伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型 (cVDPV2)- スーダン共和国

Disease outbreak news  2023年1月12日

発生状況一覧

2022年12月18日、スーダンの国際保健規則ナショナルフォーカルポイントは、スーダン西部の西ダルフール(West Darfur)州から、急性弛緩性麻痺(以下、「AFP」という。)を発症した48ヶ月の男児から伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が検出されたと、WHOに通知しました。この患者は、10月31日に麻痺を発症しました。分離されたウイルスは、2021年にナイジェリアのボルノ(Borno)州で流行した株と最も近く、2020年にスーダンで発生したcVDPV2株とは無関係であることがわかりました。11月28日、連邦保健省(FMOH)は、感染発生地の13歳未満の小児を対象とした予防接種キャンペーンを開始しました。世界ポリオ撲滅推進計画(以下、「GPEI」という。)のパートナー機関の支援を受け、地元および国の公衆衛生当局による現地調査が直ちに開始されています。

発生の概要

2022年12月18日、スーダンの国際保健規則ナショナルフォーカルポイントは、スーダン西部の西ダルフールにおいて急性弛緩性麻痺(AFP)を発症した48か月の男児から伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(以下、「cVDPV2」という。)が検出されたとWHOに通知しました。この患者は、10月31日に麻痺が発症しています。2022年11月10日と12日に便検体2件が採取され、12月16日にcVDPV2であることが確認されています。遺伝子配列解析の結果、分離された株は38個の塩基配列が変化していると判明しました。 今回分離されたウイルス株は、2021年にナイジェリアのボルノ州でcVDPV2が発生した際の株と最も近く、2020年にスーダンでアウトブレイクを引き起こしたcVDPV2株とは無関係であるとわかっています。
 
2020年、cVDPV2の流行は、スーダンの18州のうち15州に広がりました。この際はチャドから流入したcVDPV2によって流行が起こり、58人の小児に麻痺が発生しました。2022年7月2日から8月1日にかけて発生対応評価(Outbreak Response Assessment: OBRA)が実施され、2022年8月に終息宣言がなされました。
 
WHO-UNICEFの2021年のスーダン全土におけるポリオ予防接種率の推計によると、経口ポリオワクチン3回目(OPV3)の接種率は85%、不活化ポリオワクチン1回目(IPV1)の接種率は94%でした。

ポリオの疫学

ポリオは、主に5歳未満の小児に感染し、感染者の約200人に1人に永続的な麻痺、麻痺者の2~10%は死亡する感染力の強い病気です。
 
ウイルスは、主に糞口経路で人から人へ感染しますが、それ外にも一般的な経路として、頻度は低いものの、汚染された水や食べ物などを介して感染し、腸内で増殖、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。 潜伏期間は通常7-10日ですが、4-35日の範囲に及ぶこともあります。感染者の90%は無症状か軽い症状があるのみで、通常、病気であると気づかないです。
 
ワクチン由来ポリオウイルスは、経口ポリオワクチンにもともと含まれていたポリオウイルスが変異したもので、よく知られている株です。経口ポリオワクチンには弱毒化した生きたポリオウイルスが含まれており、腸内で一定期間複製することで抗体ができ、免疫力が発達します。まれに、消化管内で複製する際に、経口ポリオワクチンの株が遺伝的に変化し、ポリオワクチンを十分に接種していない地域、特に衛生状態の悪い地域や過密な地域で広がることがあります。集団の免疫力が低いほど、このウイルスは長く生き残り、遺伝子が変化していきます。
 
ごくまれに、ワクチン由来のウイルスが遺伝的に変化し、野生ポリオウイルスと同じように麻痺を引き起こすことがあり、これがワクチン由来ポリオウイルス(以下、「VDPV」という。)と呼ばれるものです。少なくとも2つの異なる場所から、2ヶ月以上の間隔をおいてVDPVが検出され、それが遺伝的に関連し、地域社会での伝播の証拠を示している場合、「伝播型」ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)として分類されるべきです。

公衆衛生上の取り組み

連邦保健省は、検査機関での症例確認後24時間以内に、スーダンでのポリオの発生を宣言しました。さらに、連邦保健省は、WHO、ユニセフ、およびGPEIのパートナー機関からの支援を受けて、以下の公衆衛生対策を実施しています。
 
・詳細な症例調査を完了しました。
・専門家による内部協議が開催され、実施すべき公衆衛生上の措置について議論されました。
・11月28日、連邦保健省は、症例発生地の13歳未満の子どもを対象とした予防接種キャンペーンを開始しました。
・2022年12月22日にリスク評価を実施し、その結果に基づいて、2回の全国予防接種日を流行対応・準備チームに提案。各回の対象者は5歳未満の子ども8,964,477人とされました。
 

WHOのリスク評価

今回のcVDPV2の発生は、定期予防接種に問題があることを示しています。 また、ポリオウイルスが蔓延した場合のリスクと影響を最小限に抑えるため、各地で高い水準の定期予防接種率を維持することの重要性と、あらゆるポリオウイルスを早期に発見するための質の高い監視体制を確保する必要性が浮き彫りになっています。
 
さらに、国内および国境を越えた大規模な人の移動と、ワクチン接種率の低さによる集団免疫が低いことが、国内全域に病気が広がるリスクを高めています。

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオの発生している国や地域と頻繁に人の行き来や接触がある国は、新たなウイルスの侵入を素早く発見し、迅速に対応するために、AFP症例の監視を強め、環境監視の拡充を計画的に開始することが重要です。また、国や地域は、新たなウイルスの流入による影響を最小限に抑えるため、地区レベルで一律に高い定期予防接種率を維持する必要があります。
 
WHOのInternational Travel and Health」(英文)では、ポリオ感染地域への渡航者は全員、ポリオの予防接種を完了することを推奨しています。感染地域の居住者および4週間以上の滞在を予定する者は、旅行前の4週間から12カ月以内に経口ポリオワクチン(OPV)または不活化ポリオワクチン(IPV)の追加接種を受けるとよいでしょう。
 
国際保健規則(IHR2005)基づき招集された緊急委員会の助言に基づき、ポリオウイルスの国際的な広がりのリスクは、依然として国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)とされています。ポリオウイルスの感染が発生した国は、一時的な勧告の対象となります。ポリオウイルス感染が発生した国は、PHEICの下で出された臨時勧告を遵守するために、国家的な公衆衛生上の緊急事態としてポリオ発生を宣言し、居住者と長期滞在者のワクチン接種を確実に行い、ワクチン接種を受けていない、または接種状況を証明できない人の渡航を出発地点で制限する必要があります。
 
WHOは、今回のポリオ発生に伴い得られた情報に基づき、スーダンへの渡航や貿易の制限を推奨していません。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 - Sudan
Disease Outbreak News 12 January 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON362