麻疹- パラグアイ共和国

Disease outbreak news  2023年2月2日

発生状況一覧

2023年1月23日、パラグアイ共和国(以下、「パラグアイ」という。)のIHR(国際保健規則)に基づく国の連絡窓口は、2022年9月15日に発熱と発疹を発症したイタプア(Itapúa)県の14か月男児における麻疹患者をWHOに届け出ました。この患児は、2022年9月に麻疹の強い疑い例として通知され、2022年10月11日にパラグアイの中央公衆衛生研究所(スペイン語の頭文字で以下、「LCSP.」という。)により検査確定されました。本患児は、定期予防接種スケジュールに基づく接種歴はないものの、2021年11月から2022年12月16日に感染の発生した県で実施された麻疹ワクチン接種キャンペーンの一環として、2022年9月12日に1回のMMR(MMR1)を接種していました 。直近のワクチン接種歴があるため、症例検体はさらなる分子分析のために米国疾病対策センター(US CDC)に送られ、2023年1月10日に麻疹陽性、麻疹ワクチン株は陰性と判定されました。 患児には渡航歴はありませんでした。しかし、患児の症状発現の30日前に、アルゼンチンのブエノスアイレスに定期的に渡航歴のある家族との接触歴がある人物と接触歴しており、当時本人はアレルギー症状と診断された人物との接触歴があることが判明しました。
 
2022年9月に本事例が通知されると同時に、地元および国の当局により監視活動の強化などの管理措置が実施されました。
 
本例は、1998年以来、パラグアイで報告された初めての麻疹の症例です。

発生の概要

2023年1月23日、パラグアイの IHR(国際保健規則)に基づく国の連絡窓口は、パラグアイのイタプア県で麻疹の患者が確認されたことをWHOに通知しました。イタプア県は、アルゼンチンとの南部国境に近い場所です。症例は14か月の男児で、2022年9月15日に発疹と発熱を発症しました。渡航歴はなく、2022年9月12日にMMRワクチン(MMR1)を1回接種していました。情報によると、発症30日前に、発熱、鼻汁、皮膚病変などのアレルギー反応症状があると診断された16か月児と接触していました。この症状のある児は、アルゼンチンのブエノスアイレスに定期的に渡航歴のある家族との接触者でした。
 
2022年9月26日、血液検体が採取され、LCSPに送られ、免疫グロブリンM(IgM)により麻疹の反応が認められました。10月11日、2回目の血液検体が採取され、LCSPに送られ、IgMとIgGによる麻疹の反応が確認されました。さらに、11月16日、血液検体と尿検体を確認のため米国CDCに送り、追加の分子分析を行ったところ、2023年1月10日に逆転写酵素-定量ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)により麻疹陽性、麻疹ワクチン株は陰性であることが判明しました。
 
パラグアイでは、2021年の麻疹・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン(以下、「MMR」という。)の1回目と2回目の公式接種率がそれぞれ56%、55%と報告されており、WHOが推奨する接種率95%以上より低くなっています。 前回のパラグアイにおけるMMRワクチン接種キャンペーンは、イタプア県を含め2021年11月から2022年12月16日まで実施されました。
 
本例は、1998年以以降、パラグアイで報告された初めての麻疹の症例です。

麻疹の疫学

麻疹は非常に感染力の強いウイルス性疾患であり、あらゆる年齢の、麻疹に免疫を持たない人が罹患し、世界的に見ても幼児期の死亡原因の上位を占めています。感染経路は、空気感染または感染者の鼻、口、喉からの飛沫による飛沫感染です。通常、感染から10-12日の潜伏期間の後に高熱が現れ、鼻水、目の充血、咳、口の中の小さな白い斑点などの症状の1つまたは複数伴います。数日後、発疹が現れ、通常、顔と首の上部から始まり、徐々に全身へ広がっていきます。発疹が出る4日前から発疹が出た4日後までは感染力があるとされています。麻疹に特異的な抗ウイルス治療はなく、ほとんどの人は23週間以内に回復します。
 
栄養不良の子どもや、HIV、がん、免疫抑制剤による治療を受けている人などの免疫不全の人、妊婦の間では、麻疹は失明、脳炎、激しい下痢、耳の感染、肺炎などの重い合併症を引き起こす可能性もあります。
 
麻疹は予防接種で予防することができます。行政による予防接種率が低い国では、通常2~3年ごとに流行が起こり、通常2~3カ月続きますが、その期間は人口の規模、混雑状況、国民の免疫状態によって変化します。

公衆衛生上の取り組み

地方および国の保健当局により、以下の公衆衛生対策が実施されました。
 
・積極的かつ遡及的な症例発見、接触者追跡、接触者の監視を通じた疫学的サーベイランスの強化。
・地域社会におけるワクチン接種率の評価を迅速に行い、必要に応じて、麻疹ウイルス含有ワクチン(以下、「MCV」という。)を1回も摂取していないか、または2回接種しなかった人を対象としたMCV接種活動の迅速な展開を実施。 さらに、2022年9月には、患者が発見された周辺地域で、1歳から60歳以上の計181人を対象に調査を実施。この181人のうち、107人が麻疹と風疹のワクチンを接種し、接種率は59%でした。
・医療従事者に対しては、症例管理および麻疹のサーベイランスに関するトレーニングが行われました。
・検査施設のネットワークの向上が行われました。

WHOのリスク評価

2016年、WHOアメリカ地域は、麻疹、風疹、先天性風疹症候群の記録と検証を行う国際専門家委員会(IEC: International Expert Committee)によって、世界保健機関(WHO)の地域としては初めて、麻疹ウイルスの排除が宣言された地域です。しかし、麻疹ウイルスの輸入例や再流行のリスクが常に存在するため、この地域を麻疹のない状態に保つことは継続的な課題となっています。
 
2021年、南北アメリカ地域のMMRの初回接種(MMR1)については、5つの国・地域(以下、国)が95%以上の接種率を達成しましたが、13カ国はMMR1の接種率が80%未満でした。MMR2(2回目接種)については、95%以上の接種率を達成したのは2カ国だけで、36カ国が80%未満の接種率でした。
 
2017年から2022年にかけてアメリカ地域で発生した麻疹の発生では、新型コロナウイルスの大流行の影響を受け、2回接種の麻疹ワクチン接種率が遵守されていないなど、いくつかの要因が挙げられます。同期間中、麻疹・風疹統合サーベイランスの国際指標の実績には空白があります。
 
パラグアイでは、新型コロナウイルスに関連した保健システムへの負担と、ソーシャルディスタンス確保のため接種に来なかったり、コミュニティがワクチン接種に消極的であることなどによる麻疹ワクチン接種の需要減少により、定期予防接種活動の中断のリスクが残されています。予防接種活動の中断は、たとえ短期間であっても、感染の恐れがある人の数を増やし、麻疹のような本来ワクチンで予防できる病気(VPD: vaccine-preventable diseases)が発生する可能性を高めることになりかねません。

WHOからのアドバイス

WHOは、「アメリカ大陸における麻疹・風疹・先天性風疹症候群撲滅の継続のための行動計画2018-2023」(Plan of Action for the Sustainability of Measles, Rubella, and Congenital Rubella Syndrome Elimination in the Americas2018 – 2023)を実施するための取り組みを強化することを推奨しています。1)麻疹ワクチン接種サービスへの全ての人が利用できるようにする、2)麻疹、風疹、先天性風疹症候群の疫学的サーベイランスシステムの能力を向上する、3)撲滅を維持するための国々の活動能力を整備する、4)地域諸国において、感染症の再流行を防ぐため、輸入症例の麻疹、風疹、先天性風疹症候群の症例に迅速に対応するための標準的な仕組みを確立すること。
 
この症例から麻疹が広がることを避けるために、WHOはすべての自治体で麻疹含有ワクチン(MCV)の1回目と2回目の接種を少なくとも95%の接種率で維持し、公共、民間、社会保障の医療施設においてすべての疑い例を適時に発見するためのサーベイランスを強化することを推奨しています。
 
WHOは、特に人の往来の多い国境地帯において、麻疹が強く疑われる症例を迅速に発見し対応するためにサーベイランスを強化することを推奨しています。
 
輸入麻疹症例があった場合、訓練を受けた迅速対応チームの始動と国の迅速対応策の実施により、感染症の再流行と伝播の確立を避けるために、輸入麻疹症例を管理することを推奨しています。迅速対応チームの対応後は、国、州、地方の各レベル間の継続的な連携を確保し、また継続した円滑なコミュニケーション手段を確保する必要があります。疾病の発生時には、院内感染を避けるため、患者を適切に隔離室に入れ、待合室や他の病室で他の患者と接触しないよう、適切な院内症例管理を確立することが推奨されます。
 
WHOは、医療従事者ならびに、ホテル、空港、国境通過点、大量輸送機関などに従事する旅行業界や輸送関係で従事する集団への予防接種を推奨しています。人の往来の多い国境地帯で、移民と住民の両方を含むリスクが高いと考えられる人々を優先的に予防接種する計画を実施し、集団免疫を高めるために予防接種率を高めることも推奨しています。
 
WHOは、麻疹・風疹(MR)ワクチンやMMRワクチン、輸入症例対策用の注射器やその他備品の在庫を保有しておくことを推奨しています。外国人や、流行発生中の国で一時的に活動する人、難民、先住民、その他の脆弱な集団に対して、国の計画に従って予防接種サービスを容易に利用できるようにする必要があります。
 
WHOは、本流行に関する現在入手可能な情報に基づき、パラグアイへの旅行や貿易を制限することを推奨していません。

出典

Measles - Paraguay
Disease Outbreak News 2 February 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON438