鳥インフルエンザA(H5N1)変異型ウイルス-カンボジア王国

Disease outbreak news 2024年2月8日

発生状況一覧

2024年1月26日から28日にかけて、カンボジア王国(以下、「カンボジア」という。)の国際保健規則(IHR)に基づく連絡窓口(NFP)は、WHOに対し、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの検査確定例2例を確認したと通知しました。患者は、カンボジアのプレイベーン(Prey Veng)州コンポン・トラベック(Kampong Trabek)地区とシェムリアップ(Siem Reap)州プオック(Puok )地区から報告されました。この2名の患者は、2024年にカンボジアで報告された鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの最初のヒト感染例となります。1名は重症急性呼吸器感染症(SARI)監視に伴う調査から、もう1名はSARI以外の監視を通して医師に検出されました。どちらの患者も感染した家禽との接触が確認されました。この2症例間の疫学的関連性を示す証拠は見つかっていません。2003年12月、カンボジアでは初めて、野鳥が感染した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)H5N1の発生が報告されていました。その後、家禽からヒトへの感染によるヒト感染例が2014年まで散発的に報告されていたものの、次の感染例が2023年に報告されるまで感染は発生していませんでした。2023年の2月、10月、11月にそれぞれ2例ずつの報告がなされています。インフルエンザA(H5N1)ウイルスがヒトに感染すると重症化する可能性があり、死亡率も高く、国際保健規則(IHR2005)に基づき届出の対象となっています。

発生の概要

2024年1月26日から28日にかけて、カンボジアの国際保健規則(IHR)に基づく連絡窓口(NFP)は、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスにヒトが感染した確定症例2例をWHOに報告しました。患者は、カンボジアのプレイベーン州コンポン・トラベック地区とシェムリアップ州プオック地区から報告されました。
 
最初の症例は3歳児で、2024年1月26日にプレイベーン州コンポン・トラベック地区から報告されました。患者は2024年1月13日に症状を発症し、1月16日に高熱、咳、鼻水で入院しました。検体は病院で採取され、検査のため国立公衆衛生研究所(National Institute of Public Health)に運ばれました。そこで2024年1月25日に定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR法)により鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス陽性となり、同日、カンボジアパスツール研究所(IPC)において確定されました。患者には、自宅周辺で死んでいた家畜のニワトリへの暴露歴が確認されています。この患者の濃厚接触者14人が特定、検体の採取と検査が実施され、インフルエンザ陽性者はいないことが確認されています。
 
2例目の患者は69歳で、2024年1月28日にシェムリアップ州プオック地区から報告されました。この患者には高血圧の持病があり、2024年1月21日に38℃を超える発熱、咳、呼吸困難などの症状が現れました。患者は2024年1月23日に入院し、2024年1月27日に国立公衆衛生研究所でRT-PCR法により鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス陽性と判定されました。2024年1月28日、カンボジアパスツール研究所での追加検査で陽性が確定されています。最初の調査によると、患者は家禽と闘鶏を飼育していました。検査した3羽の鶏はインフルエンザA(H5N1)陽性となりました。環境検体の検査は行われていません。4人の濃厚接触者と39人の追加接触者が特定、検査が実施され、そのうち1人は症例とは関係のないインフルエンザB/ビクトリア系統の陽性でした。
 
鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスによるヒト感染が確認された2症例は、その後回復しています。ゲノム配列決定と系統学的解析により、確認された両症例のインフルエンザA型H5分離株のHA遺伝子は、クレード2.3.2.1cに属することが明らかになっています。
 
2023年には、カンポット(Kampot)州で2例、プレイベーン州で3例、スバイリエン(Svay Rieng)州で1例の、4人の死亡者を含む合計6例のヒト感染例が報告されました。2003年から2024年1月28日までに、41人の死亡者を含む合計64例の鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルス感染者がカンボジアから報告されています。

鳥インフルエンザAウイルスの疫学

動物性インフルエンザウイルスは通常、動物の間で流行していますが、ヒトにも感染することがあります。ヒトへの感染は主に、感染した動物や汚染された環境との直接接触によって起こります。元の宿主によって、動物インフルエンザ A ウイルスは鳥インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、その他の動物インフルエンザウイルスに分類されます。
 
鳥インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、その他の動物インフルエンザウイルスがヒトに感染すると、軽度の上気道感染からより重篤な疾患まで様々な疾患を引き起こす可能性があり、致死的な場合あります。結膜炎、胃腸症状、脳炎、脳症も報告されています。また、無症状の人から鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスが検出された例もいくつかあります。家禽でのアウトブレイクが報告された家禽農場のと殺/除染作業に従事することで、感染した鳥類に曝露しため、検査をして検出されました。
 
ヒトのインフルエンザ感染を診断するには、臨床検査が必要です。WHOは、分子生物学的手法、例えば逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いた人獣共通感染症インフルエンザの検出に関する技術ガイダンス指針を定期的に更新しています。いくつかの抗ウイルス薬、特にノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)は、ウイルスの複製存続期間を短縮し、一部の症例では治療により生存率を上げることが示唆されています。

公衆衛生上の取り組み

カンボジア保健省の国および地域迅速対応チームは、農林水産省と環境省の支援を受け、プレイベーン州とシェムリアップ州で発生した鳥インフルエンザの積極的な調査を行っています。
 
現在進められている取り組みとしては、動物とヒトの両方における感染源と感染様式を見つけるための調査が含まれます。さらに、感染の可能性を防ぐため、疑い症例や接触者の特定も続けられています。加えて、家禽の検体採取と検査も続けられています。

WHOによるリスク評価

2003年から2024年1月28日までに、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスに感染したヒトの症例が世界23カ国から884例報告され、うち461例が死亡しました。鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスにヒトが感染したほぼすべての症例は散発的な感染であり、感染した鳥(生死問わず)、あるいは鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスに汚染された環境との濃厚接触と関連しています。これらの動物性インフルエンザウイルスはヒトには感染しにくく、ヒトからヒトへの感染は稀です。しかし、ヒトに感染すると、重症化する可能性があり、死亡率も高くなっています。特にカンボジアの農村部では、家禽類にウイルスが流行し続けているため、さらなる散発的なヒトへの感染が発生する可能性があります。
 
入手可能な疫学的およびウイルス学的知見によると、鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスはヒト間での感染させる能力を獲得しておらず、ヒトからヒトへの持続的感染の可能性は低いと考えられています。入手可能な情報に基づき、WHOはこのウイルスが人々にもたらすリスクは低いと評価しています。リスク評価は、追加情報が入手可能になれば、必要に応じて見直されます。
 
疫学的状況の詳細な分析、ヒトおよび家禽の集団における最新のインフルエンザA(H5N1)ウイルスのさらなる特徴づけ、および血清学的調査は、公衆衛生に対する関連リスクを評価し、リスク管理対策を迅速に調整するために不可欠です。
 
インフルエンザA(H5N1)ウイルスにヒト用の特異的なワクチンはありません。しかし、ヒトにおけるインフルエンザA(H5)ウイルスのパンデミックに備えて、ワクチン候補の開発は複数の国で進められています。WHOは、インフルエンザウイルスワクチンの構成に関するWHO協議で年2回選定される人獣共通感染症用インフルエンザワクチン候補ウイルス(CVV)リストの定期的な更新を続けています。このCVVのリストはWHOのウェブサイトで入手可能です。さらに、最新の人獣共通感染症インフルエンザウイルスの遺伝学的および抗原学的特性は、世界インフルエンザ計画(who.int)で公表されています。

WHOからのアドバイス

今回の症例発生によって、現在のWHOの公衆衛生対策とインフルエンザのサーベイランスに関する勧告の変更はありません。
 
ヒトにおける散発的なインフルエンザA(H5N1)ウイルスの症例報告、哺乳類におけるアウトブレイク、鳥類における広範なウイルスの流行、そしてインフルエンザウイルスの絶え間ない変異を考慮すると、WHOは引き続き、ヒトまたは動物の健康に影響を及ぼす可能性のある新興または既に流行しているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出・監視するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス共有の重要性を強調しています。
 
一般の人々は、生きた動物を扱う市場や農場、生きた家禽や、鳥や家禽の糞で汚染された可能性のある物など、リスクの高い環境との接触を避けるべきです。さらに、頻繁に手を洗うか、アルコール手指消毒剤を使用し、手指の衛生を保つことが推奨されます。
 
一般の人々およびリスクのある人は、ウイルスに感染した家禽や予期せず死亡した家禽がある場合には直ちに獣医当局に報告することも必要です。また、こうした病気や(あるいは死んだ)家禽の食用は避けるべきです。 
 
鳥インフルエンザが家禽で発生している国では、食用の家禽類を扱う人は、屠殺中または屠殺後の家禽を扱う際に保護具を着用すべきであり、そのような曝露の直後に体調不良を感じた場合は直ちに医療機関を受診すべきです。
 
インフルエンザに感染した可能性のある鳥に接触したり、汚染された環境にさらされたりして、体調不良を感じた人は、速やかに医療機関を受診し、医療従事者に感染の可能性を伝えてください。
 
WHOは、この事象に関する現在の情報に基づき、いかなる渡航や貿易の制限も勧告していません。WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの現状から、入国地点での特別な渡航者向けのスクリーニングやその他の制限を行うことは勧めていません。
 
国際保健規則(IHR2005)の締約国は、新しい亜型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が検査機関において確認された場合、直ちにWHOに通知すること求められています。この届出には、発病の証拠は必要ありません。

出典

Influenza A (H5N1) variant virus - Cambodia
Disease Outbreak News 8 February 2024
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON501