季節性インフルエンザ(ファクトシート)

2023年1月12日(原文〔英語へのリンク)

概要

季節性インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる、世界各地で流行する急性呼吸器感染症です。 
季節性インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型、D型の4種類があり、A型とB型のウイルスが季節的な流行を引き起こします。
 
A型インフルエンザウイルスは、ウイルス表面のタンパク質であるヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせにより、さらに亜型(サブタイプ)に分類されます。現在、ヒトに感染するインフルエンザウイルスは、インフルエンザA(H1N1)とA(H3N2)です 。A(H1N1)は、2009年にパンデミックを引き起こし、その後、2009年以前に流行していた季節性インフルエンザA(H1N1)ウイルスに取って代わったことから、A(H1N1)pdm09とも表記されます。現在までのところ、パンデミックを引き起こすインフルエンザウイルスはA型だけであるとされています。

B型インフルエンザウイルスは、亜型には分類されず、系統に分類することができます。現在、B型インフルエンザウイルスは、B/Yamagata系統とB/Victoria系統のいずれかに属しています。

C型インフルエンザウイルスは、検出頻度が低く、通常、軽度の感染症を引き起こすため、公衆衛生上の影響はほとんどありません。

D型インフルエンザウイルスは、主に牛に感染し、人に感染して病気を引き起こすことは知られていません。

兆候と症状

季節性インフルエンザは、突然の発熱、咳嗽(通常乾性咳嗽)、頭痛、筋肉痛および関節痛、激しい倦怠感、咽頭痛、鼻汁などの症状が現れるのが特徴です。咳はひどく、2週間以上続くこともあります。ほとんどの人は、発熱やその他の症状から1週間以内に回復し、医師の診察が必要となることは稀です。しかし、インフルエンザは、特に高リスク群に当てはまる人おいて、重症化や死亡の原因となることがあります(下記参照)。
 
病態は軽度から重度、死に至るものまで様々です。入院や死亡は、主に高リスク群で起こります。世界では、毎年の流行にともない、約300万から500万人の重症患者と、約29万から65万人の死者が発生すると推定されています。
 
先進国では、インフルエンザに関連した死亡のほとんどが65歳以上の高齢者で発生しています。流行時には、労働者や学生の欠席率が高まり、生産性の低下につながります。流行のピーク時には、診療所や病院の医療提供体制がひっ迫することもあります。
 
発展途上国における季節性インフルエンザの流行の影響は理解が不十分ですが、インフルエンザに関連した下気道感染症による5歳未満の小児の死亡の99%は発展途上国で見られると推定される研究結果もあります。

疫学

すべての年齢層が罹患する可能性がありますが、他よりもリスクの高い集団(高リスク群)が存在します。
 
・妊娠中の女性、59ヶ月未満の小児、高齢者、慢性疾患(慢性心疾患、肺疾患、腎疾患、代謝疾患、神経発達疾患、肝臓疾患、血液疾患など)のある人、免疫抑制状態(HIV/AIDS、化学療法やステロイド投与、悪性腫瘍など)にある人は、感染すると重症化したり、重篤な合併症を起こすリスクが高くなります。
・医療従事者は、患者との接触が多いため、インフルエンザウイルスに感染するリスクが高く、特に免疫力の弱い人への感染が拡大する危険性があります。
 
季節性インフルエンザは、学校や老人ホームなどの人混みで急速かつ容易に感染が広がります。感染者が咳やくしゃみをすると、ウイルスを含む飛沫(感染性飛沫)が空気中に飛散し、最大で1メートルまで広がり、その飛沫を吸い込んだ人に感染します。また、インフルエンザウイルスに汚染された手指からも感染することがあります。感染を防ぐためには、咳をするときはティッシュで口と鼻を覆い、こまめに手洗いをする必要があります。
 
温帯地域では主に冬に季節的な流行が起こりますが、熱帯地域では通年でインフルエンザが発生し、より不規則に流行が起こります。
 
感染してから発病するまでの期間は、潜伏期間と呼ばれ、2日程度ですが、1日から4日程度と幅があります。

診断

ヒトのインフルエンザは、症状から診断されるケースが大半です。しかし、インフルエンザの感染者数が低下している時期や流行期以外では、ライノウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザ、アデノウイルスなど、他の呼吸器系ウイルスに感染してもインフルエンザ様疾患(以下、「ILI」という。)を示すことがあり、インフルエンザと他の病原体の臨床的鑑別が難しくなっています。
 
確定診断のためには、適切に呼吸器検体を採取し、臨床診断検査を実施する必要があります。呼吸器検体の適切な採取、保管、輸送は、インフルエンザウイルス感染の検査確定に不可欠です。咽頭、鼻、鼻咽頭分泌液、気管吸引・洗浄液からインフルエンザウイルスを検査確定するには、直接抗原検出、ウイルス分離、逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によるインフルエンザ特異的RNAの検出を行うのが一般的です。検査技術に関する様々なガイダンスがWHOから発表され、更新されています。
 
インフルエンザ迅速診断検査(RIDT)は臨床現場で使用されていますが、RT-PCR法に比べて感度が低く、その信頼性は使用条件に大きく左右されます。

治療

合併症のない季節性インフルエンザの患者の場合:
 
高リスク群に分類されない患者は、対症療法がおこなわれます。症状がある場合は、他人に感染させるリスクを最小限にするために、在宅で隔離が推奨されます。治療は、発熱などのインフルエンザの症状を和らげることに重点を置きます。患者は自分で健康観察を行い、状態が悪化した場合は医療機関を受診することになります。 重症または合併症を発症するリスクが高い高リスク群(上記参照)の患者は、対症療法に加えて、できるだけ早く抗ウイルス薬による治療受けることが推奨されます。
 
インフルエンザウイルス感染の疑い又は確定患者における臨床疾患の重症化又は憎悪を有する患者(例えば、肺炎、敗血症又は慢性下肢疾患の増悪等)は、できるだけ早く抗ウイルス薬による治療を行いましょう。
 
・ノイラミニダーゼ阻害剤(オセルタミビルなど)は、治療効果を最大化するために、できるだけ早く(理想的には症状発現後48時間以内)処方すべきです。また、発症後しばらく経過した患者にも投与を検討します。
・治療は最低5日間が推奨されますが、満足のいく臨床的改善が見られるまで延長することができます。
・副腎皮質ステロイドは、喘息やその他の特定疾患などで適応がある場合を除き、継続使用すべきではありません。これは、ウイルス排除の遅延、細菌や真菌などの重複感染をもたらす免疫抑制に関連することがあるためです。
・現在流行しているインフルエンザウイルスはすべて、アダマンタン系抗ウイルス薬(アマンタジンやリマンタジンなど)に耐性があるため、これらの単独療法は推奨されません。
 
WHO GISRSは、流行するインフルエンザウイルスの抗ウイルス剤に対する耐性を調査し、臨床管理における抗ウイルス剤の使用や化学的予防の可能性について適時の指針を提供するために、インフルエンザウイルスを監視しています。

予防

季節性インフルエンザを予防する最も効果的な方法は、ワクチン接種です。既に、安全で効果的なワクチンがあり、60年以上前から使用されています。ワクチン接種による免疫は時間の経過とともに低下するため、インフルエンザを予防するためには毎年の接種が推奨されます。不活化インフルエンザワクチンは、世界中で最も一般的に使用されている注射用ワクチンです。
 
健康な成人では、流行するウイルス型がワクチンに含まれるウイルス型と完全に一致しない場合でも、一定の予防効果を発揮します。しかし、高齢者では、型が完全に一致しない場合、ワクチン接種の予防効果は低い場合もあります。一方、病気の重症度、合併症や死亡の発生率は低下します。ワクチン接種は、インフルエンザ合併症のリスクが高い人々や、リスクの高い人々と同居している人々、またはその世話をする人々にとって、特に重要です。
 
WHOは、以下のような人に毎年のワクチン接種を推奨しています。
 
・妊娠中のすべての女性
・6ヶ月~5歳児
・65歳以上の高齢者
・慢性疾患のある方
・医療従事者
 
インフルエンザワクチンの予防効果は、流行しているウイルス型とワクチンに含まれるウイルス型が合致している場合に最も高くなります。インフルエンザウイルスは常に変異しているため、WHOの世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS)(世界中の国立インフルエンザセンターとWHO協力センターによるシステム)は、ヒトに循環するインフルエンザウイルスを常に監視し、年2回のインフルエンザワクチンの組成を更新しています。
 
WHOは長年にわたり、最も代表的な3種類のウイルス(A型インフルエンザウイルス2種とB型インフルエンザウイルス1種)を標的とした3価ワクチンの成分に関する推奨事項を更新しています。2013-2014年の北半球のインフルエンザシーズンからは、4価ワクチンの開発をサポートするために、4番目の成分が提案されています。4価ワクチンは、3価ワクチンのウイルスに加え、2価のB型インフルエンザウイルスが含まれており、B型インフルエンザウイルス感染に対するより広い予防効果が期待されます。不活化インフルエンザワクチンや遺伝子組換えインフルエンザワクチンは、注射用として数多く発売されています。また、弱毒生インフルエンザワクチンは、経鼻ワクチンとして販売されています。
 
抗ウイルス剤による曝露前または曝露後の予防は可能ですが、その要否は個人的要因、曝露の種類、曝露に伴うリスクなど、いくつかの要因に左右されます。
 
ワクチン接種や抗ウイルス剤による治療とは別に、公衆衛生管理には以下のような個人的な予防対策が含まれます。
 
・定期的な手洗いと適切な水分をふき取ること。
・咳やくしゃみをするときは口と鼻を覆ったり、ティッシュを使い、廃棄物を正しく処理すること。
・体調不良、発熱、その他インフルエンザの症状がある方の早期の自己隔離。
・病人との密接な接触を避けること。
・目、鼻、口に触れないようにすること。

WHOの取り組み

WHOは、WHO GISRSシステムを通じて、他のパートナー機関と協力し、世界的にインフルエンザを監視し、北半球と南半球のインフルエンザのシーズンに合わせて年2回の季節性インフルエンザワクチンの組成を提言し、熱帯・亜熱帯地域の国々にワクチン製剤を北半球と南半球どちらのものに合わせるかの選択を指導し、接種キャンペーンのタイミングの決定を支援することを通して、加盟国が予防と管理戦略を策定するのを支援しています。
 
加えて、WHOは、診断、抗ウイルス剤感受性のモニタリング、疾病の監視、流行への対応など、国、地域、世界のインフルエンザ対応能力を向上し、ハイリスクにある集団へのワクチン接種率を高め、次のインフルエンザパンデミックに備える活動を行っています。

出典

WHO. Fact sheets 12 January 2023
Influenza (Seasonal)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/influenza-(seasonal)