鳥インフルエンザA(H5)のヒト感染例報告-エクアドル共和国

Disease outbreak news  2023年1月18日

発生状況一覧

2023年1月9日、WHOはエクアドル共和国(以下、「エクアドル」という。)から鳥インフルエンザA(H5)ウイルスのヒトへの感染発生の通知をうけました。この患者は、エクアドル・ボリバル(Bolivar)県の農村部に住む9歳の女児で、裏庭の家禽類と接触しており、症状発現の1週間前に感染したものとされます。患児は現在入院・隔離され、抗ウイルス剤による治療を受けています。
 
本症例は、ラテンアメリカ・カリブ海地域で初めて報告された鳥インフルエンザA(H5)ウイルスのヒト感染症例です。現在、このウイルスの特徴をさらに解明するための作業が進められています。
 
現時点で入手可能な疫学的およびウイルス学的証拠から、インフルエンザA(H5)ウイルスはヒトからヒトに継続して感染する能力を獲得していないと考えられるため、ヒトからヒトへの伝播の可能性は低いことが示唆されています。

発生の概要

2023年1月9日、エクアドルIHRナショナルフォーカルポイント(以下、「NFP」という。)は、鳥インフルエンザA(H5)ウイルスに感染したヒトの症例をWHOに報告しました。この症例は、重症急性呼吸器感染症(SARI)監視活動の一環として検出され、国立インフルエンザセンター(NIC)、国立公衆衛生研究所(スペイン語の頭文字で「INSPI」という。)により確認されたものです。
 
患者は、エクアドル・ボリバル県出身の9歳の女児で、既往症はありません。彼女は2022年12月25日に結膜の掻痒感と鼻風邪様の症状を発症しました。12月27日、彼女は医学的評価と治療のために地元の医療施設に運ばれました。 12月30日、吐き気、嘔吐、便秘などの症状が続いたため、総合病院に入院し、抗生物質と解熱剤を用いた、髄膜炎の経験的治療が開始されました。2023年1月3日、小児科病院に転院し、敗血症性ショックで集中治療室(ICU)に入院、また、肺炎治療のため、抗ウイルス剤投与と人工呼吸器による治療が行われました。
 
1月5日、重症急性呼吸器感染症監視活動の一環として、この患児から鼻咽頭の検体が採取されました。この検体はINSPIに送られ、1月7日に逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりインフルエンザA(H5)陽性と判定されました。
 
1月17日現在、この患者はまだ入院中で、隔離下にあり、非侵襲的な機械換気療法を行っています。
 
今回の症例関連の疫学調査によると、発症の1週間前に、患児の家族が入手した家禽が2022年12月19日に原因不明で死亡をしたことが判明しています。また、疫学調査の結果、この患児家族が居住する同じ地域から、ニワトリおよびアヒル等家庭で飼育されている家禽類が死亡する事例が複数報告されていることが判明しました。

鳥インフルエンザの疫学

人獣共通感染症であるインフルエンザは、無症状の場合もあれば、結膜炎や軽度のインフルエンザ様症状から、重症の急性呼吸器疾患や死亡に至るまで、感染を引き起こすウイルスや感染宿主に関する要因によって、病気を引き起こす場合があります。まれに、消化器症状や神経症状が報告されています。
 
鳥インフルエンザウイルスにヒトが感染するケースは、通常、生死を問わず、感染した家禽や汚染された環境に直接または間接的にさらされた結果として起こります。

公衆衛生上の取り組み

ヒトと動物ぞれぞれの関連機関から以下の通り、公衆衛生上の対策が実施されています。
 
・自治体は、疫学的調査を実施し、家族、家庭、医療施設における患者の接触者の追跡調査を行いました。
・農業畜産省(MAG)および植物検疫・動物衛生管理局(Agrocalidad)との連携活動を継続し、同地域における鳥インフルエンザの発生を積極的に検知、追跡、管理しています。
・鳥類との接触により呼吸器症状を呈した人、インフルエンザが疑われる人、および、鳥類に接触した人の継続的な追跡調査を実施しています。
・国の予防接種プログラムのガイドラインに基づき、リスクの高いグループへの季節性インフルエンザワクチン接種を継続中です。
・NICは、さらなるウイルスの特性の解析のために、患者の検体をWHO協力センターに送っています。
 

WHOによるリスク評価

今回の報告は、エクアドルおよびラテンアメリカとカリブ海諸国において、鳥インフルエンザA(H5)ウイルスによるヒトの感染症例が初めて報告されたものです。この患者は、家禽類に暴露後、明らかな原因なく死亡しています。なお、近年、エクアドルのコトパクシ(Cotopaxi)県においてインフルエンザA(H5N1)とボリバル(Bolívar )県で高病原性鳥インフルエンザの発生が確認されています。
 
鳥インフルエンザウイルスが家禽類に蔓延している場合、感染した家禽類や汚染された環境にさらされることにより、散発的な感染や小規模なヒトの症例が発生するリスクがあります。従って、稀ではありますが、ヒトへの感染例も考えられます。
 
これまでに得られた情報によると、このウイルスは、今回の1例以外からは検出されていません。この事例から得られたウイルスの更なる詳細な解明が待たれますが、現在入手可能な疫学的およびウイルス学的証拠から判断する限り、インフルエンザA(H5)ウイルスはヒトの間で持続的に伝播する能力はなく、ヒトからヒトへの伝播の可能性は低いと示唆しています。現在入手可能な情報に基づき、WHOはこのウイルスが一般市民にもたらすリスクは低いと評価しています。リスク評価に関しては、さらなる疫学的またはウイルス学的情報が入手可能になった場合、必要に応じて見直される予定です。
 
2022年12月21日に最新のインフルエンザA(H5N1)クレード2.3.4.4bウイルスに関連するグローバルリスク評価が発表されました。しかし、今回のヒト症例のサブタイプおよびクレード情報はまだ判明していません。
 
ヒトへのインフルエンザA(H5)感染を予防するための承認ワクチンはありません。パンデミック対策として、ヒトでのインフルエンザA(H5)感染を予防するワクチンの候補が開発されています。
 
疫学的状況の詳細な分析、最新のヒトおよび家禽におけるウイルスの解析、血清学的調査は、関連リスクを評価し、リスク管理手段を適時に修正するために重要となります。

WHOからのアドバイス

今回の症例報告をもって、WHOの出した鳥インフルエンザに関連する公衆衛生対策と監視に関する勧告の変更はありません。
 
WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの現時点での状況をもって、入国地での特別な旅行者スクリーニングや制限を助言行うことはありません。
 
インフルエンザウイルスは常に変異するため、WHOは引き続き、ヒトおよび動物の健康に影響を与える可能性のある新たな、または既存のインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出・監視するためのグローバルサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルスの情報の共有が引き続き重要であると説明しています。ヒトへの感染を引き起こした人獣共通感染症となるインフルエンザウイルスの多様性は脅威であり、動物とヒトの両方で監視を実施し、あらゆる人獣共通感染症の徹底した調査、パンデミックへの備えが必要となります。動物におけるインフルエンザウイルスに暴露されるリスクの高い特定の人々に対して、季節性インフルエンザワクチン接種を実施することは、動物インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスが同時にヒトに感染する危険を減らすための対策として検討する価値があります。
 
変異ウイルスを含むパンデミックを引き起こす可能性がある新型インフルエンザウイルスのヒトへの感染が確認された場合、保健当局に通知し、検査、トリアージ、重症度分類のための臨床評価、重症化の危険因子評価、隔離、抗ウイルス剤や支持療法などによる治療等の適切な臨床ケース管理を実施する必要があります。動物への曝露歴、旅行歴、接触者の追跡など、徹底した疫学調査は、確定検査結果を待っている間でも先行して行うべきです。 疫学的調査には、新型ウイルスの人から人への感染を示唆するような通常みられないパターンを示す呼吸器系の疾患の早期発見が含まれるとよいでしょう。検体は通常の検査に加え、さらなる解析のためにWHOの共同研究センターに送られることが望ましいです。
 
動物からのインフルエンザの発生が認められる国への旅行者は、農場、生きた動物の取引のある市場での動物との接触、動物の屠殺が行われる場所への立ち入り、動物の糞便で汚染されていると思われる物との接触を避ける必要があります。また、石鹸と水で頻繁に手を洗うことも有用です。旅行者は、食品の安全性と衛生に関する正しい習慣を守ることも必要です。感染地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または到着後に他国で感染が検出される可能性があります。この場合、このウイルスはヒトの間で容易に感染する能力がないと考えられているため、さらなる地域レベルの広がりは考えにくいと思われます。

出典

Human infection caused by avian influenza A(H5) - Ecuador
Disease Outbreak News 18 January 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON434