伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)-インドネシア共和国

Disease outbreak news 2024年1月11日

発生状況一覧

インドネシア共和国(以下、「インドネシア」という)では、2022年10月から2023年2月までに4例の伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)が報告され、うち3例がアチェ(Aceh)州で、1例が西ジャワ(West Java)州で発生しました。2023年12月20日と27日、インドネシア保健省は、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型の新たな確定症例2例をWHOに通知しました。1例は中部ジャワ(Central Java)州クラテン(Klaten)地区の6歳女子で、最近東ジャワ(East Java)州サンパン(Sampang)地区にあるマドゥラ(Madura)島に旅行歴があります。2例目は1歳の男児で、東ジャワ州マドゥラ島に隣接するパメカサン(Pamekasan)地区の出身です。ワクチン接種率が十分ではない場合、さらなる感染とヒトの健康への影響のリスクが高まります。今回の症例が報告されたクラテン地区では、2022年の4回分の2価経口ポリオワクチン(bOPV)と初回の不活化ポリオワクチン(IPV1)の接種率はそれぞれ89.8%と88.6%でした。2例目の患者が報告されたパメカサン地区では、2022年の2価経口ポリオワクチンと不活化ポリオワクチンのカバー率はそれぞれ88.1%と74.1%でした。インドネシアで新たに検出された伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型症例を受けて、いくつかの公衆衛生上の取り組みが進められています。プロトコルに従って、詳細な症例調査とリスク評価が実施されています。また、世界ポリオ根絶計画との国・地域レベルでの連携が進められています。国レベルでは、全体的なリスクは高いと評価されています。WHO地域レベルでのリスクは中程度と評価されています。

発生の概要

2023年12月20日と27日、インドネシア保健省はWHOに対し、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型の2例の確定症例を通知しました。1例は中部ジャワ州クラテン地区の6歳女子で、最近東ジャワ州サンパン地区に旅行歴があります。彼女は2023年11月21日に急性弛緩性麻痺(AFP)を発症しました。この患者は以前に定期予防接種で2価経口ポリオワクチン(bOPV)を2回接種していましたが、不活化ポリオワクチン(IPV)の接種は受けていませんでした。

生物製造公社国立ポリオ研究所での分離株のゲノム塩基配列決定の結果、36個のヌクレオチドの変異を有する伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型が検出され、2023年3月にWHOに報告された西ジャワ州の症例と遺伝的に関連していました。

2例目は東ジャワ州パメカサン地区から報告されました。患者は1歳男児で、2023年11月22日に麻痺を発症し、2価経口ポリオワクチンワクチン接種歴(4回)と不活化ポリオワクチンワクチン接種歴(1回)がありました。ゲノム塩基配列では、43個のヌクレオチドの変異を有する伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(セービン株)が検出されました。

2023年12月7日に東ジャワ州バンカラン(Bangkalan)地区で採取された2つの環境検体も伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型が陽性でした。ゲノム塩基配列では36~37個のヌクレオチドが変異していました。

中部ジャワ(1件)と東ジャワ(1件)の2件の伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型感染症例に先立ち、インドネシアでは過去に4件の伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型感染症例が報告されています。これらの4症例は、2022年以降、以下の場所で報告されています。

・2022年10月、アチェ州ピディ(Pidie)県
・2023年1月、アチェ州アチェ・ウタラ(Aceh Utara)県
・2023年1月、アチェ州ビレウエン(Bireuen)
・2023年2月、西ジャワ州プルワカルタ(Purwarkarta)

中部ジャワ州では2022年のデータでは州レベルで2価経口ポリオワクチン(4回)と初回の不活化ポリオワクチンの接種率は95%を超えていました。中部ジャワ州のクラテン地区では、同年の2価経口ポリオワクチン(4回)と初回の不活化ポリオワクチンの接種率はそれぞれ89.8%と88.6%であり、 パメカサン地区では88.1%と74.1%、バンカラン地区では69.9%と53.7%でした。

これらの地区には、予防接種が受けづらい地域はありません。しかし、東ジャワのマドゥラ地域では社会文化的障壁があり、副反応への恐怖、複数回の注射、時には宗教的理由など、いくつかの理由によるワクチン接種へのためらいがワクチン接種の課題となっています。

伝播型ワクチン由来ポリオウイルスの疫学

ポリオは、主に5歳未満の小児が罹患し、感染者の約200人に1人に永続的な麻痺や麻痺者の2~10%に死亡を引き起こす感染力の強い病気です。

ウイルスは人から人へ、主に糞口経路で感染しますが、汚染された水や食べ物から感染することもあります。ウイルスは腸内で増殖し、そこから神経系に侵入して麻痺を引き起こします。潜伏期間は通常7~10日間ですが、4~35日の幅があります。感染者の90%以上は無症状か軽い症状であり、通常病気であると気づきません。

ワクチン由来ポリオウイルスは、もともと経口ポリオワクチンに含まれていたポリオウイルス株が変異したものであることが解明されています。経口ポリオワクチンには弱毒化した生きたポリオウイルスが含まれており、腸内で一定期間複製することで抗体ができ、免疫が確立します。まれに、消化管内で複製される際に、経口ポリオワクチンの株が遺伝的に変異することがあり、ポリオの予防接種が十分でない地域、特に衛生状態が悪い地域や人口過密な地域で感染が広がることがあります。住民の免疫力が低ければ低いほど、ワクチン由来のポリオウイルスはより長く生き残り、より多くの遺伝的変異を遂げます。

ごくまれに、ワクチン由来のウイルスが遺伝的に変異し、野生型ポリオウイルスと同じように麻痺を引き起こすことがあり、これがワクチン由来ポリオウイルス(VDPV)と呼ばれるものです。少なくとも2つの異なる感染源から、少なくとも2ヵ月以上の間隔をおいてワクチン由来ポリオウイルスが検出され、それが遺伝的に関連していて、地域社会で伝播している証拠がある場合、「伝播型」ワクチン由来ポリオウイルス(cVDPV)と分類されます。野生型ポリオウイルスと同様に、伝播型ワクチン由来ポリオウイルスには3つのタイプ(1型、2型、3型)があり、現在インドネシアで発生しているのは伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型(cVDPV2)によるものです。

公衆衛生上の取り組み

インドネシアで発生した伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型に対応して、いくつかの公衆衛生上の取り組みが進行中です。
プロトコルに従って、詳細な症例調査とリスク評価が実施されています。現在2人の感染者がいる地域と近隣地域の少なくとも200世帯で、積極的な症例探索が行われています。さらに、病院記録の見直し実施され、追加の環境サーベイランス(ES)地点の特定が進行中です。

世界ポリオ根絶計画との国・地域レベルでの調整が続いています。特にIPVの2回接種に重点を置き、定期予防接種の強化と接種機会を逃した方に接種を行う努力が続けられています。ポリオの流行を受けて、政府はWHO事務局長に対し、新型経口ポリオワクチン2型(nOPV2)の接種を承認するよう要請していました。WHO事務総長は、2024年1月15日と2024年2月19日に予定されている2回の追加予防接種活動(SIA)を実施するために、2,000万回分以上の新型経口ポリオワクチン2型を出荷することを承認しました。

定期的な状況報告はWHOのウェブサイトで公開され、近隣諸国と共有されています。

WHOによるリスク評価

全体的なリスクは、国家レベルでは高いと評価されています。パプア(Papua)州では伝播型ワクチン由来ポリオウイルス1型、アチェ州と西ジャワ州では伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型が発生し、国の対応能力の高さが示されました。しかし、3価経口ポリオワクチン(tOPV)から2価経口ポリオワクチン(bOPV)への切り替えや、中部ジャワ州、東ジャワ州、隣接するジョグジャカルタ(Yogyakarta)州、インドネシアの他のいくつかの州における不活化ポリオワクチンワクチン接種率が十分でないことから、住民は2型ポリオウイルスに感染しやすい状況にあります。一部の住民のワクチン接種へのためらいが、ワクチン接種活動を複雑にしています。中部ジャワ州、東ジャワ州、隣接するジョグジャカルタ州の人口密集地域から国内の他の州への人口移動が双方向に定期的に起こっています。中部ジャワ州と東部ジャワ州は、既存の資源を用いて対応策を実施する能力が中程度から高程度であるものと考えられます。

地域レベルでは、全体的なリスクは中程度と評価されています。中部ジャワ州と東ジャワ州には国境はなく、感染地域からの国境を越えた人口移動は限られていますが、ウイルス学的分析によると、ウイルスはしばらくの間この地で流行していた可能性があり、全ゲノム配列解析の結果はまだ出ていません。このリスクは継続的に評価され、状況の変化に応じて見直されます。

WHOからのアドバイス

すべての国、特にポリオ感染国・地域と頻繁に行き来する国・地域は、新たなウイルスの侵入を迅速に発見し、迅速な対応を図るため、AFP症例のサーベイランスを強化することが重要です。また、新たなウイルスが持ち込まれた場合の影響を最小限に抑えるため、国や地域、地区レベルでの定期予防接種率を一様に高く維持すべきです。 
 
WHOの「国際旅行と保健」では、ポリオ感染地域への旅行者は全員、ポリオの予防接種を受けるよう勧告しています。 
国際保健規則(IHR2005)に基づき招集された緊急委員会の助言に従い、ポリオウイルスの国際的拡大を制限するための取り組みとして、ポリオウイルスの感染による影響を受けている国は一時的勧告の対象となります。国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に基づいて発出された暫定勧告を遵守するため、伝播型ワクチン由来ポリオウイルス2型の侵入があり国内での感染が発生した国は、次のことを行うべきです(i)その発生を国の公衆衛生上の緊急事態として宣言すること、(ii)居住者および長期滞在者に、海外渡航の4週間から12カ月前に不活化ポリオワクチンの予防接種を受けるよう奨励すること、(iii)予防接種を受けた渡航者が、ポリオの予防接種状況を記録する適切な文書を確実に入手できるようにすること、(iv) 接種率データの共有を含め、不活化ポリオワクチンの接種率を向上させる努力をさらに強化すること (v) アドバイザリー・グループの助言に従い、ポリオウイルスを迅速に発見するためのサーベイランスを強化し、難民、旅行者、国境を越える人々にワクチン接種を行うことが助言されています。
 
WPVと伝播型ワクチン由来ポリオウイルスに関する最新の疫学情報は、世界ポリオ根絶計画のウェブサイトで毎週更新されています
 
WHOは、この事象に関する現在の情報に基づき、いかなる渡航や貿易の制限も実施しないよう勧告しています。

出典

Circulating vaccine-derived poliovirus type 2 (cVDPV2) - Indonesia
Disease Outbreak News 11 January 2024
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON500