複数国におけるmpox(サル痘)のアウトブレイク(更新19)

External Situation Report 19, published 30 March 2023
Date as received by WHO national authorities by 17:00 CEST, 27 March 2022
 
確定された感染者数 死亡者数 国・地域数
86,724人 112人 110
 
リスクアセスメント
世界的なリスク
WHO管轄地域別のリスク 欧州地域
アフリカ地域
北米・中南米地域
東地中海地域
東南アジア地域
西太平洋地域
 
 

焦点

2023年3月16日に発行された前回の報告以降において、228人の新規感染者数(0.3%の増加)及び1人の新規死亡者数がWHOに報告されています。
 
世界的なMpoxの感染者数にあっては継続して減少していますが、西太平洋地域の感染者数にあっては増加を示しています(主に日本における局所的な感染を伴うアウトブレイクによる。)。
 
現在のアウトブレイクにおけるmpox感染者のHIV陽性率については、WHO管轄の全地域(mpox感染者に関するHIV情報が入手できないアフリカ地域を除く。)での成人集団又は男性と性交渉を行う男性における見積もりのHIV有病率よりも高い状況です。
 
HIVとともに生存するmpox感染者は、HIV陰性のmpox感染者と比較して僅かに性感染症を呈します。
 
ナイジェリアにおける動物研究からの暫定的な結果については、オルソポックスウイルス属による感染の科学的根拠を提供していますが、mpoxウイルスの存在は確認されませんでした。
 
追加の研究については、mpoxウイルスの動物宿主を同定し、アフリカにおけるmpoxの疫学をより知るために、mpox感染者が報告されている国では必要です。
 

疫学的な更新情報

2022年1月1日から2023年3月27日までにWHO管轄である全6地域の110か国・地域から、86,724人の累積感染者数及び112人の累積死亡者数がWHOに報告されています(表1)。2023年3月16日に発表された状況報告以降、228人の新規感染者数(0.3%の増加)及び1人の新規死亡者数が報告されています。
 
世界的に毎週報告される新規感染者数については、疫学的第11週(2023年3月13日から3月19日まで。以下同じ。)の110人と比較し、疫学的第12週(2023年3月20日から2023年3月26日まで。以下同じ。)の88人まで20%減少しています。毎週報告された感染者数は、2022年5月以降に初めて前週の100人を下回りました。
 
過去3週間の西太平洋地域については、その前の過去3週間と比較して増加(46人)を報告しました(局所的な感染を伴う日本の男性におけるmpoxのアウトブレイクによる。)。他の地域については、感染者数の減少が報告されている、又は割合の増加が観察されていません(表1)。
 
過去3週間(2023年3月7日から3月27日までをいう。以下同じ。)とその前の過去3週間(2023年2月13日から3月6日までをいう。)を比較すると、14か国で感染者数の増加を報告しました(日本の相対的な増加(8人から36人)を伴う。)。
 
110か国のうちの28か国が過去21日以内(最大潜伏期間である。)に新しい感染者を2023年3月27日時点で報告しています。そのうち、16か国にあっては北米・中南米地域、4か国にあっては欧州地域、3か国にあってはアフリカ地域、3か国にあっては西太平洋地域、1か国にあっては東地中海地域、1か国にあっては東南アジア地域にあります。ナイジェリアから新たに1人の死亡者数が報告されました(2023年3月14日から3月27日までの期間)。
 
2023年3月27日時点で世界的に累積感染者数が多い10か国は、米国(30,063人)、ブラジル(10,890人)、スペイン(7,546人)、フランス(4,128人)、コロンビア(4,089人)、メキシコ(3,937人)、ペルー(3,785人)、英国(3,738人)、ドイツ(3,692人)及びカナダ(1,478人)です。当該の10か国を合算すると、世界的に報告された新規感染者数の84.6%を占めています。
 
表1  WHOへ報告されたWHO管轄地域別のmpoxに係る累積感染者数及び死亡者数(2022年1月1日から2023年3月27日17時(欧州夏時間)までの期間)
 
図1 週毎に集計されたWHO管轄地域別のmpoxに係る新規感染者数を示したグラフ(2022年1月1日から2023年3月27日17時(欧州夏時間)までの期間)*

*当該の図については、疫学的週(日曜日に終了する。)の集計されたデータを示しています。現在の週のデータについては、次回の状況報告で提示されます。
 
図1に示される流行曲線については、欧州地域及び北米・中南米地域でアウトブレイクが継続して減弱していることを示しています。アフリカ地域にあっては流行曲線が持続的な感染を示していますが、西太平洋地域にあっては過去数週間で感染者報告の増加を示す唯一の地域です(新しい感染者の大半が日本から報告されています。)。残りの2つの地域である東南アジア地域及び東地中海地域については、持続的な感染ではなく、散発的な感染及びクラスターが報告されています。
 
他の重要な疫学的知見
 
2023年3月27日時点における利用可能なデータを伴う感染者数の96.4%(77,359人中の74,579人)は男性であり、年齢の中央値は34歳です(四分位範囲は、29から41歳まで。)。これは、時間経過とともに極めて安定した類型です。
 
データが利用可能である感染者数の1.1%(83,072人の930人)にあっては0歳から17歳までであり、0.3%(271人)にあっては0歳から4歳までとなります。小児である感染者の大半については、北米・中南米地域から報告されました(73%、930人の681人)。北米・中南米地域の小児である感染者の全体的な割合は1.2%(56,752人の703人)であり、世界的に観察された割合と同様です。
 
情報が入手可能な感染者のうち、84.2%(30,388人中の25,572人)がゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性であると特定されています。この割合は、時間の経過とともにわずかに変動するものの、一貫して75%を超えており、大半の感染者がこの集団で継続して発生していることを強調しています。
 
報告された感染経路のうち、性交渉中の皮膚及び粘膜を介した接触感染が最も報告されており、感染曝露機会が報告された22,293件中の15,353件(68.9%)でした。
 
情報が入手可能である場合、最も報告された曝露状況は性的接触を伴う集会であり、曝露状況が報告された5,559件中の3,806件(68.0%)でした。家庭環境での感染は、過去3か月で報告された全ての状況の割合として10%から22%まで増加しています。
 
少なくとも1つの症状を報告した感染者(33,849人)のうち、最も一般的な症状は発疹であり(感染者の80.7%)、発熱(59.1%)、全身性及び性器発疹(47.3%及び44.1%)となります。今回のアウトブレイクについては、感染者の症状は、時間経過とともに極めて一貫しています。
 
感染経路に関する詳細な情報にあってはアフリカ地域からの大半の感染者を入手できず、感染・伝播性に関する情報にあっては当該地域におけるウイルスの疫学的な拡散を完全には記述できないおそれがあります。当該地域の国々については、性的接触を含む人から人への感染及び感染動物との接触による感染(主に中央アフリカ)が報告されています。
 
HIVとともに生存している集団におけるmpoxの解析
 
現在のアウトブレイクの世界的な調査データについては、情報が入手可能なmpox感染者の48%(36,357人中の17,581人)がHIVとともに生存している集団でした。HIVの重複感染を伴うmpox感染者の合計98%(17,374人中の17,317人)にあっては男性であり、94%(17,581人中の16,501人)にあってはゲイ、バイセクシャル及び男性と性交渉を行う男性(以下「MSM」という。)と自認する集団でした。Mpox感染を伴うMSMのHIV有病率に関するWHO管轄地域の分布については、東南アジア地域の33%(6人中の2人)、欧州地域の39%(10,205人中の3,968人)、東地中海地域の45%(20人中の9人)、西太平洋地域の50%(6人中の3人)及び北米・中南米地域の56%(22,357人中の12,519人)です(表2)。世界的な調査データにおけるアフリカ地域のものについては、HIVに関するデータは、ありませんでした。報告されたmpox感染者におけるHIVの有病率については、標準集団又は全地域にわたるMSMにおける見積もりのHIV有病率よりも高いものでした。
 
図2 HIV陽性者におけるmpox感染者の年齢及び性別の分布(2022年1月1日から2023年3月26日までの期間)
 
表2 WHO地域別のMSMにおけるmpoxのHIV有病率(2022年1月1日から2023年3月26日までの期間)
 
情報が入手可能なHIV生存者の中で報告されたmpox感染者のうち、65%が免疫不全と報告されました(図3)。免疫不全状態は感染者を評価した臨床医によって定義され、感染者のCD4に関する入手可能なデータはありませんでした。免疫不全の感染者については、非免疫不全の感染者と比較して高い入院率及び死亡率を示しました。
 
図3 HIV陽性であるmpox感染者の分布を示す図(2022年1月1日から2023年3月26日までにWHOへ報告された。)
 
*国のおおむね3分の1は、HIV状態を報告していません。
**調査データによるHIV感染者の1%のみが免疫不全状態です。
 
Mpox感染者及びHIV生存者である集団の感染者報告については、318人が医療従事者であり、2人がセックスワーカーでした。
 
HIV生存者におけるmpox感染者の合計19%(4,899人中の935人)にあっては少なくとも1つの他の性感染症を報告し、HIV非感染の集団にあっては14%(5,594人中の777人)でした(p値<0.0001)。HIV生存者であるmpox感染者の集団で性感染症の割合が僅かに高いことについては、当該集団の性行為のリスクが高いこと又は性感染症検査への利用が増加していることを示唆する可能性があります。
 

ナイジェリアにおけるmpoxウイルスの動物宿主に関する研究

Mpoxウイルスの宿主を調査するための動物実験の暫定結果(2018年から2019年までの期間)が2023年2月に公開されました。当該期間中の森林、都市及び都市周辺の場所(影響を受けた4州における直近の感染者に関連する。)における合計240匹のげっ歯類が検体採取を受けました。
 
リアルタイムPCR検査による分子解析によってげっ歯類における未判明であったオルソポックスウイルスが同定されました(mpoxウイルスに特異的な分析では陰性でした。)。農村部及び都市部の2匹の動物から採取した検体の血清学的分析の結果については、オルソポックスウイルス抗体のELISA検査では陽性でした。都市部の場所については、2017年にmpoxのアウトブレイクが報告された矯正施設に近接していました。血清学的検査については、異なるオルソポックスウイルス種を区別できませんでした(2匹の動物がmpoxウイルスに曝露した、又はナイジェリアの小型哺乳類で流行している別のオルソポックスウイルスに曝露したのか同定できませんでした。)。
 
当該の研究については、オルソポックスウイルス感染の分子的証拠及び血清学的証拠が示されましたが、ナイジェリアの動物におけるmpoxウイルスの同定はできませんでした。コンゴ民主共和国で実施された同様の調査(2012年、2013年及び2015年)については、6匹のげっ歯類でオルソポックスウイルス抗体が検出されましたが、PCR検査によるmpoxウイルスが陽性である個体はありませんでした。
 
Mpoxの再興が2017年9月以降にナイジェリアで観察されています。これに先立ち、3例のmpoxが1971年から1978年までの文献で報告されました。合計988例のmpoxが2017年から2022年12月までの期間に確認され、そのうち762例が2022年に記録されました。クレードⅡのmpoxウイルスは、ナイジェリアで流行しているウイルスです。Mpoxウイルスについては、ナイジェリアでの風土病と考えられていましたが、動物から人に感染する証拠が乏しく、ウイルスは動物でいまだ同定されていません。疫学及び分子研究は、アウトブレイク中における人から人への感染を示しています。
 
Mpox感染者が報告されている国については、mpoxウイルスの動物宿主を同定してアフリカにおけるmpoxの疫学における人獣共通感染症の役割を同定するために、更なる研究が必要です。一方、ナイジェリアにおける人から人へのmpoxの感染を減らしてアウトブレイクを防止するために、公衆衛生措置を講ずる必要があります。また、動物研究で発見された他のオルソポックスウイルス属を同定して動物の健康及び公衆衛生上の重要性を評価するために、研究が必要です。

アフリカ地域の最新情報

当該地域については、合計10か国(ナイジェリア(822人)、コンゴ民主共和国(439人)、ガーナ(124人)、中央アフリカ共和国(27人)、カメルーン(18人)、リベリア(10人)、コンゴ(5人)、南アフリカ(5人)、ベニン(3人)及びモザンビーク(1人)を含む。)から1,454人の感染者数が報告されています(2022年1月1日から2023年3月27日までの期間)。当該地域の2か国(ガーナ及び南アフリカ)については、2022年以前に人からmpoxが報告されていません。スーダン(東地中海地域の一部である。)については、過去に報告されていない2022年の難民キャンプにおけるクレードⅠのmpoxアウトブレイクと同様に、初めて散発的な感染者が報告されたことに注意が必要です。当該の報告の他の部分については、当該地域の疫学に言及しています(他の大陸の国を除く。)
 
当該地域で感染者数が最多の6か国については、ナイジェリア(55.6%)、コンゴ民主共和国(29.7%)、ガーナ(8.3%)、中央アフリカ共和国(1.8%)、カメルーン(1.2%)及びリベリア(0.7%)です。3か国(ナイジェリア、コンゴ民主共和国及びガーナ)については、当該地域の全mpox感染者の93.7%(1,385人)を占めています。5か国(ベニン、カメルーン、コンゴ、モザンビーク及び南アフリカ)については、新規感染者が2023年に報告されていません。
 
当該地域で報告されたmpox感染者の平均年齢については、19.9歳であり、範囲は0から87歳までです。半数以上(52.2%)が男性です。主な徴候及び症状は、発疹(18.3%)、発熱(17.4%)、嚥下障害(10.1%)、疼痛(10.1%)及び頭痛(7.3%)を含みます。
 
18人の死亡者数が当該地域において2022年以降に報告されています(ナイジェリア(9人)、ガーナ(4人)、カメルーン(3人)、中央アフリカ共和国(1人)及びモザンビーク(1人))。コンゴ民主共和国で報告されたmpox疑い例の中の死亡者については、当該のデータに含まれていません(データについては、世界的にWHOへ報告された確定例及び疑い例で構成されています。)。WHOは、検査体制(アウトブレイクに関連する主要なクレードを同定するゲノム解析を実施する。)を改善することを介し、当該地域におけるmpoxのアウトブレイク、感染経路及びmpoxの特徴を各国が調査することを支援しています。クレードⅠ及びⅡの両方が当該地域で流行しています。クレードⅠは、中央アフリカ共和国、コンゴ共和国及びコンゴ民主共和国で優勢です。クレードⅡは、ベニン、ガーナ、ナイジェリア及び南アフリカで優勢です。カメルーンについては、両方のクレードを報告しています。
 
アフリカ地域のmpoxに対するWHOの事態対処行動
 
WHOは、当該地域におけるmpoxの感染・伝播性を封じ込めて防止するための効率的な事態対処行動の計画を思案するために、様々な部門にわたって技術支援及び共同作業の調整を提供しています。
 
調査及び感染者調査
 
WHOは、各国がmpoxのリスクに関する情報を更新し、感染者を検出して報告する体制を構築し、警戒報管理システムを改善し、国内の濃厚接触者追跡システムを確立して強化することを支援しています。また、WHOは、各国が感染者調査及び検体採取を実施し、データ解析の体制を強化することを支援しています。
 
WHOは、アフリカ地域総合疾病調査及び事態対処行動システムを統合するための計画を締結し、mpoxを届出疾患として含めるように各国を継続して支援しています。
 
当該地域におけるmpox調査を強化するために、指針が開発されています。
 
当該地域におけるダッシュボードについては、データの視覚化、解析及びmpox感染者の追跡を促進するために、開発されています。さらに、WHOは、集計データ、項目一覧及びオンライン感染者調査フォームの電子データ集計及び報告ツールを開発しています。
 
調整及び資源の投入
 
WHOは、mpoxの事態対処行動の取組を強化するために、ガーナ、ナイジェリア及び中央アフリカ共和国に3つの高い段階の支援任務を展開しました。国別支援任務は、アウトブレイクへ効率的に事態対処行動を行うための資源と支援を確保するために、各国と緊密に協力します。
 
検査室
 
WHOは、アフリカCDC及び西アフリカ保健機関と協力して当該地域全体の検査室に必要な試薬及び訓練を提供しています。
 
リスクコミュニケーション及びコミュニティエンゲージメント
 
WHOは、人々のコントロールの措置に関する話し方や作成された重要なメッセージへの事態対処行動を理解するために、ソーシャルリスニング(メディアや他のオンラインプラットフォームの調査を含む。)を継続して実施しています。これについては、メッセージの調査が必要な格差及び領域を特定する点で有用です。
 
重要なメッセージを作成し、メディアを調査することに加え、体制構築に焦点が置かれています(コントロールの措置に関する意思疎通の手法について集団ボランティアを訓練することを例とする。)。ボランティアは、主要な聴衆を同定し、様々な集団に合わせてメッセージを調整し、様々な関連する意思疎通の手段を使用するように訓練を受けています。
 
事前準備行動
 
WHOは、各国における事前準備行動を評価するための評価ツールを作成し、共有しました。当該地域の80%超(47か国中の39か国)が事態対処行動の体制を評価しています。3か国(8%)にあっては適切な事前準備行動の体制を報告し、18か国(46%)にあっては中等度の体制を報告し、18か国(46%)にあっては限定された体制を報告しました。

出典

World Health Organization. “Multi-country outbreak of mpox External Situation Report #19, published 30 March 2023”.WHO.2023. https://www.who.int/publications/m/item/multi-country-outbreak-of-mpox--external-situation-report--19---30-march-2023, (参照2023-03-31).