複数国におけるmpox(サル痘)のアウトブレイク(更新13)

External Situation Report 13, published 5 January 2023
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 2 January 2022
 
確定された感染者数 死亡者数 国・地域数
83,943人 75人 110
 
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域

焦点

2022年12月14日に発行された前回の報告以降において、1,319人の新規感染者数(1.6%の増加)及び10人の新規死亡者数が報告されています。
 
WHOは、Mpoxに関する調査、感染者の調査及び濃厚接触者の追跡に関する暫定指針を2022年12月22日に更新しました。当該の指針については、この点に関する直近のWHOの推奨事項に続いてサル痘の病名をmpoxに一貫して書き換えています。また、当該の指針については、集団におけるmpox感染を検出するための排水調査を潜在的に行うとともに、リスクのある動物曝露の調査に関するより詳細な記述を含みます。WHOは発症前の感染・伝播性に関する科学的根拠を継続して参照しており、感染者又は感染疑いの接触に関する助言が更新されています。濃厚接触者については、21日間の健康監視期間中の性的な接触を症状の有無にかかわらず回避するよう助言されています。
 
WHOは、当該の調査指針に適合するmpoxの感染者調査フォーム及び感染者報告フォームを同様に更新しています。
 
WHOは、加盟国からの要請に基づいて脆弱な状況(例えば刑務所や他の収容施設)にある人々のmpox管理に関する感染予防対策の暫定指針を作成しました。

疫学的な更新情報

2022年1月1日から2023年1月1日までにWHO管轄である全6地域の110の国・地域から、83,943人の累積感染者数及び75人の累積死亡者数がWHOに報告されています(表1)。2022年12月14日に発表された状況報告以降、1,319人の新規感染者数(1.6%の増加)及び10人の新規死亡者数が報告されています。
 
2022年12月26日から2023年1月1日まで8か国が毎週の新規感染者数の増加を報告し、メキシコで最大の増加が報告されました。2023年1月2日時点で過去21日間にわたり、感染した110か国のうち79か国において、新規感染者数が報告されませんでした(21日は、潜伏期間の最大値です。また、前回の報告より5か国増加しています。)。
 
世界的に毎週報告される新規感染者数は、疫学的第51週(2022年12月19日から12月25日まで。以下同じ。)の673人と比較し、疫学的第52週(2022年12月26日から2023年1月1日まで。以下同じ。)の373人まで44.6%減少しました(アフリカ地域で99%及び欧州地域で94%と最大の減少率でした。
 
2022年の疫学的第51週にアフリカ地域で報告された多数の新規感染者数(図1)は、mpox感染者の突如の増加ではなく、過去の数週に発生した感染者の後ろ向きの報告が遅延したことによる調査の人為的な産物です。
 
2022年12月15日から2023年1月1日までの期間において、ペルー(8人)、チリ(1人)及びカメルーン(1人)と合計10人の新規死亡者数が報告されました。
 
2023年1月1日時点で、世界的に累積感染者数が多い10か国は、米国(29,603人)、ブラジル(10,498人)、スペイン(7,496人)、フランス(4,114人)、コロンビア(4,021人)、英国(3,730人)、ドイツ(3,676人)、ペルー(3,643人)、メキシコ(3,637人)及びカナダ(1,460人)です。当該の10か国を合算すると、世界的に報告された新規感染者数の86%を占めています。
 
表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のmpoxに係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から2023年1月1日17時(欧州夏時間)まで)
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のmpoxに係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から2023年1月1日17時(欧州夏時間)まで)
 
※当該のグラフについては、日曜日に終了する疫学的週を反映した集計の週報を示しています。現在の週に係るデータについては、次回の状況報告で提示されます。
 
他の重要な疫学的知見
アウトブレイクは継続して主に若年男性に影響を与えており、利用可能なデータを伴う感染者数の96.6%(74,479人中の71,946人)は男性であり、年齢の中央値は34歳です(四分位範囲は、29から41歳まで。)。データが利用可能である感染者数の1.0%(780人)にあっては0歳から17歳までであり、0.3%(210人)にあっては0歳から4歳までとなります。この割合は管轄地域によって異なり、北米・中南米地域については、0歳から17歳までの感染者の割合が最も高いと報告されました(780人中の627人、80%)。
 
性的指向が報告された感染者のうち、84.4%(30,733人中の25,946人)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性であると特定されました。報告された感染経路のうち、性交渉中の皮膚及び粘膜を介した接触感染が最も報告されており、感染曝露機会が報告された21,164件中の14,629件(69.1%)でした。感染経路に関する詳細な情報については、アフリカ地域からの大半の感染者を入手できず、当該の感染・伝播性に関する情報については、アフリカ地域におけるウイルスの疫学的な拡散を完全には記述できないおそれがあります。当該地域の国々については、ヒトからヒトへの感染及び感染した動物との接触による感染の両方があります。
 
最も一般的に報告された感染曝露状況は性的接触を伴う集会であり、曝露状況が報告された5,034件中の3,367件(66.9%)でした。
 
少なくとも1つの症状を報告した感染者(37,606人)のうち、最も一般的な症状は発疹であり(感染者の79.1%)、発熱(57%)、全身性及び性器発疹(49.7%及び44.6%)となります。
 
図2 公式の情報源からWHOに報告又は特定されたmpox感染者の地理的分布図(2022年1月1日から2023年1月1日17時(欧州夏時間)まで)

事態対処行動に関する主な更新(リスクコミュニケーション及びコミュニテイエンゲージメント)

更新されたWHOの戦略に従い、mpoxの事態対処行動におけるリスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメントに対する一連の公衆衛生上の助言に関する文書が1月に発表できるように完成化されています。
 
1 個人及び組織(住む、滞在する、働く、又は様々な集会という状況を訪問する。)を支援することを目的とした集会という状況のための公衆衛生上の助言
 
2 mpoxの感染拡大を抑制しながら、会場の営業を維持し、イベントを継続して開催できるための、その場で性交渉を行う会場やイベントに対する公衆衛生上の助言
 
3 Mpox、ゲイ、バイセクシャル、男性と性交渉を行う男性のために更新された公衆衛生上の助言
 
参照又は作成中である事前準備行動及び事態対処行動については、下記の2とおりです。
 
1 直近の科学的根拠に沿った個人及び医療従事者のインフォグラフィックを伴う、mpoxの検査に関する更新されたWHOのQ&A
 
2 将来的なサル痘のアウトブレイクに関する事前準備行動の活動を支援するために、既存のツール及び集団の知見を組み合わせる事前準備行動のツールキット
 
これらの文書及び指針については、出版時にWHOのウェブサイトで閲覧できます。
 
社会行動の研究については、感染・伝播性を促進する行動様式を周知するために、拡大中となります(様々な状況で偏見及び差別がアウトブレイクの事態対処行動にいかに影響を与えたかに関する理解を含む。)。これは、直近の科学的根拠によって明らかとなるツールの継続した開発及び更新を可能にするでしょう。

特別な焦点(集会という状況)

2022年の複数国におけるmpoxのアウトブレイクは、人から人への感染(主に性的接触による。)によって引き起こされます。人と人との接触(性的接触を除く。)及び汚染された物との接触は、他に報告された感染経路となります。Mpoxの感染者は集団的な環境(刑務所、学校、難民キャンプを含む。)で報告されていますが、環境内での感染に関する知見は依然として限定されています。これらの環境で報告された感染者数は少数ですが、これらの環境内での感染・伝播性のおそれが残っており、定期的な評価、事前準備行動及び事態対処行動が必要です。
 
多くの国でmpoxの集団感染が進行しているため、集団環境でウイルスが導入・拡散するおそれがあります。当該の集団環境については、血縁関係のない人々が近距離で居住し、共有スペース(寝室、キッチン、浴室又は居間の少なくとも1つをいう。)を有する施設として定義されます。これについては、矯正収容施設、学校、学生寮、高等教育機関の寮、ホテル、グループホーム及びキャンプ(国内避難民又は難民キャンプ)を含みます(医療介護施設、大規模集会、性交渉を行う施設を除く。)。
 
1 矯正収容施設のMpox
 矯正施設のMpoxのアウトブレイクは、ナイジェリアで2回(2017年11月及び2022年3月)報告されており、数ヶ月又は数年単位で収容されている収容者に影響を与えています。施設における一次的な感染源が確定できない一方、これらの施設における人から人への感染が確認されており、媒介による間接的な感染のおそれが報告されました。Mpoxの患者が2022年7月にイリノイ州シカゴ市の刑務所に拘留され、発症から7日後に隔離されました。中程度の曝露のおそれがある他の収容者については、曝露後予防接種が提供されました。環境から採取された検体からウイルスのDNAが検出されましたが、施設内の二次感染は報告されませんでした。
 
2 学校のMpox
 感染した教師との濃厚接触による学童の感染曝露が英国の学校で報告されました。感染曝露した学生は、健康観察の対象となり、曝露後予防接種を受けました。二次感染は、影響を受けた学校で記録されませんでした。学校でmpoxの感染が拡大するおそれは低いと考えられていますが、感染症予防に関する標準指針に従う必要があります。
 
3 キャンプのMpox
 Mpoxのアウトブレイク(1人の死亡者を含む。)が2022年9月にスーダンの難民キャンプで報告されました。
 
アウトブレイクの疫学については、いまだ完全に解明されていません(収容所内の感染経路(人獣共通感染又は人から人への感染)を含む。)。
 
感染者又は濃厚接触者については、施設又は濃厚接触を介して施設内の発生後に集会という状況で特定される可能性があります。居住者、スタッフ、ボランテイアが感染するおそれがあり、環境内で感染拡大するおそれがあります。一般的に集団におけるmpoxのリスクは低いままですが、集団という状況におけるmpoxのウイルスの感染・伝播性に関するリスクが次の要因で増加するおそれがあります。
 
直接の肌同士の接触又は顔同士の接触
ウイルスを伴うおそれがある共同使用物品(衣類又は寝具)
個人スペースの過密状態及び共有
汚染された表面
居住者間の性的接触
媒介動物(げっ歯類)及び害虫の侵入
免疫不全状態
医療の隔離施設又はスペースの不足
 
集会という状況におけるウイルスの侵入と拡散を防止するために、実務的な手順が必要になります。これには、以下のものが含まれます。
 
集会という状況におけるmpoxウイルスを導入するおそれを確認するためのリスクアセスメント(特にアウトブレイク中)。該当すれば、居住者の感染症をスクリーニングすることで、密閉環境でのアウトブレイクを防止できる可能性があります。
 
居住者及びスタッフへの情報提供(Mpox予防。緊密で持続した身体的接触(性交渉を含む。)による感染拡大のおそれを含む。)
 
感染者の隔離(居住者又はスタッフ)。感染疑い又は感染者を医療面で隔離し、可能な限り施設から離れて移動するための施設。Mpox又は他の感染症があれば、スタッフについては、集会という状況から隔離する必要があります。
 
隔離エリアに立ち入るスタッフへ個人用保護具を提供すること
 
環境の清掃により汚染した表面を介した更なる感染・伝播を防止できる一方、施設におけるmpox感染者からの廃棄物については、WHOの推奨事項に従って管理する必要があります(mpoxのための臨床的な管理及び感染予防対策に関する迅速な事態対処行動の暫定指針)。
 
集会の施設については、感染予防対策への推奨を行う必要があります(手洗いのしやすさ(石けん、水又は手指消毒剤)を含む。)。
 
曝露済み又は曝露のおそれが高い居住者は、推奨される曝露後予防接種又は曝露前予防接種により利益を被る可能性があります(mpoxの予防接種に関するWHOの暫定指針)。
 
 

北米・中南米地域におけるMpoxの状況報告

北米・中南米地域の31の国・地域から2022年12月29日時点における56,694人のサル痘の累積感染者数(53人の死亡者数を含む。)が報告されています。当該の地域については、世界的に報告されたmpox累積感染者の割合が最も高く、毎週の新規感染者の割合が継続して最も高い地域となっています。当該の地域の6か国(米国、ブラジル、カナダ、コロンビア、メキシコ及びペルー)は、世界の上位10か国に含まれており、合計52,862人の感染者数を報告しており、世界的な感染者数の63%及び当該地域における感染者数の93%を占めています。感染経路に関する情報が利用可能である当該地域の13,304人中の90%については、当該の地域における感染者です。
 
WHOは、報告された全感染者数の99%(56,164人)について加盟国から詳細な感染者のデータを受け取りました。性別に関する利用可能なデータを伴う49,698人の感染者のうち、47,505人(95.5%)が男性でした。年齢に関する利用可能なデータを伴う感染者が55,877人です(年齢幅が0歳から95歳までであり、中央値は33歳、平均は34.7歳となる。)。性的指向に関するデータが利用可能である19,856人中のうち13,769人(70.3%)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性と特定されました。入院に関する情報を伴う41,135人のうち、2,965人(7.2%)が入院しました(隔離目的の入院を含む。)。
 
さらに、他の人口集団における感染・伝播性が増すおそれがあります。最もリスクの高い集団については、男性(平均年齢35歳)が大半を占めています。ただし、女性(妊産婦を含む。)や小児の感染者も注意が必要です。性別に関する情報が報告された感染者の4.4%は、女性です(49,698人中の2,191人(54人の妊産婦を含む。)。合計162人の女性感染者(13人の妊産婦を含む。)が入院を必要としました(隔離目的の入院を含む。)。合計675人の感染者(23人の1歳未満児を含む。)については、10か国(アルゼンチン、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、ドミニカ共和国、エクアドル、グアテマラ、メキシコ及びペルー)より年齢が18歳未満であると報告されています。
 
先住民族及び囚人の間の感染者については、脆弱な環境であるために懸念されています。アウトブレイクへの事態対処行動については、リスクのある集団へのコミュニケーション及び関与、コミュニケーション及び予防対策のためのマスギャザリングの強化、患者の適宜検出及び治療、医療従事者の保護の活用に重点を置くべきです。

北米・中南米地域におけるWHOの事態対処行動

WHOは、当該地域におけるmpoxの感染・伝播性を制御及び防止するための効率的な事態対処行動の計画を策定するために、技術協力及び複数部門間の調整を下記のとおり提供しています。
 
(1)検査
WHOは、mpoxのウイルス感染の検出及び診断のための検査指針を更新し、発表しました。また、37の国・地域に分子生物学的検査の訓練を提供しています。WHOは、必要に応じて検査を拡充できるために、分子生物学的診断用の検査機器及び試薬の共有と配布を支援しています。研究所の情報システムは、要求のあった国におけるWHOからの支援を伴い、mpoxウイルスの診断を行えるように適用されています。
 
(2)調査
ダッシュボードは、データの視覚化、分析、mpox感染者の健康観察を容易にするために、開発されました。電子データ収集及び報告ツールが開発されています。WHOは、感染者の通知、調査、濃厚接触者の追跡のためのGo Dataツールの導入と更新を支援してきました。
 
(3)WHOは、各国の状況に適用できるmpoxに関するWHOの指針を開発するために、東カリブ諸国のmpox調査指針の要約作成を支援しています。WHOは、WHOのmpoxに関する世界的な臨床プラットフォーム(mpoxの臨床的特徴を説明して評価することを目的としており、安全であり、アクセスが制限され、パスワードを伴う。)を導入しています。
 
(4)調整
WHOは、メキシコで健康予防促進のための次官級会議を疫学総局とともに開催しました。WHO及び国の保健当局は、mpoxの調査を強化し、国内での予防及びリスクコミュニケーションの戦略に関するメッセージを広めるために取り組んでいます。
 
(5)研究、科学的根拠及び倫理
WHOは、次のものを公表し、流布しています。
 A mpox調査のための倫理的な推奨事項
 B 緊急事態における倫理研究の促進、倫理指針、COVID-19パンデミックから得た教訓、保留中の協議事項
 C 治療的な補足手段のための科学的根拠の統合
 
WHOは、コロンビアにおけるワクチンの有効性に関する試験の開発やmpoxの臨床的特徴のデータ収集に関する地域的な標準化(WHOの世界的な臨床データプラットフォームにおける外来及び入院患者)を支援しています。WHOは、倫理研究委員会にも研修を提供しています。

(6)治療法
WHOは、加盟国に対し北米・中南米地域におけるmpoxに対するWHOの監視を伴う緊急使用手順の実施方法に関する支援を提供しています。Mpoxの監視を伴う緊急使用手順を審査し、かつ、特定の倫理規定の下でmpox感染者を管理するための潜在的な利用法の緊急使用を可能にするために、倫理審査委員会の特別会議が開催されました。
 
(7)予防接種
WHOの北米・中南米地域の回転基金は、2022年12月29日の時点で各国(バハマ、ブラジル、チリ、エクアドル、エルサルバドル、ホンジュラス、ジャマイカ、パナマ、ペルー及びトリニダード・トバゴ)に65,800回分を提供しました。
 
(8)感染予防対策
 WHOは、脆弱な環境における人々(例えば加盟国からの要求に基づいた刑務所や他の収容施設)のmpox管理を行うために、感染予防対策の暫定指針を開発しました。
 

出典

World Health Organization. “Multi-country outbreak of mpox External Situation Report #13, published 5 January 2023”.WHO.2023. https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-mpox--external-situation-report--13---5-january-2023, (参照2023-01-06).