クルーズ船渡航関連のハンタウイルス感染症(ハンタウイルス肺症候群)集団感染事例(2026年5月4日)

海外へ渡航される皆様へ

南大西洋を航行していたクルーズ船に関連して、ハンタウイルスの一種であるアンデスウイルスによるハンタウイルス肺症候群(HPS: Hantavirus Pulmonary Syndrome)の報告がありました。HPSは南北アメリカ地域で報告される重症の人獣共通感染症で、発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢など症状がみられたのち、咳や息切れなどの呼吸器症状が現れ、重症化すると、急速に呼吸不全や循環不全が進行し、死亡する場合もあります。
ウイルスを保有するげっ歯類の尿・糞・唾液との接触、それらに汚染された表面との接触、排泄物を含む粉塵を吸い込むことなどで感染すると言われています。また、アンデスウイルスでは、感染した者との濃厚かつ持続的な接触により、人から人へ感染した事例が報告されています。
今回の事例の詳細な感染経路は調査中ですが、初発例は乗船前にアルゼンチンの流行地への渡航歴がありました。

以下の点を事前に確認して、健康に気をつけて渡航してください。
渡航前の情報収集
HPSに関する情報に加え、渡航先でのHPS以外の感染症や医療情報を、FORTHや外務省などの公式な情報源で確認してください。トラベルクリニックなどで渡航前に対策について相談することも可能です。
渡航中の健康管理
1.基本的な感染予防策
石けんと水での手洗いやアルコール消毒液の使用などの手指衛生、マスクの着用や咳エチケットといった基本的感染対策は、さまざまな感染症に対しても有効です。
2.リスクを低減するための対策
HPSは、流行地域でのげっ歯類やその排泄物・汚染環境との接触が主な感染経路ですが、アンデスウイルスによるHPSでは感染した者との濃厚かつ持続的な接触による感染も報告されています。げっ歯類の体液・死骸・排泄物に触る、げっ歯類の排泄物で汚染された環境に不用意に入る、HPS患者と濃厚に接触するといった行動を避けることで、感染リスクを減らすことができます。
これらの行動が避けられない場合は、手袋やマスクを使用し、直接の接触を避けることで、感染リスクを減らすことができます。
 3.体調不良時の行動
渡航中に上記のようなリスク行為があり、発熱、頭痛、腹痛、下痢など、HPSを疑う症状が出た場合は、同じような症状が出る他の感染症も考えられますので、速やかに現地の医療機関を受診し、渡航歴・現地での行動等を必ず伝えてください。
 帰国後の対応
日本へ帰国した時に体調に異状があれば、空港や港の検疫所で渡航歴・現地での行動を伝えたうえで相談してください。
渡航中にリスク行為がある場合、帰国後6週間程度の期間は、ご自身の健康状態に注意し、異状があれば速やかに医療機関に相談してください。この際も渡航歴・現地での行動等を伝えてください。
   
そのほか、海外渡航に関する一般的な注意事項は「ここに注意!海外渡航にあたって」をご参照ください。

以下のDisease Outbreak Newsの翻訳は、厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成しています。

また、本事例は状況に応じて随時更新されます。
更新情報は随時WHOのサイトで確認してください。

状況の概要

​2026年5月2日、クルーズ船内で重症呼吸器疾患を呈した乗客が複数いると、世界保健機関(WHO; World Health Organization)に報告されました。この船舶には乗客・乗組員147人が乗船していました。2026年5月4日時点で、7例の症例(ハンタウイルス感染症の確定例2例および疑い例5例)が確認されており、このうち3例が死亡し、1例は重篤な容体であり、3例は軽度の症状を呈しています。発症は2026年4月6日から28日の間にみられ、発熱、消化器症状、肺炎への急速な進行、急性呼吸窮迫症候群およびショックを特徴としていました。さらなる調査が進行中です。
このアウトブレイクは、国際的に連携した対応により管理されており、詳細な調査、症例の隔離および医療処置、医療搬送ならびに検査室での検査が行われています。ヒトのハンタウイルス感染症は、主に感染したげっ歯類の尿、糞便または唾液との接触によって感染します。時に致死的となることがある重症疾患です。まれではありますが、アンデスウイルス(ハンタウイルスの一種)による過去のアウトブレイクでは、限定的なヒトからヒトへの感染が報告されています。WHOは現在、今回の事象が世界の人々にもたらすリスクは低いと評価しており、今後も疫学的状況を監視し、リスク評価を更新していきます。

発生の詳細

2026年5月2日、オランダ船籍のクルーズ船内で、死亡例2例と重篤な乗客1例を含む重症急性呼吸器疾患の集団感染の発生について、英国の改正国際保健規則(2005)(IHR; International Health Regulations)の国家連絡窓口(NFP; National Focal Point)が、WHOに通知しました。2026年5月2日、南アフリカ共和国(以下、南アフリカ)で実施された臨床検査により、集中治療室(ICU)に入室している重症患者1人でハンタウイルス感染症が確認されました。5月3日には、追加で1例の死亡が報告されました。さらに3例の疑い例が船内に残っていました。5月4日時点で、死亡例3例を含む計7例(確定例2例、疑い例5例)が報告されています。

この船舶は2026年4月1日にアルゼンチンのウシュアイアを出発し、南大西洋を横断する旅程をたどりました。その途中で、南極大陸本土、サウスジョージア、ナイチンゲール島、トリスタン・ダ・クーニャ、セントヘレナ、アセンション島など、人里離れた多様な生態系を持つ地域に複数回寄港しました。航海中、またはウシュアイアでの乗船前に、乗客が現地の野生生物とどの程度接触したかは、まだ明らかになっていません。船舶には、乗客88人、乗組員59人を含む計147人が乗船しています。乗客・乗組員の国籍は23に及びます。2026年5月4日時点で、同船はカーボベルデ沖に停泊しています。

症例の概要
症例1:成人男性が、2026年4月6日、船内で発熱、頭痛、軽度の下痢の症状を呈しました。4月11日までに呼吸困難を呈し、同日、船内で死亡しました。微生物学的検査は実施されませんでした。この乗客の遺体は、4月24日に船舶からセントヘレナ(英国海外領土)へ搬送されました。

症例2:症例1の濃厚接触者であった成人女性が、2026年4月24日に消化器症状を呈し、セントヘレナで下船しました。その後、4月25日に南アフリカのヨハネスブルグへ向かう航空機内で容体が悪化しました。4月26日に降機、救急外来到着時に死亡しました。5月4日、この症例はその後、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でハンタウイルス感染症と確認されました。本症例が搭乗した航空機の乗客に対する接触者追跡調査が開始されています。

症例1および症例2は、2026年4月1日にクルーズ船に乗る前に、アルゼンチンを含む南米を旅行していました。

症例3:成人男性が、2026年4月24日、発熱性疾患、息切れおよび肺炎の徴候を呈して船医を受診しました。4月26日に容体が悪化しました。4月27日にアセンション島から南アフリカへ医療搬送され、現在、ICUに入院しています。広範囲の呼吸器病原体パネルを用いた臨床検査は陰性でしたが、2026年5月2日にPCR検査でハンタウイルス感染症と確認されました。血清学的検査、塩基配列解析およびメタゲノム解析が進行中です。

症例4:成人女性が肺炎を呈し、2026年5月2日に死亡しました。症状発現は4月28日で、発熱および全身倦怠感がありました。

疑い例3例は、高熱または消化器症状、もしくはその両方を報告しており、船内に残っています。カーボベルデの医療チームが患者を診察・評価し、検査用の検体を追加で採取しています。

公衆衛生上の取り組み

これまで今回の事象の管理に関与している締約国(カーボベルデ、オランダ、スペイン、南アフリカ、英国)の当局は、以下のような協調的な対応を開始しています。
  • 適時の情報共有と対応行動の調整を確実なものにするため、WHOと、カーボベルデ、オランダ、南アフリカ、スペイン、英国のNFPで継続的に連携しています。
  • WHOは、今回の事象に関する情報を世界各国のNFPと共有しました。
  • 船内の乗客には、最大限の物理的距離を保ち、可能な場合は客室にとどまるよう助言しています。
  • 曝露源を特定するための疫学調査を進めています。
  • アルゼンチンのNFPは乗客および乗組員のリストを、各人の国籍に応じて、それぞれの国のNFPと共有しました。
  • WHO緊急医療チーム(EMT)事務局とEU緊急対応調整センター(ERCC)との作業取り決めに沿って、症状のある乗客の臨床管理および医療搬送を支援するため、EMT事務局は正式な協議を開始しました。
  • 検体採取用品など物流支援を提供しています。
  • ハンタウイルス感染症の臨床検査および確認は、南アフリカの国立感染症研究所(NICD)で実施されています。血清学的検査、塩基配列解析、メタゲノム解析が進行中です。
  • 症状のある乗客から採取された追加の検体は、WHOの支援を受けて、検査のためセネガルのダカール・パスツール研究所へ送付されています。
  • WHOは3層の調整体制を発動し、IHRの規定および関連するWHO技術ガイダンス文書に従い、各国の当局がリスクに基づき、エビデンスを用いた公衆衛生上の措置をとることを支援しています。

WHOによるリスク評価

ハンタウイルス肺症候群(HPS: Hantavirus Pulmonary Syndrome)は、ハンタウイルス心肺症候群としても知られ、ブニヤウイルス目ハンタウイルス科オルソハンタウイルス属のハンタウイルスによって引き起こされる、人獣共通感染症のウイルス性呼吸器疾患です。この属では20種を超えるウイルス種が特定されています。アメリカ大陸地域におけるHPSの主な原因ウイルスは、北米ではシンノンブレウイルスであり、南米ではアンデスウイルス(Orthohantavirus andesense)によるものです。

ヒトのハンタウイルス感染症は、主に感染したげっ歯類の尿、糞便または唾液との接触、あるいは汚染された表面に触れることによって感染します。曝露は通常、げっ歯類が侵入している建物の清掃などの活動中に起こりますが、げっ歯類が多数生息している場所での日常活動中にも起こる可能性があります。
ヒトの症例は、げっ歯類が存在し、曝露の機会が多い森林、野原、農場などの農村部で最も多く報告されています。HPSは、頭痛、めまい、悪寒、発熱、筋肉痛、ならびに悪心、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状を特徴とし、その後、呼吸困難および低血圧が突然生じます。HPSの症状は通常、ウイルスへの初回曝露から2~4週間後に出現します。ただし、症状は曝露後1週間ほどで出現することも、8週間後に出現することもあります。

ハンタウイルス感染症の発生は、世界的にみると、比較的まれです。2025年(疫学週47週時点)には、アメリカ大陸地域で8か国が229例の症例と59例の死亡例を報告し、致命率(CFR; case fatality ratio)は25.7%でした。ヨーロッパ地域では、2023年に1,885例のハンタウイルス感染症が報告され(10万人当たり0.4)、2019年から2023年の間で観察された最も低い率となりました。東アジア、特に中国および韓国では、ハンタウイルスによる腎症候性出血熱(HFRS:Hemorrhagic fever with renal syndrome)が現在も毎年数千例みられるものの、発生数は近年減少しています。

ハンタウイルス感染症の致命率は、アジアおよびヨーロッパ地域のHFRSでは1%未満~15%、アメリカ大陸地域のHPSでは最大50%とされています。ハンタウイルス感染症に対する特異的な治療法やワクチンはありませんが、早期の支持療法と、十分な機能を備えたICUを有する施設へ速やかに搬送することで、生存率を改善することができます。

げっ歯類の個体群に影響を与える環境的要因および生態学的要因は、疾患の発生動向に季節的な影響を及ぼす可能性があります。ハンタウイルスの自然宿主は森林に生息するげっ歯類であるため、ヒトがげっ歯類の生息環境と接触した場合に感染する可能性があります。

まれではあるものの、アンデスウイルスによるHPSの限定的なヒトからヒトへの感染が、集団における長時間の濃厚接触で起こると報告されています。医療施設では、患者から医療従事者への二次感染が過去に記録されていますが、まれであることに変わりはありません。

WHOは現在、今回の事象が世界の人々におけるリスクは低いと評価しており、今後も疫学的状況を監視し、追加の情報を入手したタイミングでリスク評価を更新していきます。

WHOからのアドバイス

WHOは、今回の事象に関与するWHO加盟国に対し、ハンタウイルスによる感染を予防・制御するため、船舶運航者と緊密に連携しながら、船舶衛生対策を含む船内での探知、調査、報告、症例管理、感染制御および公衆衛生管理の取り組みを継続するよう助言しています。

現在の感染拡大状況においては、乗客および乗組員は頻回な手指衛生を行い、HPSの症状に注意を払い、45日間の積極的な臨床症状のモニタリングを行う必要があります。乗組員は、船内の十分な環境清掃(粉塵が飛散するような乾拭きは避ける)と換気を確保しなければなりません。症状を呈している乗客および乗組員は、船内の医療従事者に報告し、自主隔離を行う必要があります。呼吸器症状がある場合は、咳エチケットを実践し、医療用マスクを着用することとしています。

ハンタウイルスの存在が知られている地域から帰国する渡航者、船舶の衛生対策に関与する者を含む乗組員、その他の関係する職員、ならびにそのような地域を発着したり、そのような地域を経由したりしてエコツーリズムを行う輸送機関の乗員は、警戒を続けることが重要です。

引き続き、疑い例の早期探知、迅速な隔離、および推奨される感染予防策の一貫した遵守は、医療従事者を守るために重要です。

HPSの診断は、酵素免疫測定法(ELISA法)を用いたIgM又はIgG抗体価上昇の血清学的検査、あるいはウイルスRNAを検出する逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって行われます。

医療現場では、すべての患者に対して、手指衛生、環境清掃、血液および体液の安全な取り扱いなど標準予防策を適用する必要があります。標準予防策に加えて、HPSの疑い例または確定例の管理では、感染経路別の予防策を実施する必要があります。濃厚接触時には、標準予防策と感染経路別の予防策を併用することで十分と考えられます。エアロゾルを発生させる処置では、空気感染への予防策を用いる必要があります。

HPSが疑われる場合、綿密なモニタリングと支持療法による管理を行うため、患者を救急診療部またはICUへ速やかに搬送する必要があります。

患者の初期管理には、必要に応じて解熱鎮痛薬を用いた支持療法を含める必要があります。ハンタウイルス感染症と確定診断された場合、抗生物質は通常、適応とはなりません。ただし、確定診断前(かつ細菌感染が診断上の可能性として残る場合)、または細菌の重複感染が疑われる場合には、経験的に広域スペクトラムの抗生物質の適応となることがあります。臨床管理は主に、慎重な輸液、血行動態モニタリングおよび呼吸補助に依存します。HPSは急速に進行するため、重症例では、より綿密なモニタリングと早期のICUへの搬送が重要です。人工呼吸器管理、厳密な輸液管理および昇圧剤が必要となることがあります。重度の心肺機能低下の場合、体外式膜型人工肺(ECMO)が救命につながる可能性があります。重度の腎機能障害がある場合、透析が必要となることがあります。

リバビリンは、HFRSに対する有効性を示していますが、HPSに対する有効性は示されておらず、HPSの治療または予防のいずれについても承認されていません。現時点で、HPSに対して承認された特異的な抗ウイルス薬はありません。

公衆衛生の意識向上に向けた取り組みは、より早期の探知、適時の治療機会の確保、曝露リスクの低減に焦点を当てる必要があります。予防措置では、職業上の曝露およびエコツーリズム関連の曝露に対応し、標準予防策および感染経路別予防策に基づく感染予防管理の実践を強調し、げっ歯類の制御戦略を含める必要があります。通常の観光活動では、げっ歯類やその排泄物への曝露リスクはほとんど、またはまったくありません。

アンデスウイルス、およびその他の南米のハンタウイルスが流行している地域では、ヒトからヒトへの感染の可能性を考慮する必要があります。

地域内流行伝播が知られている場所で、農村部への訪問、キャンプ、ハイキングなどの屋外活動を行う者は、感染性物質への曝露の可能性を最小限に抑えるための予防策を講じる必要があります。

リスクコミュニケーションおよびコミュニティエンゲージメントの介入では、透明性があり、適時、文化的に適切なコミュニケーションを優先し、ハンタウイルスの感染伝播リスク、特に流行地域におけるげっ歯類の排泄物への曝露についての認識を高め、安全な食品保管、げっ歯類との接触回避、湿式清掃法(乾拭きをしない)、適切な換気など、実用的な予防策を促進する必要があります。コミュニティエンゲージメント戦略では、地域のリーダーや高リスクの職業に従事する労働者を関わらせて、対象に合わせたメッセージを共同で作成・普及させ、誤情報に対処し、早期受診を促す必要があります。

HPSのサーベイランスは、包括的な国のサーベイランスシステムに統合されるべきであり、臨床、検査診断および環境の各要素を含める必要があります。げっ歯類の個体数を減少させることを目的とした統合的環境管理戦略の実施も推奨されます。

* 標準予防策とは、感染の状態(疑いまたは確定)にかかわらず、医療が提供されるあらゆる場所で患者のケアに適用される一連の対策を指します。これらの対策は、医療従事者と患者の双方を守ることを目的としており、手指衛生、個人防護具(PPE)の使用、呼吸器衛生および咳エチケット、鋭利な器具の安全な取り扱い、安全な注射手技の実践、滅菌された器具および機器の使用、ならびに病院環境および周辺環境の清掃を含みます。出典“Standard precautions for the prevention and control of infections: aide-memoire WHO, 2022”。 https://www.who.int/publications/i/item/WHO-UHL-IHS-IPC-2022.1で入手可能。

WHOは、今回の事象について現在入手可能な情報に基づき、渡航や貿易を制限することは推奨していません。

出典

World Health Organization(4 May 2026)Disease Outbreak News; Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2026-DON599

備考

This is an adaptation of an original work “Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country. Geneva: World Health Organization (WHO); 2026. License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition