鳥インフルエンザA(H10N5)とインフルエンザA(H3N2)の重複感染-中華人民共和国

Disease outbreak news 2024年2月13日

発生の概要

2024年1月27日、中華人民共和国(以下、「中国」という。)国家衛生委員会はWHOに対し、鳥インフルエンザA(H10N5)ウイルスと季節性インフルエンザA(H3N2)ウイルスのヒトへの重複感染1例が確認されたと通知しました。これは、鳥インフルエンザA(H10N5)ウイルスにヒトが感染した最初の報告です。患者は、安徽(Anhui)省宣城(Xuancheng)市の農業従事者である60歳代女性で、慢性疾患の既往歴があります。彼女は2023年11月30日に発症し、12月16日に死亡しました。当局は2024年1月22日に患者の検体から季節性インフルエンザA(H3N2)亜型と鳥インフルエンザA(H10N5)亜型のウイルスを分離し、2024年1月26日の確定検査で確認されました。この患者は生きた家禽に接触しており、家禽の検体もH10N5陽性でした。当局の調査および検査により、新たにヒトへの感染が疑われる症例は発見されていません。現在入手可能な疫学的情報では、鳥インフルエンザA(H10Nx)ウイルスはヒトの間で持続的に感染する能力を獲得していません。したがって、ヒトからヒトへの感染の可能性は低いと考えられます。

発生の詳細

2024年1月27日、中国国家衛生委員会はWHOに対し、鳥インフルエンザA(H10N5)ウイルスと季節性インフルエンザA(H3N2)ウイルスのヒトへの重複感染1例が確認されたと通知しました。これは、鳥インフルエンザA(H10N5)ウイルスにヒトが感染した最初の報告です。

患者は安徽省宣城市の農業従事者である60歳代女性で、2023年11月30日に咳、咽頭痛、発熱の症状が発現しました。慢性疾患の既往歴があったこの患者は、治療のため2023年12月2日に地元の病院に入院し、病状が重くなったため2023年12月7日に浙江(Zhejiang)省の医療機関に転院しました。患者はA型インフルエンザウイルス感染症と診断され、2023年12月16日に死亡しました。浙江省衛生当局は2024年1月22日、地元の医療機関が行った核酸検査、ウイルス培養、遺伝子配列決定の結果、患者の検体から季節性インフルエンザA(H3N2)亜型と鳥インフルエンザA(H10N5)亜型のウイルスを分離しました。

2024年1月26日、中国疾病予防管理センターは浙江省からの検体について確定検査を行い、検査結果を検証しました。患者は季節性インフルエンザの予防接種を受けていませんでした。

患者は2023年11月26日に生きたアヒルの購入を通して家禽と接触していました。冷蔵庫に保管されていたアヒルの肉から、7検体がH10N5陽性、2検体がN5陽性(HAヘマグルチニンの結果はなし)でした。患者は豚や他の哺乳類との接触はありませんでした。彼女の自宅から環境検体が採取されましたが、すべて陰性でした。
浙江省と安徽省では、濃厚接触者全員を医療観察した結果、新たに疑われる症例は発見されませんでした。遡及的な症例検索を通しても、同期間中に他の患者は発見されませんでした。

鳥インフルエンザAウイルスの疫学

鳥インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされ、一般的に数種類の野鳥や家禽類の間で流行していますが、ヒトや他の動物種にも感染することがあります。ヒトへの感染は通常は単発で、感染した動物や汚染された環境との直接接触が主な原因です。ヒトへの感染の主な危険因子は、家禽を扱う市場等での、生死は問わず感染した家禽への接触や汚染された環境への曝露であると考えられています。現在の人獣共通感染症であるインフルエンザウイルスは、持続的なヒトからヒトへの感染は実証されていません。

ヒトへの鳥インフルエンザ感染は、高熱、咳、喉の痛み、筋肉痛などの初期症状を引き起こします。ウイルスや感染者の要因によっては、急速に重度の肺感染(肺炎)、急性呼吸窮迫症候群、さらには精神状態の変化や痙攣へと進行する可能性があります。
可能であれば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応や同様の高感度・高特異性の迅速分子インフルエンザ検査法による検査が推奨されます。抗ウイルス剤と支持療法に基づく迅速な治療が最重要です。WHOは、世界インフルエンザ監視・対応システム(GISRS: Global Influenza Surveillance and Response System)を通じて、鳥インフルエンザウイルスやその他の人獣共通感染症インフルエンザウイルスを注意深く監視しています。

公衆衛生上の取り組み

中国政府は、以下のような監視、予防、さらなる管理措置を講じています。

・リスク評価
・地域の医療施設における症候群サーベイランスの強化
・疫学的調査、濃厚接触者の追跡、モニタリング
・遡及的なスクリーニング、症例検索、環境検体の収集および検査

当局は、安徽省宣城市の農場と食肉処理場において、生きた家禽の監視と検査対象を拡大しました。当局が実施した現場での監視と検査を通して、新たにヒトへの感染が疑われる症例は発見されていません。

農業当局は痕跡調査でH10N5陽性と判定されたアヒルの殺処分と危機管理を実施し、感染発生地域の消毒を行いました。

WHO地域事務局および国別事務局は、国際保健規則(IHR 2005)に基づき、公衆衛生対応に関する情報交換を進めています。

WHOによるリスク評価

現在までに報告されている鳥インフルエンザウイルスによるヒト感染症例のほとんどは、感染した家禽や汚染された環境への曝露によるものです。

最初のA(H10)亜型は、1949年にドイツでニワトリから分離されました。それ以来、A(H10)株は世界中の野生の水鳥、家禽、哺乳類から時折検出されています。 A(H10)ウイルスは低病原性鳥インフルエンザウイルスであるため、国際獣疫事務局の報告は義務付けられておらず、そのため実際の流行状況は不明です。

2008年、中国の湖北省で豚から鳥インフルエンザA(H10N5)が分離されましたが、今回、中国におけるヒトのH10N5感染例は、鳥インフルエンザA(H10N5)が世界的に検出された最初のヒト感染例です。

データが限られているため、サーベイランス活動や予防対策に役立てるためには、動物におけるH10N5ウイルスの疫学を明らかにするためのさらなる研究が必要です。H10N3などの他のH10Nx亜型によるヒトへの感染が散発的であることを考慮すると、特に鳥類におけるウイルスの蔓延を監視するためのサーベイランスは重要です。

現在入手可能な疫学的情報では、鳥インフルエンザA(H10Nx)ウイルスはヒトの間で持続的に感染する能力を獲得していません。したがって、ヒトからヒトへの感染の可能性は低いと考えられます。流行地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または到着後に他国で感染が検出される可能性があります。このような事態が発生しても、地域レベルでの感染拡大の可能性は低いと考えられています。

WHOからのアドバイス

人々は、生きた動物の市場や農場などのリスクの高い環境を避け、生きた家禽や鳥や家禽の糞で汚染された可能性のある物との接触を避けるべきです。こまめな手洗いやアルコールベースの手指消毒剤による手指衛生が推奨されます。

インフルエンザウイルスは常に変異を繰り返しているため、WHOは、ヒトまたは動物の健康に影響を及ぼす可能性のある流行性インフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス共有の重要性を引き続き強調しています。 

国際保健規則(IHR2005)により新しい亜型のインフルエンザウイルスによるヒトへの感染はすべて届出対象となっています。国際保健規則(IHR2005)の締約国は、パンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによるヒト感染例が検査で確認された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。この通知には、発病の証拠は必要ありません。

WHOは、旅行者に対する特別な対策を推奨していません。WHOは、現在入手可能な情報に基づき、中国への渡航および/または貿易を制限することを推奨していません。

出典

Avian Influenza A(H10N5) and Influenza A(H3N2) coinfection - China
Disease Outbreak News 13 February 2024
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON504