コレラ-アンゴラ共和国(2025年3月28日)

状況概要

2025年1月以降、アンゴラ共和国(以降、アンゴラ)ではコレラが流行しています。2025年3月23日現在、合計8,543例の患者と329例の死亡者(致命率3.9%)が報告されており、死亡者の3分の1は病院外で発生しています。流行はアンゴラの全21州のうち16州に急速に拡大し、すべての年齢層が罹患していますが、負荷が最も高いのは20歳未満です。保健省は、WHOとパートナーからの支援を受けて、症例の発見、迅速対応チームの派遣、コミュニティとの連携、ワクチン接種キャンペーンなどを通じて、コレラ発生への対応に当たっています。急速に進展するアウトブレイク、継続的な雨季、近隣諸国との国境を越えた移動を考慮すると、WHOは、アンゴラとその周辺地域でのさらなる感染のリスクは非常に高いと評価しています。

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発生の詳細

アンゴラでは2025年1月初旬に最初のコレラの症例が報告されました。2025年3月23日現在、累計8,543例のコレラ患者が報告されており、329例が死亡しています(致命率3.9%)。そのうち112例(34%)は病院外で発生しました。入院患者の致命率は2.5%で、現在253例が入院しています。このアウトブレイクでは、当初報告数が急増し、2月初旬には週1,000例を超えました。その後、報告数は減少してから横ばいとなり、1ヵ月間は週約800例で推移していましたが、3月23日の週には再び報告数が急増し、週あたりの報告数が1,200例近くに達し、過去最多となりました。

図1. 2025年3月23日現在のコレラ報告週別報告数(n=8,543)。データソース


年齢群別では6~14歳が最も多く、1,976例(全体の23.1%)、次いで15~24歳が1,850例(21.7%)、25~34歳が1,475例(17.3%)でした。報告された症例の性別の半数強は男性でした(4,725例、55.3%)。

図2. コレラ患者(n=8,543)の年齢群別、性別分布(2025年3月23日現在)。データソース


コレラの流行は、アンゴラの21州のうち16州(76.2%)に広がり、報告された症例数が最も多いのはルアンダ州(4,143例、48.5%)とベンゴ州(2,485例、29.1%)です。

図3. 2025年3月23日現在の州別コレラ患者報告数(n=8543)。データソース

 

コレラの疫学

コレラは、コレラ菌に汚染された食物や水を摂取することによって引き起こされる急性の下痢症を伴う感染症です。コレラは主に、不衛生な環境、及び安全な水へのアクセスが限られていることに関連しており、これらが高い罹患率の要因となります。また、重度の急性水様性下痢により高度の脱水を引き起こし、速やかに治療を受けないと死亡率の原因になります。感染拡大の速度は、曝露の程度、集団の脆弱性、環境条件によって異なります。コレラは小児と成人の両方に感染し、治療せずに放置すると死に至ることもあります。
潜伏期間は、汚染された食品や水を摂取してから12時間から5日間です。ほとんどの感染者は無症状のままですが、最長10日間は糞便中に細菌を排出し、他の人に感染を広げる可能性があります。有症状者のほとんどは軽症から中等症ですが、一部は重症の下痢や嘔吐を伴い、生命を脅かす脱水症状を引き起こすこともあります。しかし、コレラは適切に治療すれば、多くの場合、経口補水液の迅速な投与で回復させることができます。
人道的危機や洪水などの自然災害により、水や衛生システムが破壊され、住民が過密で不衛生な環境に置かれざるを得ない状況になってしまうことで、コレラ感染のリスクが高まります。コレラの発生を抑えるには、サーベイランス、水・衛生プログラム(WASH; Water, Sanitation, and Hygiene)への介入、社会動員、適切な症例管理、経口コレラワクチン接種を組み合わせた多部門的アプローチが必要です。
アンゴラでは1970年代からコレラの発生が繰り返されており、1987年(報告数16,000人、死者数1,460人)と2006年(報告数67,000人以上、死者数2,700人)に大きな流行がありました。1987年から1996年までコレラは毎年発生していましたが、2006年には10年ぶりに再流行しました。それ以来、隣接するコンゴ民主共和国でのコレラの発生と関連し、劣悪な水と衛生環境によって悪化した断続的な流行が、特に2011年から2013年、2016年から2018年にかけて、雨季をピークにして発生しています。
2021年以降、世界的にコレラ患者が増加し、その分布も広がっています。2025年1月1日から3月23日までに、WHOの3つの地域にまたがる24カ国で、合計93,172例の患者と1,197例の死亡者が報告され、アフリカ地域が最多(18カ国から55,622例)となっています。

公衆衛生上の取り組み

調整
  • 保健省は、WHOやユニセフなどの国際的なパートナーの支援を受け、コレラ流行の影響を軽減するための取り組みを主導しています。保健省は、効率的な対応を確保するため、国内外のパートナーと積極的に連携するとともに、保健システムの感染症管理能力を強化しています。
疫学サーベイランスと検査
  • WHOは、120人以上の医療従事者に対し、積極的な症例発見と報告、迅速な感染調査、データ処理および予防対策のためのコミュニティ動員に関する研修を行いました。
  • ベンゴ州では、WHOは13の迅速対応チームの配備を支援しており、これらのチームは、新たな感染者を特定し、それに対応するために、感染地域の中で毎日活動しています。
  • 保健省は、WHOの支援を受けて、ルアンダのデータ管理専門家の能力を向上させ、症例マッピングの改善、サーベイランスの強化、保健所での症例検出と分析の強化を図っています。
  • WHOはさらに、罹患者のタイムリーな特定、コミュニティへの働きかけの支援、感染対策の管理、住民の保護を確実に行うため、対策チームを強化し、政府を支援しています。
症例管理
  • ベンゴ州のコレラ治療センターは、報告数の増加に対応し、医療能力を強化するために拡張されています。
  • WHOは、治療プロトコルや臨床ポスターの導入支援などの技術支援を通じて、症例管理を支援しています。
  • WHOは、コレラ治療ユニットやコレラ治療センターで働く臨床スタッフに対する包括的な研修と監督を、流行の影響を受けている州全体で促進しています。
  • WHOは、コレラ治療ユニット、コレラ治療センター、経口補水ポイントの設置を支援し、救命治療へのアクセスを拡大しました。
感染予防管理(IPC ; Infection prevention and control)、WASH
  • ユニセフは、63の学校で64,500人以上の子どもたちに衛生用品を配布し、最も脆弱な人々が必要な資源を利用できるようにすることで、WASHイニシアチブを支援しています。
  • 流行の影響を受けたコミュニティに貯水タンクを設置することで、コレラの感染を抑える上で重要な要素である安全な飲料水へのアクセスを改善しています。
  • コレラやその他の水系感染症の蔓延を緩和し、より広範な公衆衛生の目標に沿った持続可能な解決策を推進するために、水、衛生設備、衛生インフラの長期的な改善が優先されています。
リスクコミュニケーションとコミュニティ・エンゲージメント
  • 安全な行動を促進し、ワクチン接種率を向上させるための地域住民への働きかけが、宗教指導者や地域社会の有力者、地元団体の支援を受けて進められています。
  • WHOは現地のパートナーとともに、適切な手指衛生、トイレの使用、食品の安全性の重要性について一般市民を啓発するキャンペーンを実施しています。
ワクチン接種
  • 保健省は、WHO、ユニセフ、世界銀行、赤十字国際委員会の支援を受けて、2025年1月に5日間の予防接種キャンペーンを実施しました。90万人以上が予防接種を受け、接種カバー率は99.5%でした。
  • WHOは予防接種キャンペーンの後方支援と運営指導を行い、ワクチンの効率的な配布と流行地域での予防接種センターの設立を確実なものにしました。
  • 3月中旬には、2回目の予防接種キャンペーンのために、コレラ経口ワクチン70万回分が追加で国内に到着しました。
準備と準備態勢
  • 準備態勢の評価が実施され、すべての対応分野における準備上の課題を特定します。この調査結果は、アウトブレイクの拡大を抑えることを最終的な目的として、被害を受けていない地域のシステムを強化するための包括的な計画の策定に反映されます。

WHOによるリスク評価

アンゴラではコレラが流行しており、死亡者のかなりの割合が病院外で発生しているため、患者の発見と対応が遅れ、タイムリーな公衆衛生介入が妨げられ、安全でない埋葬によって環境汚染が進むことで、コレラ流行が拡大しています。致命率が3.9%と高いことから、特に医療サービスが行き届いていない地域では、患者の受診の遅れ、サーベイランスや早期対応におけるギャップ、不十分な医療能力、救命治療を受けるための障壁など、重大な課題が浮き彫りになっています。清潔な水と衛生設備へのアクセスが不十分なため、アンゴラは、特に人口密度の高い都市部や遠隔地の農村部で、コレラの流行に対して非常に脆弱な状態が続いています。雨季(10月~4月)は、それに伴う大雨と洪水によって水源が汚染され、コレラの急速な感染が促進されるため、感染のリスクが増大します。ベンゴ州のような洪水に見舞われやすい州では、季節が進むにつれて、コレラ感染がさらに拡大するリスクが高まっています。
アンゴラはコンゴ民主共和国やザンビア共和国と国境を接しており、両国でもコレラが発生しています。アンゴラと周辺国の間で頻繁な人の移動があるため、特にルアンダのような移動の多い地域では、国境を越えた感染のリスクが高まっています。
発生が続いていること、雨季であること、アンゴラがコレラの影響を受けているほかの国々に隣接していることを考慮すると、アンゴラ国内および近隣諸国へのさらなる感染拡大のリスクは非常に高いと考えられます。WASHの改善やワクチン接種キャンペーンなどの効果的な公衆衛生対策がなければ、コレラの感染は拡大する可能性があります。人口の相互関係や、水系感染症の蔓延を助長する季節的な条件により、国内および地域的なリスクは依然として高いと考えられます。

WHOからのアドバイス

コレラと闘い、死亡率を減らすためには、多方面からのアプローチが不可欠です。コレラに対処するための重要な対策には、サーベイランス体制の強化、給水、衛生設備、および衛生環境の改善、リスクコミュニケーションとコミュニティ・エンゲージメントの促進、効果的な治療の提供、経口コレラワクチンの使用などが含まれます。コレラの影響を受けている国々は、潜在的なアウトブレイクを迅速に発見し対応するために、国家的な準備と監視能力を強化することが奨励されています。
WHOは、タイムリーかつ適切なタイミングで症例管理を行い、安全な飲料水へのアクセスを確保し、衛生設備を整備することの重要性を強調しています。コレラ患者をケアする施設において、コレラやその他の医療関連感染の原因となる病原体の感染を減らすには、効果的な感染予防と感染制御対策が不可欠です。WHOは、信頼関係を構築し、エビデンスに基づく情報を地域社会に提供することで、地域社会が十分な情報を得た上で、自分たちの健康を守るための意思決定を行えるようにするため、リスクコミュニケーションとコミュニティ・エンゲージメントを推奨しています。
コミュニティにおける予防衛生習慣と食品安全の促進は、コレラを制圧する最も効果的な戦略の一つです。公衆衛生のリスクコミュニケーションは、衛生、安全な食品、経口補水液の使用の重要性を地域社会に理解してもらうために不可欠です。特に農村部では、大きな医療施設へのアクセスが困難なため、経口補水液への迅速なアクセスが不可欠です。家庭での経口補水液の作り方についてコミュニティに指導し、医療へのアクセスを待つ間も水分補給を続けることの重要性を強調することで、重症化するリスクを大幅に減らすことができます。タイムリーな治療を受ければ、致命率を1%未満に抑えることができます。
コレラやその他の水系感染症を予防するためには、コレラの発生リスクが高い地域において、水・衛生インフラを改善するなどの長期的な対策が不可欠です。清潔な水、衛生設備、衛生習慣のための持続可能な解決策は、コレラの制圧に不可欠であるだけでなく、貧困削減や教育など、より広範な公衆衛生の目標にも貢献します。このような解決策の計画と実施に地域社会が参加することが、長期的な成功の鍵です。
経口コレラワクチンキャンペーンは、コレラの発生を抑制するための重要な手段です。水と衛生の改善と並行して経口コレラワクチンを実施すれば、特にリスクの高い地域でコレラの蔓延を防ぐことができます。ワクチンの需要を適切に管理し、接種スケジュールをコミュニティに周知し、ワクチンの安全性と有効性に関する信頼を築くためには、強力なリスクコミュニケーション活動が必要です。
WHOは各国に対し、コレラの疑い症例を早期に発見し、蔓延を防ぐために、特にコミュニティレベルでのサーベイランスを強化するよう勧告しています。特に国境を越えた移動が多い地域では、近隣諸国間の協力がアウトブレイクを抑制する上で極めて重要です。このような取り組みを強化することで、感染国はコレラの発生を効果的に制御・予防し、公衆衛生の成果を向上させることができます。
WHOは、コレラ流行を理由にアンゴラとの間の渡航や貿易を制限することを勧告していません。

出典

World Health Organization(28 March 2025)Disease Outbreak News; Cholera - Angola
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON562

海外へ渡航される皆様へ

コレラは、コレラ菌に汚染された食物や水を摂取することによって引き起こされる急性の下痢症を伴う細菌感染症です。多くの場合は軽症または無症状ですが、一部の人は激しい水様性下痢を発症し、適切な治療を受けないと重度の脱水症状で命に関わることがあります。

1.コレラ予防のための基本対策

安全な飲料水の確保
  • 生水や氷は汚染されている可能性があるため、避けることが望ましいです。
  • ボトル入りの水、煮沸した水、または浄水処理された水を飲用することで、感染するリスクを下げることができます。
食事の注意点
  • サラダや果物、生の魚介類や未加熱の食品は汚染されている可能性があるため、避けることが望ましいです。
  • 十分に加熱された食品を選び、露店や衛生管理が不十分な飲食店での食事を避けることで、感染するリスクを下げることができます。
衛生対策
症状のある人との接触は出来る限り避け、手洗いやアルコール消毒を徹底し、感染予防に努めてください。

2.下痢の症状が出た場合の対応

  • 軽度の症状でも、脱水を防ぐために経口補水液を摂取し、水分を十分に補給してください。
  • 自己判断で抗生剤や下痢止めを使用せず、速やかに医療機関を受診し、最近の渡航歴と症状、コレラの可能性があることを医師に伝え、相談することが望ましいです。
  • 発熱や激しい下痢が続く場合や十分な飲水が困難な場合は、すぐに医療機関を受診してください。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。

For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Cholera - Angola. Geneva: World Health Organization; 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “Cholera - Angola. Geneva: World Health Organization (WHO); 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.