炭疽-ザンビア共和国

Disease outbreak news 2023年12月8日

発生状況一覧

2023年11月1日、ザンビア共和国(以下、「ザンビア」という。)の国際保健規則(IHR2005)に基づく連絡窓口はWHOにヒトにおける炭疽の発生を通知しました。最初の感染例は2023年5月5日に南部(Southern)州シナゾンゲ(Sinazongwe)地区のデンゲザ(Dengeza) 診療所から報告されました。同時期に周辺地域で家畜のウシとヤギそして野生動物のカバが原因不明で死亡したと報告されています。2023年6月、シナゾンゲ地区のカンチドゥ(Kanchindu)とシアメジャ(Siameja)の動物病院でヒトと動物の感染例が報告されました。26人の感染者は3頭の野生のカバの死骸の肉を食べた後、顔、腕、指にただれや潰瘍を発症したものです。最初の感染例は2023年6月16日に報告され、ルサカ中央獣医研究所(CVRI)で培養検査により確定されています。2023年11月20日現在、ザンビアの10州のうち9州、116地区のうち44地区から684例の感染疑い例が報告され、うち死亡例4例、致死率(CFR)0.6%となっています。シナゾンゲ地区が発生の中心であり、287症例(全684症例の42%)、死亡例2例(全死亡例4例の50%)を認めました。最も感染が拡大した州は、南部州で370例(全684症例の54%)、西部(Western)州で88例(同13%)、ルサカ(Lusaka)州で82例、(同12%)、東部(Eastern)州では66例(同10%)、ムチンガ(Muchinga)州では47例(同7%)です。有症状の症例の大半は、疫学的に確定した症例と関連しており、検査は行われていません。この前例のないアウトブレイクは、ザンビアの全10州中9州にまたがる初めての大規模なものです。 ザンビアで報告された直近の大規模アウトブレイクは2011年に発生し、総数511例の疑い例が発生しました。積極的なサーベイランス、症例管理、検査機関での診断、健康増進、リスクコミュニケーションとコミュニティへの働きかけ(RCCE)、食肉検査、家畜へのワクチン接種など、ヒトと動物の両面から対応活動が行われています。炭疽は、炭疽菌と呼ばれる細菌によって引き起こされる人獣共通感染症であり、通常、反芻動物(牛、羊、ヤギなど)が感染します。炭疽菌は非常に強力な毒素を産生し、肺炎型では高い致死率を示します。ヒトは感染した動物から、あるいは汚染された動物製品から感染する可能性があります。感染が確定されたすべての症例は入院が必要です。家畜用およびヒト用のワクチンは、供給は限られていますが入手可能です。ザンビア国内では、州内および州間での動物の移動や死骸の移動が制限されていないため、感染が拡大するリスクは高いと評価されています。また、ザンビアと近隣諸国(アンゴラ共和国、ボツワナ共和国、コンゴ民主共和国、マラウイ共和国、モザンビーク共和国、ナミビア共和国、タンザニア連合共和国、ウガンダ共和国、ジンバブエ共和国など)の間では、動物とヒトの移動が頻繁に行われているため、地域レベルでのリスクも高いと考えられます。

発生の概要

2023年11月1日、ザンビアの国際保健規則に基づく連絡窓口はWHOにヒトにおける炭疽の発生を通知しました。最初の感染例は2023年5月5日に南部州シナゾンゲ地区のデンゲザ診療所から報告されました。同時期に周辺地域で家畜(ウシ、ヤギ)や野生動物(カバ)が原因不明で死亡したと報告されています。ザンビアでは通常、毎年散発的に炭疽の症例が報告されていますが、調査の結果、2022年9月から2023年1月までに、デンゲザ診療所で42例の感染疑い症例が記録されていました。すべての症例は皮膚のただれや潰瘍で医療機関を受診し、中には非特異的症状(吐き気、嘔吐、呼吸困難など)を呈した症例もありました。調査中に検体が採取され、検査のためにルサカ中央獣医研究所(CVRI)に送られました。初期の検体は炭疽菌陰性でした。

2023年6月、シナゾンゲ地区のカンチドゥとシアメジャの動物病院でヒトと動物の感染例が報告されました。26人の感染者は3頭の野生のカバの死骸の肉を食べた後、顔、腕、指にただれや潰瘍を発症しました。最初の感染例は2023年6月16日に報告され、ルサカ中央獣医研究所で培養検査により確定されました。動物では、伝統的な放し飼いの中にいたシナゾンゲ地区の家畜数65,000頭(牛30,000頭、ヤギ35,000頭)のうち、牛10頭、ヤギ3頭を含む13頭の家畜が炭疽の疑いで死亡しました。2023年7月17日、ルサカ中央獣医研究所で牛とヤギの検体を培養検査したところ炭疽菌陽性でした。11月1日までに、他の南部、北西部、西部の各州で動物やヒトに感染した炭疽の発生が報告されています。

2023年11月20日現在、ザンビアの10州のうち9州、116地区のうち44地区から684例のヒト感染疑い例が報告され、うち死亡例4例、致死率(CFR)0.6%となっています。シナゾンゲ地区が発生の中心であり、287症例(全684症例の42%)と死亡例2例(全死亡例4例の50%)が出ました。最も感染の拡大した州は、南部(Southern)州370例(全684症例の54%)、西部州88例(同13%)、ルサカ州82例(同12%)、東部(Eastern)州66例(同10%)、ムチンガ州47例(同7%)です。有症状の症例の大半は、疫学的に確定症例と関連しており、検査は行われていません。

動物では、2023年11月21日現在、東部、南部、西部の3州の11地区で568例の家畜および野生動物の症例が報告されており、南部州で344例(全568症例の61%)、ムチンガ州で132例(同23%)、西部州で62例(同11%)が発生しています。野生動物、主にカバの感染例は東部州と南部州で報告されました。

今回の大流行は、10州中9州にまたがる初めての大規模なものです。これまでの集団発生は北西部州と西部州に限られており、数年にわたり散発的に発生していました。特に、ザンビアでは2017年に西部州で、2016年と2011年に東部州で、ヒトと動物の両方で炭疽の発生が報告されています。


図1. 2023年11月20日現在のザンビアの州別炭疽症例分布

炭疽の疫学

炭疽は、炭疽菌と呼ばれる芽胞形成細菌によって引き起こされる病気です。反芻動物(ウシ、ヒツジ、ヤギなど)が感染する人獣共通感染症(動物からヒトに感染する病気)です。炭疽菌は通常、動物から動物へ、あるいはヒトからヒトへと感染することはありません。 炭疽菌の芽胞が汚染された動物製品から摂取されたり、吸入されたり、皮膚の擦り傷や切り傷から体内に入ると、発芽して増殖し、毒素を産生します。

炭疽菌に曝露された場合、数時間から3週間以内に、炭疽の3つの臨床症状のいずれかを呈します。
・皮膚炭疽が最も一般的で、痒みのあるイボ状のものができ、急速に黒色の痂皮状のものになります。その後、頭痛、筋肉痛、発熱、嘔吐を伴う場合もあります。
・腸炭疽の初期症状は食中毒に似ていますが、悪化すると激しい腹痛、吐血、重度の下痢を起こします。
肺炭疽は最も重篤な病態であり、初期症状は感冒のようですが、急速に重篤の呼吸困難やショックに進展することがあります。診断はポリクロームメチレンブルー染色した血液塗抹標本、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって行うことができます。感染が確定されたすべての症例は入院が必要です。炭疽菌に曝露された人は予防的治療を受けることができます。この病気には抗生物質、特にペニシリンが有効です。迅速な治療により、症例の致死率を1%未満に抑えることができます。家畜用およびヒト用のワクチンも供給は限られていますが入手可能です。ヒト用ワクチンの接種は、職業上の曝露の可能性がある人に限られています。

公衆衛生上の取り組み

人間と動物の双方から対応策が取られています。

動物に対する取り組み
国連食糧農業機関(FAO)の支援により、家畜へのワクチン接種が続けられています。2023年11月19日までに合計338,000回分の炭疽ワクチンが投与されました。ワクチン接種キャンペーンは、発生の中心地であるシナゾンゲ地区で開始され、他の感染発生地区にも拡大されています。保健省と地方自治省からなるワンヘルス(One Health)チームが、動物とヒトの症例発見を指揮しています。食肉検査は獣医局によって強化されています。さらに、野生動物公園局も積極的に関与し、違法な動物の移動を監視するパトロールを実施し、死骸の適切な処理を徹底しています。WHOは、FAOや農業省と密接に連携し、ワクチン接種などの動物保健活動に取り組んでいます。

人間に対して実施された取り組み
WHOは、保健省と密接に連携し、以下の活動を支援しています。

症例管理のために、医療従事者は潜在的な症例を早期に発見する能力を高めるためのオリエンテーションを受けました。イベント・ベース・サーベイランス(EBS)と早期発見の仕組みの強化に努めています。一般の人々への啓発に加え、必要不可欠な医薬品の供給が優先されています。医療施設や地域では、接触者追跡調査など、積極的なサーベイランスが続けられています。
食肉検査はと畜場と精肉店で実施されています。炭疽患者急増の可能性を想定し、医療従事者を追加で地区へ動員するなど、準備計画が整えられています。さらに、地方における症例管理の熟練度を向上させるため、地方の医療従事者を対象とした専門的なトレーニングが実施されています。

検査機関は引き続き、診断のための一元的なワンヘルスアプローチの下で運営されています。また、検査試薬が不足しているため、調達の努力が続けられています。安全性を確保するため、消毒と除染の厳格なプロトコルが継続されています。
保健省によるプレス・ブリーフィング、ソーシャルメディア・キャンペーン、ラジオ放送、情報パンフレットやポスターの配布など、健康増進とRCCEが継続されています。

WHOによるリスク評価

炭疽はザンビアの風土病で、通常5月から1月の間に発生し、乾季の終わり(10月から11月)にピークを迎えます。ザンビア全土で毎年、動物や人に散発的な症例が報告されていますが、今回のような大規模な流行は、511例の人への感染が疑われた2011年以来報告されていません。

流行はザンベジ(Zambezi)川、カフエ(Kafue)川、ルアングワ(Luangwa)川の流域に位置する州に沿って広がっており、これらの川はジンバブエのカリバ(Kariba)湖、モザンビークのカホラ・バッサ(Kahora Bassa)湖、マラウイ湖にも流れ込んでいるため、近隣諸国へ炭疽の伝播するリスクが高まっていることも新たな問題となっています。

ザンビアの他の感染発生地区や州では、2023年6月以降、散発的な疑い例や死亡例が報告されています。さらに、炭疽菌は高い耐性を持つ芽胞を形成し、環境中で何十年も生き残ることができます。

突然死んだ家畜の死骸を扱ったり、感染した動物の肉を食べたりしてこれまでに人々が何度も炭疽菌に曝露された結果、皮膚や胃腸の炭疽に感染していることが知られており、人へのリスクは高いです。

ザンビア国内では、州内および州間での動物の移動や死骸の移動が無制限であるため、感染が拡大するリスクが高まっています。2023年9月以降、感染発生地区が大幅に増加しています。さらに、感染への意識の低さ、社会文化的規範、地域社会の抵抗、炭疽感染に関する地域社会の知識の乏しさ、高水準の貧困と食糧不安、入手可能なワクチンと検査試薬の不足、不十分な死骸処理と汚染除去の実施が、炭疽発生の封じ込めを妨げる大きな要因となっています。

農家、家畜市場の責任者、肉屋など、牛や家畜の飼育や取り扱いに携わる地域社会との連携が不十分です。これらのコミュニティでは、炭疽に感染することへの懸念よりも、生計手段を失うことへの恐怖の方が勝っていることが多いです。ザンビアでは、公衆衛生上の緊急事態(コレラ、麻疹、COVID-19)が同時に発生しており、人的・財政的に今回の炭疽発生に十分対応できないため、制御が不十分となるリスクが高いと考えられています。

ザンビアとその近隣諸国(アンゴラ、ボツワナ、コンゴ民主共和国、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、タンザニア、ウガンダ、ジンバブエなど)の間では動物や人の移動が頻繁であるため、地域レベルでのリスクも高いと考えられます。さらに、ザンベジ川、カフエ川、ルアングワ川の流域に位置する州で炭疽感染が確認されています。これらの川は最終的にジンバブエのカリバ湖、モザンビークのカホラ・バッサ湖、マラウイ湖に流れ込んでいます。

河川に浮遊する野生動物の死骸は、近隣諸国への国際的な感染拡大のリスクを高めます。死骸は近隣諸国を含む他地域に細菌や感染症などを広げ、他の動物に食べられ、さらに感染を拡大させる可能性があります。

WHOからのアドバイス

ヒトは通常、感染した動物、死骸、動物製品に曝露された後に感染します。ヒトの炭疽の95%以上は皮膚型であり、感染した死骸やその皮、毛、肉、骨などを取り扱ったことが原因です。一般の人々は、突然死んだ動物の肉、急なと殺で得られた肉、出所が不確かな肉の取り扱いや摂取を避けるべきです。炭疽は、獣医師、農業や野生動物にかかわる従事者、と殺や食肉、皮革、毛、羊毛の加工に従事する労働者にとっても職業上の危険となる可能性があるため、予防衣と手袋、または個人防護具(PPE)を着用する必要があります。

医療現場においては、特に炭疽の疫学的リスクが知られている地域でのスクリーニング手順を強化することが極めて重要です。炭疽病変が疑われる場合には、感染予防と管理対策を迅速に実施することが肝要です。炭疽病変のある患者を看護する際には、接触予防策の実施が不可欠です。これには、患者を個室に入院させ、PPE(検査用手袋や耐液性ガウンなど)を使用することが含まれます。さらに、包帯等を使用して排液を封じ込め、環境汚染のリスクを軽減することも可能です。これらの包帯等は、使用後に感染性廃棄物として処分する必要があります。アルコールベースの手指消毒は芽胞に対する効果が弱いため、疑い例や確定例の患者をケアする際には、石鹸と水を用いてWHOの5つの手指衛生手順を実践すべきです。炭疽菌の芽胞への曝露が疑われる、あるいは確認された患者をケアする場所では、洗浄と消毒のプロトコルを強化することが推奨されます。

炭疽菌に暴露された可能性のある人は予防的治療を受けるべきです。炭疽菌は抗生物質によく反応しますが、これは医師によって処方される必要があります。治療期間の最後までの服薬を厳守することが重要です。ヒト用ワクチンは供給量が限られており、主に炭疽菌に職業的に曝露される可能性のある特定の人の予防に使用されます。

炭疽流行国への海外渡航者は、禁止されている動物製品、はく製、土産物の輸入に関する規制に注意する必要があります。

炭疽は、動物のワクチン接種プログラム、迅速な発見と報告、検疫、感染症状の出ていない動物の治療(曝露後予防)、疑わしい症例と確定例の焼却または埋葬によって管理されます。死骸が酸素にさらされると細菌が芽胞を形成するため、死骸を開けてはなりません。一般の人々やリスクのある人は、動物の病気や予期せぬ死んだ事例を直ちに獣医当局に報告すべきです。家畜の炭疽の予防には動物用ワクチンが使用されます。炭疽の蔓延を抑制するために家畜へのワクチン接種プロトコルは、厳守されるべきです。家畜の感染予防は人間の健康を守ることにつながります。

WHOは、現在入手可能な情報に基づき、いかなる渡航や貿易の制限も行わないよう勧告しています。

出典

Anthrax - Zambia 
Disease Outbreak News 08 December 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON497