エボラウイルス病(スーダン型) - ウガンダ共和国 (終息)

Disease outbreak news  2023年1月14日

発生状況一覧

2023年1月11日、ウガンダ保健省(MoH)は、9つの地区で発生したスーダン型エボラウイルスによるエボラウイルス病の流行終息を宣言しました。流行期間中、合計164人の患者(確定例142人、推定例22人)と77人の死亡者(確定例55人、可能性例22人)が報告されました。
 
WHOの勧告に従い、今回の終息宣言は、2022年11月29日に採取された最後の入院患者の検体が退院前に陰性となり、最後の死亡確定例が2022年11月29日に安全かつ尊厳ある埋葬をされてから、スーダン型エボラウイルス病の最長潜伏期間の2倍に相当する42日経過後に行われました。
 
流行終息宣言はなされましたが、保健当局は、再流行を迅速に特定し、対応するために監視を継続しています。生存者を支援するためのフォローアッププログラムも実施されています。近隣諸国は引き続き警戒態勢にあり、感染の発生を検知し、対応する能力を引き続き向上させるよう奨励されています。

発生の概要

2023年1月11日、ウガンダ保健省は、146地区のうち9地区がで発生したスーダン型エボラウイルス(SUDV)によるエボラウイルス病の流行終息を宣言しました。ブニャンガブ(Bunyangabu)県、ジンジャ(Jinja) 県、カガディ(Kagadi) 県、カンパラ(Kampala) 県、カッサンダ(Kassanda) 県、カイゲグワ(Kyegegwa) 県、マサカ(Masaka) 県、ムベンデ(Mubende) 県、ワキソ(Wakiso) 県の9地区で感染が発生しました。この終息宣言は、2022年11月29日に最後の確定症例患者が陰性となり、11月30日に退院し、2022年11月29日に最後の確定患者における死亡者が安全で尊厳ある埋葬を受けた後の42日間を待って発出されました。
 
ウガンダは、2022年9月20日、ムベンデ地区のムベンデ地域紹介先病院(MRRH)での症例がウガンダウイルス研究所(UVRI)による検査確定後、スーダンエボラウイルスによるエボラウイルス病の発生を宣言しました。合計164例(確定例142例、推定例22例)が報告され、77名が死亡し(確定例55名、推定例22名)、87名が回復しました。
 
感染者は59% が男性と割合が多く、年齢層は20-29歳が31%、30-39歳が30%の順に多くなっています。また、4分の1は10歳未満の子供でした。全体として、医療従事者(HCW)の間で19人の患者が確認され、7人が死亡しています。
 
ムベンデが流行の中心となりで、確定症例の45%(確定症例64件、可能性大19件)を占め、次いでカッサンダが確定症例の35%(確定症例49件、可能性大2件)、カンパラが確定症例の13%(確定症例17件、可能性大1件)を占めました。ワキソは3%(4例)、カイゲグワは2%(3例)、ジンジャは1%(2例)、ブニャンガブ、カガディ、マサカは各1例でした(表1)。
地区 確定例 推定例/うち死亡者数 確定例中の死亡者数
ブニャンガブ 1 0 0
ジンジャ 2 0 1
カガディ 1 0 1
カンパラ 17 1 2
カッサンダ 49 2 21
カイゲグワ 3 0 1
マサカ 1 0 1
ムベンデ 64 19 28
ワキソ 4 0 0
合計 142 22 55

2022年9月20日から2023年1月10日までに、合計4,793人の接触者がリストアップされ、11,025件のアラートが報告され、そのうち73%にあたる8,088人が調査され、67%にあたる7,382人がスーダン型エボラウイルスによるエボラウイルス病の疑い例であると確認されました。
 
この間、1,087件の安全で尊厳ある埋葬(SDB)が行われ(疑い例の場合はすべて検査を受けて安全で尊厳ある埋葬を実施しなければならない)、6,681検体がスーダン型エボラウイルスの検査にかけられました。
 
合計314,603人の旅行者が入国地点でスクリーニングされ、4人のSUDVの疑い例が見つかりましたが、すべて陰性でした。

公衆衛生上の取り組み

調整: ウガンダの保健省は、WHOや他のパートナー機関とともに、発生を制御し、さらなる拡大を防ぐための対応策を開始しました。保健省は、国と地区の緊急管理委員会を稼働させ、対応を調整しました。
 
サーベイランス:WHOは、サーベイランス活動向上の実施において、保健省を支援しました。学際的なチームが現場に派遣され、21日間、積極的に症例を探し、接触者を特定し、リストアップし、フォローアップを行いました。
 
パートナー機関による支援:世界的流行警報・対応ネットワーク(GOARN)の支援要請を受け、23のパートナー機関から合計69件の支援の申し出がありました。11人の専門家が現地に派遣され、3人が症例管理、感染予防管理(以下、「IPC」という。)、Go.Dataの実施(Go.Dataは公衆衛生パートナーのグループのイニシアティブで、公衆衛生緊急時の現場データ収集のための発生調査ツールを提供する目的でGOARNによって管理されている)の機能において対応を継続して支援しています。 
開発パートナーからは、米国国際開発庁(USAID)、英国エイド(UK Aid)、ノルウェー政府、ノボ ノルディスク財団、中央緊急対応基金(CERF)、アイルランド援助、国連開発計画(UNDP)、欧州市民保護・人道援助活動総局(DG ECHO)、スウェーデン、ルクセンブルグ、韓国、WHO緊急対応基金(CFE)への寄付を含む現金と現物で、2700万米ドル超が集まりました。
 
ワクチン接種: WHOは、ワクチン候補の優先順位付けのための専門家会議を開催しました。ウガンダの研究者、保健省、規制当局と連携して、囲い込みワクチン接種プロトコルが作成され、現地で承認されました。3種類のワクチン候補が特定され、12月8日に最初のロット、12月17日に最後の2ロットが、それぞれ5,000回分以上ウガンダに到着しました。
 
生存者ケアプログラム: 確認された142人の患者のうち、87人が生存者として登録されました。エボラウイルス病の生存者の臨床ケアに関するWHOのガイダンスに従って、エボラウイルス病生存者プログラム(ESP)が設立され、生存者の医療を国の保健当局のシステムに統合することによって生存者の福利を向上させることを目的としています。WHOは、生存者プログラムの計画を主導し、ニーズ調査を支援し、生存者が居住している地域に3つの診療所を設立しました。3つの診療所のうち2つはすでに稼働しています。すべての生存者は、少なくとも1回の臨床評価を受け、クリニックとコミュニティのチームからそれぞれ少なくとも1回の心理社会的支援セッションを受けています。
 
検査と治療: WHO、GOARN、およびパートナー機関は、感染地区の指定基準病院におけるスクリーニング、トリアージ、隔離、および疑い患者を特定するための診察エリアの設置において保健当局を支援し、また感染発生地区のエボラ治療センターとエボラ検査移動式検査施設の設置を支援しました。治療センターには、個人用保護具(PPE)、モニタリング装置、POC検査、点滴、酸素補給装置など、安全で最適な支持療法を提供するための必須医薬品や物資が備えられています。WHOとGOARNは、臨床に専従する医療従事者を派遣し、患者動線に配慮して安全かつ綿密に、症例を監視できるようにしました。結果、隔離区域と治療センターは、疑い患者も確定患者もWHOのガイドラインと基準に従って管理できるようになりました。確定患者に対しては、MEURIの倫理的枠組みのもと、現地で承認された拡大治験許可のもとで治験薬の利用が認められ、ランダム化臨床試験(以下、「RTC」という。)プロトコルの準備が進められていました。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティへの参画(RCCE:Risk Communication and Community Engagement)活動:WHOは、保健省が実施したRCCE活動や啓発キャンペーン、地元のラジオ局によるメッセージ、ソーシャルメディアメッセージ、コミュニティの戸別訪問による啓発を支援しました。また、ウガンダでのRCCE活動や近隣諸国での予防のために、祝祭シーズンのRCCE計画が作成されました。
 
近隣諸国での準備 :保健省、WHO、国内外パートナー機関は、リスク評価を通じてリスクがあるとされた近隣諸国(ブルンジ共和国、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、ジブチ共和国、エチオピア連邦民主共和国、ケニア共和国、ソマリア連邦共和国、南スーダン共和国、スーダン共和国、ルワンダ共和国、タンザニア連邦共和国)におけるスーダン型エボラウイルス病(SVD)への備えと運営準備活動を支援しました。
 
2,000人以上の医療従事者が、IPC、患者とその家族への心理社会的支援とケア、スーダン型エボラウイルス病患者の臨床ケア向上に関する研修を受けました。

WHOによるリスク評価

42日間連続して新しい症例が発生せず、流行の終息が宣言されました。
 
この地域においてスーダン型エボラウイルス病のウイルスを保有している動物がいることを考えると、今回の流行は特に想定外ではありません。 ウガンダでは、2007年と2018年のザイール型エボラウイルスによる2回のエボラウイルス病の発生に加え、2022年の今回の発生以前に、合計4回、2000年、2011年、2012年に2回のスーダン型エボラウイルス病の発生が報告されています。そのため、この地域の野生動物の体内にはフィロウイルスが存在する可能性が高いです。したがって、動物宿主への曝露や体内に保有していたウイルスから、あらゆるフィロウイルスが再出現するリスクはゼロではありません。
 
今回の流行は、スーダン型エボラウイルス病の再流行がウガンダにおける公衆衛生上の大きな懸念であることを示しています。 監視能力を向上させることは、今後の疾病発生を検知し、さらなる拡大を防ぐのに役立ちます。
 
エボラウイルス病は、重篤で、しばしば致死的な病気です。ザイール型エボラウイルスの治療と感染予防のためには、限られた数ではありますが認可された治療薬とワクチンが利用可能です。一方でスーダン型エボラウイルスの認可されたワクチンや治療薬は今のところ存在しません。
 
WHOは、疫学的サーベイランス、感染予防と制御プログラム、医療現場での実践の面で現在も課題があり、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響に加えて、クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)、リフトバレー熱、黄熱、コレラ、麻疹などの発生が続いており、疾病の再流行を迅速に検知し対応する国の能力を脅かす可能性があると考えています。

WHOからのアドバイス

スーダン型エボラウイルス病の発生をうまくコントロールするには、症例管理、早期支持療法、リスクコミュニケーションとコミュニティの参画、サーベイランスと接触者の追跡、検査能力の向上、安全で尊厳ある埋葬など、一連の介入を適用する必要があります。
 
発生の終息は宣言されたものの、WHOは保健当局に対し、監視活動を継続するよう助言しています。近隣諸国は、警戒を続け、感染症発生を検知し、対応する能力を引き続き向上することが推奨されます。
 
WHOは、スーダン型エボラウイルス病や他のエボラウイルス感染症のヒトへの感染を減らす効果的な方法として、以下のリスク低減策を提示しています。
 
・オオコウモリや霊長類などのウイルスを持っている可能性のある野生動物との接触や野生動物の生肉の摂取による人への感染リスクを低減するため、動物の取り扱いには手袋などの適切な保護衣を着用すること。肉は十分に加熱してから食べること。
・エボラウイルス病の有症状者との直接的または濃厚な接触を避け、特に体液を介した人から人への感染のリスクを減らすために、感染発生地域の人々は、医療施設を訪れるときなどには頻繁に手の衛生を保ち、エボラウイルス病の症状の発現を警戒するよう推奨します。
・体液中のウイルス残存による感染のリスクを減らすために、WHOは、回復した患者には、スーダン型エボラウイルス病生存者ケアプログラムを通じて、医療ケア、心理的サポート、連続2回陰性になるまで継続する検査を提供することを推奨しています。 WHOは、血液検査でスーダン型エボラウイルスが陰性となった回復期の患者を隔離することは推奨しません。
・将来、医療現場を介した感染の拡大を防ぐために、医療システム内のIPCプログラムを向上することが推奨されます。医療従事者は、推定される診断が何であるかにかかわらず、患者をケアする際には常に標準予防策を遵守する必要があります。医療におけるIPC対策(手指衛生、医療従事者のトレーニング、適切なPPE供給、廃棄物管理、環境清掃、消毒など)を継続的な監視・監督とともに実施することが必要です。
・スーダン型エボラウイルス病の患者の早期発見、隔離、治療のために様々な医療従事者のトレーニング、および安全で尊厳のある埋葬とIPC囲い込みアプローチに関する再トレーニングを提供すること。
・安全で尊厳のある埋葬を確実に実施し、コミュニティにおける適切な水、衛生設備(WASH)、手指衛生を保つ習慣、安全な廃棄物管理などを支援し、コミュニティの参画と社会動員活動を実施することで、将来の感染を防ぐ必要があります。
・感染発生リスクの高い地域や国での後方支援のための能力を維持する。これには、疑いのある患者や確定した患者に対して最適な支持療法を提供するための必須医薬品や物資のサプライチェーン(備蓄)が含まれます。
・スーダン型エボラウイルス病患者の臨床的特徴を収集、分析、報告し、臨床的表現型や症状の理解を深め、将来のアウトブレイク時の患者へのケアを行う。 WHO Global clinical platformの利用を推奨します。
・将来的に大流行が発生した場合に、臨床対応を迅速に拡大させることができる能力を維持する必要があります。この能力とは具体的には、スクリーニング手順、他の施設への紹介経路、スーダン型エボラウイルス臨床ガイドライン、患者急増に対応できるだけの訓練を受けた様々な職種のスタッフ、患者中心で地域社会に受け入れられるスーダン型エボラウイルス治療対応が可能な、質の面からも基準を満たした治療を提供できる指定インフラ/医療施設が含まれます。
・将来の大流行に備え、WHOのRCTプロトコルを用いた治療薬の臨床試験を実施し、迅速に対応数を増加させる能力を維持すること。
 
現在のリスク評価とエボラウイルス病の発生に関する過去のデータに基づき、WHOはウガンダへの渡航と貿易を制限しないよう勧告します。

出典

Ebola disease caused by Sudan ebolavirus – Uganda
Disease Outbreak News 14 January 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON433