリスロマイシン、分離菌の抗生物質感受性に依存)を投与します。培養で毒素原性コリネバクテリウム属が陽性の場合、接触者は感染者として2週間の抗生物質コースで治療されるべきです(無症状の症例や偽膜のない症例には抗毒素は必要ありません)。 
 
旅行者だけがジフテリアに感染しやすいといったリスクは特にありませんが、ジフテリアが流行している地域に行く旅行者に対しては、渡航前に各国で定められた予防接種計画に従って適切な予防接種を受けるよう、各国当局が注意喚起することが推奨されます。前回の接種から5年以上経過している場合は、追加接種が推奨されます。 
 
WHOは、今回入手できた情報に基づき、ギニアへの一般的な渡航や貿易の制限を行うことを推奨していません。 
 

出典

Diphtheria - Guinea 
Disease Outbreak News 18 October 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON492