髄膜炎 - ニジェール共和国

Disease outbreak news  2023年2月8日

発生状況一覧

2022年11月1日から2023年1月27日までに、ニジェール共和国(以下、「ニジェール」という。)南東部のザンデ―ル(Zinder)州から、死者18人を含む合計559人の髄膜炎患者(うち111人は検査確定)が報告されており、本件の全体のCFR(症例致死率)は 3.2%となっています。2021年11月1日から2022年1月31日までに報告された患者数231人と比較し、その数は増加しています。検査確定症例111例中104例、つまり93.7%は、髄膜炎菌C群(Neisseria meningitidis serogroup C:NmC)に起因しています。3価のACW髄膜炎菌多糖体ワクチンを用いた対応的ワクチン接種キャンペーンが実施されています。
 
ニジェールはアフリカの髄膜炎ベルトの大部分を占めており、季節的な流行が毎年繰り返されています。しかし、今回の流行では、前シーズンに比べて患者数が増加し、増加率も高まっています。
 
ザンデ―ル州は、同じ髄膜炎菌C群の流行が続いているナイジェリアのジガワ(Jigawa)州と国境を接しており、国際的に感染が広がる危険性が確認されています。さらに、他の疾病の同時発生、治安の悪化、人口の移動など、長引く人道的危機は、西アフリカ地域の他の国々への感染拡大の一因となる可能性があります。
 
WHOは、ニジェールで現在発生している髄膜炎のリスクは、国家レベルでは高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと評価しています。

発生の概要

アフリカの髄膜炎ベルト内に位置するニジェールは、2015年以降、複数回の髄膜炎流行の影響を受け、20,789人の感染者と1,369人の死者(CFR 6.6%)が報告されています。
 
2022年11月1日から2023年1月27日までに、ニジェール南東部のザンデ―ル州から、18人の死者を含む合計559人の髄膜炎患者(うち111人は検査確定)が報告されており、全体のCFR は3.2%です。これは、2021年11月1日から2022年1月31日までに報告された231人と比較して、より多くの患者が報告されています。
 
ザンデ―ル州で最後に発生した髄膜炎は、2021/2022年シーズンで、死亡者12人を含む計372人が罹患し、CFRは 3%でした。

図1. ニジェールで報告された髄膜炎症例の月別流行曲線(2021年10月1日~2023年1月27日)。
 
疑い例から収集された228検体のうち、67.5%にあたる154検体がニアメ(Niamey)の医療保健研究センター(CERMES)で分析されました。確定症例の大部分となる、104例(全体の93.7%)で髄膜炎菌C群が確認され、次いで全体の4.5%にあたる5例で肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae) と全体の1.8%にあたる2例でインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae) が確認されました。残りの43検体は陰性でした。
 
男性が全症例の53%を占めています。全559例のうち、20歳未満が538例と最も多く(96.3%)、次いで10~14歳の202例(36.2%)、5~9歳の153例(27.4%)、15~19歳の107例(19.1%)、0~4歳の76例(13.6%)が報告されています。
 
ザンデ―ル州で最も影響を受けた保健地区はDungass(342例、6名死亡)、次いでMatamèye(98例、3名死亡)、Mirriah(72例、3名死亡)、Magaria(38例、5名死亡)、Zinder ville(7例、1名死亡)およびGouré(2例、0名死亡)です。


図 2. ニジェール、ザンデ―ル州、保健地区ごとの髄膜炎患者報告数の分布(2022年11月1日~2023年1月27日)。

髄膜炎の疫学

髄膜炎は、脳と脊髄を覆っている膜である髄膜に生じる重篤な感染症です。髄膜炎の原因菌は数種類ありますが、肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌(N. meningitidis)が最も多く、感染者の呼吸器や喉の分泌物の飛沫を介して人から人へ感染します。
 
髄膜炎菌には全部で12の血清型が確認されており、そのうち6つ(A、B、C、W、X、Y)が髄膜炎菌性髄膜炎の流行を引き起こす可能性があります。
 
潜伏期間は平均4日ですが、2日~10日の幅があります。髄膜炎の最も一般的な症状は、首の硬直、高熱、光に対する過敏症、錯乱、頭痛、嘔吐です。早期診断と適切な治療を行っても、5%から10%の患者が死亡し、通常、症状発現後24時間から48時間以内に死亡します。細菌性髄膜炎は、生存者の10%から20%に脳障害、難聴、学習障害をもたらす可能性があります。一般的ではありませんが、より重篤かつしばしば致命的となる髄膜炎菌感染症は、出血性発疹と急速な循環虚脱を特徴とする髄膜炎菌性敗血症です。
 
この疾患の負荷が最も大きい地域は、サハラ以南に位置するアフリカ髄膜炎ベルトと呼ばれる地域で、特に髄膜炎菌だけでなく肺炎球菌による髄膜炎が流行するリスクが高いことが知られています。
 
ニジェールの大部分はアフリカ髄膜炎ベルト内に位置し、髄膜炎の流行は通常1月から6月という季節的なパターンで発生し、その規模は年によって異なります。2015年には、髄膜炎球菌C型に起因する大規模な髄膜炎が発生し、1万人近くが罹患しました。また、2009年には髄膜炎菌A型(NmA)、2006年には髄膜炎菌X型(NmX)による髄膜炎の発生が報告されています。インフルエンザ菌と肺炎球菌も、ニジェールにおける細菌性髄膜炎の原因となる病原体です。
 
髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌に対する認可済みワクチンは、長年にわたって利用されてきました。これらの細菌にはいくつかの異なる株(血清型または血清群として知られている)があり、ワクチンは最も有害な株から人を保護するように設計されています。時間の経過とともに、菌株のカバー率とワクチンの入手可能性は大きく改善されましたが、これらの感染症に対する万能のワクチンはまだありません。
 
アフリカの髄膜炎ベルトでは血清群A型髄膜炎が、髄膜炎菌A結合型ワクチンが2010年以降の集団予防接種キャンペーンへの導入と2016年以降の定期予防接種プログラムへの導入前は、髄膜炎の流行の80~85%を占めていました。ワクチンを接種した集団では、血清群A型髄膜炎の発生率は99%以上減少し、2017年以降血清群A型症例は確認されていません。
 
しかし、血清群B以外の他の髄膜炎菌血清群による髄膜炎やアウトブレイクの症例は、引き続き発生しています。

公衆衛生上の取り組み

・ザンデ―ル州では、流行への対応を調整するための技術委員会が設置されました。髄膜炎対応計画が決定され、実施されています。WHOとMSFやユニセフを含む他のパートナー機関からなる国際チームが、対応を支援するために派遣されています。
・ザンデ―ル州の中でも、特にDungass保健地区では、症例調査を含め、監視システム活動が強化されています。検査施設の活動は、髄膜炎が疑われる症例からのサンプル収集と確認を含め、継続中です。
・抗生物質セフトリアキソンの調達、患者隔離、症例管理のための医療従事者の配置、症例管理ガイドラインの配布、患者への無償治療の提供など、症例管理活動が強化されました。
・3価ACW多糖体ワクチン608,960回分の要請が承認され、ワクチン供給に関する国際調整グループ(ICG)により、2022年12月31日と2023年1月9日にそれぞれ約30万回分の2ロットが配送されました。
・3価のACW髄膜炎菌多糖体ワクチンの対応的ワクチンキャンペーンが、WHOとワクチンと予防接種のためのグローバルアライアンス(Global Alliance for Vaccines and Immunization: GAVI)の支援のもと、Dungass、Gouré、Mirriah、Matamèyeの保健地区において、2歳から29歳の年齢層を対象に実施されています。全体の接種率は99.8%に達しています。
・リスクコミュニケーションとコミュニティ参画活動は、流行地区の行政とコミュニティリーダーとの緊密な協力のもと、コミュニティラジオなどを通じて健康アドバイスや感染・予防・管理に関する推奨事項を伝え、症状が出た場合は直ちに医療支援を受け、速やかに治療を開始する必要性について戸別に説明するなどの活動を続けています。

WHOのリスク評価

現在発生している感染症は、前シーズンに比べて患者数が増加し、増加率も高まっています。
 
さらに、通常1月から6月に高温と乾燥した風が砂埃と合わさり、ハルマッタン(harmattan)と呼ばれる時期に起こる髄膜炎の流行期や、流動的な人口、同じ地域で他の疾病(麻疹、ジフテリア、COVID-19)の同時発生、治安への不安、移民の問題など、長引く人道危機が、流行の広がりを助長している一面もあります。
 
ザンデ―ル州は、同じく髄膜炎菌C型の流行が続いているナイジェリアのジガワ州と隣接しており、西アフリカの他の国々へ国際的に疾病が広がる危険性が確認されています。
 
WHOは、ニジェールで現在発生している髄膜炎がもたらすリスクを、国家レベルでは高く、地域レベルでは中程度、世界レベルでは低いと評価しています。

WHOからのアドバイス

髄膜炎菌性髄膜炎は、高い症例致死率と重篤な長期合併症を引き起こし、依然として公衆衛生上の懸念事項となっています。
 
ワクチン接種による髄膜炎の予防は、長期的な予防を実現することで、疾病による負荷や影響を軽減する最も効果的な方法です。多価髄膜炎菌結合型ワクチンの普及は、アフリカの髄膜炎ベルトにおける細菌性髄膜炎の流行をなくすための公衆衛生上の優先事項です。定期的な予防接種プログラムへの導入と高い接種率を維持することは、流行の再発を回避するために非常に重要です。
 
髄膜炎患者の身近な人に抗生剤を迅速に投与することで、感染のリスクを低減することができます。アフリカの髄膜炎ベルトの外では、家庭内の濃厚接触者に対して化学予防が推奨されます。髄膜炎ベルト内では、流行時以外では、濃厚接触者への化学予防投与が推奨されます。シプロフロキサシンが選択される抗生剤で、セフトリアキソンもその代替となります。
 
病院または医療施設への入院が必要となります。治療後24時間経過した患者の隔離は、通常推奨されていません。
 
できるだけ早く適切な抗生剤治療を開始する必要があります。抗生剤を投与すると髄液で細菌が増殖しにくくなるため、腰椎穿刺を先に行うのが理想的です。しかし、採血も原因の特定に役立つので、遅滞なく治療を開始することが優先されます。髄膜炎の治療には、ペニシリン、アンピシリン、セフトリアキソンなど、さまざまな抗生剤が使用されます。髄膜炎菌性髄膜炎や肺炎球菌性髄膜炎の流行期には、セフトリアキソンが第一選択となる薬剤です。
 
流行への対応は、適切な症例管理、地域社会に根ざした積極的な症例検知、感染が発生した地域の人々への対応的ワクチン接種キャンペーンで構成されています。髄膜炎の管理には、症例検知から調査、検査確定に至るまで、サーベイランスが不可欠です。
 
ザンデ―ル州では対応的ワクチン接種キャンペーンが実施されています。新たな地域への広がりを監視することは、追加のワクチン要請を検討するなど、さらなる対応活動の指針となる重要なものです。対応的ワクチン接種キャンペーンを適時に行うことが重要であり、理想的には流行閾値を越えてから4週間以内が望ましいとされています。
 
WHOは、今回の事象について入手可能な情報に基づき、ニジェールへの渡航や貿易を制限することは推奨していません。

出典

Meningitis - Niger
Disease Outbreak News 8 February 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON439