黄熱-アメリカ大陸地域(南米)(2025年5月16日)

海外へ渡航される皆様へ

今回アメリカ大陸地域で報告された黄熱は、黄熱ウイルスによる、蚊(主にネッタイシマカ)が媒介する感染症です。感染後3~6日で発熱、筋肉痛、頭痛、嘔吐など季節性インフルエンザに似た症状が現れ、更に一部の患者で重症化し、適切な治療を行わないと死に至る場合があります。現時点では特異的な治療法がないため対症療法が治療の主体であり、ワクチン接種による予防が最も有効です。

また、黄熱の流行地域へ渡航する際には、世界保健機関が定める国際保健規則によって、入国の際に予防接種証明書の提示を求められることがあるため、渡航前に期間的な余裕を持って国の指定する黄熱予防接種実施機関への受診を検討しましょう。

以下の点を事前に確認して、健康に留意して渡航してください。

●渡航前の情報収集
黄熱に関する情報、アメリカ大陸地域で流行している感染症に関する情報、渡航先の医療情報を、FORTHや外務省などの公式な情報源で確認してください。トラベルクリニックなどで渡航前に対策について相談することも可能です。黄熱に関する詳しい情報は「黄熱に注意しましょう!」もご確認ください。

●渡航中の健康管理
1.リスクを軽減するための対策
・ワクチン接種による予防が最も重要です。渡航先が黄熱に感染するおそれのある国・地域 であれば、予防接種を推奨しています。
・蚊に刺されないよう注意しましょう。
・露出した皮膚には虫よけスプレーや防虫ローション等虫除け剤(忌避剤)を使用してください。
・長袖のシャツや長ズボンを着用し、裸足でのサンダル履きをしないなど、肌の露出は可能な限り避けましょう。
・屋内では網戸やエアコンを使用し、蚊の侵入を防ぎましょう。
・蚊のいる環境では、就寝時には殺虫剤処理された蚊帳を利用し、夜間だけでなく、昼寝の際も使用することをお勧めします。
・黄熱の予防と対策について、現地のガイドラインに従ってください。
 
2.体調不良時の行動
渡航中に発熱や体調不良を感じた場合は、速やかに現地の医療機関を受診し、渡航歴・現地での行動を必ず伝えてください。
 
●帰国後の対応
黄熱の発生がみられる地域から日本へ帰国した時に体調に異常があれば、空港や港の検疫所で渡航歴・現地での行動を伝えたうえで相談してください。
帰国後10日間程度の期間、ご自身の健康状態に注意し、発熱や体調不良などの症状があれば、速やかに医療機関に相談してください。その際、受診前には必ず渡航歴や現地での行動を医療機関に伝えてください。
そのほか、海外渡航に関する一般的な注意事項は「ここに注意!海外渡航にあたって」をご参照ください。
以下のDisease Outbreak Newsの翻訳は、厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成しています。
 

状況概要

2024年12月29日以降、2025年4月26日現在(エクアドルのデータは2025年5月2日現在更新)、アメリカ大陸地域の5か国から世界保健機関(WHO; World Health Organization)に報告された黄熱のヒト感染確定症例は合計212例で、うち85例が死亡しています(致命率(CFR)40%)。症例が報告されたのは、ボリビア多民族国、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ペルーです。2025年に報告された212例の黄熱確定症例は、2024年に報告された61例の確定症例と比較して3倍に増加しています。

WHOは、黄熱の患者やアウトブレイクに対応するための協調的な対応を実施するため、影響のあった国を支援しています。これには、予防対策の強化、サーベイランスと症例管理の強化、リスクコミュニケーションとコミュニティ・エンゲージメントの改善、予防接種活動の実施などが含まれます。アメリカ大陸における現在の黄熱の状況は、森林型サイクルの増加によって引き起こされています。アマゾン流域以外でも黄熱症例が発生していること、致命率が高いこと、ワクチン接種率に地域差があることや、ワクチンの供給が制限されていることが、アメリカ大陸地域、とくに流行国における黄熱リスクを高リスクと評価する要因となっています。

WHOは、積極的なサーベイランス、適時の臨床検査、国境を越えた調整、情報共有の重要性を強調しています。ワクチン接種は、黄熱の予防と制圧のための主要な手段であることに変わりはありません。WHOは引き続き、定期的な予防接種プログラムや集団予防接種キャンペーンを通じて予防接種率を改善し、住民の免疫力を高め、アウトブレイクのリスクを軽減するため、各国を支援していきます。
 

発生の詳細

2024年12月29日から2025年4月26日までの間に(エクアドルのデータは2025年5月2日現在)、アメリカ大陸地域の5か国から、死亡85例(CFR 40%)を含む、合計212例の黄熱のヒト感染確定症例がWHOに報告されました。症例は以下の国から報告されています: ボリビア多民族国(3例、うち死亡1例(CFR 33%))、ブラジル(110例、うち死亡44例(CFR 40%))、コロンビア(60例、うち死亡24例(CFR 40%))、エクアドル(死亡4例(CFR 100%))、ペルー(35例、うち死亡12例(CFR 34%))です(図1)。

2024年には、ボリビア、ブラジル、コロンビア、ガイアナ、ペルーのアマゾン地域を中心に黄熱のヒト感染症例が報告されました。しかし、2025年には、ブラジルのサンパウロ州やコロンビアのトリマ県など、主にアマゾン地域以外の地域で症例が検出されています。2025年にアメリカ大陸で報告された212例の黄熱確定症例は、2024年に報告された61例に比べ、3倍に増加しています。

図1. 2025年4月26日現在、アメリカ大陸地域で確認された黄熱の国別・疫学的発症週別ヒト感染者数 * (n= 212)

注:*エクアドルにおける黄熱の確定症例数に関するデータは、2025年5月2日現在のものです。
出典 各国から提供されたデータ、または各国の保健省が発表したデータから作成。

図2: 2023年から2025年にかけての黄熱確定症例の地理的分布(アメリカ大陸地域、2025年4月26日現在)

出典 各国から提供されたデータ、または各国の保健省が公表しているデータから作成。

国別の概要

ボリビア(ボリビア多民族国)

ボリビアでは、2025年当初から4月26日までに、死亡1例(CFR 33%)を含む3例の黄熱のヒト感染確定症例が報告されています。症例はベニ県(1例)、ラパス県(死亡1例)、タリハ県(1例)で報告されました。死亡例には黄熱ワクチン接種歴がありませんでしたが、他の2例はワクチン接種歴があったと報告されています。3例とも逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査で確認され、森林地帯へ立ち入る行動歴がありました。また、ラパス県のサン・ブエナベンチュラ市では、動物間での感染事例(非ヒト霊長類の死亡)が確認されました。

ブラジル

ブラジルでは、2025年当初から、4月26日までに、死亡44例(CFR 40%)を含む110例の黄熱のヒト感染確定症例が報告されました。ミナスジェライス州(10例、うち死亡5例)、パラー州(44例、うち死亡7例)、サンパウロ州(55例、うち死亡31例)、トカンチンス州(死亡1例)で症例が報告されました。患者の大半(95例;89.6%)は男性で、年齢は10歳から75歳でした。症状は2025年1月2日から4月2日の間に発生しました。黄熱ワクチン接種歴のある症例は1例のみでした。
全ての症例で、職業的活動またはレクリエーション活動を通じた、野外か森林地帯、あるいはその両方への曝露が報告されました。

コロンビア

コロンビアでは、2024年初頭に黄熱のアウトブレイクが始まってから2025年4月26日までに、死亡37例を含む合計83例の黄熱確定症例が報告されています。
2025年は、4月26日現在、死亡24例を含む合計60例の黄熱確定症例が報告されています。症例は以下の県の住民でした:  カルダス県(死亡1例)、カウカ県(死亡1例)、グアビアーレ県(死亡1例)、メタ県(死亡2例)、プトゥマヨ県(死亡1例を含む3例)、トリマ県(死亡18例を含む52例)。症例の年齢分布は2歳から83歳で、発症は2025年1月6日から4月18日の間でした。すべての症例は、国が定義する黄熱のリスクがあると分類される地域への曝露歴がありました。確定症例のうち、黄熱ワクチン接種歴が記録されていたのは2例のみでした。
2025年4月29日現在、29例の非ヒト霊長類動物での黄熱感染事例が報告されており、そのうちトリマ県で27例、ウイラ県で2例が確認されています。

エクアドル

2025年初頭から5月2日現在までに、モロナ・サンティアゴ県(死亡例1例)とサモラ・チンチペ県(死亡3例)で4例の黄熱による死亡例が確認されています。症例の年齢は25歳から55歳で、発症は2025年3月16日から5月2日の間でした。4例とも職業的活動を通じた、野外か森林地帯、あるいはその両方への曝露歴があり、RT-PCRにより確認されました。

ペルー

2025年初頭から、2025年4月26日現在、アマソナス州(22例、うち死亡7例)、ワヌコ州(死亡1例)、フニン州(3例)、ロレート州(2例、うち死亡1例)、サンマルティン州(7例、うち死亡3例)で、死亡12例を含む35例の黄熱確定症例が報告されています。確定症例のうち31例(88.6%)は男性で、年齢は6歳から57歳、発症日は2025年1月15日から4月12日の間でした。全ての症例で、農業的活動を通じた、野外か森林地帯、あるいはその両方への曝露歴があり、症例の71.8%に黄熱ワクチン接種歴はありませんでした。



 

黄熱の疫学

黄熱は流行しやすいが、ワクチンで予防可能な疾患で、主に感染したAedes属やHaemagogus属の蚊に刺されることでヒトに感染するアルボウイルスによって引き起こされます。潜伏期間は3~6日です。感染者の多くは発症しませんが、症状が出た場合、発熱、背部痛を伴う筋肉痛、頭痛、食欲不振、吐き気または嘔吐が最も一般的です。ほとんどの場合、症状は3~4日後に消失します。しかし、ごく一部の症例は、肝臓や腎臓に影響を及ぼす全身感染を特徴とする、より重篤な中毒期に進行します。このような患者には、高熱、嘔吐を伴う腹痛、急性肝不全および腎不全による黄疸、濃い色の尿がみられることがあります。また、口、鼻、目、消化管から出血することもあります。重症化した場合、約50%が7~10日以内に死亡する可能性があります。
黄熱は、安全で手頃な価格の効果的なワクチンで予防できます。黄熱ワクチンは1回の接種で、黄熱に対する持続的な免疫と生涯にわたる予防効果が得られます。追加接種の必要はありません。ワクチンは接種後10日以内に80~100%の人に、30日以内に99%以上の人に有効な免疫を誘導します。

公衆衛生上の取り組み

黄熱の発生に対応するため、地域、国、地方の各レベルで、以下のような公衆衛生対策が実施されています:

調整

各国は、確認された黄熱の症例やアウトブレイクに対応するため、予防対策の強化、サーベイランスの改善、ワクチン接種の実施に重点を置いた調整行動を実施してきました。

・ボリビアは、緊急対策委員会(COEM)を通じて、自治体との調整を含むプログラム間およびセクター間の調整を実施し、予防接種委員会(CDI)、拡大予防接種プログラム(PAI)と保健局の疫学の技術チーム、地域住民による代表的な社会組織、国家農業衛生・食品安全サービス、教育省などが参加し、症例の特定に対応しました。

・ブラジルは、デング熱およびその他のアルボウイルスに関する緊急対策委員会を設置し、保健大臣、技術諮問員会のメンバー、および臨時の専門家が参加して、アルボウイルスに関する技術諮問委員会(CTA-Arbovirus)の会議を開催しました。緊急対策委員会は、アマパー州、ミナスジェライス州、パラー州、サンパウロ州、トカンチンス州と会議を開き、黄熱への対応を調整しました。

・コロンビアは、黄熱確定症例が発生した自治体における警戒・緊急事態への準備、組織、対応に関するガイドラインを整理・更新する規則を発表しました。さらに、黄熱ウイルスの活発な循環のため、国土全域に健康上の緊急事態を宣言しました。また、国のリスクレベルを明確にするため、国のリスクアセスメントも実施しています。疫学第16週(2025年4月19日終了)に実施された最後の評価では、同国の全般的なリスクレベルが高リスクから非常に高いリスクに引き上げられました。

・エクアドルでは、2025年で最初の黄熱症例が確認された後、公衆衛生省(MSP)は、国立公衆衛生研究所(INSPI)およびWHOと連携し、リスクの存在を評価し、住民を保護するために必要な措置を講じるための活動を行いました。

・ペルーでは、保健省、国立農業保健局、国立森林野生生物局、国立自然保護地域局によるワンヘルスアプローチのもと、主に黄熱の統合サーベイランスを推進するために、多部門による活動が行われています。

2025年2月、WHOは、アメリカ大陸地域の流行国における2024年最終四半期から2025年初頭にかけての黄熱症例の増加に伴う公衆衛生へのリスクを評価するため、迅速リスク評価を実施しました。この評価では、アメリカ大陸地域、特に流行国におけるこの事象の全体的なリスクは、入手可能な情報に基づき、高い信頼度をもって高リスクに分類されると結論づけられました。

サーベイランス

2025年中に症例が報告された国における疫学的サーベイランス活動については、以下の活動が実施されています:

・ボリビアでは、疑い例を直ちに通知するための国内プロトコルに従い、疑い例からの検体採取、迅速対応チームの活性化、地域社会や医療施設における積極的症例探査、迅速なワクチン接種のモニタリング、ジャングルに生息する媒介蚊の都市部への拡散リスクに関する分析などの対応策を実施しました。影響を受けた地域や近隣地域でワクチン未接種の発熱患者を積極的に捜索し、緊急時対応のモニタリングとフォローアップを行います。さらに、非ヒト霊長類の症例や死亡が報告されている地域やコミュニティでは、積極的な症例発見を行います。早期発見と制圧活動を支援するため、非ヒト霊長類の動物間流行の調査や届出も開始されています。

・ブラジル政府は、黄熱の最新の発生状況をまとめた疫学情報を公開し、黄熱モデル研究グループのワークショップでの成果を紹介しました。この中では、2024年から2025年にかけての流行期に向けて、感染拡大を防ぐためにサーベイランスや予防接種を重点的に強化すべき地域(優先自治体)を示しています。これらの取り組みは、アルボウイルスの監視や対策を支えるものです。
ミナスジェライス州とサンパウロ州の自治体では、サーベイランス戦略の強化、黄熱リスクモデルの更新と議論、サーベイランスと予防接種の優先地域を定めるためのワークショップが開催されました。ヒトおよび非ヒト霊長類における疑い例と確定症例の調査のため、自治体に技術的支援が提供されています。さらに、アルボウイルスのサーベイランスと制圧を支援するため、各州への技術的訪問も行われています。

・コロンビアでは、感染症例が発生している県は、公衆衛生活動を実施するため、引き続き緊急対応チームを配備しています。これらの活動には、実地疫学調査、迅速なワクチン接種率のモニタリング、組織的かつ積極的な症例探索、コミュニティでの積極的な症例探索、昆虫学的調査、接触者追跡、ベクター媒介性疾患プログラムに関する活動などが含まれます。

・エクアドルでは、保健部隊が重点対応地域に積極的に介入し、予防・対策活動を強化しています。

・ペルーでは、サーベイランスの強化と、疑い例の発見と通知、コミュニティ・アプローチによるアウトブレイク対策のための人的資源の強化を目的とした活動を実施しています。鑑別診断として、発熱性黄疸・出血症候群を含む医療機関における積極的な症例探索を実施している。さらに、国家疫学アラートと地域別アラートを発令し、ワクチンで予防可能な疾病に関する状況調査室を設置しています。
さらに、非ヒト霊長類における黄熱(動物間流行)のサーベイランスが、動物由来感染症のサーベイランスと統合的対応の枠組みの中で推進されています。この点に関しては、非ヒト霊長類における黄熱の統合的サーベイランスのために開発された多部門ツールがあり、2025年中にサンマルティン地域とウカヤリ地域で試験運用が開始される予定です。

アメリカ大陸地域レベルでは、WHOは以下の活動を実施しています:

・症例定義、検体採取の手順、検査機関への照会、制圧活動の管理に関するガイドラインなど、地方レベルおよび国レベルで使用するための技術ガイダンス文書の発行。

・関連する環境条件に基づく、アメリカ大陸地域の黄熱リスク地域の詳細地図の作成と維持。

・アメリカ大陸地域における黄熱の過去および現在の情報へのアクセスを容易にするため、「アメリカ大陸地域における黄熱ダッシュボード」を公開し、地域および国レベルの状況を監視できるようにすること。

・加盟国への勧告を含め、地域警報、疫学情報の更新、リスク評価の発出。

・流行国を対象に、感染症サーベイランス、動物間流行サーベイランス、黄熱の昆虫学に関する対面式研修やウェビナーの実施。

・動物間流行サーベイランスと昆虫学サーベイランスの実施に関する、加盟国への支援。

検査

国レベルでは、次のような活動が行われています:

・ガイドラインに沿った検体採取と処理の実施

・ブラジルでは、国内の公衆衛生研究所ネットワークで利用可能なRT-PCR診断検査薬の在庫を維持しています。さらに、パラー州では、登録されたヒト症例のうち、13の検体から検出されたウイルス全長ゲノムの塩基配列が決定されました。

・コロンビアでは、黄熱が疑われる症例の検体は、県の公衆衛生研究所に送られます。この研究所から国立衛生研究所の検査部門に検体を送り、分析を依頼します。国立衛生研究所のウイルス学グループのアルボウイルス研究室を通じて、血清学的またはウイルス学的な黄熱の検出が行われます。この研究所はこのような検出を行うことができるコロンビアで唯一のセンターとなっています。

地域レベルでは、WHOは以下の活動を実施しました:

・アメリカ大陸アルボウイルス診断検査室ネットワーク内の検査室の強化およびガイドライン、プロトコル、試薬の提供。

・黄熱のサーベイランスと診断に関する勧告の発表。

・流行国の検査室に対する技術支援と監視。

・13の流行国の18の検査室で、黄熱の分子生物学的検出に関する外部品質評価の実施。

症例管理

アメリカ大陸地域レベルにおいては、再興感染症の専門家からなる国際技術グループが各国に派遣され、国レベルで技術協力活動を行っています。さらに、地域内の国々は、黄熱の症例管理のためのプロトコルや臨床ガイドラインを導入しています。症例を登録した国々がとった具体的な行動には、以下のようなものがあります:

・黄熱患者の迅速な治療を確実にするため、医師や看護師を含む医療従事者に対する黄熱に関する研修や、患者対応における医療サービスの改善を図ること。

・警告サインや重症化を特定するための症例の綿密な臨床モニタリング。重症患者を紹介するための保健センターの設立と、重症患者を対応能力の高い病院にタイムリーに紹介すること。

予防接種

・ボリビアでは、症例が確認されると、その周囲の住民への予防接種、接触者追跡調査、予防接種カードの管理などの措置がとられます。さらに、経由地での予防接種、黄熱の多発地域に定期的に渡航する者へのオリエンテーションが実施されています。

・ブラジルでは、テクニカルノートを通じて、予防接種戦略が常に強化されています。ワクチンは標準的なスケジュールに従って配布され、州の需要に応じて追加接種が行われます。

・コロンビアでは、黄熱流行地域の自治体で、生後9か月から黄熱の予防接種を実施するための経過措置を定めた通達が出されています。これは、トリマ県にある人や動物での発生がある優先される54の村の黄熱流行地域において、59歳以上の人へのワクチン接種を拡大するための基準です。緊急事態宣言の枠組みの中で、ワクチン接種の動員・強化戦略が実施され、これには自治体のリスク分類も含まれています。この分類は、保健・社会保護省のウェブサイトで定期的に更新されており、次のような自治体が含まれます:ウイルスの循環が活発で、ヒトの感染例が報告されており、動物間流行が発生し、生態疫学的な流行地域に存在する、非常に高リスクな自治体。感染例が発生する可能性のある環境条件が整っている、高リスクの自治体。現在のところアウトブレイクが発生する条件が整っていない、低リスクの自治体。

・エクアドルでは、最もリスクの高いグループ、すなわち、生後12か月から59歳までの人々、国内移動の多い人々、鉱山労働者、農業従事者、養鶏従事者、流行地への渡航を予定している人々に優先的に黄熱予防接種を実施しています。さらに、ペルー、コロンビア、ボリビア、ブラジルからの渡航者に対しては、2025年5月12日より、入国時に予防接種の国際証明書を提示する義務を課しています。

地域レベルでは、WHOが集団予防接種キャンペーンを推進しています。ワクチンの在庫管理のためのガイドラインも発表されています。さらに、地域内の国々は、定期予防接種プログラムや予防接種強化キャンペーンにおいて、「質の高い予防接種活動のマイクロプランニング」という手法を導入しています。この手法により、地域レベルでの詳細な計画に焦点を当て、ワクチン接種へのアクセスを最適化し、ワクチンで予防可能な疾病の発生にタイムリーに対応することが可能になりました。

昆虫学的サーベイランスとベクターコントロール

地域レベルでは、アルボウイルス対策の一環として開発された媒介蚊のサーベイランスとコントロールの能力が、黄熱発生国のサーベイランスに活用されています。また、症例が登録された国では、以下の対策が実施されています:

・ボリビアは、都市周辺部や農村部での蚊の繁殖場所をなくすための活動を実施し、発生が活発な地域で局所的な殺虫剤散布を行い、昆虫学的サーベイランスを維持しています。

・ブラジルは、黄熱のヒトおよび/または非ヒト霊長類の症例が疑われる、または確認された場所におけるネッタイシマカとヒトスジシマカのベクターコントロールに関するガイドラインを含むテクニカルノートを発表しました。さらに、パラー州ブレベス市では昆虫学的サーベイランスのための動物相の収集を行いました。

・エクアドルは、国立公衆衛生研究所の支援を受けて、早期発見と起こりうる流行への効果的な対応を促進するため、さまざまな昆虫学的トラップの設置を提案しています。同様に、総合医療チームが蚊の繁殖地を管理するため、幼虫や蛹の調査を行っています。

リスクコミュニケーションとコミュニティ・エンゲージメント

アウトブレイクが発生した国々では、予防接種と推奨される行動への参加を強化するため、リスクコミュニケーションとコミュニティ・エンゲージメントが強化されました。

・地域内各国には安全予防接種委員会があり、リスクコミュニケーションや、さまざまな対象者に向けたメッセージや技術情報の作成において基本的な役割を担っています。また、予防接種や予防接種に起因すると思われる事象の分析や対応を支援し、エビデンスに基づいたアプローチを保証しています。

・症例が報告されている国では、黄熱がもたらす健康リスクに関する出版物や、予防や徴候・症状の認識、医療機関への受診の促進を目的とした視聴覚教材を配布しています。そのために、関係機関のウェブサイトやSNSなど、さまざまな手段やコミュニケーションチャネルを利用しています。

・黄熱のリスクがある地域に行く旅行者や人々に、黄熱予防ワクチンの接種歴を確認すること、少なくとも渡航の10日前までにワクチン接種をすることなど、必要な予防措置をとるよう注意喚起する出版物も発行されています。

・ブラジルは、SISS-Geoを用いたコミュニティ参加型の地域の安全見まもり活動の研修を実施しています。さらに、保健省や州・市保健局のSNSを通じて住民に注意を喚起するといった、他の手段も活用しています。

*:動物の観察記録を地理情報システム (GIS) を活用して行うためのアプリで、動物に関する位置情報、環境の特性、写真の送信、参照などを行うことができます。

WHOによるリスク評価

黄熱は、アメリカ大陸の12か国と1地域に流行している急性出血性疾患です。該当する国と地域は以下の通りです: アルゼンチン、ボリビア多民族国、ブラジル、コロンビア、エクアドル、フランス領ギアナ、ガイアナ、パナマ、パラグアイ、ペルー、スリナム、トリニダード・トバゴ、ベネズエラ・ボリバル共和国。

臨床的には、黄熱はアレナウイルス感染症、ハンタウイルス感染症、デング熱などの他のウイルス性出血熱との区別が難しいことがあります。デング熱の流行が続いている状況では、特に医療従事者が黄熱の症例を認識し、管理する経験が乏しい場合、早期診断が困難となる可能性があります。黄熱は、歴史的に死亡率の高い流行を何度も引き起こしてきました。

1960年から2022年までに、死亡3,315例を含む、合計9,397例の黄熱確定症例がアメリカ大陸で報告されました。これらの症例の大半は3か国から報告されています: ボリビア16%(1553例、うち死亡516例)、ブラジル36%(3443例、うち死亡1192例)、ペルー35%(3281例、うち死亡1343例)。2023年には、アメリカ大陸地域の4か国で、死亡23例を含む41例の黄熱確定症例が報告されました: ボリビア(5例、うち死亡2例)、ブラジル(6例、うち死亡4例)、コロンビア(2例、うち死亡1例)、ペルー(28例、うち死亡16例)です(図2)。

2024年、アメリカ大陸で61例の黄熱の確定症例が報告され、30例が死亡しました。ボリビアでは死亡4例を含む8例、ブラジルでは死亡4例を含む8例、コロンビアでは死亡13例を含む23例がそれぞれ報告され、ガイアナでは3例が報告され、ペルーでは死亡9例を含む19例が報告されました。

2025年2月に実施されたWHOの迅速リスク評価によると、2024年最後の四半期から2025年初めにかけて黄熱患者が増加していることから、アメリカ大陸地域の黄熱流行国における公衆衛生リスクは「高い」と評価されています。2024年に報告された症例のほとんどで、黄熱ワクチン接種歴が記録されていませんでした。
COVID-19パンデミック以前は、地域の黄熱ワクチン接種率が最適ではなかったにもかかわらず(61%)、2020年から2023年にかけてワクチン接種率が大幅に低下し、すべての流行国で感染しやすい集団が増加しました。2023年には、エクアドルとガイアナが95%以上の黄熱ワクチン接種率を達成し、スリナムとトリニダード・トバゴの2か国だけが90%から94%の接種率でした。一方、以下6か国の黄熱ワクチン接種率は80%未満でした: アルゼンチン、ボリビア多民族国、ブラジル、パナマ、ペルー、ベネズエラ・ボリバル共和国。

コロンビア(トリマ)とブラジル(サンパウロ)において、アマゾン流域外で黄熱の症例が発生していることは懸念されます。コロンビアの新たに影響を受けた地域では、事前に大規模な予防対策がとられていないため、住民の多くが感染しやすい状態にあります。

アメリカ大陸では、森林型の感染サイクルが増加するたびに、都市部への侵入のリスクが増加し、都市部での緊急時対応が不十分であれば、国際的に広がる可能性があります。

アメリカ大陸で確認された黄熱確定症例の増加により、サーベイランスの強化、リスクのある集団へのワクチン接種、ワクチン接種が推奨されている地域に移動する人々へのリスクコミュニケーション戦略の必要性が浮き彫りになりました。黄熱に感染した症例は、森林地帯で活動していたため、感染蚊に継続的に曝露していたという事実は、伐採者、農民、エコツーリズムの専門家など、野生地域や森林地帯で働く人々へのアプローチが必要であることを強調しています。

早期発見、適切なタイミングで専門医療機関へ紹介すること、重症例の治療に重点を置いた臨床管理のベストプラクティスを、流行地域の医療従事者に普及させなければなりません。さらに、起こりうるアウトブレイクに迅速に対応できるよう、ワクチンの供給状況に応じ、各国はワクチンを備蓄しておくべきです。アメリカ大陸地域、特に黄熱流行国におけるこの事象の全体的なリスクは、高リスクに分類されています。

アメリカ大陸の流行国は、サーベイランス、検査室診断、ワクチン接種の能力を強化していますが、黄熱ワクチンの世界的な供給量は近年変動しており、感染リスクの高い人々のワクチン接種へのアクセスを低下させ、黄熱アウトブレイクへの対応不足につながる可能性があります。2025年初頭の時点で、この地域で利用可能な黄熱ワクチンの供給量も深刻な制約を受けており、今年の当該地域の定期的な需要を賄うには不十分な状況となっています。
 

WHOからのアドバイス

黄熱は流行しやすく、蚊によって媒介される、ワクチンで予防可能な病気で、主にAedes属とHaemagogus属の感染蚊によってヒトに感染します。都市部ではAedes属、特に日中に活動するネッタイシマカが増殖し、人口密集地では感染が著しく増幅される可能性があります。

サーベイランス: WHOは、積極的なサーベイランス、国境を越えた連携、情報共有の重要性を強調しています。疑い例を調査・検査することは、アウトブレイクを抑制・予防する上で極めて重要です。サーベイランスを強化し、疑い例の調査や臨床検査を行うことが推奨されます。

主要な予防手段としてのワクチン接種: ワクチン接種は黄熱を予防し、制圧するための主要な手段です。WHOの黄熱流行の排除戦略では、黄熱の報告国においてワクチン接種を優先し、生後9か月以上の個人を対象とした定期予防接種スケジュールに組み込むことを目指しています。WHOは、コミュニティ全体の免疫力を高めるために、定期予防接種プログラムおよび集団予防接種キャンペーンを通じて、予防接種率の拡大を支援しています。

ベクターコントロールとリスクコミュニケーション: 疾病の伝播を防ぐためには、蚊に刺されないようにする一般的な戦略とともに、都市環境における効果的な媒介蚊の駆除が推奨されます。WHOは加盟国に対し、旅行者に黄熱のリスクや予防策を伝え、症状が出た場合は直ちに医療機関を受診するよう促しています。このアプローチは、感染した旅行者を介して地域的な感染サイクルが確立されるのを防ぐのに役立ちます。

海外渡航と貿易: WHOが定めた黄熱感染のリスクがある地域(すなわち、黄熱ウイルスが持続的または周期的に感染している証拠がある地域)に向かう生後9か月以上のすべての海外旅行者は、予防接種を受けることが推奨されます。このワクチンは安全かつ有効であり、生涯にわたる免疫が可能です。

ただし、生後9か月未満の乳児、および妊娠中または授乳中の女性に対するワクチン接種の推奨は、慎重かつ細やかな判断が求められる内容となっており、リスクが高い状況においては、予防接種の利益と潜在的なリスクを比較考慮した上接種が推奨されています。

IHRの下では、各国は、入国または出国する旅行者に対して黄熱ワクチン接種証明書の提示を求める権限を有します。また、ワクチン接種は「国際予防接種証明書(ICVP)」に記載される必要があり、WHO承認の黄熱ワクチンの1回接種記録は、生涯有効なものとして認められます。

WHOは、黄熱の伝播が進化していることを考慮し、加盟国に対し、WHO International Travel and Healthのウェブサイトで入手できる最新の情報とガイドラインを常に入手するよう助言します。現地の保健当局は、WHOやその他の関係者と緊密に協力し、効果的な黄熱の予防と対策を実施し、危険にさらされている人々の安全と幸福を確保することが奨励されます。

WHOは、アメリカ大陸地域で現在発生している黄熱に関連した渡航や貿易の制限を行わないよう勧告します。予防接種を含む予防措置について旅行者を教育する継続的な努力が奨励されます。

出典

World Health Organization (16 May 2025). Disease Outbreak News; Yellow fever in the Region of the Americas. Available at:
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON570
 

備考

This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Yellow fever - Region of the Americas. Geneva: World Health Organization; 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition.