インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルス-スペイン王国

Disease outbreak news 2024年2月9日

発生の概要

2024年1月29日、スペイン王国(以下、「スペイン」という。)保健当局は、カタルーニャ(Cataluña)州のリェイダ(Lleida)県において、豚インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスのヒトにおける検査確定例をWHOに通知しました。今回の症例を含め、スペインではインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによるヒト感染例が3例報告されています。最初の症例は2008年に報告され、2例目は2023年1月に報告されました。国際保健規則(IHR2005)によれば、新しい亜型のインフルエンザウイルスによるヒトへの感染は、公衆衛生に多大な影響を与える可能性のある事象であり、WHOへの通知が義務付けられています。現在入手可能な情報に基づくと、本症例に関連して、現在地域内感染は確認されていません。従って、ヒトを介した国際的な感染拡大、および、ヒト間の地域レベルでの感染拡大のリスクは低いです。WHOは引き続き、ヒトまたは動物の健康に影響を及ぼす可能性のある流行性インフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス共有の重要性を強調しています。

発生の詳細

2024年1月29日、スペインの国家当局は、豚インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスのヒトへの感染が検査で確認されたことをWHOに通知しました。患者はリェイダ県の養豚場で働いていた成人男性で、検体検査と塩基配列決定により陽性が確認されました。

患者はすでに完治していますが、2023年11月25日に発熱、倦怠感、咳などの症状を発症しました。2023年11月29日に初めて外来を受診し、12月にも2回受診し、気管支炎と診断されました。抗ウイルス治療は受けませんでした。

2023年12月12日、鼻と口腔咽頭(口の奥と喉)の検体が採取され、検査のために地域病院の検査室に送られ、2023年12月14日にA型インフルエンザウイルス陽性と判定されましたが、亜型は特定できませんでした。

その後、この検体は塩基配列の決定のため国のサーベイランス・ネットワークの検査室に送られ、豚インフルエンザA(H1N1)ウイルスが同定され、2024年1月10日にカタルーニャ州公衆衛生緊急事態サーベイランス・対応管理局に通知されました。

この検体は、2024年1月19日に国立微生物学研究所に確認のために送られ、分離されたウイルスは、英国ロンドンのフランシス・クリック研究所にあるWHOインフルエンザ研究協力センターとも共有される予定です。

インフルエンザAウイルスの疫学

インフルエンザA(H1)ウイルスは、世界のほとんどの地域のブタで流行しています。通常ブタに流行するインフルエンザウイルスがヒトに検出された場合、「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。A(H1N1)、A(H1N2)、A(H3N2)は、ブタで流行するA型インフルエンザウイルスの主な亜型であり、通常はブタや汚染された環境に人が直接または間接的に曝露された後に、時々人に感染することがあります。変異型ウイルスにヒトが感染した場合、軽症で済むことが多いですが、重症化して入院した例や、死亡した例もあります。

現在までにWHOヨーロッパ地域では、インフルエンザA(H1N1)、A(H1N2)、A(H3N2)変異型ウイルスによる散発的なヒトへの感染例が報告されていますが、継続してヒトからヒトへ感染したことは確認されていません。今回の症例を含め、スペインではインフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスによるヒトへの感染例が3例報告されています。最初の症例は2008年に報告され、2例目は2023年1月に報告されました。

公衆衛生上の取り組み

カタルーニャの公衆衛生当局により疫学調査が開始されました。家族の濃厚接触者3名には二次感染は確認されませんでした。他の農場労働者からは、現在までに症状の報告はなく、これらの労働者の追跡調査は終了しています。

カタルーニャ州公衆衛生緊急事態サーベイランス・対応管理局は、動物衛生を担当する気候変動・食料・農村計画局に対し、豚におけるA型インフルエンザの発生は義務的届出の対象ではなく、豚の管理やフォローアップは求められていないことを確認しました。

WHOによるリスク評価

インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルスに感染したヒトの症例のほとんどは、感染した豚や汚染された環境との直接的または間接的な接触により、豚インフルエンザウイルスに曝露されたものです。しかし、発病前の数週間に豚に曝露された記録のない症例も報告されています。これらのウイルスは世界中の豚から検出され続けているため、感染した豚との直接的または間接的な接触によるヒトへのさらなる感染例が予想されます。近年、ヨーロッパを含む多くの国々で豚の変異型インフルエンザウイルスの症例が報告されています。

現在のところ、これらのウイルスはヒトからヒトへ継続的に感染させる能力を獲得していないことが示唆されています。変異インフルエンザウイルスのヒトからヒトへの感染は限定的で非持続的であり、継続的な市中感染は確認されていません。
この事象に関連した新たなヒト感染症例が検出され、ヒトへの感染がさらに拡大するリスクは低いと考えられます。

このリスク評価は、疫学的またはウイルス学的情報が入手可能になった時点で見直されます。

WHOからのアドバイス

サーベイランス:

・今回の事例は、季節性インフルエンザの公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
・WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの状況から、特別な渡航者制限や入国地点でのスクリーニングは推奨していません。
・インフルエンザウイルスは常に変異を繰り返しているため、WHOは引き続き、ヒトまたは動物の健康に影響を及ぼす可能性のある流行性インフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス共有の重要性を強調しています。

通知と調査:
・国際保健規則(IHR2005)により新しい亜型のインフルエンザウイルスによるヒトへの感染はすべて届出対象となっており、締約国はパンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確定された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。通知には発症の証拠は必要ありません。
・パンデミックを引き起こす可能性のある変異型ウイルスを含む新型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確認された、または疑われた場合には、渡航歴や動物への曝露歴を含む徹底した疫学調査を行い、接触者を追跡する必要があります。疫学調査には、新型ウイルスのヒトからヒトへの感染を示す可能性のある、平時には検出されないような異常な呼吸器系疾患に関連する事象の早期発見も含まれます。症例の発生時、発生場所から採取した臨床検体は検査され、さらなる特徴付けのためWHO協力センターに送られるべきです。

渡航と貿易:
・WHOは、現在入手可能な情報に基づき、スペインへの渡航および/または貿易の制限の推奨はしていません。
・動物に触れる前後のこまめな手洗いや、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を遵守する必要があります。

旅行者に対する予防対策:
・動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者は、農場、生きた動物を扱う市場での動物との接触、動物が屠殺される場所への立ち入り、動物の排泄物で汚染されていると思われる物との接触を避ける必要があります。また、渡航者は石鹸と水での手洗いが励行されます。
・豚に感染するインフルエンザウイルスは、ヒトのインフルエンザウイルスとは異なります。人獣共通感染症であるインフルエンザに対する人に使用できるワクチンはまだ認可されていません。しかし、WHOが調整する新型の人獣共通感染症に対するインフルエンザワクチン候補ウイルス(CVVs)の開発は、インフルエンザの世界的大流行に備えるための全体的な世界戦略の重要な要素であることに変わりはありません。一般に、ヒトのインフルエンザウイルスに対するワクチンは、通常豚に流行するインフルエンザウイルスのヒトへの感染を予防することは期待できません。それでもWHOは、流行するインフルエンザウイルスへの感染による重症化を避けるために、季節性インフルエンザのワクチン接種を推奨しています。

出典

Influenza A(H1N1) variant virus - Spain
Disease Outbreak News 9 February 2024
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON503