エムポックス(サル痘)-コンゴ民主共和国

Disease outbreak news 2023年11月23日

発生状況一覧

エムポックス(サル痘)は、エムポックスウイルス(以下、「MPXV」という。)によって引き起こされる感染症で、西、中央、東アフリカの森林密集地域、特にコンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」という)の北部と中部の風土病です。コンゴの26州のうち11州がエムポックスの流行地域として確認されていますが、近年ではエムポックスの総症例数と報告州数が拡大し、2023年11月現在では22州となっています。MPXVには、以前、コンゴ盆地系統と呼ばれていたクレードIMPXV(以下、「クレードI」という。)と、西アフリカ系統と呼ばれていたクレードIIMPXV(以下、「クレードII」という。)の2つの系統が知られており、クレードIIにはさらにIIaとIIbの2つの亜系統があります。2018年以前は、アフリカ大陸以外で報告された症例はほとんどなく、流行国から帰国した外国人旅行者の8例と、輸入動物に関連した流行が1例でした。2022年以降、クレードIIbの流行が世界的に拡大し、これまで一度も症例が報告されたことのないアフリカ大陸以外の多くの国々に影響を与えています。この流行の拡大は、主に男性と性交渉を持つ男性の性的接触を介した感染によって発生しています。コンゴでは、現在までの世界的流行が続く期間中、クレードIIbに関連するエムポックスの症例は報告されておらず、同国ではクレードIのみが検出されています。2023年4月以前には、クレードIの性感染症例は世界的に見られていません。ベルギー在住でコンゴにゆかりのある男性が、コンゴを訪問中にクワンゴ(Kwango)州ケンゲ(Kenge)でクレードI陽性と判定されたのが、最初の症例です。その後、コンゴでのこの患者の性的接触者もクレードI陽性となり、ウイルス配列は密接な関連が認められました。これは、報告されたクレードI感染がクラスター内で性的接触による伝播を示唆する初めての事例となりました。同国では、セックスワーカーの間で複数のMPXV感染者が発生したことも報告されています。コンゴでは、1970年代から濃厚接触によるヒトからヒトへのエムポックス感染が報告されており、そのほとんどは小規模な家庭内または地域社会での集団感染で、主に人獣共通感染によるものと推定されています。迅速な診断ができないこと、感染動物と接触した症例との関連付けが困難であること、疫学調査や接触者追跡調査が長年にわたり不完全であることなどから、コンゴにおけるクレードI感染の動態はよく分かっていません。このような性的なあるいは未知の感染様式という新たな特徴は、コンゴにおけるアウトブレイクの急速な拡大が続いている現在において、さらなる懸念となっています。2022年に始まったエムポックスの世界的流行では、WHOのほとんどの地域でクレードIIbのヒト間伝播が続いています。さらに、クレードIの定期的なアウトブレイクが3カ国(カメルーン共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国)で、その他の国(スーダン共和国、南スーダン共和国など)で散発的に発生しています。東、西、中央アフリカのこれらの地域の一部では、動物からヒトへの感染も起こっていると推測されます。自然宿主は明らかになっていないものの、リスやサルなど様々な小型哺乳類が感染しやすいことが知られています。一方、それがアウトブレイクに結びついたことはほとんどありません。

発生の概要

2023年1月1日から11月12日までに、コンゴの26州中22州(85%)の156の保健区域で、581例の死亡(致死率:4.6%)を含む、合計12,569例のエムポックス疑い症例が報告されました。これはこれまで報告された年間症例数の中で最多であり、キンシャサ(kinshasa)、ルアラバ(Lualaba)、南キヴ(South Kivu)など、これまで症例報告がなかった地域で新たな症例が発生しています。疑い症例のうち、1,106例がリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)で検査され、714例がMPXV陽性となりました(陽性率65%)。 
 
流行州への訪問歴のある患者が、非流行州でのヒト-ヒト感染の連鎖を引き起こしています(図1、2)。 


図1:コンゴ民主共和国における州別のエムポックス疑い患者の地理的分布 。
2023年1月1日~11月4日(第1疫学週~第44疫学週)

図2:コンゴ民主共和国において確認されたエムポックス患者の地理的分布(州別) 2023年1月1日~10月7日(第1疫学週目~第40疫学週目)
性的感染による最初のクレードIの症例:  
コンゴ クワンゴ州ケンゲ(Kenge)で、エムポックスの性的感染の疑いのある最初のクラスターが確認されました。確定例は男性5例と女性1例の計6例で、死亡例はありません。最初の確定例は、コンゴにゆかりのあるベルギー在住の男性で、2023年3月15日にキンシャサに到着し、同日から肛門のかゆみと不快感を感じ始めました。ベルギーから到着した翌日の2023年3月16日、彼はキンシャサから260キロに位置するケンゲの町に移動しました。3月17日、肛門周辺と性器に痛みを伴う水疱が生じ、さらに体幹と臀部に皮膚病変が生じました。3月23日、医師に相談の上、医師はエムポックス感染を疑い、3月24日に血液検体、口腔咽頭・直腸・水疱の拭い検査を実施しました。この患者は、キンシャサの国立生物医学研究所(INRB)で検体のRT-PCRにより陽性と判定され、その結果は4月10日に保健省と共有されました。検体のゲノム配列決定により、クレードIであることが確認されました。 
この患者は、自身が他の男性と性的関係を持つ男性であると認めています。コンゴを旅行中、彼は男性と性交渉を持つためのクラブを個別に訪問し、数回の性的接触をおこなっていました。彼はコンゴに到着した日に症状を呈しましたが、エムポックスの潜伏期間は1日以上であることが多いため、入手可能な情報では、コンゴ以外で感染したことが示唆されています。しかし、ウイルスの遺伝子解析の結果、コンゴで発生している他の株と同様のクレードIへの感染が確認されました。この患者は、確定診断された他のエムポックス感染者との接触は報告されていませんが、疫学的調査から、ベルギーでエムポックスに感染した可能性が高いです。 

この最初の症例発生後の疫学調査により、複数の性的および非性的接触者が特定され、これらの接触者について、長期にわたり、エムポックスの徴候や症状の有無が観察されました。 同定された27例の接触者と6例の検査対象者のうち、5例の性的接触者がエムポックス陽性と判定されました。2例は4月10日に、3例は4月18日に確認されています。この5例の接触者のうち、3例は21日間の追跡期間中に発症しました。症状が出なかった2例の接触者も粘膜検体で陽性と判定されました。確認された5例の接触者のうち、4例は24歳から35歳の男性で、1例は女性でした。最初の患者は、それぞれと性的接触があったことを認めています。彼はエムポックスからの回復後、2023年5月5日にベルギーに帰国しました。 
 
このクラスターは、性的接触によるクレードIの感染として初めて報告された症例であり、また男性と性交渉をする男性間でのクレードIの感染としても初めて報告されたものです。とりわけ、ケンゲには男性との性交渉を目的とする男性のためのクラブがあり、利用者の一部は、国内だけでなく国外、特にヨーロッパと中央アフリカの他のクラブも訪れる人もいます。キンシャサ市には、このようなクラブが50以上あります。これらのクラブの利用者の中には、コンゴ以外に居住している人もいます。この感染事例は異例であり、2022-23年の世界的大流行時のクレードIIのように、クレードIも性的ネットワーク間で広く拡散する危険性を示唆しています。 
 
2023年7月28日、コンゴのケンゲで、男性と性交渉歴のある別の男性において感染確定例が確認されました。患者はケンゲ在住の男性で、2023年6月11日に発症しました。彼は最初の症例グループの接触者の中には含まれておらず、限られた疫学調査によるものですが、彼と3月から4月のクラスタ-との直接的な関連は認められませんでした。この症例のゲノム解析は行われていません。この州における新たな症例の報告を確認するため、さらなる疫学調査が行われています。 

キンシャサでの最初のアウトブレイク 
2023年8月、コンゴの首都キンシャサで初めてMPXV感染者が確認されました。赤道(Equateur)州とマイ=ンドンベ(Maindombe)州で感染したそれぞれの患者がキンシャサを訪問し、首都内で小規模なクラスターが地域的な感染につながった4例が確認されました。2023年8月18日から11月12日の間に、キンシャサの8つの保健地区で合計102件の疑い例が報告され、うち18例が確定し、1例が死亡しました(確定例の致死率は5.6%)。 
 
最初に確認された症例は、エムポックスが流行しているマイ=ンドンベ州から船でキンシャサに到着した人でした。彼は8月18日に確定診断され、その後、彼の濃厚接触者の数人が症状を発症し、MPXV検査で陽性となりました。リメテ(Limete)、マカラ(Makala)、ンセレ(Nsele)の各保健地区で、さらに輸入確定例が報告されました。キンシャサで確認された感染者の男女比は男性2:女性1で、年齢中央値は24歳(11-27歳)です。 現在のところ、確定例のうち医療従事者を含む13例が回復し、1例が死亡、4例が隔離治療中です。死亡した1例もは結核を患っており、入院中にエムポックスを発症したことから、院内感染であると考えられます。 
キンシャサのような大都会でのヒトからヒトへの感染という新たな報告は、コンゴにおけるエムポックスの疫学が変化していることを明確に示しています。  

南キヴ州での最初のアウトブレイク 
2023年以前、南キヴ州ではエムポックスの報告はありませんでした。最初に確認された症例は、2023年9月26日に発症する数日前に、エムポックス流行州のひとつであるチョポ(Tshopo)州のキサンガニ(Kisangani)から渡航してきた若い貿易商でした。最初の皮膚病変は性器にみられ、その後全身に拡大しました。最初の疫学調査で、ブカブ(Bukave)とカミトゥガ(Kamituga)の保健区域で113例の接触者が登録されました。2023年11月22日現在、南キヴ州では、主にカミトゥガ保健区から、合計80例の疑い例と20例のセックスワーカーを含む34例の確定例が報告されていますが、死亡者はいません。現在、南キヴ州は紛争、避難民、食糧不安など、適切な人道支援を提供する上での課題に取り組んでおり、これらすべてが地域住民、特に脆弱な集団に深刻な影響を及ぼし、エムポックスのさらなる伝播につながる可能性があります。 

動物の研究 
エムポックスの自然宿主は明らかになっていないものの、リスやサルなど様々な小型哺乳類が感染する可能性があり、ヒト以外の霊長類が臨床的に感染することが知られています。数十年にわたり、コンゴとパートナー機関は、ウイルスの生態と潜在的あるいは偶発的な宿主となる動物の特徴を明らかにするため、動物の研究を実施してきました。このような研究は、赤道(Equateur)州、オー=ウエレ(Haut Uélé)州、クワンゴ(Kwango)州、クウィル(Kwilu)州、マイ=ンドンベ(Maïndombe)州、マニエマ(Maniema)州、サンクル(Sankuru)州、南ウバンギ(Sud Ubangi)州、チョポ(Tshopo)州、チュアパ(Tshuapa)州の各州で実施されています。自然宿主あるいは偶発的な宿主となる動物を特定するために、国内外の研究パートナー機関が協力して生態疫学的地域研究が現在も行われています。 

エムポックスの疫学

エムポックス(サル痘)は、エムポックスウイルス(MPXV)によって引き起こされる感染症です。MPXVには、以前はコンゴ盆地クレードと呼ばれていたクレードIと、西アフリカクレードと呼ばれていたクレードIIの2つのクレードが知られており、クレードIIにはさらに、クレードIIaとクレードIIbの2つの亜系統があります。この病気は、ヒトの間で病変部、体液、呼吸器飛沫、汚染物質との濃厚な接触によって、または動物との接触や汚染されたブッシュミートの摂取によって動物からヒトへ感染する、MPXVの2つのクレードのいずれかによって引き起こされますます。 
 
潜伏期間は2~21日ですが、症状が出ないまま感染する人もいます。通常、エムポックスでは発熱、筋肉痛、咽頭痛が最初に現れ、続いて皮膚や粘膜の発疹が現れます。通常、発疹は2~4週間かけて、斑、丘疹、水疱、膿疱と段階的に進展します。発疹は中心がくぼんでから痂皮化します。その後、かさぶたが剥がれ落ちます。リンパ節腫脹(リンパ節が腫れる)も典型的なエムポックスの特徴で、ほとんどの症例でみられます。 小児、妊婦、免疫力の弱い人は、合併症を起こしやすく、死亡するリスクもあります。 
 
他の感染症や疾患が類似していることがあるため、エムポックスの鑑別は困難です。水痘、麻疹、細菌性皮膚感染症、疥癬、ヘルペス、梅毒、他の性感染症、および薬物アレルギーと区別することが重要です。エムポックスの患者は、ヘルペスのような他の性感染症を合併している可能性があります。あるいはエムポックスが疑われる子どもや大人が水痘を合併していることもあります。このような理由から、できるだけ早期に治療を受け、さらなる感染拡大を防ぐためには、検査が重要です。 
 
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるウイルスDNAの検出は、エムポックスの検査として望ましいものです。診断に最も適した検体は、発疹から直接採取したもの(皮膚、体液、痂皮など)で、綿棒を使って採取します。皮膚病変がない場合は、口腔咽頭、肛門、直腸の拭い液で検査が可能です。しかし、口腔咽頭、肛門、直腸の検体が陽性であれば、エムポックスの可能性がありますが、陰性であってもMPXV感染を除外するには十分ではありません。血液検査は推奨されません。抗体検出法は後ろ向きの症例分類には利用できますが、診断のための検査には用いません。また、基準となる研究所が限られ、異なるオルソポックスウイルスを区別できないことが多いため、有用でないこともあります。 
 
治療は発疹のケア、痛みの管理、合併症の予防が基本です。また、特に重症例や合併症のリスクが高い患者には、テコビリマットなどの抗ウイルス薬を使用します。2022年に始まった世界的な流行(ほとんどがクレードIIbウイルスによるもの)では、症状が様々で発疹が他の症状より先に現れたり、同時に現れたりする症例もあり、初期病変は多くの場合、性器や口などの粘膜に限局していました。今回初めてMPXVの拡大は、大規模な性的ネットワークの利用者の男性と性交渉を持つ男性間で感染が進みました。 
 

公衆衛生上の取り組み

緊急事態における調整  
・公衆衛生・衛生・予防省は、予算付きの国家的なエムポックス対策・対応計画を作成しました。 
・この計画に加えて、2023年2月、以下の活動を実施するため、エムポックス緊急対策センターと管理チームが発足しました。

監視と検出 
・国内全域、特にキンシャサ、ケンゲ、カミトゥガにおけるエムポックスのサーベイランスを強化する。 
・基幹病院への検体収集・輸送キットの配布と、ケンゲ、キンシャサ、その他の感染地域で疑い症例からの検体収集、輸送、検査のための後方支援。 
・性感染やその他の可能性のある感染経路の検出を含む、医療従事者や専門家に対する、エムポックスサーベイランスの能力開発。 
・臨床および検査室で確認された症例の接触者を21日間のモニタリング。 
・流行しているウイルス株をよりよく理解するためのMPXVサンプルの遺伝子配列決定。 

 コミュニケーションと意識向上: 
・特にケンゲやその他の地域の風俗クラブの利用者を対象とした、潜在的なリスク集団に対する、エムポックスやその他の性感染症のリスクに関する情報キャンペーンの実施。 
・他のクラブや潜在的にリスクのある集団の特定と支援的関与。 
・注意喚起や報告を促進し、保健当局と関係地域とのコミュニケーションを促すためのコールセンターの設置。  
 
症例管理と感染予防・管理: 
・ケンゲ、キンシャサ、カミトゥガ 、マイ=ンドンベ、トチョポの医療従事者に個人防護具を支給。 
・感染が確認された患者を病院や自宅に隔離し、さらなる感染を防ぐ。 
・エムポックス患者に対する心理的サポートを含む適切な臨床ケア。 
 
トレーニングと能力向上 
・カミトゥガ、ケンゲ、キンシャサ、および他に感染の発生している都市や州の検査施設職員を対象に、エムポックス検体の収集、保存、適切な配送に関する研修の実施。 
・全国の保健当局や医療提供者の間で、エムポックスとその管理に関する意識を高める。



 

WHOによるリスク評価

2023年1月1日から11月12日までに報告されたエムポックスの疑い例数は12,569例で、報告数が過去最多となった2020年の6,216例と比較して2倍に増加しています。また、キンシャサ、クワンゴ州、南キブといった新たな地域でも報告されています。男性、女性、子どもに影響を及ぼすこの拡大の理由は、依然として不明です。クレードIIb による世界的なエムポックス流行に対する認識の高まりは、同国におけるサーベイランスの改善に役立っていますが、現状についてはまだ解明されていない点が多いです。 
 
性的接触によるエムポックスの感染では、粘膜が直接接触するため、ヒトからヒトへの伝播が速く、おそらく平均潜伏期間が短くなります。HIVがコントロールされていない、あるいは他の免疫不全状態にある免疫不全者は、重症のエムポックス合併症やエムポックス関連死のリスクが高いです。 コンゴの国内HIV有病率は1%未満と推定されていますが、男性と性交渉を持つ男性の間では7.1%と推定されています。全体として、コンゴのHIV感染者の推定17%は自分のHIVの感染状況を知らないため、進行したHIV感染、免疫力の低下、重症のエムポックスを発症するリスクがあります。 
 
ケンゲにある男性と性交渉を持つ男性のためのクラブを訪れた人の中からクレードIが検出されたことは、クラブの利用者が今後国内外、特に中央アフリカやヨーロッパにある他のクラブの訪問を目的に旅行する者もおり、コンゴ国内および海外で男性と性交渉を持つ男性にとってリスクとなります。キンシャサ市には、同様のクラブが50以上あると推定され、その利用者の一部はコンゴ以外に居住しています。 
 
コンゴにおけるエムポックス患者のうち、性的接触によって感染した可能性のある患者の割合はまだ不明です。しかし、2023年には、これまで感染者が確認されていなかった3つの州で性的接触を介した感染に関連するとみられるアウトブレイクが記録されており、この新たな検知が公衆衛生に及ぼす潜在的な影響は、特に資源不足の都市部において重大なものとなる可能性があります。南キブでの新たなアウトブレイクが、セックスワーカーの間でも急速に拡大していることも懸念されます。 
 
さらに、キンシャサで確認された最初の患者は、コンゴ川をボートで移動していました。このようなボートは、人々が密集していることが多く、動物を輸送し、船上で野生の獲物を販売したり消費することもあり、更には数週間にわたって船上で旅をする中でベッドを共有し、場合によっては性行為に及んだりする場合もあるため、潜在的にウイルスへの高い暴露環境となります。さらに、キンシャサのような都市部では、ヒトからヒトへの感染拡大の可能性が更に増加するため、封じ込め対策の実施はより困難となります。 
 
国内では、エムポックスに対する対応能力はまだ限られています。サーベイランスや検査能力は依然として最適とはいえません。今年、PCR法による検査が行われたのは、疑い例のわずか9%(1,106例/12,569例、第44週現在)です。コンゴには、研究プロジェクト以外では、エムポックスのリスクがある人々への予防接種プログラムはなく、抗ウイルス薬テコビリマットへのアクセスも、国内での数少ない臨床研究に限られています。 
 
従って、従来から報告されているブッシュミートの消費やコミュニティでのアウトブレイクといった感染様式がもたらすリスクに加え、特に男性と性交渉を持つ男性の間で新たに報告された性行為を介した感染のリスクにも併せて対処するために、リスクコミュニケーションとコミュニティへの関与が極めて重要です。WHOの最近の調査によると、コンゴでは、エムポックスのリスクに対する認識が低いです。また、コンゴでは、エムポックスを含め、外見に及ぶ皮膚症状に苦しむ人は偏見を持たれる可能性があり、これまで保健メッセージの不足から、男性と性交渉を持つ男性は特にリスクにさらされています。 
 
まとめると、コンゴ民主共和国におけるエムポックスのさらなる蔓延を懸念する理由は以下の通りです:
1.コンゴ民主共和国では、2023年に報告された疑い症例数が大幅に増加している     
2.エムポックスの感染リスク集団は、一般の集団よりもHIV感染の有病率が高い
3.エムポックスと関連するリスクに対する認識が、一般及び感染リスク集団で不十分である
4.国の対応能力は、暴露や感染の危険因子に関する疫学的情報に限りがあること、エムポックスや予防対策に関する一般の人々の認識が限られていること、加えて、エムポックス以外にも対処すべき多くの優先課題などによる問題に直面している
5.必要不可欠となる研究を続け、国レベルだけでなく州レベルや地方レベルでも強固な対応を支援するためには、パートナー機関との間の協力と調整が必要である。
 
エムポックスが隣国や世界中に広がるリスクは大きいと思われる。上記の特徴に加え、エムポックスが国際的に広がる危険性が高いという評価を支持する論拠は以下の通りである:
 ・最初に報告された、性的接触を介したクレードIによるエムポックスのアウトブレイクには、WHOの地域内および地域を越えての海外渡航歴が含まれている。
・クレードIが関連する複数の性的ネットワークに持ち込まれることで、この歴史的にみても強毒性であるクレードのウイルス伝播が進み、増幅される可能性がある。
・コンゴ川の生態系に沿った隣国のコンゴ共和国でもエムポックスが同時に発生しているが、コンゴ民主共和国の事例との関連は不明である。
 
これらの要因によって、2022年以来世界中に影響を及ぼしているエムポックスの流行よりも深刻な結果をもたらすリスクがより高まっている。
 
 

WHOからのアドバイス

全ての国々において、保健当局や臨床医・医療従事者は、世界的なエムポックスの流行が現在も継続していること、さらに、クレードIウイルスでは性的接触を通じた感染の発生が確認されていることに留意すべきです。クレードI に感染すると、重症化するリスクが高まる可能性があります。
 
そのため、各国は2023年8月に発表されたWHO事務局長常設勧告、特にエムポックスの疫学サーベイランス、検査機関の診断能力の強化とウイルスのゲノム解析、地域社会の関与とリスクコミュニケーション、ワクチンを利用可能とすること、適切な症例管理、異なる状況下における感染の拡大様式をより理解するための研究強化、患者のニーズに合わせた迅速診断法と治療法の開発に対する持続的支援といった内容に引き続き従うことが強く推奨されています。
 
どのような環境においても、哺乳類を宿主または保有動物としてMPXVが流行している可能性のある地域では、ワンヘルスアプローチを強化しながら、地域社会におけるヒトからヒトへの感染について深く理解し、偏見を持つことなく、きめ細やかに症例を調査することが重要と認識することが不可欠となります。
 
さまざまな状況において、エムポックスとHIV感染の関連性、それぞれの共通の危険因子に関する知識を深め、こうした人々に特化した保健サービスを提供し、患者のニーズを満たすべく柔軟かつ機敏な保健サービスの中でサーベイランスと症例管理を統合することが重要です。
 
地域社会における活動
特に最もリスクの高い人々やエムポックスに感染した患者や家族に、エムポックスの性的接触を通じた感染のリスクに関するコミュニケーションを強化すべきです。コミュニティのリーダーたちにエムポックスの発生と蔓延を食い止める方法について情報提供し、コミュニティの適切な参加を得て必要な対策の実施を支援するにはあらゆるレベルで働きかけを行う必要があります。
リスクコミュニケーションと地域社会への啓発活動は、地域社会に感染リスクとその防御策を認識するよう動機付ける上で不可欠となります。社会行動データを収集し、感染様式とリスク要因をよりよく理解するために状況分析を行うべきです。この情報は、意思決定を促して、感染対策が地域社会のニーズ、優先事項や地域社会の対応能力とマッチしていることを確認し、リスク・コミュニケーション計画や根拠のある地域社会の関与に役立ちます。医療従事者、男性と性交渉を持つ男性、性行為が行われる場所やイベントで働く人々またはそれに参加する人々、セックスワーカー、より重篤な疾病のリスクのある人々(例えば、HIVが治療されていない、または適切にコントロールされていない人々を含む)など、対象者を特定する必要があります。
 
コミュニティの関与を促進するために、地域社会と協力関係にある信頼できるネットワークとパートナーシップを確立すべきです。双方向のフィードバック・システムを確立あるいは活性化する必要があります。偏見と差別を理解し、未然に防ぎ、かつ必要に応じて対応するための対策には特に注意を払うべきです。偏見や差別は決して容認されるべきでなく、感染症への対策を妨害し、健康管理面でも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
 
医療施設や入国地点の管理
コミュニティの施設や保健所における感染予防・管理対策は、エムポックスの感染を予防し、流行に対応するために必要です。汚染に関連するリスクについて医療スタッフを訓練し、病院の入口や管理場所で保護具、手洗い、衛生器具を提供し、適切な患者隔離を確保することが重要となります。エムポックス感染が疑われる、あるいは確定患者をケアする医療従事者は、「標準予防策」「接触予防策」「飛沫予防策」をとるべきです。
 
医療従事者は、推奨される予防策で自らを守ると同時に、エムポックス患者に対する偏見を排除し、患者とその家族に心理的なサポートを提供するようにしなければなりません。
 
WHOは、今回の流行に関連する、コンゴへの渡航や貿易の制限を行わないよう勧告しています。
 
臨床検体および検査検体の採取
MPXVに感染している疑いのある人や動物から採取した検体は、設備の整った検査機関において、訓練を受けた職員が取り扱う必要があります。MPXVの確認は、検体の種類と質、検査機関の検査の種類によって異なります。したがって、検体は国内および国際的な要件に従って梱包し、輸送しなければなりません。RT-PCRは、その正確さと感度を考えると、望ましい検査法です。そのためには、MPXVの診断に最適な検体を皮膚や粘膜の病変部から採取する必要があります。これには水疱や膿疱の液、乾燥したかさぶたなどがあたります。PCRの血液検査は、ウイルス血症の持続時間が症状発現後の検体採取時間に比べて短いため、一般的に決定的な結果が得られないことから、全例で採取すべきではありません。オルソポックスウイルスに対して血清学的に交差反応性があるため、抗原および抗体検出法はMPXVに対して十分に特異的ではなく、正式な確定診断にはなり得ません。従って、検査機関は、皮膚または粘膜病変の検体採取キットを提供する保健当局を支援することが不可欠となります。
 
予防措置 
エムポックスの臨床診断または検査確定の診断を受けた患者は、可能な限り感染期間中の隔離を含め、地域の状況に応じて保健当局の指示に従うべきです。検査確定された患者の接触者は感染を示す徴候や症状がないかを自己監視、あるいは監視をうけ、手指衛生と咳や飛沫エチケットを実践し、免疫不全者や小児および妊婦との接触を避け、エムポックスの患者との最後の接触から21日間は性的接触と不要不急の旅行を避けるべきです。
 
ワクチンと抗ウイルス治療
エムポックス予防のためのワクチンはワクシニアウイルスで構成されており、天然痘対策として天然痘撲滅時に使用されたワクチンよりも副作用の少ない第3世代のワクチン、つまりより安全なワクチンとして開発されました。これらには、2019年にエムポックスの予防用として初めて承認されたMVA-BNや、2022年にエムポックス用として承認されたLC16-KMBワクチンが含まれます。これらのワクチンは、天然痘とエムポックスを引き起こすウイルスの抗原性が類似しているため、エムポックスに対して66~90%の予防効果があります。一方で、特に2022年に世界的な流行が始まって以来、いくつかの国が天然痘とエムポックスに対するワクチンの在庫を維持しています。小児を含むエムポックスに感染するリスクのある人や、エムポックス感染者との濃厚接触をした人には、エムポックス予防のためのワクチン接種が推奨されています。
 
抗ウイルス剤の開発も進められており、コンゴでは、マニエマ(Maniema)州とサンクル(Sankuru)州の2つの地区病院で、抗ウイルス剤テコビリマットの臨床試験が進行中です。 同国でテコビリマットを入手するには、国の保健当局に申請する必要があります。
 
 

出典

Mpox (monkeypox)- Democratic Republic of the Congo
Disease Outbreak News 23 November 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON493