オウム病-ヨーロッパ地域

Disease outbreak news 2024年3月5日

発生の概要

2024年2月、オーストリア、デンマーク、ドイツ、スウェーデン、オランダは、2023年および2024年の初めにかけてオウム病患者の増加を報告しており、症例数は特に2023年11月から12月にかけて顕著でした。死亡例も5例報告されています。ほとんどの症例で、野鳥または家禽への曝露が報告されています。オウム病は、鳥類に感染することの多い細菌であるオウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci )(以下、「C. psittaci」という。)によって引き起こされる呼吸器感染症です。ヒトへの感染は主に感染した鳥の排泄物との接触によって起こり、C. psittaciが鳥たちに流行している地域で、ペットの鳥を扱う労働者、養鶏労働者、獣医師、ペットの鳥の飼い主、庭師等に発生します。関係各国は、潜在的な曝露や症例のクラスターを特定するための疫学調査を実施しています。さらに、鳥インフルエンザ検査のために提出された野鳥の検体を分析し、野鳥の間でC.psittaciが流行していることを確認するなどの対策も実施されています。WHOは引き続き状況を監視しており、入手可能な情報に基づき、この事象がもたらすリスクは低いと評価しています。
 

発生の詳細

オーストリア共和国
オーストリアでは、2023年に9つの連邦州のうち5つの州から14例のオウム病の確定症例が報告されましたが、それ以前の8年間は年間報告数は2例程度(1~4例)でした。2024年に入ってからは、2024年3月4日の時点で4例のオウム病が報告されており、今年に入って最初の報告は2024年1月24日でした。2023年および2024年に届け出られた症例はいずれも相互に関係はなく、海外渡航歴もなく、感染源として野鳥は除外されています。

オーストリアでは、オウム病の疑い例と確定例、および死亡例は届出が必要となっています。同国では、現在、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)が検査に使用され、患者数の増加を説明できるような検査方法の変更は報告されていません。

デンマーク王国
デンマークでは、2023年後半から2024年1月中旬にかけて、オウム病患者の著しい増加が報告されました。2024年2月27日の時点で、23人がRT-PCR法でC. psittaci陽性と判定されました。ほとんどの症例は北デンマーク(the North Denmark)地域、ジーランド(Zealand)地域、首都(the Capital)地域から報告されています。17例(74%)が入院し、うち15例が肺炎を起こし、4例が死亡しています。

疫学調査の結果、1症例がC. psittaci陽性となった家禽との関連が判明しています。その他の15症例のうち、曝露情報が得られている12症例(80%)は野鳥との接触(主に鳥の餌を介して)が示されました。3例については鳥との接触に関する情報はなく、残りの4例については鳥との直接接触は報告されていません。鳥との接触が報告された2症例では、疑わしい鳥の検査によりニワトリからの感染は否定されています。

過去5年間、デンマークでは毎年15~30例のヒトへの感染が報告されており、そのほとんどは家禽類(オウム、インコ、レース鳩などの趣味の鳥類)や狩猟で扱われるアヒルへの接触が原因でした。しかし、毎年数件の症例は、鳥との直接接触がないと報告され、環境曝露の可能性があります。デンマークでは、現在のオウム病症例の増加を説明できるような検査数の増加や検査方法の変更はされていません。

デンマーク国立衛生研究所(Statens Serum Institute)は、感染源として主に感染した鳥の糞が微粒子となって漂う空気の吸入との関連性を疑っています。現在、デンマークの野鳥におけるC. psittaciの有病率は不明であり、これを明らかにするために、鳥インフルエンザ検査のために提出された野鳥の検体を検査する計画が進んでいます。C. psittaciに感染している実際の個体数は、報告されているよりもはるかに多いと推測されています。一部の症例は、飼い慣らされたオウムや、無症状で細菌を保有する他の鳥類との接触に関連している可能性があるとされています。

ドイツ連邦共和国
ドイツでは、2023年12月にC. psittaci陽性者が増加し、5例が確認され、2023年には合計14例が確認されました。2024年には、2月20日の時点で、さらに5例の確定症例が報告されています。昨年からハノーファー(Hannover)市周辺に患者が集中していることを除いて、地理的なクラスターは報告されていません。ほぼ全例となる、19例中18例が肺炎を発症し、うち16例が入院しました。

2023年1月1日から2024年2月19日までに届出があった19例のうち、野鳥との接触に関する情報はありませんでしたが、症例の26%(5/19例)がオウム、ニワトリ、繁殖用のハトなどの飼い鳥との接触を報告していました。

過去5年間、ドイツでは年平均15件の症例が報告されており、最も症例数が多かったのは2022年(19例)、最も少なかったのは2019年(11例)となっています。通常、月に0~2例程度の症例が報告されています。過去5年間の症例の約72%にあたる78例中56例が抗体検査で確定診断されています。鳥への曝露に関する情報はしばしば報告されていません。

スウェーデン王国
スウェーデンでは、2023年11月下旬から12月上旬にかけて、2023年11月に7例、12月に19例と、異常に多くのオウム病患者が報告されました。これは、過去5年間のそれぞれの月と比較して、症例数が倍増していることを意味しています。

しかし2024年には、1月に10例、2月に3例が報告されるのみとなり、過去5年間の同時期の平均報告症例数を下回る結果となっています。しかし、全体として、スウェーデンでは2017年以降、オウム病の報告症例数は増加しています。

地理的には、2023年11月初旬の時点で報告された症例は、スウェーデンの21地域のうち8地域に分布しており、いずれも国の南側の3分の1に位置しています。報告された症例は、主に給餌器を介して小鳥の糞に接触しているとされており、数例は家禽(鶏またはインコ)を介して感染したと考えられています。

感染のスクリーニングにRT-PCR法を使用することが一般的になりつつあるため、診断方法の変化が症例検知の増加につながっていると考えられます。

オランダ王国
オランダでは、2023年12月下旬以降、検査確定したオウム病患者の増加が確認されており、2024年2月29日現在、21人がC. psittaci陽性と報告されています。これは例年の同時期の2倍の患者数となっています。過去10年間、同時期に報告された症例数は平均9例でした。

最近の報告によると、感染者は地理的に全国に広がっていますが、共通の感染源は特定されていません。患者の平均年齢は67歳(37~86歳)で、うち16例が男性(76%)でした。最近の患者はすべて入院し、1例が死亡しています。2023年12月下旬以降に報告された21症例のうち6例は野鳥の糞との接触、7例は飼い鳥の糞との接触があり、8例は鳥との接触は報告されていません。

オランダでは検査方法の変更は行われておらず、2018年以降、95%以上の届出がRT-PCR検査に基づいています。

オウム病の疫学

オウム病クラミジア(Chlamydophila psittaci: C. psittaci)は、人獣共通感染症であるオウム病をヒトに引き起こす細菌です。ヒトへの感染は一般に、C. psittaciが在来の鳥で流行している地域で、ペットの鳥を扱う労働者、養鶏労働者、獣医師、ペットの鳥の飼い主、庭師等に発生します。
 
C. psittaciは450種以上の鳥類に感染が認められており、イヌ、ネコ、ウマ、大型および小型反芻動物、ブタ、爬虫類を含む様々な哺乳類でも見つかっています。しかし、鳥類、特にペットの鳥類(たとえばフィンチ、カナリア、ハトなど)がヒトのオウム病の原因になることが最も多いです。ヒトへの感染経路は主に、呼吸器分泌物、乾燥した糞便、羽毛の粉塵から空気中に浮遊する微粒子の吸入が上げられます。感染に鳥との直接接触は必要ではないと考えられます。
 
一般に、オウム病は軽症で終わり、発熱や悪寒、頭痛、筋肉痛、乾いた咳などの症状があります。ほとんどの人は、細菌に感染してから5~14日以内に症状や徴候が出始めます。迅速な抗生物質治療が有効で、肺炎などの合併症を避けることができます。適切な抗生物質治療により、死亡に至ることは稀(100例に1例以下)です。

公衆衛生上の取り組み

ヒトのオウム病は関係諸国では届出が行われる疾患です。潜在的な曝露や患者のクラスターを特定するために、疫学的調査が実施されています。

各国のサーベイランスシステムは、野鳥の間でのC.psittaciの流行を検証するため、鳥インフルエンザ検査のために提出された野鳥の検体の分析を含めて、状況を注意深く監視しています。

WHOによるリスク評価

全体として、WHOヨーロッパ地域の5カ国で、C. psittaciの症例報告が異常かつ予想外の増加を見せました。 報告された患者の一部は肺炎を発症し入院に至り、死亡例も報告されています。
 
スウェーデンは、2017年以降、オウム病症例の増加を報告していますが、これは、より感度の高いポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査法が用いられるようになったことと関連している可能性があります。すべての国で報告されたオウム病症例数の増加は、それが真の症例増加なのか、より感度の高いサーベイランスや診断技術による増加なのかを判断するために、さらなる調査が必要です。
 
この病気を媒介する鳥が国境を越えて移動している可能性はありますが、現在のところヒトによって国内外感染が広がっている兆候はありません。一般的に、ヒトが他のヒトにオウム病の原因となる細菌を広めることはないため、ヒトからヒトへの感染が広がる可能性は低いと考えられます。また、正しく診断されれば、この病原菌は抗生物質で治療可能です。
 
WHOは引き続き状況を監視し、入手可能な情報に基づき、この事象がもたらすリスクは低いと評価しています。

WHOからのアドバイス

WHOはオウム病の予防と管理のために以下の対策を推奨しています。
 
・臨床医がC. psittaciが疑われる症例に対してRT-PCR法を用いて診断のための検査を行う意識を高めること。
・ケージ飼いまたは飼い鳥の飼い主、特にオウム類の飼い主の間で、この病原体は明らかな症状を伴わずに保持される可能性があるという認識を高めること。
・新たに入手した鳥を(検疫のために)隔離すること。病気の鳥がいたら、獣医師に連絡して検査と治療を受けること。
・野生鳥類におけるC. psittaciのサーベイランスを実施すること。これはオウム病以外の検査のために集められた検体を用いての確認も含まれます。
・ペットの鳥を飼っている人に、ケージを清潔に保ち、糞が鳥の間で広がらないようにケージを配置し、過密なケージを避けるよう奨励すること。
・鳥類やその糞便、それらの周囲のものを取り扱う際には、頻繁な手洗いを含む良好な衛生管理を推進すること。
・入院中の患者には、標準的な感染予防策と飛沫感染予防策を実施すること。

出典

Psittacosis – European region
Disease Outbreak News 5 March 2024
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON509