原因不明の肺炎-ロシア連邦(2026年10月10日)

海外へ渡航される皆様へ

今回ロシア連邦イルクーツク州から、危険性の高い病原体を取り扱う研究所の職員1名が重症肺炎で死亡した事例が報告されました。ロシア連邦の保健当局は、死亡した職員および接触者について、ペストを含む検査対象の高脅威病原体は検出されなかったと報告しています。一方、死亡した職員の肺炎の原因病原体は特定されていません。ロシア連邦当局によると、特定された接触者は全員、無症状のまま7日間の健康観察を終了しました。ただし、WHOは、死亡した職員の確定診断が得られていないため、この健康観察期間が十分であったか独自に評価できないとしています。
また、WHOは、現時点で本事例に関連した継続的な感染伝播の証拠を確認していません。WHOは、2026年10月10日時点で得られた情報に基づき、本事例に関連した渡航や貿易の制限を推奨していません。

〇渡航前の情報収集
本事例に関する情報や、ロシア連邦ならびに渡航先地域で流行している感染症に関する情報、現地の医療情報を、FORTHや外務省などの公式な情報源で確認してください。トラベルクリニックなどで渡航前に予防接種や感染対策などを相談することも可能です。

〇渡航中の健康管理
1.基本的な感染予防策
呼吸器感染症などの予防には、石けんと流水による手洗いやアルコール手指消毒剤による手指衛生が重要です。また、咳エチケットを守り、混雑した屋内や医療機関など、状況に応じて適切にマスクを着用することも感染リスクの低減に役立ちます。
2.体調不良時の行動
渡航中に何かしらの症状が出現し、現地の医療機関を受診する場合は、渡航歴・現地での行動を必ず伝えてください。

〇帰国後の対応
日本へ帰国した時に発熱、咳、息苦しさなどの症状が出た場合は、空港や港の検疫所で渡航歴・現地での行動を伝えた上で相談してください。

そのほか、海外渡航に関する一般的な注意事項は「ここに注意!海外渡航にあたって」をご参照ください。

以下は、WHOのDisease Outbreak Newsの翻訳であり、厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成しています。

また、本事例は状況に応じて随時更新されます。
更新情報は随時WHOのサイトで確認してください

状況の概要

2026年10月2日、世界保健機関(WHO;World Health Organization)は、メディアの報道を通じて、ロシア連邦のシベリア・極東イルクーツクペスト防疫研究所(APRI;Antiplague Research Institute)の職員1名が死亡したことを把握しました。これらの報道によると、この職員は9月29日に重症肺炎で入院した後、10月2日に死亡しており、実験室環境での職業的曝露による肺ペストが死因として疑われていました。
WHOからの検証要請を受けて、ロシア連邦の国際保健規則(IHR;International Health Regulations)国家連絡窓口(NFP;National Focal Point)は、この死亡を確認するとともに、イルクーツク州では最近ペストの症例は登録されていないこと、国内の衛生法規に従って予防・管理措置が実施されたこと、接触者の検査室での検査で高脅威病原体は検出されなかったことをWHOに報告しました。また、当局は、メディアの報道とは異なり、当該実験室ではバイオセキュリティ上のインシデントは発生しておらず、本症例に関連する重症肺炎の追加症例もないと報告しました。
NFPはWHOに対し、本症例およびすべての接触者について、高脅威病原体を含むさまざまな微生物の検査を実施したことを伝えました。検査対象の高脅威病原体は、いずれも陰性でした。接触者は全員、医療施設または自宅で健康観察を受け、期間を通じて無症状のままでした。患者が治療を受けていた病院では、検疫措置が実施されました。NFPから提供された情報に基づき、WHOは本事例に関連した継続的な感染伝播の証拠を確認していません。主な不確実性として、死亡した実験室職員の確定診断が得られていないことが残っています。
WHOは引き続き状況を注視し、さらなる情報が得られ次第、公衆衛生上の潜在的な影響を評価します。

発生の詳細

2026年10月2日、WHOはメディアの報道を通じて、ロシア連邦のシベリア・極東イルクーツクAPRIの職員1名が死亡したことを把握しました。この職員は、9月29日に重症肺炎で入院した後、10月2日に死亡しました。

10月3日、5日、6日および7日、WHOは、メディアが報じた情報(2例目とされる症例を含む)を検証するため、ロシア連邦の保健当局に連絡を取りました。また、IHR第9条および第10条に基づき、IHR第6条に則って国際的な公衆衛生上の潜在的な影響を評価するための追加情報の提供も要請しました。

10月2日、ロシア連邦消費者権利保護・福祉監督庁(RPN;Rospotrebnadzor)のイルクーツク支部が発表した公式声明では、高脅威病原体の感染疑い例に対して「特別衛生疫学専門家委員会」が招集されたことが示されました。接触者を特定して健康観察の対象とするなど、衛生・防疫措置が講じられました。ロシア連邦当局は当時、接触者は全員無症状で、高脅威病原体の検査結果も陰性であったと述べました。

10月6日、WHOはロシア連邦のNFPからの回答を受け取りました。回答では、イルクーツク州で最近ペストの症例は登録されていないこと、イルクーツクAPRIの職員に重症肺炎の症例が確認されたことを受けて疫学調査が実施されたことが確認されました。当局によると、この職員は当初、急性呼吸器ウイルス感染症に合致する症状を呈していました。複数の高脅威病原体の検査で陰性となったことから、原因不明の肺炎により死亡したと判断されました。

ロシア当局はWHOに対し、国内の衛生法規に従って予防・管理措置が実施されたこと、可能な限り幅広く接触者を特定し、健康観察の対象として高脅威病原体の検査を実施したこと、10月9日時点で、同研究所の研究対象である高脅威病原体はいずれの接触者からも検出されず、健康観察を終了したことを報告しました。当局はさらに、2件の独立した調査により、同研究所では実験室バイオセーフティ上またはバイオセキュリティ上のインシデントは発生していなかったことが確認されたと報告し、これと異なる内容を示唆するメディアの報道は不正確であると述べました。

ロシア連邦当局によると、引き続き状況の監視が行われています。

10月7日および8日にWHOが追加の情報提供を要請したことを受け、ロシア連邦のNFPはさらなる情報を提供しました。公式報告によると、患者および特定されたすべての接触者に対し、インフルエンザ、SARS-CoV-2、その他の呼吸器感染症、細菌感染症(ペストやレンサ球菌を含む)など、幅広い病原体の検査が行われました。報告によると、高脅威病原体の検査結果はすべて陰性で、接触者からは、COVID-19の感染例が2例、ライノウイルスの感染例が3例、ヘモフィルス属菌の感染例が1例確認されたほかは、日和見感染症が確認されたのみでした。当局はさらに、この死亡はペスト感染によるものではなく、この職員は業務上取り扱っていた高脅威病原体に対する予防接種を受けていたと報告しました。また、報告では、この職員が症状発現前の2週間にイルクーツク州外へ移動していなかったとされています。

WHOは、ロシア連邦の公衆衛生当局に対し、高脅威病原体および実験室バイオセーフティ・バイオセキュリティの分野での支援を申し出ています。

実施された公衆衛生措置に関する追加情報について、ロシア連邦当局は、患者の職業を踏まえて予防的な公衆衛生措置を講じ、幅広い接触者を特定して医療施設または自宅で健康観察の対象としたと報告しました。毎日の検査室での検査を含む健康観察は7日間実施され、特定されたすべての接触者について完了しています。接触者は全員無症状のままで、調査対象の病原体の検査結果は陰性でした。

ロシア連邦当局はWHOに対し、メディアの報道とは異なり、本症例が入院した病院を除き、他の医療施設が検疫措置や追加の公衆衛生措置の対象となったことはないと伝えました。

公衆衛生上の取り組み

ロシア連邦のNFPは、地域衛生・防疫委員会が10月2日に臨時会議を開催したことを公表しました。所管機関であるRPNは、国内法に従い、接触者追跡および健康観察、特定された接触者の検査室での検査、疫学調査およびリスク評価の強化、予防的な感染予防と管理(IPC;Infection prevention and control)措置の実施などを含む、衛生・防疫措置の実行計画を承認しました。この措置には、3つの研究機関を含むRPN傘下の5つの組織が関与しました。予防・防疫措置は、患者の業務内容に応じて実施されました。感染症に関連する健康上の問題は確認されませんでした。5,500件以上の検査が実施されましたが、重大な健康被害をもたらす病原微生物や危険な病原微生物は検出されませんでした。検査は、細菌学的手法、生物学的手法、質量分析法、分子遺伝学的手法など、確立された幅広い検査法を用いて行われました。接触者から高脅威病原体は検出されず、追加の症例が確認されることなく、すべての追跡調査が完了しました。

WHOによるリスク評価

WHOの迅速リスク評価は、公衆衛生上の事象がもたらすリスクを明らかにし、その影響を軽減して国際的な拡大を防ぐための対策に活用される、体系的かつ継続的なプロセスです。

本事例における主な不確実性は、死亡した実験室職員の確定診断が得られていないことです。国の当局から提供された情報によると、検査ではペストやその他の検査対象の高脅威病原体は確認されず、この死亡は原因不明の肺炎に分類されています。しかし、WHOは、この致死的な疾患の原因病原体を特定する情報を受け取っていません。確定診断が得られていないことから、WHOは、報告された接触者の健康観察期間が、この致死的な疾患の考えられるすべての原因を除外するのに十分であったかどうかを独自に評価できる立場にはありません。

本症例の職業上の背景は、引き続き重要な検討事項です。死亡した職員は、重大な健康被害をもたらす病原体を取り扱う機関に勤務しており、その業務内容を理由に予防的な公衆衛生措置が講じられたと報告されています。当局から提供された情報では、検査対象の高脅威病原体への感染や関連する追加症例は示されていませんが、致死的な疾患の原因は依然として不明です。したがって、現段階では実験室に関連した曝露の可能性を完全には否定できません。

NFPから提供された情報に基づき、WHOは本事例に関連した継続的な感染伝播の証拠を確認していません。しかし、確定的な病因診断が得られていないこと、および感染源や曝露経路に関する不確実性が残っていることから、本評価の確信度は依然として限定的です。評価の確信度を高めるためには、死亡した実験室職員の診断の確定を含め、さらなる臨床、疫学および検査室からの情報が必要です。WHOは引き続き状況を注視し、さらなる情報が得られ次第、公衆衛生上の潜在的な影響を評価します。

WHOからのアドバイス

WHOは、IHRのすべての締約国に対し、事象に関する適時の情報共有のため、各WHO地域事務局のWHO IHR連絡窓口と積極的に連携するよう奨励しています。これには、国の当局がWHOへの通知(第6条)またはWHOとの協議(第8条)を判断するための、IHR附録第2に示された決定手段を適用することも含まれます。

この致死的な疾患の病因は依然として特定されていないため、入手可能な臨床検体および疫学情報について、必要に応じて調査を継続すべきです。必要に応じたリファレンス・ラボラトリーによる確認検査を含む追加の検査室での検査は、原因病原体の特定や公衆衛生上のリスク評価の精緻化に役立つ可能性があります。

季節性や地域の疫学状況に応じて、締約国は、呼吸器感染症に対する地域社会ベース、イベントベース、または定点サーベイランスの強化、ならびに呼吸器病原体の検査能力の強化を検討することができます。また、公衆衛生当局は、必要に応じて、季節性インフルエンザ、COVID-19、肺炎球菌感染症、その他のワクチンで予防可能な呼吸器感染症に対する推奨された予防接種を受けるよう奨励することができます。

報告された事例には実験室職員が関与しており、当初のメディア報道では職業的曝露または実験室関連のインシデントの可能性が示唆されていたことから、WHOは、潜在的に有害な生物学的因子を取り扱う実験室において、強固なバイオセーフティ、バイオセキュリティおよび感染予防と管理の実践を維持することの重要性を改めて強調します。この勧告は予防的な性質のものであり、本事例において実験室関連の感染やインシデントが確認されたことを意味するものではありません。

実験室環境で働く職員にバイオハザードへの職業的曝露が生じた場合、具体的な役割や臨床転帰の性質にかかわらず、WHOは、確立されたプロトコルに従い、適切なバイオセーフティ、バイオセキュリティおよび感染予防と管理の措置を厳格に遵守することを推奨します。これらの措置は、感染性病原体への職業的曝露および意図しない放出のリスクを最小限に抑えることを目的としたもので、日常的な実験室業務の一環として一貫して適用されるべきです。なお、これは特定の感染症や臨床状態が実験室環境での職業的曝露により生じたことを必ずしも意味するものではありません。

現在入手可能な情報に基づき、WHOは本事例に関連した渡航または貿易の制限を推奨していません。WHOは引き続き状況を注視し、さらなる情報が得られ次第、勧告を更新します。

出典

World Health Organization(10 October 2026)Disease Outbreak News; Pneumonia of undetermined etiology - the Russian Federation
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2026-DON620

備考

This is an adaptation of an original work “Pneumonia of undetermined etiology - the Russian Federation. Geneva: World Health Organization (WHO); 2026. License: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition

2026年11月更新