デング熱-世界の状況
海外へ渡航される皆さまへ
デング熱は主に熱帯地方の都市部で発生し、蚊が媒介して広がる病気です。以下の情報と対策を参考に、安全な旅行を心がけてください。
デング熱予防のための重要なポイント
- 蚊に刺されないようにする
✓長袖のシャツや長ズボンを着用し、できるだけ肌の露出を避けましょう。
✓屋内では網戸やエアコンを使用し、蚊の侵入を防ぎましょう。
✓蚊のいる環境では、就寝時には殺虫剤処理された蚊帳を利用し、昼寝の際も使用することをお勧めします。
- 旅行先の情報を確認する
✓WHOや渡航先の公衆衛生機関から提供される最新の情報を確認し、デング熱の流行状況を把握しましょう。
✓デング熱の予防と対策について、現地のガイドラインに従ってください。
- 健康管理
✓デング熱に感染した場合、早期の診断と適切な管理が重要です。
デング熱は特効薬がないため、予防が最も重要です。旅行中の安全を確保するために、これらの対策を徹底し、健康に気をつけて楽しい旅をお過ごしください。
状況概要
2024年4月30日現在、WHOには2024年に760万人以上のデング熱症例が報告されており、その内訳は確定症例340万人、重症症例16,000人以上、死亡者数3,000人以上です。過去5年間、世界的にデング熱患者の大幅な増加が報告されていますが、この増加は特に南北アメリカ地域で顕著であり、2024年4月末までに患者数はすでに700万人を超え、2023年の年間累積報告者数460万人を上回っています。2024年にデング熱の流行が確認されているのは90カ国で、そのすべてが正式な報告で把握されているわけではありません。また、多くの流行国では、デング熱の検出・報告体制が確立されていないため、世界的なデング熱の真の流行状況は過小評価されています。感染をより効果的に制御するためには、リアルタイムで堅牢なデング熱サーベイランスが必要であり、不顕性感染例、他のアルボウイルス(節足動物により媒介されるウイルス)との同時流行や誤診、記録されていない渡航歴などの懸念に対処する必要があります。これらの要因は、認識されないままデング熱がまん延し、非流行国における限局的な流行の潜在的なリスクとなる可能性があります。ヒトは、デングウイルスを保有する蚊に刺されることでデングウイルスに感染します。感染しても無症状か軽症の発熱性疾患で終わることがほとんどですが、中には、ショック、重度の出血、重度の臓器障害を伴う重症デング熱を発症する症例もあります。世界的なサーベイランスを強化し、経時的な傾向と疾病の発生状況を監視するため、WHOは世界的なデング熱サーベイランスシステムを構築し、WHOの全地域で月次報告を行うとともに、新しいダッシュボード(https://worldhealthorg.shinyapps.io/dengue_global/)を稼働しました。疾病の早期発見のための質の高いデング熱診断キットの不足、訓練を受けた臨床および媒介蚊駆除人材の不足、地域社会の意識の欠如など、世界的な資源不足のため、複数のアウトブレイクが同時に発生した場合、各国の対応能力は、ひっ迫してしまう状況にあります。それゆえ、WHOは緊急対応体制を確立し、リスクの高い国々を支援しています。デング熱の現在の発生規模、さらなる国際的な流行拡大の潜在的リスク、感染に影響を与える要因の複雑さを考慮し、WHOは依然として世界レベルでリスクが高いと評価しています。
世界概況
現在の状況
2024年4月30日現在、WHOには2024年に760万人以上のデング熱症例が報告されており、その内訳は確定症例340万人、重症症例16,000人以上、死亡者数3,000人以上です。過去5年間、世界的にデング熱症例の大幅な増加が報告されていますが、この増加は特に南北アメリカ地域で顕著であり、2024年4月末にはすでに700万人を超え、2023年の累積報告者数460万人を上回っています。さらに、これは2023年の同時期に報告された数の3倍です。デングウイルスはデングウイルスに感染した蚊に刺されることで人に感染しますが、ほとんどの場合、無症状か軽症の発熱性疾患です。しかし、一部の症例は重症デング熱を発症し、ショック、重度の出血、重度の臓器障害を伴うことがあります。
デング熱のリスクは、地域、国、地方を問わず同等です。デング熱の流行や新たな国への感染拡大のリスクが高まる要因には、以下のようなものがあります:
現在、2024年にデング熱の感染が確認されている国は90カ国ありますが、そのすべてが正式な報告により把握されているわけではありません。また、多くの流行国では、デング熱の検出・報告体制が確立していないため、世界的なデング熱の真の疾病負荷は過小評価されています。感染をより効果的に抑制するためには、リアルタイムで堅牢なデング熱サーベイランスを実施し、不顕性感染例、他のアルボウイルスとの共流行や誤診、記録されていない渡航歴などの懸念に対処する必要があります。これらの要因は、認識されないまま病気がまん延し、非流行国における限局的な流行の潜在的なリスクとなる可能性があります。
世界的なサーベイランスを強化し、経時的な傾向と疾病の発生状況を監視するため、WHOはWHOの全地域で月次報告を行う世界的なデング熱サーベイランスシステムを構築しました(ダッシュボード参照 https://worldhealthorg.shinyapps.io/dengue_global/)。 このシステムにより、報告がなかった28カ国を含む103カ国が把握されています(図1および2)。2024年の現時点で、ヨーロッパではデング熱の国内感染例が報告されていませんが、6月から11月までの媒介蚊の活動期間に国内感染例が発生した場合には、これらのデータが追加される予定です。
デング熱の現在の発生規模、さらなる国際的伝播の潜在的リスク、伝播に影響を与える要因の複雑さを考慮し、WHOは依然として世界レベルでリスクが高いと評価しています。
図1. 2024年1月から4月までにWHOに報告されたデング熱患者と死亡者の流行曲線*
*注:WHOのグローバルサーベイランスシステムに統合されている103カ国を含みますが、現時点でそのうち28カ国からの報告はありません。
図2:2024年1月から4月までにWHOに報告されたデング熱患者の地理的分布*
*注:WHOの世界デング熱サーベイランスシステムに統合されている103カ国のみが表示されています。
世界概況
現在の状況
2024年4月30日現在、WHOには2024年に760万人以上のデング熱症例が報告されており、その内訳は確定症例340万人、重症症例16,000人以上、死亡者数3,000人以上です。過去5年間、世界的にデング熱症例の大幅な増加が報告されていますが、この増加は特に南北アメリカ地域で顕著であり、2024年4月末にはすでに700万人を超え、2023年の累積報告者数460万人を上回っています。さらに、これは2023年の同時期に報告された数の3倍です。デングウイルスはデングウイルスに感染した蚊に刺されることで人に感染しますが、ほとんどの場合、無症状か軽症の発熱性疾患です。しかし、一部の症例は重症デング熱を発症し、ショック、重度の出血、重度の臓器障害を伴うことがあります。
デング熱のリスクは、地域、国、地方を問わず同等です。デング熱の流行や新たな国への感染拡大のリスクが高まる要因には、以下のようなものがあります:
- 流行地におけるデング熱の流行シーズンの早期開始と長期化
- 媒介蚊(ネッタイシマカAedes aegyptiとヒトスジシマカAedes albopictus)の分布の変化と生息数の増加
- 気候変動と周期的な気象現象(エルニーニョ現象やラニーニャ現象)の影響による多量の降水、湿度、気温の上昇
- 血清型の変化による集団免疫への影響
- 複雑な人道的危機や大規模な人口移動に直面し、公衆衛生への対応が損なわれている国の不安定な政治的・財政的側面、脆弱な保健システム
- 感染者や、媒介蚊等を運搬する可能性のある物品の移動
現在、2024年にデング熱の感染が確認されている国は90カ国ありますが、そのすべてが正式な報告により把握されているわけではありません。また、多くの流行国では、デング熱の検出・報告体制が確立していないため、世界的なデング熱の真の疾病負荷は過小評価されています。感染をより効果的に抑制するためには、リアルタイムで堅牢なデング熱サーベイランスを実施し、不顕性感染例、他のアルボウイルスとの共流行や誤診、記録されていない渡航歴などの懸念に対処する必要があります。これらの要因は、認識されないまま病気がまん延し、非流行国における限局的な流行の潜在的なリスクとなる可能性があります。
世界的なサーベイランスを強化し、経時的な傾向と疾病の発生状況を監視するため、WHOはWHOの全地域で月次報告を行う世界的なデング熱サーベイランスシステムを構築しました(ダッシュボード参照 https://worldhealthorg.shinyapps.io/dengue_global/)。 このシステムにより、報告がなかった28カ国を含む103カ国が把握されています(図1および2)。2024年の現時点で、ヨーロッパではデング熱の国内感染例が報告されていませんが、6月から11月までの媒介蚊の活動期間に国内感染例が発生した場合には、これらのデータが追加される予定です。
デング熱の現在の発生規模、さらなる国際的伝播の潜在的リスク、伝播に影響を与える要因の複雑さを考慮し、WHOは依然として世界レベルでリスクが高いと評価しています。
図1. 2024年1月から4月までにWHOに報告されたデング熱患者と死亡者の流行曲線*
*注:WHOのグローバルサーベイランスシステムに統合されている103カ国を含みますが、現時点でそのうち28カ国からの報告はありません。
図2:2024年1月から4月までにWHOに報告されたデング熱患者の地理的分布*
*注:WHOの世界デング熱サーベイランスシステムに統合されている103カ国のみが表示されています。
デング、チクングニア、ジカウイルスの同時流行
デング、チクングニア、ジカウイルスの地理的分布にはかなりの重複があり、これらはすべてヤブカ属の蚊によって媒介され、臨床的特徴も共通しているため、検査による確定診断がない場合には誤診や誤報告の原因となることがあります。そのため、大規模流行時のサーベイランス・データには、他の疾患の一方または両方の症例が誤って含まれる可能性があります。例えば、ブラジルのある研究(Ribas Freitas AR, et al., 2024)では、2023年にミナス・ジェライス州で発生した「アルボウイルス感染症の疑い」828,654例のうち、「デング熱の疑い」が84.4%を占め、「チクングニア熱の疑い」は15.6%でした。しかし、実験室で確認された症例におけるこの2つの疾患の実際の割合は、65.9%がチクングニア熱で、デング熱は34.1%でした。
チクングニア熱やジカ熱の国内感染を特に対象としたサーベイランスシステムは、多くの国で脆弱、もしくは存在していません。偏ったサーベイランスは政策決定を誤らせる可能性があるため、誤診はサーベイランス上の懸念事項です。デング熱、チクングニア熱、ジカ熱の3つのウイルスは、媒介する蚊が同じヤブカ属の蚊であり、地理的にも同じ地域で流行しているため、鑑別診断、蚊の駆除、啓発キャンペーンなど、多くの予防戦略も共通しています。しかし、これらの疾患には、リスク集団、患者管理、医療資源の利用に影響する重要な違いがあります。例えば、ジカウイルスは先天性ジカ症候群との関連から妊婦にとって特に危険です。したがって、3つのウイルスすべてを同時に監視するサーベイランスを拡大することは、公衆衛生当局がそれぞれの疾患の真の負担を正確に把握し、リスク評価を精緻化し、より効果的な公衆衛生介入を行うために臨床管理と資源配分を最適化するのに役立ちます。
報告時点で、2024年にチクングニア熱が25万件以上、ジカ熱が7,000件近くWHOに報告されています。図3は、3つのウイルスのうち少なくとも2つが現在または過去に流行していた報告のある国・地域を示しています。
図3:2024年4月30日時点で、複数のヤブカ属媒介ウイルス(デング熱、チクングニア熱、ジカ熱)が現在または過去に流行していた国・地域
地域概要
WHOアフリカ地域
アフリカ地域はアルボウイルスの影響を最も強く受けていますが、検査能力の問題から、正確な疾病負荷はよくわかっていません。現地住民もしくは約30のアフリカ諸国から帰国した旅行者の間で、デング熱が現在または過去に流行していた証拠があります。2023年には、WHOアフリカ地域の15カ国で発生が報告されました(ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、チャド、コートジボワール、エチオピア、ガーナ、ギニア、マリ、モーリシャス、ニジェール、ナイジェリア、サントメ・プリンシペ、セネガル、トーゴ)。
2024年、1月1日から4月28日までには、ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、コートジボワール、エチオピア、ケニア、マリ、モーリタニア、モーリシャス、ニジェール、サントメ・プリンシペ、セネガル、セーシェル共和国の13カ国で、デングウイルスの感染の流行が継続していることが確認されています。これら13カ国からは、合計32,925件のデング熱症例(確定症例1,495件、重症症例1,051件)と57件の死亡例が報告されており、さらに16カ国からは、症例報告がありません。WHOアフリカ地域では、4種類のデングウイルス血清型のうち3種類(DENV-1、DENV-2、DENV-3)の感染が確認されています。現在、デング熱負荷に基づく優先国は、ブルキナファソ、モーリシャス、マリです。ブルキナファソは、2023年初めから2024年4月28日までに、この地域の全患者の72%、全死亡者の89%を報告し、2024年には17,098人の患者(52%)、38人の死亡者(67%)を報告し、依然としてデング熱の疾病負荷が最も大きい国です。モーリシャスでは、2024年の最初の17週間に7,177人のデング熱患者と15人の死亡者が報告されましたが、現在までに検出されたのはDENV-2血清型のみです。マリでは2024年1月1日から4月28日の間に、合計3,231人のデング熱患者と3人の死亡者が報告されており、現在2つの血清型(DENV-1、DENV-3)が流行しています。被災国におけるデング熱対策における主な課題には、準備と対応の妨げとなる資金面の制約、迅速診断検査、媒介蚊駆除の専門家、検査技師、昆虫学者の不足などが挙げられます。
WHOアメリカ地域
デング熱は最も広くまん延しているアルボウイルスであり、アメリカ大陸で最も多くのアルボウイルス感染症の患者を発生させ、3~5年ごとに周期的に流行します。デング熱の重要媒介蚊であるヒトスジシマカは、カナダを除くアメリカ大陸のすべての国で定着していますが、カナダでは過去にデング熱の国内感染例は報告されていません。WHOアメリカ地域でデング熱の疾病負荷が最も大きかったのは2023年で、4,600,086例の疑い例(うち2,048,048例は検査診断例)が報告されました。しかし、2024年4月末時点には、すでに7,517,060人のデング熱疑い症例(検査診断例は3,528,635人)、7,374人(0.10%)の重症デング熱、3,504人の死亡(致命率(CFR; Case Fatality Ratio)0.05%)が報告されています。報告時点の2024年の疑い症例数は、2023年の同時期の3倍でした。また、北半球のいくつかの国では、通常1年の後半に発生する流行期にまだ入っていないにもかかわらず、相当数のデング熱疑い症例が報告されています。
2024年には、デング熱の疑い例が6,296,795件(検査診断例は3,040,736件)でブラジルが最も多く、アルゼンチン(疑い例420,867件)、パラグアイ(疑い例257,667件)、ペルー(疑い例199,659件)が続きます。 デング熱の4つの血清型すべてがこの地域で検出されており、2024年には6カ国(ブラジル、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ)ですべての血清型が同時に流行していることが報告されています。
WHO東地中海地域
デング熱の流行は、紛争の影響を受けている国、医療体制が脆弱な国、気候変動による異常な降雨の影響を受けている国で報告され続けています。この地域のほとんどの国で、ネッタイシマカと一部のヒトスジシマカが確認されています。武力紛争の影響を受けている地域では、詳細かつタイムリーな情報が不足しているため、デング熱への連携した対応が困難になっています。さらに、観光、経済、その他の分野に影響を及ぼす可能性があるなどの理由から、タイムリーな情報共有が課題となっています。
WHOヨーロッパ地域
デング熱はWHOヨーロッパ地域では流行しておらず、報告されている症例は主に旅行関連です。しかし、2010年以降、この地域では散発的なデング熱の国内感染が報告されており、5カ国( クロアチア、フランス、イタリア、ポルトガル(マデイラ島)、スペイン)からデング熱の感染が確認されています。2023年には、3カ国(イタリア(82人)、フランス(45人)、スペイン(3人))で国内感染例が報告されました 。2024年、ヨーロッパでは今のところデング熱の国内感染例は報告されていませんが、蚊の活動が始まる夏はまだ始まっていません。WHOヨーロッパ地域の多くの加盟国、特に欧州連合域外では、デング熱の検査能力が限られており、ほとんどの症例は初感染のため軽症であり、治療のために来院することもないため、実際のデング熱症例数は過小評価されている可能性があります。
強力な公衆衛生システム、早期診断、症例紹介、重症症例の管理を含む良好な臨床管理、比較的短い媒介蚊の季節、デング熱の流行に適さない環境などの要因は、輸入症例と国内感染症例の両方に対して、深刻な健康への影響及び感染拡大の軽減に寄与しています。この地域では、今夏から初秋にかけての限定的な流行の可能性に備えています。
デングウイルスを効率的に媒介するヒトスジシマカの分布域は、過去10年間でヨーロッパ地域の北部と西部に拡大しつつあります。加えて、キプロスやポルトガルのマデイラ島では、ネッタイシマカがすでに定着しています。この地域の大部分では冬が寒いため、年間を通じて感染することはありませんが、ヨーロッパ地域におけるデング熱感染の気候的適性は、潜在的な気温の上昇や冬の温暖化、媒介蚊の地理的分布域の拡大、ウイルス感染に適した気温など、気候の変化に伴って上昇する可能性があります。 また、湿度や降水量の変化(洪水や滞留水の発生)も、媒介蚊の個体群にとって好条件をもたらし、デングウイルスの感染適性を高める可能性があります。
WHO東南アジア地域
東南アジア地域では、すべての加盟国がデング熱の流行に適した環境条件を備えており、朝鮮民主主義人民共和国を除くすべての加盟国でデング熱の症例が系統的に報告されています。デング熱の発生には、各国の気候パターンに関連した明確な季節的パターンがあります。
2024年には、インドネシアでデング熱の発生が急増し、2024年4月30日現在で88,593人の患者が確認され、621人が死亡しており、2023年の同時期の約3倍となっています。2024年には、バングラデシュ、ネパール、タイが2023年の同時期と比較して患者数が増加していると報告されています。2024年1月から4月までのCFRは、ネパールの0%からバングラデシュの1.09%まで幅があった。しかし、症例の定義が国によって異なり、入院症例(検査診断例)のみを報告する国もあれば、自治体からの可能性例を報告する国もあるため、これらの値を解釈するには注意が必要です。
デング熱罹患率の急増は、循環している血清型の変化や気候変動など、さまざまな要因によって引き起こされた可能性が高いと考えられます。少なくとも5カ国(バングラデシュ、インド、ミャンマー、ネパール、タイ)では現在モンスーンの季節が始まっており、ヤブカ属の蚊の繁殖と生存に適した条件が整っています。さらに、都市化と人口移動が、この地域における感染負荷の増加に重要な役割を果たしています。流行している血清型の変化により、発症割合だけでなく、その後異なる血清型のデングウイルスに曝露される集団のリスクも増加し、その結果、重症デング熱の発症率や死亡率が高くなるリスクが高まります。
WHO西太平洋地域
西太平洋地域は、蚊が媒介するアルボウイルス性疾患、特にデング熱の疾病負荷が高く、地域の23カ国で流行しています。2024年には、オーストラリア、カンボジア、中国、ラオス人民民主共和国、マレーシア、シンガポール、ベトナムを含む7カ国からデング熱患者が報告されており、4月22日現在、マレーシアとベトナムが最も影響を受けており、それぞれ50,650人の患者と39人の死者(CFR 0.07%)、16 ,111人の患者と1人の死者(CFR 0.01%)が報告されています。気候変動、インフラの未整備、国境を越えた人口移動、COVID-19パンデミック後の国際旅行の再開といった要因が、さらなる国際的な感染拡大のリスクを高めています。6月に雨季が始まれば、患者数は増加の一途をたどると予想されます。
ここ数年、太平洋諸島の国・地域(PICs; Pacific Island countries/territories )から大規模なアウトブレイクは報告されていませんでしたが、2024年にはフィジー(3,841例)、サモア(261例)、トケラウ(2024年1月23日現在130例)、フランス領ポリネシア(43例)でアウトブレイクが報告されています。PICs間の人々の移動が続いており、ヤブカ属蚊が存在するため、伝播が活発な地域からの侵入によりアウトブレイクが発生するリスクがあります。
デング熱が流行している地域の加盟国では、季節性デング熱の流行が長期化しており、その規模や地理的な広がりも拡大していると報告されています。しかし、特にPICsでは、現在デング熱をデング熱様疾患として症候学的に報告しているため、症例の報告が過少であり、疾病負荷の推計の信頼性は低いと考えられます。さらに、報告されている重症デング熱による死亡者数は、国によってばらつきがあります。それらによって、国レベルと地方レベルでのCFRの一貫性がないように見えることがあります。
この地域の一部では、臨床管理、サーベイランス、検査室支援、リスクコミュニケーションとコミュニティ参加、運営管理における運用上のギャップに対処するため、デング熱に対する追加支援が必要です。また、太平洋地域の非流行国に対しては、既存のWHOの「ヤブカ属蚊媒介感染症のための国家サーベイランスと防除計画の枠組み」の遵守を改善する必要があり、特に気候、疾病、ウイルス/血清学、昆虫学的サーベイランスを統合した包括的な早期警報システムを確立する必要があります。
チクングニア熱やジカ熱の国内感染を特に対象としたサーベイランスシステムは、多くの国で脆弱、もしくは存在していません。偏ったサーベイランスは政策決定を誤らせる可能性があるため、誤診はサーベイランス上の懸念事項です。デング熱、チクングニア熱、ジカ熱の3つのウイルスは、媒介する蚊が同じヤブカ属の蚊であり、地理的にも同じ地域で流行しているため、鑑別診断、蚊の駆除、啓発キャンペーンなど、多くの予防戦略も共通しています。しかし、これらの疾患には、リスク集団、患者管理、医療資源の利用に影響する重要な違いがあります。例えば、ジカウイルスは先天性ジカ症候群との関連から妊婦にとって特に危険です。したがって、3つのウイルスすべてを同時に監視するサーベイランスを拡大することは、公衆衛生当局がそれぞれの疾患の真の負担を正確に把握し、リスク評価を精緻化し、より効果的な公衆衛生介入を行うために臨床管理と資源配分を最適化するのに役立ちます。
報告時点で、2024年にチクングニア熱が25万件以上、ジカ熱が7,000件近くWHOに報告されています。図3は、3つのウイルスのうち少なくとも2つが現在または過去に流行していた報告のある国・地域を示しています。
図3:2024年4月30日時点で、複数のヤブカ属媒介ウイルス(デング熱、チクングニア熱、ジカ熱)が現在または過去に流行していた国・地域
地域概要
WHOアフリカ地域
アフリカ地域はアルボウイルスの影響を最も強く受けていますが、検査能力の問題から、正確な疾病負荷はよくわかっていません。現地住民もしくは約30のアフリカ諸国から帰国した旅行者の間で、デング熱が現在または過去に流行していた証拠があります。2023年には、WHOアフリカ地域の15カ国で発生が報告されました(ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、チャド、コートジボワール、エチオピア、ガーナ、ギニア、マリ、モーリシャス、ニジェール、ナイジェリア、サントメ・プリンシペ、セネガル、トーゴ)。
2024年、1月1日から4月28日までには、ベナン、ブルキナファソ、カーボベルデ、コートジボワール、エチオピア、ケニア、マリ、モーリタニア、モーリシャス、ニジェール、サントメ・プリンシペ、セネガル、セーシェル共和国の13カ国で、デングウイルスの感染の流行が継続していることが確認されています。これら13カ国からは、合計32,925件のデング熱症例(確定症例1,495件、重症症例1,051件)と57件の死亡例が報告されており、さらに16カ国からは、症例報告がありません。WHOアフリカ地域では、4種類のデングウイルス血清型のうち3種類(DENV-1、DENV-2、DENV-3)の感染が確認されています。現在、デング熱負荷に基づく優先国は、ブルキナファソ、モーリシャス、マリです。ブルキナファソは、2023年初めから2024年4月28日までに、この地域の全患者の72%、全死亡者の89%を報告し、2024年には17,098人の患者(52%)、38人の死亡者(67%)を報告し、依然としてデング熱の疾病負荷が最も大きい国です。モーリシャスでは、2024年の最初の17週間に7,177人のデング熱患者と15人の死亡者が報告されましたが、現在までに検出されたのはDENV-2血清型のみです。マリでは2024年1月1日から4月28日の間に、合計3,231人のデング熱患者と3人の死亡者が報告されており、現在2つの血清型(DENV-1、DENV-3)が流行しています。被災国におけるデング熱対策における主な課題には、準備と対応の妨げとなる資金面の制約、迅速診断検査、媒介蚊駆除の専門家、検査技師、昆虫学者の不足などが挙げられます。
WHOアメリカ地域
デング熱は最も広くまん延しているアルボウイルスであり、アメリカ大陸で最も多くのアルボウイルス感染症の患者を発生させ、3~5年ごとに周期的に流行します。デング熱の重要媒介蚊であるヒトスジシマカは、カナダを除くアメリカ大陸のすべての国で定着していますが、カナダでは過去にデング熱の国内感染例は報告されていません。WHOアメリカ地域でデング熱の疾病負荷が最も大きかったのは2023年で、4,600,086例の疑い例(うち2,048,048例は検査診断例)が報告されました。しかし、2024年4月末時点には、すでに7,517,060人のデング熱疑い症例(検査診断例は3,528,635人)、7,374人(0.10%)の重症デング熱、3,504人の死亡(致命率(CFR; Case Fatality Ratio)0.05%)が報告されています。報告時点の2024年の疑い症例数は、2023年の同時期の3倍でした。また、北半球のいくつかの国では、通常1年の後半に発生する流行期にまだ入っていないにもかかわらず、相当数のデング熱疑い症例が報告されています。
2024年には、デング熱の疑い例が6,296,795件(検査診断例は3,040,736件)でブラジルが最も多く、アルゼンチン(疑い例420,867件)、パラグアイ(疑い例257,667件)、ペルー(疑い例199,659件)が続きます。 デング熱の4つの血清型すべてがこの地域で検出されており、2024年には6カ国(ブラジル、コスタリカ、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコ、パナマ)ですべての血清型が同時に流行していることが報告されています。
WHO東地中海地域
デング熱の流行は、紛争の影響を受けている国、医療体制が脆弱な国、気候変動による異常な降雨の影響を受けている国で報告され続けています。この地域のほとんどの国で、ネッタイシマカと一部のヒトスジシマカが確認されています。武力紛争の影響を受けている地域では、詳細かつタイムリーな情報が不足しているため、デング熱への連携した対応が困難になっています。さらに、観光、経済、その他の分野に影響を及ぼす可能性があるなどの理由から、タイムリーな情報共有が課題となっています。
WHOヨーロッパ地域
デング熱はWHOヨーロッパ地域では流行しておらず、報告されている症例は主に旅行関連です。しかし、2010年以降、この地域では散発的なデング熱の国内感染が報告されており、5カ国( クロアチア、フランス、イタリア、ポルトガル(マデイラ島)、スペイン)からデング熱の感染が確認されています。2023年には、3カ国(イタリア(82人)、フランス(45人)、スペイン(3人))で国内感染例が報告されました 。2024年、ヨーロッパでは今のところデング熱の国内感染例は報告されていませんが、蚊の活動が始まる夏はまだ始まっていません。WHOヨーロッパ地域の多くの加盟国、特に欧州連合域外では、デング熱の検査能力が限られており、ほとんどの症例は初感染のため軽症であり、治療のために来院することもないため、実際のデング熱症例数は過小評価されている可能性があります。
強力な公衆衛生システム、早期診断、症例紹介、重症症例の管理を含む良好な臨床管理、比較的短い媒介蚊の季節、デング熱の流行に適さない環境などの要因は、輸入症例と国内感染症例の両方に対して、深刻な健康への影響及び感染拡大の軽減に寄与しています。この地域では、今夏から初秋にかけての限定的な流行の可能性に備えています。
デングウイルスを効率的に媒介するヒトスジシマカの分布域は、過去10年間でヨーロッパ地域の北部と西部に拡大しつつあります。加えて、キプロスやポルトガルのマデイラ島では、ネッタイシマカがすでに定着しています。この地域の大部分では冬が寒いため、年間を通じて感染することはありませんが、ヨーロッパ地域におけるデング熱感染の気候的適性は、潜在的な気温の上昇や冬の温暖化、媒介蚊の地理的分布域の拡大、ウイルス感染に適した気温など、気候の変化に伴って上昇する可能性があります。 また、湿度や降水量の変化(洪水や滞留水の発生)も、媒介蚊の個体群にとって好条件をもたらし、デングウイルスの感染適性を高める可能性があります。
WHO東南アジア地域
東南アジア地域では、すべての加盟国がデング熱の流行に適した環境条件を備えており、朝鮮民主主義人民共和国を除くすべての加盟国でデング熱の症例が系統的に報告されています。デング熱の発生には、各国の気候パターンに関連した明確な季節的パターンがあります。
2024年には、インドネシアでデング熱の発生が急増し、2024年4月30日現在で88,593人の患者が確認され、621人が死亡しており、2023年の同時期の約3倍となっています。2024年には、バングラデシュ、ネパール、タイが2023年の同時期と比較して患者数が増加していると報告されています。2024年1月から4月までのCFRは、ネパールの0%からバングラデシュの1.09%まで幅があった。しかし、症例の定義が国によって異なり、入院症例(検査診断例)のみを報告する国もあれば、自治体からの可能性例を報告する国もあるため、これらの値を解釈するには注意が必要です。
デング熱罹患率の急増は、循環している血清型の変化や気候変動など、さまざまな要因によって引き起こされた可能性が高いと考えられます。少なくとも5カ国(バングラデシュ、インド、ミャンマー、ネパール、タイ)では現在モンスーンの季節が始まっており、ヤブカ属の蚊の繁殖と生存に適した条件が整っています。さらに、都市化と人口移動が、この地域における感染負荷の増加に重要な役割を果たしています。流行している血清型の変化により、発症割合だけでなく、その後異なる血清型のデングウイルスに曝露される集団のリスクも増加し、その結果、重症デング熱の発症率や死亡率が高くなるリスクが高まります。
WHO西太平洋地域
西太平洋地域は、蚊が媒介するアルボウイルス性疾患、特にデング熱の疾病負荷が高く、地域の23カ国で流行しています。2024年には、オーストラリア、カンボジア、中国、ラオス人民民主共和国、マレーシア、シンガポール、ベトナムを含む7カ国からデング熱患者が報告されており、4月22日現在、マレーシアとベトナムが最も影響を受けており、それぞれ50,650人の患者と39人の死者(CFR 0.07%)、16 ,111人の患者と1人の死者(CFR 0.01%)が報告されています。気候変動、インフラの未整備、国境を越えた人口移動、COVID-19パンデミック後の国際旅行の再開といった要因が、さらなる国際的な感染拡大のリスクを高めています。6月に雨季が始まれば、患者数は増加の一途をたどると予想されます。
ここ数年、太平洋諸島の国・地域(PICs; Pacific Island countries/territories )から大規模なアウトブレイクは報告されていませんでしたが、2024年にはフィジー(3,841例)、サモア(261例)、トケラウ(2024年1月23日現在130例)、フランス領ポリネシア(43例)でアウトブレイクが報告されています。PICs間の人々の移動が続いており、ヤブカ属蚊が存在するため、伝播が活発な地域からの侵入によりアウトブレイクが発生するリスクがあります。
デング熱が流行している地域の加盟国では、季節性デング熱の流行が長期化しており、その規模や地理的な広がりも拡大していると報告されています。しかし、特にPICsでは、現在デング熱をデング熱様疾患として症候学的に報告しているため、症例の報告が過少であり、疾病負荷の推計の信頼性は低いと考えられます。さらに、報告されている重症デング熱による死亡者数は、国によってばらつきがあります。それらによって、国レベルと地方レベルでのCFRの一貫性がないように見えることがあります。
この地域の一部では、臨床管理、サーベイランス、検査室支援、リスクコミュニケーションとコミュニティ参加、運営管理における運用上のギャップに対処するため、デング熱に対する追加支援が必要です。また、太平洋地域の非流行国に対しては、既存のWHOの「ヤブカ属蚊媒介感染症のための国家サーベイランスと防除計画の枠組み」の遵守を改善する必要があり、特に気候、疾病、ウイルス/血清学、昆虫学的サーベイランスを統合した包括的な早期警報システムを確立する必要があります。
デング熱の疫学
デングウイルスは、世界中の熱帯および亜熱帯気候の地域で、主に都市部や準都市部で感染した蚊に刺されることによってヒトが感染します。この病気を媒介する主な媒介蚊はネッタイシマカ(Aedes aegypti)ですが、ヨーロッパや北米など一部の地域ではヒトスジシマカ (Aedes albopictus)がより広く生息しています。
デングウイルスには4つの血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)があります。1つの血清型に感染すると、同じ血清型に対しては長期間の免疫が得られますが、他の血清型に対しては一過性の免疫しか得られず、その後2度目として異なる血清型に感染すると重症デング熱のリスクが高まります。デング熱はほとんどの場合、無症状か軽度の発熱性疾患です。しかし、ショック、重度の出血、重度の臓器障害を伴う重症デング熱を発症する症例もあります。この段階は熱が下がった後に始まることが多く、激しい腹痛、持続的な嘔吐、歯茎からの出血、体液の貯留、嗜眠や落ち着きのなさ、肝臓肥大などの警告サインが先行します。
デング熱に特異的な治療法はありませんが、デング熱患者の適時の診断、重症デング熱の警告サインの識別、適切な臨床管理が重症デング熱への進行と死亡を防ぐ治療の重要な要素となっています。
デングウイルスには4つの血清型(DENV-1、DENV-2、DENV-3、DENV-4)があります。1つの血清型に感染すると、同じ血清型に対しては長期間の免疫が得られますが、他の血清型に対しては一過性の免疫しか得られず、その後2度目として異なる血清型に感染すると重症デング熱のリスクが高まります。デング熱はほとんどの場合、無症状か軽度の発熱性疾患です。しかし、ショック、重度の出血、重度の臓器障害を伴う重症デング熱を発症する症例もあります。この段階は熱が下がった後に始まることが多く、激しい腹痛、持続的な嘔吐、歯茎からの出血、体液の貯留、嗜眠や落ち着きのなさ、肝臓肥大などの警告サインが先行します。
デング熱に特異的な治療法はありませんが、デング熱患者の適時の診断、重症デング熱の警告サインの識別、適切な臨床管理が重症デング熱への進行と死亡を防ぐ治療の重要な要素となっています。
公衆衛生上の取り組み
疾病を早期に発見するための良質なデング熱診断キットの不足、訓練を受けた臨床および媒介蚊駆除スタッフの不足、地域社会の認識など、世界的な資源不足のため、複数の同時発生に対応する各国の全体的な能力は、引き続き逼迫しています。緊急対応体制が確立され、WHOはリスクの高い国々を支援していますが、ニーズが利用可能な資源を上回る状況が続いています。ユニセフをはじめとするパートナーとの調整により、共通の分析と優先順位設定ツールが開発され、実施されています。とはいえ、パートナーの協力を維持し、強化することが不可欠です。
各国は、デング熱やその他のアルボウイルス(蚊が媒介するウイルス)の効果的な管理、予防、制圧の成功例を学び、取り入れるために、研究プロジェクトを強化することが奨励されています。WHOは現地の介入策を綿密に検討し、最良のエビデンスのもとで公衆衛生プログラムに受け入れ、推奨することで、デング熱による健康への影響の拡大を軽減するための効果的な対策の迅速な実施を促しています。
WHOでは、この事象への対応において加盟国を支援するため、以下の活動を実施しています:
WHO保健業務支援
クリニカルマネジメント
各国は、デング熱やその他のアルボウイルス(蚊が媒介するウイルス)の効果的な管理、予防、制圧の成功例を学び、取り入れるために、研究プロジェクトを強化することが奨励されています。WHOは現地の介入策を綿密に検討し、最良のエビデンスのもとで公衆衛生プログラムに受け入れ、推奨することで、デング熱による健康への影響の拡大を軽減するための効果的な対策の迅速な実施を促しています。
WHOでは、この事象への対応において加盟国を支援するため、以下の活動を実施しています:
- 調整とリーダーシップ
- 世界的な対応を調整するためのWHO健康緊急事態プログラム/顧みられない熱帯病(NTD ; Neglected Tropical Diseases)合同インシデント管理システムチームの設立
- デング、チクングニア、ジカウイルスに対応するため、世界的なアルボウイルスイニシアチブに沿った統合的な対応
- 2030年までのWHO世界NTDロードマップおよび2017-2030年までの世界的ベクター対策に貢献する現在の世界的対応戦略
- 2024年3月7日、デング熱の世界的流行への緊急対応を支援するための世界緊急時対応基金(CFE ; Contingency Fund for Emergencies)550万米ドルの放出
- デング熱対策のための地域活動計画を策定し、地域と国の資源動員の促進
- 2024年のWHO緊急保健アピールへのデング熱の含入
- デング熱およびその他のアルボウイルスに対する戦略的準備・準備・対応計画(SPRRP ; Strategic Preparedness, Readiness and Response Plan)の策定(2024年5月末開始予定 )
- 資金動員活動とドナー・ブリーフィングの組織
- 緊急対応枠組み(ERF ; Emergency Response Framework)の要件に従い、性的搾取、虐待、ハラスメントの防止と対応(PRSEAH ; Preventing and Responding to Sexual Exploitation, Abuse and Harassment)の介入をデング熱の活動対応への統合。介入の内容は、対応の種類と段階(積極的対応または準備/準備モード)、状況、場所、規模によって異なります。
- 供給を調整し、物資への最適なアクセスを確保するための主要なワンヘルス・パートナーとの連携
- デング熱の診断キットを確保するために供給元と連絡を取り、大量の需要にも対応できる体制を維持するための取り組み(運用サポート・ロジスティクス(OSL; Operational Support and Logistics)
- 疫学、検査室、症例管理、リスクコミュニケーション・コミュニティエンゲージメント(RCCE; Risk Communication and Community Engagement )、媒介蚊の制御など、発生中のすべてのアウトブレイクに対する技術支援の提供
- 世界発生警報・対応ネットワーク(GOARN; Global Outbreak Alert and Response Network )および待機パートナーを通じた展開の支援
- 研究イニシアチブの提唱
WHO保健業務支援
クリニカルマネジメント
- アルボウイルス臨床ガイダンス更新のためのシステマティックレビューが進行中、2024年5月までに完了予定
- 2024年7月、デング熱およびその他のアルボウイルス臨床管理勧告について議論するためのガイドライン開発グループの会合が予定されています
- CFRの削減を目的とした、入院患者および外来患者の臨床管理をサポートするための標準化された書式に関する作業
- COVID-19の臨床データプラットフォームを拡大し、デング熱やその他の感染症のアウトブレイクを含めます
- OpenWHOのオンライントレーニングコースの開発
- 東南アジア地域におけるデング熱症例管理トレーニングおよび地域専門家による各国への指導者研修の促進
- デング熱やその他の媒介感染症を含む、WHOの「バーチャル患者」研修イニシアチブの拡大。
- 健康関連情報の管理
- WHOの世界的なデング熱サーベイランスシステムは、症例、確定症例、重症症例、死亡例、血清型に関するデータを収集し、各国が毎月報告しています。なお、すべての国のデータがまだ入手可能なわけではなく、システムは今後も開発を続け、入手可能になり次第追加していく予定です。
- WHOヨーロッパ地域からのデータは、自国感染症例が報告された場合に含まれます。EURO(ヨーロッパ地域事務所)の加盟国には、6月1日から12月1日まで開始されるサーベイランスの強化が通知され、デング熱の自国感染例があれば国際保健規則を通じて提出するよう要請されています。
- グローバル・デング熱サーベイランス・ダッシュボードが立ち上げられた。地域レベルのダッシュボードには、より詳細なデータ(地方、年齢、性別)が含まれる予定です。
- 加盟国は、共同での症例定義や症例分類、コミュニティベースの報告、ホットスポットマッピングのためのベクターサーベイランスデータの統合など、サーベイランスおよび報告システムの改善を支援します。
- リスクコミュニケーションとコミュニティへの関与(RCCE)
- RCCEツールキットの開発と試験的実施
- デング熱トピックシートを用いた地域住民との会話キットの適用
- 健康増進のための主要メッセージの作成、試用
- 研究
- デング熱の迅速かつ正確な確認のための暫定的な診断検査ガイドの開発
- WHOのNTD-WHE専門家評価パネルによる診断検査用デング熱の製品評価計画
- OSLとともに、臨床検査および診断のための重要物資の供給の保証
- ベクターコントロール
- デング熱媒介蚊対策ガイダンスの更新に向けた体系的レビューの進行
- 新たなベクター対策ツールの運用マニュアルの作成の計画
- 水・衛生プログラム(WASH; Water, Sanitation, and Hygiene )と媒介感染症に関するポジションペーパーを発表(Water and sanitation interventions to prevent and control mosquito borne disease: focus on emergencies (who.int))。
- モーリシャスへの現場活動のための技術支援提供
- 2024年7月までに世界レベルでの殺虫剤耐性モニタリングの報告
- OpenWHOにおけるオンライントレーニングコースの開発
- 旅行者向けのデング熱に関する情報を発表(Dengue information for travelers (who.int))。
- 国際保健規則と国境保健(ベクターコントロール)
- 海外旅行による媒介蚊の拡散を防止または減少させるための輸送手段の消毒に関するエビデンスレビュー
- 航空機の消毒を含む検疫における媒介蚊のサーベイランスとコントロールのためのOpenWHOオンラインコースの開発
WHOによるリスク評価
デング熱はデングウイルスによって引き起こされる蚊媒介性のウイルス性疾患で、公衆衛生に深刻な影響を及ぼす可能性があります。デング熱感染は、世界的に最も一般的な節足動物媒介ウイルス感染症であり、特に熱帯・亜熱帯諸国に影響を及ぼしています。 デングウイルスは高い罹患率と死亡率をもたらす流行を引き起こす可能性があります。このウイルスは主に、感染したヤブカ属蚊(最も一般的なのはネッタイシマカとヒトスジシマカ)に刺されることで感染します。蚊の増殖と繁殖は、気温、湿度、降雨量などの気候要因に左右されます。アルボウイルスは感染した旅行者(輸入症例)によって運ばれることがあり、媒介蚊とウイルス感受性が高い集団が存在すれば、新たな感染地域を作り出す可能性があります。デングウイルスはアルボウイルスであるため、ネッタイシマカが生息する地域に住むすべての集団が危険にさらされているが、その影響は最も脆弱な人々に大きく、アルボウイルス感染症対策プログラムでは集団発生に対応するための十分なリソースがないのが現状です。
デング熱の血清型(DENV 1~4)のいずれかに感染しても、他の血清型に対する交差防御免疫は得られないため、デング熱流行地域に住む人は一生の間に4回デング熱に感染する可能性があります。主に循環している血清型が変化すると、その後に異なる種類のデングウイルス血清型に曝露する集団のリスクが高まり、重症デング熱の発症率や死亡率が高くなります。 重症デング熱は血管漏出、出血症状、血小板減少、低血圧性ショックを特徴とし、臓器不全や死に至ることもあります。年齢、感染間隔、抗体特性、ウイルス因子、宿主特異的遺伝がリスク要因となっています。
現在までの世界的なデング熱の状況をモニタリングした結果、デング熱の流行がより拡大し、予測しにくくなるリスクが高まっていることに関連する要因がいくつかあることがわかりました;
WHOは2023年11月30日、デング熱の世界的リスクを高リスクと評価し、その後12月1日に世界レベルでWHO内部緊急対応グレードをG3としました。デング熱の現在の発生規模、さらなる国際的拡大の潜在的リスク、伝播に影響する要因の複雑さを考慮すると、世界レベルでの全体的リスクは依然として高いと評価され、デング熱は公衆衛生に対する世界的脅威であり続けています。
デング熱の血清型(DENV 1~4)のいずれかに感染しても、他の血清型に対する交差防御免疫は得られないため、デング熱流行地域に住む人は一生の間に4回デング熱に感染する可能性があります。主に循環している血清型が変化すると、その後に異なる種類のデングウイルス血清型に曝露する集団のリスクが高まり、重症デング熱の発症率や死亡率が高くなります。 重症デング熱は血管漏出、出血症状、血小板減少、低血圧性ショックを特徴とし、臓器不全や死に至ることもあります。年齢、感染間隔、抗体特性、ウイルス因子、宿主特異的遺伝がリスク要因となっています。
現在までの世界的なデング熱の状況をモニタリングした結果、デング熱の流行がより拡大し、予測しにくくなるリスクが高まっていることに関連する要因がいくつかあることがわかりました;
- ネッタイシマカの分布域の変化
- 媒介昆虫と宿主の相互作用に適した環境を助長する都市化と人間活動
- 気候変動による気象パターンの変化
- 政治的・財政的に不安定な中での脆弱な医療システム
- デング熱の主な血清型の変化と複数の血清型の混在
- 特に他のアルボウイルスが共存している地域での臨床診断における課題
- 不十分な検査体制
- COVID-19を含む、進行形のアウトブレイクの同時発生の長期化
- 流行規模に対する備えが不十分で、デング熱患者の臨床管理能力の低さ
- デング熱に特化した治療法の欠如
- 媒介蚊対策活動への地域社会の関与と動員の欠如、媒介蚊の監視・制御能力の不足
- 関係者間の調整不足、慢性的な資金不足、ドナーからの関心の低さ
- 社会的決定要因への対処を担当する政府部門の関与の欠如。例えば、都市計画、水と衛生の供給、固形廃棄物管理、住宅改善など、感染リスクに関連する条件の改善を目的とした政策の実施など
- ベクター対策活動における地域社会の関与と動員の欠如
WHOは2023年11月30日、デング熱の世界的リスクを高リスクと評価し、その後12月1日に世界レベルでWHO内部緊急対応グレードをG3としました。デング熱の現在の発生規模、さらなる国際的拡大の潜在的リスク、伝播に影響する要因の複雑さを考慮すると、世界レベルでの全体的リスクは依然として高いと評価され、デング熱は公衆衛生に対する世界的脅威であり続けています。
WHOからのアドバイス
デング熱は主に熱帯地方の都市部の病気で、原因となるウイルスはヒトとネッタイシマカが関与するサイクルで維持されています。同じ蚊がチクングニアウイルスやジカウイルスを媒介します。媒介蚊の繁殖地が人間の居住地に近いことは、デングウイルス感染の重大な危険因子です。ヤブカ属の蚊はデングウイルス感染者を刺した後にウイルスに感染し、その後ウイルスを周囲の人に感染させます。従って、このサイクルにより、感染蚊は家庭内や感染者の近隣でデングウイルスを蔓延させ、集団感染を引き起こす可能性があるのです。
効果的な媒介蚊対策は、デング熱の予防と制御の鍵となります。ベクターコントロール活動は、住居、職場、学校、病院など、人とベクターが接触する危険性のあるすべての場所を対象とする必要があります。WHOはヤブカ属の蚊を駆除するため、総合的ベクター管理(IVM ; Integrated Vector Management)を推進しています。IVM には、繁殖の可能性のある場所の除去、媒介蚊の個体数の減少、個人の曝露の最小化などが含まれます。これには、幼虫と成虫に対するベクター対策(すなわち、環境管理と発生源の削減)、特に貯水方法の監視、家庭用貯水容器の週1回の排水と洗浄、WHOが認定した適切な用量の幼虫駆除剤を使用した非飲料水への幼虫駆除、医療施設からのウイルス拡散を抑えるための発熱/デング熱入院患者への殺虫剤処理ネット(ITN; Insecticide-Treated NPets )の配布などが含まれます。デング熱に感染した蚊を迅速に封じ込めるための屋内空間散布は、人口密集地では難しいかもしれません。
屋外での活動時の個人的な防護対策としては、露出した皮膚への局所的な忌避剤、衣服の処理、長袖のシャツとズボンの使用などがあります。窓やドアの網戸は蚊の侵入を防ぐことができ、ITNは日中の睡眠中に蚊に刺されるのを防ぐことができます。昼行性のネッタイシマカのため、夜明けから夕暮れまでは個人的な防護対策が推奨されます。これらの対策と蚊の駆除は、媒介蚊が昼間に刺す蚊であることから、職場や学校も対象とすべきです。昆虫学的サーベイランスを実施し、容器内のヤブカ属蚊の繁殖可能性を評価することで、媒介蚊駆除活動の目標を定め、殺虫剤耐性を監視し、最も効果的な殺虫剤ベースの介入策の選択に役立てるべきです。
デング熱感染に対する特効薬はありません。しかし、早期発見と症例管理のための適切な医療機関へのアクセスにより死亡率を低下させることができます。また、デング熱の症例を警告サインとともに迅速に発見し、重症の症例を三次医療施設にタイムリーに紹介することも可能です。感染症サーベイランスは、すべての感染国、そして世界規模で引き続き強化されるべきです。可能であれば、症例紹介体制の強化や、デングウイルスの確認と血清型分類に資源を割くべきです。
デング熱に対するワクチン接種は、媒介蚊の駆除、適切な症例管理、地域社会の教育、地域社会の関与を含む、デング熱を制圧するための統合戦略の一環としてとらえるべきです。WHOは、デング熱の伝播強度が高い環境において、6~16歳の小児にTAK-003(唯一入手可能なワクチン)を使用することを推奨しています。
各国は、特に臨床試験に関する最近のWHOの勧告 (https://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/WHA75/A75_R8-en.pdf)を踏まえ、研究プロジェクトの強化を通じて、デング熱やその他のアルボウイルスの効果的な症例管理、予防、制御の成功例を学び、採用することが奨励されます。デング熱の臨床サーベイランスや症例報告・死亡報告を実施することは、この病気をより深く理解する上で特に有用であり、新しい治療法の臨床試験や質の向上イニシアチブを開発するための基盤にもなります。
WHOは、地域の介入策を綿密に検討し、最良のエビデンスのもとで、公衆衛生プログラムに受け入れ、推奨し、デング熱による健康への影響の拡大を軽減するための早期適応を促進すべきです。 保健省およびパートナーは、デング熱による健康への影響の拡大を軽減するための早期の適応を促進するため、地域の介入策を綿密に検討し、公衆衛生プログラムに受け入れ、推奨すべきです。ただ、WHOは、一般的な渡航制限や貿易制限を各国に適用することは推奨しておりません。
効果的な媒介蚊対策は、デング熱の予防と制御の鍵となります。ベクターコントロール活動は、住居、職場、学校、病院など、人とベクターが接触する危険性のあるすべての場所を対象とする必要があります。WHOはヤブカ属の蚊を駆除するため、総合的ベクター管理(IVM ; Integrated Vector Management)を推進しています。IVM には、繁殖の可能性のある場所の除去、媒介蚊の個体数の減少、個人の曝露の最小化などが含まれます。これには、幼虫と成虫に対するベクター対策(すなわち、環境管理と発生源の削減)、特に貯水方法の監視、家庭用貯水容器の週1回の排水と洗浄、WHOが認定した適切な用量の幼虫駆除剤を使用した非飲料水への幼虫駆除、医療施設からのウイルス拡散を抑えるための発熱/デング熱入院患者への殺虫剤処理ネット(ITN; Insecticide-Treated NPets )の配布などが含まれます。デング熱に感染した蚊を迅速に封じ込めるための屋内空間散布は、人口密集地では難しいかもしれません。
屋外での活動時の個人的な防護対策としては、露出した皮膚への局所的な忌避剤、衣服の処理、長袖のシャツとズボンの使用などがあります。窓やドアの網戸は蚊の侵入を防ぐことができ、ITNは日中の睡眠中に蚊に刺されるのを防ぐことができます。昼行性のネッタイシマカのため、夜明けから夕暮れまでは個人的な防護対策が推奨されます。これらの対策と蚊の駆除は、媒介蚊が昼間に刺す蚊であることから、職場や学校も対象とすべきです。昆虫学的サーベイランスを実施し、容器内のヤブカ属蚊の繁殖可能性を評価することで、媒介蚊駆除活動の目標を定め、殺虫剤耐性を監視し、最も効果的な殺虫剤ベースの介入策の選択に役立てるべきです。
デング熱感染に対する特効薬はありません。しかし、早期発見と症例管理のための適切な医療機関へのアクセスにより死亡率を低下させることができます。また、デング熱の症例を警告サインとともに迅速に発見し、重症の症例を三次医療施設にタイムリーに紹介することも可能です。感染症サーベイランスは、すべての感染国、そして世界規模で引き続き強化されるべきです。可能であれば、症例紹介体制の強化や、デングウイルスの確認と血清型分類に資源を割くべきです。
デング熱に対するワクチン接種は、媒介蚊の駆除、適切な症例管理、地域社会の教育、地域社会の関与を含む、デング熱を制圧するための統合戦略の一環としてとらえるべきです。WHOは、デング熱の伝播強度が高い環境において、6~16歳の小児にTAK-003(唯一入手可能なワクチン)を使用することを推奨しています。
各国は、特に臨床試験に関する最近のWHOの勧告 (https://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/WHA75/A75_R8-en.pdf)を踏まえ、研究プロジェクトの強化を通じて、デング熱やその他のアルボウイルスの効果的な症例管理、予防、制御の成功例を学び、採用することが奨励されます。デング熱の臨床サーベイランスや症例報告・死亡報告を実施することは、この病気をより深く理解する上で特に有用であり、新しい治療法の臨床試験や質の向上イニシアチブを開発するための基盤にもなります。
WHOは、地域の介入策を綿密に検討し、最良のエビデンスのもとで、公衆衛生プログラムに受け入れ、推奨し、デング熱による健康への影響の拡大を軽減するための早期適応を促進すべきです。 保健省およびパートナーは、デング熱による健康への影響の拡大を軽減するための早期の適応を促進するため、地域の介入策を綿密に検討し、公衆衛生プログラムに受け入れ、推奨すべきです。ただ、WHOは、一般的な渡航制限や貿易制限を各国に適用することは推奨しておりません。
備考
厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。
For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “[Title]. Geneva: World Health Organization; [Year]. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “[Title]. Geneva: World Health Organization (WHO); [Year]. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.
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