サル痘(ファクトシート)

2022年5月19日(原文〔英語〕へのリンク)

要点

・天然痘撲滅計画で使用されたワクチンは、サル痘に対する予防効果もあります。新しいワクチンが複数開発され、そのうちの1つがサル痘の予防に承認されています。
・サル痘は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによって引き起こされます。
・サル痘は、通常、症状が2~4週間続く自然治癒疾患ですが重症化することもあります。直近の致死率は3-6%程度です。
・サル痘は、感染した人や動物との濃厚接触、またはウイルスに汚染された物を介して人に感染します。
・サル痘ウイルスは、患者の病変部、体液、呼吸器飛沫、寝具など、汚染された物との濃厚接触により、人から人へ感染します。
・サル痘は、主に中央および西アフリカの熱帯雨林地域で発生するウイルス性人獣共通感染症で、他の地域にも症例が輸出されることがあります。
・天然痘の治療用に開発された抗ウイルス薬が、サル痘の治療用としても認可されています。
・サル痘の臨床症状は、1980年に世界的に根絶が宣言された天然痘に類似しています。サル痘は天然痘よりも感染力が弱く、重症化することも稀です。
・サル痘は、発熱、発疹、リンパ節の腫れなどの臨床症状を呈し、様々な合併症を引き起こす可能性があります。

はじめに

サル痘は、人獣共通感染症(動物から人に感染するウイルス)の一つで、臨床的には重症化しないものの、かつての天然痘患者に見られた症状と類似した症状を示すウイルスです。1980年に天然痘が根絶され、その後天然痘ワクチンの接種が中止されたため、サル痘は現在の公衆衛生上最も重要なオルソポックスウイルスとして注目を集めています。サル痘は、主に中央および西アフリカで発生し、多くの場合、熱帯雨林に近接した地で発生していますが、最近では都市部での発生が増加しています。宿主となる動物には、さまざまなげっ歯類やヒト以外の霊長類が含まれます。

病原体

サル痘ウイルスは、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属する、二本鎖DNAを持つ巨大なエンベロープウイルスです。サル痘ウイルスには、中央アフリカ(コンゴ盆地)系統群(クレード)と西アフリカ系統群(クレード)という2つの異なる遺伝的系統群があります。コンゴ盆地系統群は、従来、より重篤な疾病を引き起こし、より感染力が強いと考えられています。この2つの系統群の地理的な区分は、今のところカメルーンにあり、両方のウイルス系統群が見つかっている唯一の国です。

サル痘ウイルスの自然宿主

サル痘ウイルスに感染する可能性のある動物は様々なものが確認されています。この中には、キリス(rope squirrel)、スミ スヤブリス(tree squirrel) といったリス、アフリカオニネズミやヤマネ等のげっ歯類に加え、ヒト以外の霊長類などが含まれています。サル痘ウイルスの発生の歴史については不明な点が多く、正確な宿主を特定し、自然界でどのようにウイルスが受け継がれていくのか、さらなる研究が必要です。

流行(アウトブレイク)

ヒトにおけるサル痘の感染は、1970年にコンゴ民主共和国で9か月齢の男児で初めて確認されました。この地域では1968年に天然痘が根絶されています。それ以降、ほとんどのサル痘の症例はコンゴ民主共和国を中心とするコンゴ盆地の熱帯雨林の農村部から報告され、ヒトにおける症例は中央および西アフリカ全域から報告されるようになってきています。
 
1970年以降、アフリカ11カ国でサル痘のヒト感染例が報告されています。報告を行った国は、ベナン、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ガボン、コートジボワール、リベリア、ナイジェリア、コンゴ共和国、シエラレオネ、南スーダンの11カ国です。サル痘の本当の意味での負荷はまだ明らかではありません。例えば、1996年から97年にかけて、コンゴ民主共和国で、例年より致死率が低いものの、発作率が高い流行が報告されました。また、オルソポックスウイルスではない水痘ウイルスが原因の疾病である水痘とサル痘の同時発生が確認され、この場合、感染拡大の動きに明らかな変化が起きていると説明できる可能性があります。2017年以降、ナイジェリアでは大規模な流行が発生しており、疑い例500例以上、確定例200例以上、致死率約3%となっています。現在も継続して症例が報告されています。
 
サル痘は、西アフリカや中央アフリカの国々だけでなく、世界的に公衆衛生上重要な病気です。2003年、アフリカ以外で初めてサル痘が発生したのはアメリカ合衆国で、ペットとして飼育していたサル痘に感染したプレーリードッグとの接触が原因とされています。このプレーリードッグは、ガーナから輸入されたアフリカオニネズミやヤマネと一緒に飼われていました。この流行により、米国では70人以上のサル痘患者が発生しました。サル痘は、2018年9月にナイジェリアからイスラエルへの旅行者、2018年9月、2019年12月、2021年5月および2022年5月に英国への旅行者、2019年5月にシンガポール、2021年7月および11月に米国への旅行者でも報告されています。2022年5月には、複数のサル痘非流行国とされていた国で多くのサル痘の症例が確認されました。現在、疫学、感染源、感染パターンをさらに理解するための研究が進められています。

感染経路

動物からヒトへの感染(人獣共通感染症)は、感染した動物の血液、体液、皮膚や粘膜の病変に直接接触することで起こります。アフリカでは、リスやアフリカオニネズミ、ヤマネ等に加え、複数の種類のサルなど、多くの動物でサル痘ウイルス感染の証拠が見つかっています。サル痘の自然宿主はまだ特定されていませんが、げっ歯類が最も可能性が高いとされています。感染した動物の肉やその他の動物性食品を十分に加熱せずに食べることは、危険因子となる可能性があります。森林地帯やその近くに住んでいる人は、感染した動物に間接的にさらされたり、または程度は低くとも暴露される可能性があります。
 
ヒトからヒトへの感染は、感染者の呼吸器分泌物、皮膚病変、または直近に汚染された物との濃厚接触によって生じます。呼吸飛沫による感染には、通常、長時間の対面接触が必要で、医療従事者、家族、その他患者の身近にいる人は、より高い感染リスクがあります。しかし、地域社会で記録されている最長の感染回数は、ヒトからヒトへの連続感染が今まで見られた最多の6回から9回へと増加しています。これは、天然痘ワクチン接種の中止により、すべてのコミュニティで集団の免疫力が低下していることを反映しているのではないかと思われます。また、母体から胎児への胎盤を介した感染(先天性サル痘になる可能性がある)や、出産時や出産後の濃厚接触によっても感染する可能性があります。濃厚な身体的接触は感染の危険因子としてよく知られていますが、現時点では、サル痘が性的感染経路で感染するかどうかは不明です。危険因子やリスク行動をよりよく理解するための研究が必要となります。

兆候と症状

サル痘の潜伏期間(感染してから症状が出るまでの期間)は、通常6~13日ですが、5~21日の範囲となります。
 
サル痘は2つの時期に分けられます。
・発熱、強い頭痛、リンパ節腫脹、背部痛、筋肉痛、強い無力感などを特徴とする侵襲期(0~5日間)が続きます。リンパ節腫脹は、最初は似ているように見える他の病気(水痘、麻疹、天然痘)と比べて、サル痘の鑑別に有用です。
・発熱後1~3日以内に発疹が現れることが多いです。発疹は体幹よりも顔面や四肢に集中する傾向があり、出現率は以下です。顔面(95%)、手のひら、足の裏(75%)、口腔粘膜(70%)、生殖器(30%)、結膜(20%)、角膜も侵されます。発疹は、斑(底が平らな病変)、丘疹(やや盛り上がった固い病変)、小水疱(透明な液体が入った病変)、膿疱(黄色っぽい液体が入った病変)、乾いて落ちる痂皮と順次進みます。病変の数は、数個から数千個と様々です。重症の場合、病変が融合し、皮膚の大部分が剥がれ落ちることもあります。
 
サル痘は通常、症状が2~4週間持続する自然治癒疾患です。重症例は小児に多く、ウイルスへの曝露の程度、患者の健康状態、合併症の性質に関連します。免疫不全があると、より重篤になる可能性があります。以前は、天然痘のワクチン接種がサル痘の予防につながりましたが、今日では、天然痘根絶後に世界的に天然痘ワクチン接種キャンペーンが中止されたため、40~50歳未満(国によってワクチン中止時期が異なる)の人はサル痘に免疫がないと考えられます。 サル痘の合併症として、二次感染、気管支肺炎、敗血症、脳炎、角膜の感染による視力低下などがあります。また、無症状の感染がどの程度起こるかは現時点では不明です。
 
サル痘の致死率は、記録上は一般の集団で0~11%であり、幼児で高くなる傾向があります。最近では、致死率は3~6%程度となっています。

診断

鑑別診断として、水痘、麻疹、細菌性皮膚感染症、疥癬、梅毒、薬剤性アレルギーなどの他の発疹疾患を考慮する必要があります。発症前のリンパ節腫脹は、サル痘を水痘や天然痘と区別するための臨床的特徴になり得ます。
 
サル痘が疑われる場合、医療従事者は患者から必要な検体を採取し、適正な処理能力を持つ検査機関に安全に搬送する必要があります。サル痘の確定は、検体の種類と質、検査施設の検査の種類によって異なります。したがって、検体は国内および国際的な要件に従って梱包され、輸送されなければなりません。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、その正確さと感度を考慮すると、望ましい検査法です。このため、サル痘の診断に最適な検体は、皮膚病変(小水疱や膿疱の擦過物の塗抹や水疱内容物、乾燥した痂皮)から採取します。可能であれば、生検も選択肢となり得ます。病変部の検体は、乾燥した無菌の試験管(ウイルス輸送用ではないもの)に入れ、低温で保存する必要があります。PCR血液検査は、症状開始後の検体採取のタイミングに対してウイルス血症の期間が短いため、通常は結論が出ず、患者から日常的に採取するべきではありません。
 
オルソポックスウイルスは血清学的に交差反応性があるため、抗原・抗体検出法ではサル痘に特異的な確認はできません。したがって、血清学および抗原検出法は、資源が限られている場合の診断や症例調査には推奨されません。さらに、最近または過去にワクシニアウイルスベースのワクチンを接種した場合(例えば、天然痘根絶以前に接種した人、またはオルソポックスウイルス研究所の職員などでリスクが高いため最近ワクチンを接種した人)、偽陽性の結果が出る可能性があります。
 
検査結果を解釈するためには、a) 発熱日、b) 発疹日、c) 検体採取日、d) 現在の状態(発疹の段階)、e) 年齢などの患者情報を検体とともに提供することが重要です。

治療

サル痘の治療は、症状の緩和、合併症の管理、長期的な後遺症の予防のために、十分に検討されなければなりません。患者には、十分な栄養状態を維持するために、水分と食事を提供すべきです。二次的な細菌感染症は、適応に応じて治療します。 天然痘用に開発されたテコビリマットという抗ウイルス薬が、動物実験と人での臨床試験のデータに基づいて、2022年に欧州医薬品庁(EMA)からサル痘用として認可されましたが、まだ広く普及はしていません。
 
患者の治療に使用される場合、テコビリマットは、理想的には、前向きデータ収集による臨床研究の文脈でモニターされる必要があります。

ワクチン

天然痘のワクチン接種は、複数の研究によって、サル痘の予防に約85%程度の効果があることが証明されています。従って、天然痘の予防接種を受けたことがあれば、サル等に罹患しても比較的軽症で済む可能性があります。天然痘の予防接種を受けた痕跡は、通常、上腕に瘢痕として残ります。現在、天然痘のオリジナル(第一世代)ワクチンは、一般にはもう入手できません。研究所員や医療従事者の中には、職場でオルソポックスウイルスに暴露された場合に備えて、天然痘ワクチンを接種している人がいるかもしれません。2019年にサル痘の予防のために、改良型弱毒化ワクシニアウイルス(アンカラ株)をベースとしたさらに新しいワクチンが承認されました。これは2回接種のワクチンで、入手可能なものはまだ限られています。天然痘ワクチンとサル痘ワクチンは、オルソポックスウイルスに対する交差免疫があるため、ワクシニアウイルスに基づく製剤で開発されています。

予防

サル痘感染の危険因子に対する認識を高め、ウイルスへの曝露を減らすためにできる対策について人々を教育することが、主な予防策です。現在、サル痘の予防と制御のためにワクチン接種を実施することの実現可能性と適切性を評価する科学的研究が進められています。一部の国では、既に研究所の職員や、感染への迅速対応チーム、医療従事者など、感染リスクがあると思われる人にワクチンを提供する政策をとっているか、あるいは政策整備中の国もあります。

ヒトからヒトへの感染リスクを減らすために

サル等の流行を抑制するには、症例監視と新規症例の迅速な検知が非常に重要になります。ヒトのサル痘感染が発生した際には、感染者との濃厚接触がサル痘ウイルス感染の最も大きな危険因子となります。医療従事者や患者と暮らす家族は、感染のリスクがより高くなります。サル痘ウイルス感染が疑われる、あるいは確定した患者の世話をする医療従事者や検体を扱う医療従事者は、標準的な感染制御予防策を実施すべきです。可能であれば、天然痘の予防接種を受けたことのある人を選んで、患者の世話をさせる必要があるかもしれません。
 
サル痘ウイルス感染が疑われる人や動物から採取した検体は、適切な設備のある研究機関で働く訓練を受けたスタッフが取り扱うべきです。患者の検体は、WHOの感染性物質の輸送に関するガイダンスに従った三重包装で安全に輸送準備されなければなりません。
 
2022年5月、複数のサル痘非流行国において、流行地域への渡航などの直接関係がないサル痘患者の集団発生が確認されたことは、異例の事態です。感染源と思われる場所を特定し、さらなる感染拡大を抑えるための調査が進められています。この流行の発生源は調査中であり、公衆衛生を守るためには、考えられるすべての感染様式を調べることが重要となっています。この流行に関する詳細は、こちら(英文)をご覧ください。

動物を介したヒトへの感染リスクを減らすために

長年、ほとんどのサル痘のヒトへの感染は、動物からヒトへの一次感染に起因しています。野生動物、特に病気や死亡している動物との無防備な接触は、肉、血液、その他の部位すべて含めて避けるべきです。さらに、動物の肉等の動物由来の食品は、食べる前に十分に加熱する必要があります。

サル痘拡大予防のための動物取引規制

一部の国では、げっ歯類やヒト以外の霊長類の輸入を制限する規制を設けています。サル痘に感染した可能性のある飼育動物は、他の飼育動物から隔離し、直ちに検疫にかけられます。感染動物と接触した可能性のある動物は、隔離し、標準予防策を用いて取り扱い、30日間、サル痘の臨床症状の発現がないか経過観察することになります。

サル痘と天然痘の関連性

サル痘の臨床症状は、現在根絶されているオルソポックスウイルス感染症である天然痘と類似しています。天然痘はサル痘より感染力が強く、患者の約30%が死亡するため、より致命的でした。1977年の天然痘の最後の患者の発生の後、1980年にワクチン接種と封じ込めの世界的なキャンペーンを経て、世界的に天然痘根絶が宣言されています。その後、すべての国でワクシニアウイルスのワクチン定期接種が中止され、40年以上が経過しています。西アフリカや中央アフリカでは、種痘ワクチンによってサル痘も予防が可能であったため、ワクチン未接種の集団はサル痘ウイルスに感染しやすくなっています。
 
天然痘の自然感染が現時点で発生することはありませんが、自然の中での再度の発生や、実験施設における事故、意図的な流出によって再び天然痘が発生する可能性があるため、世界の保健機関は警戒を続けています。天然痘が再び発生した場合に備えて、新しいワクチン、診断薬、抗ウイルス薬の開発が進められています。また、これらはサル痘の予防・管理にも有効であることが証明されています。

WHOの取り組み

WHOは加盟国に対し、サル痘のサーベイランス、対策、感染国での流行対応活動を支援しています。詳細はこちら(英文)でご確認ください。

出典

WHO. Fact sheet, 19 May 2022
Monkeypox

https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/monkeypox