複数国(非エンデミック国)におけるサル痘の発生について - 更新

Disease outbreak news  2022年5月29日

発生状況一覧

2022年5月13日以降、WHOの4つの地域にわたって、サル痘ウイルスが常在していない23の加盟国からサル痘の感染がWHOに報告されています。疫学的な調査が進行中です。これまでに報告された患者の大半は、流行地域への渡航歴がなく、プライマリーケアや性感染症専門医療機関を通じて報告されていることが確認されています。サル痘の確定例および疑い例が、流行地への渡航歴と直接的な関係も無く確認されたことは、非典型的なことです。各国からWHOに報告された初期の疫学によると、主に男性と性交渉を持つ男性(MSM)の間で症例が報告されていることが分かっています。非エンデミック国においては、1例のサル痘の発生をもってアウトブレイクとみなされます。サル痘が複数の非エンデミック国で同時に突然発生したことは、最近の増幅現象だけでなく、しばらくの間、検出されていない感染があった可能性を示唆しています。

今回のDisease Outbreak Newsは、5月21日に発行されたDisease Outbreak Newsの更新版です。今回は、最近発表されたアウトブレイクに関するWHOのガイダンスに関する情報を提供しています。本疾患の疫学に関する記述などの背景情報は、ほとんど変更されていません。

発生の概要

5月26日現在、累計で257の検査確定例と約120の疑い例がWHOに報告されています。死亡例は報告されていません。
状況は急速に進行しており、WHOは、非エンデミック国や、エンデミック国であっても最近症例報告がない国においてサーベイランスが拡大するにつれて、さらに確認される症例が増えると想定しています。

当面の対策は、以下のことに重点を置く必要があります。
・サル痘のリスクが最も高いと思われる人々に正確な情報を提供すること。
・リスク集団の間でのさらなる感染拡大を阻止すること。
・最前線の医療従事者を保護すること。

表1. 2022年5月13日から5月26日午後5時(中央ヨーロッパ夏時間以下、「CEST」という)までにWHOに寄せられた非エンデミック国でのサル痘の症例数


非エンデミック国からの症例報告に加え、WHOはアフリカ地域のエンデミック国[1]における症例について、確立された監視メカニズム(IDSR)を通じて、進行中のアウトブレイクの状況に関する最新情報を引き続き受け取っています。疑い例の確認を可能にするため、エンデミック国における検査施設の強化が優先されています。

[1] サル痘のエンデミック国は以下の通りです。カメルーン、中央アフリカ共和国、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガボン、リベリア、ナイジェリア、コンゴ、シエラレオネ。ガーナでは、サル痘ウイルスは動物からのみ確認されました。ベニンと南スーダンは、過去に輸入症例を記録しています。現在、西アフリカの感染者が報告されている国は、カメルーンとナイジェリアであり、コンゴ盆地系統群の感染者は、カメルーン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国です。

表2.サル痘のエンデミック国での患者数

その他の追加情報については、WHO AFRO Weekly Bulletin on Outbreaks and Other Emergenciesを参照してください。


図1. 2022年5月13日から26日午後5時(CEST)までの非エンデミック国におけるサル痘の確定症例および疑い症例の地理的分布

サル痘の疫学

サル痘はウイルス性人獣共通感染症(動物からヒトに感染するウイルス)であり、かつての天然痘患者に見られた症状に非常によく似た症状を呈する感染症ですが、天然痘より軽症です。ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属するサル痘ウイルスによって引き起こされます。サル痘という名前は、1958年にデンマークのコペンハーゲンにある研究所で、サルからこのウイルスが最初に発見されたことに由来しています。ヒトへの感染は、1970年にコンゴ民主共和国の小児で確認されたのが最初です。

サル痘ウイルスは、病変部、体液、呼吸器飛沫、寝具などの汚染物との濃厚接触により、人から人へ感染します。サル痘の潜伏期間は通常6から13日ですが、5から21日の範囲に及ぶこともあります。

さまざまな動物種がサル痘ウイルスに感受性があることが確認されています。サル痘ウイルスの自然史については不明な点が多く、自然界でどのようにウイルスの感染環が維持されているのか、宿主となる動物を特定するためにさらなる研究が必要です。感染した動物の肉やその他の動物性食品を十分に加熱しないで食べることは、危険因子となりえます。

サル痘は通常、自己限定的ですが、非エンデミック国に住む人々には、これまでウイルスが確認されていないため、サル痘に対する免疫がほとんどないと思われます。サル痘ウイルスには、西アフリカ系統群とコンゴ盆地(中央アフリカ)系統群との2つの系統群が存在します。コンゴ盆地の系統群は、重症化する頻度が高く、致死率(以下、「CFR」という)は最大で約10%であることが報告されています。現在、コンゴ民主共和国では、疑い例におけるCFRは約3%であると報告されています。西アフリカ系統群は、過去にアフリカの環境において、一般的に若い集団で1%前後の全体的に低いCFRとなっていました。2017年以降、西アフリカのサル痘感染者の死亡例は少数ですが、若年または未治療のHIV感染に関連していました。

歴史的に、種痘は、サル痘に対しても交差免疫効果を示すことが知られていました。しかし、種痘による免疫は、高齢者に限定されます。なぜなら、世界中の40歳または50歳以下の人々は、もはや過去の種痘接種による免疫の恩恵を受ける世代を過ぎているからです。さらに、ワクチン接種後、時間の経過とともに免疫力が低下している可能性もあります。

天然痘ワクチン1種(MVA-BN)と治療薬1種、テコビリマット(tecovirimat)がそれぞれ2019年と2022年に異なる国で承認されましたが、これらの手段はまだほとんどの国で広く利用できず、一部の国では全く利用できません。

公衆衛生上の取り組み

・患者が確認された国では、広範な症例発見と接触者追跡、検査施設での調査、治療、患者の隔離など、公衆衛生上のアウトブレイク調査が進行中です。これは、さらなる拡大を抑制するためにWHOが推奨しているアプローチです。
・ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査など、サル痘に特異的な診断分析によると、現在までにこの複数国のアウトブレイクにサル痘ウイルスの西アフリカ系統群が関与していることが示されています。今回の集団発生で流通しているサル痘ウイルスの特徴をさらに明らかにするため、可能な場合にはゲノム配列の解析が行われています。ヨーロッパのいくつかの国(ベルギー、フランス、ドイツ、オランダ、ポルトガル)は、今回のアウトブレイクに関するサル痘ウイルスの全ゲノムまたはドラフトゲノム配列を発表しています。現在調査が進行中ですが、予備的なデータから、これらのゲノムはサル痘ウイルスの西アフリカ系統群に属することが確認されています。
・種痘とサル痘ワクチンは、入手可能な場合、限られた国々で、濃厚接触者に対応するために配備されています。種痘はサル痘に対する予防効果があることが示されていますが、サル痘の予防のために承認されたワクチンも1つあり、ワクシニアウイルス(一般にMVA-BNと呼ばれています)をベースとしています。 このワクチンは、カナダと米国でサル痘の予防のために承認されています。欧州連合(EU)では、天然痘の予防ワクチンとして承認されています。WHOは、種痘とサル痘ワクチンの最新データを検討し、どのように、どのような状況で使用すべきかのガイダンスを提供するため、専門家を招集しています。

●WHOは、以下のような中間ガイダンス速報を発表しています。
・最適な治療を提供するために症例とクラスターを迅速に特定すること、さらなる感染拡大を防ぐために患者を隔離すること、濃厚接触者を特定し管理すること、第一線の医療従事者を保護すること、効果的な制御および予防手段を調整することなどが、サル痘の監視、症例調査および接触者追跡の目的です。この暫定ガイダンスには、症例の定義が含まれています。
・サル痘ウイルスの検査は、感染の適時かつ正確な確認を可能にし、アウトブレイク調査や感染連鎖の断絶を助け、アウトブレイクを制御・阻止するために行われます。
・サル痘:ゲイ、バイセクシャル、MSMに対する公衆衛生上の助言は、このアウトブレイクの初期段階でリスクが高い人に対するリスクコミュニケーションとコミュニティ参加メッセージの作成を支援するために提供されます。

サル痘の治療、感染予防と管理(IPC)、サル痘ワクチンと予防接種、リスクコミュニケーションとコミュニティ参加に関する保健当局のためのWHO暫定ガイダンスは間もなく発行される予定です。

WHOによるリスク評価

現在、世界レベルでの公衆衛生リスクは、中程度と評価されています。これは、サル痘の症例とクラスターがWHOの地理的に大きく離れた場所で同時に報告され、西アフリカや中央アフリカのエンデミック国との疫学的関連が知られていない初めての事例であることを考慮したためです。症例は、主にMSMの間で報告されています。さらに、多くの散発的な症例が突然出現し、地理的にも広範囲に及んでいることから、ヒトからヒトへの感染がすでに進行しており、ウイルスが数週間あるいはそれ以上、感知されずに循環していた可能性があります。

このウイルスがヒト病原体として確立する機会を得て、幼児や免疫抑制者のような重症化リスクの高い集団に広がった場合、公衆衛生上のリスクが高くなる可能性があります。
また、一部の国では、ある程度の交差免疫をもたらす天然痘ワクチンの接種が1980年以前から中止されており、人口の多くがサル痘ウイルスに対し免疫がありません。

現在、疫学的および検査に関する情報は限られており、報告されている患者数は、以下の理由もあり、過小評価されている可能性が高いです。

・多くの場合、リンパ節腫脹を伴う局所的な発疹という比較的軽い症状であるため、多くの人が病院受診をしない可能性があること。
・以前は数カ国でのみで知られていた感染症のため、医療従事者によって早期診断されなかったこと。
・加盟国が新しい監視体制を確立し、拡大するのにある程度の時間を要したこと。
・診断検査、試薬、その他の供給が広く行き渡っていないこと。

医療従事者が感染を防ぐための適切な個人防護具(PPE)を着用していない場合、医療従事者にリスクが生じる可能性があります。今回のアウトブレイクでは報告されていませんが、医療関連サル痘感染の危険性は過去に報告されています。

過去の流行では、小児や免疫不全者(HIV感染者の管理が不十分な人を含む)に死亡例が多く報告されており、これらの人は特に重症化する危険性があるため、これら脆弱な集団に広く拡がることで健康に大きな影響を与える可能性があります。

さらに、他の集団に感染する可能性も含め、感染経路が未知の新規事例が確認される可能性が高いです。WHOのいくつかの地域で多くの国がサル痘症例を報告しており、さらに多くの国で症例が確認される可能性も高いです。サル痘の病変は、通常、体の多くの部分、または、すべての部分の皮膚や口腔内に生じるため、家族内または性的パートナーとの対面、皮膚と皮膚、口と皮膚との接触などの密接な身体的接触や、汚染された物品(リネン、寝具、衣類、食器など)との接触により、ウイルスがさらに広がるリスクが高いです。しかし、現在のところ、一般市民のリスクは低いと思われます。それにもかかわらず、リスクのあるグループ間でのさらなる拡がりを抑制し、一般集団への拡がりを防ぎ、現在の非エンデミック国における臨床症状および公衆衛生問題としてのサル痘が確立してしまうことを回避するために、各国からの即時の行動が必要です。

WHOからのアドバイス

現在感染が起きている国や他の加盟国において、さらなる患者の確認と拡大が想定されます。発熱、リンパ節腫脹、頭痛、背痛、筋肉痛、疲労を伴い、全身の患部で同じ進行度の発疹(黄斑、丘疹、小水疱、膿疱、かさぶた)を順次呈する患者に関する徴候に、各国は警戒する必要があります。今回の流行では、多くの人が口腔内、生殖器周辺、肛門周辺の局所的な発疹と、痛みを伴う局所リンパ節腫脹を呈し、時には二次感染を起こすこともあります。これらの感染者は、プライマリーケア、発熱クリニック、セクシャルヘルスサービス、トラベルヘルスクリニック、感染症科、救急部、皮膚科クリニック、産婦人科、歯科を含む様々な社会や医療現場を訪れる可能性があります。潜在的な感染者予備軍である地域社会、医療従事者、検査機関職員の意識を高めることは、さらなる二次感染者を特定・予防し、現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。

疑い例の定義に合致する人には、検査を実施する必要があります。検査を行うかどうかは、感染の可能性の評価と関連した臨床的および疫学的な要因の両方に基づいて決定されるべきです。皮疹を引き起こす疾患は多岐にわたるため、また、この集団発生では臨床症状が非典型的であることが多いため、臨床症状のみに基づいてサル痘を鑑別することは、特に非典型的な症状を呈する症例では困難な場合があります。サル痘が疑われる患者を調査し、確認された場合は、病変が痂皮化し、かさぶたが剥がれ、その下に新しい皮膚の層が形成されるまで隔離する必要があります。隔離は、患者を隔離し、適切に治療をすることができれば、医療施設でも自宅でも可能です。サル痘に感染した可能性のある個人および地域社会に対する不必要な偏見を避けるために、あらゆる努力が払われるべきです。

サーベイランスと報告に関する留意点

詳細については、WHO Surveillance, case investigation and contact tracing for Monkeypox.を参照してください。中間ガイダンス、2022年5月22日。をご参照ください

○サーベイランス

現在の状況におけるサル痘のサーベイランスと症例調査の主な目的は、治療を提供し、さらなる感染拡大を防ぐために患者を隔離するために、できるだけ早く患者や感染集団、感染源を特定すること、そして、最も一般的な感染経路に基づいて、効果的に制御および予防手段を調整することです。非エンデミック国では、1名の患者の発生がすなわちアウトブレイクとみなされます。サル痘は1症例でも公衆衛生上のリスクがあるため、臨床医は、他の診断の可能性を検討しているかどうかにかかわらず、国の届け出基準に従って、疑い例を直ちに地域または国の公衆衛生当局に報告する必要があります。患者は、WHOの症例定義または国ごとに調整された症例定義に従って、直ちに報告されるべきです。疑い例と確定例は、国際保健規則(IHR 2005)に基づき、IHRナショナルフォーカルポイント(NFP)を通じてWHOに直ちに報告されなければなりません。

各国は、プライマリーケア、発熱外来、性感染症専門医療機関、トラベルクリニック、感染症科、救急医療、産婦人科、皮膚科クリニックなど、地域社会や医療の様々な場面で、しばしば発熱を伴う異常な発疹、小胞性または膿疱性病変、リンパ節炎を呈する患者に関する徴候に注意する必要があります。発疹性疾患に対するサーベイランスを強化し、確認用PCR検査のための皮膚病変の検体採取に関するガイダンスを提供すべきです。臨床医は、最近渡航した、あるいは最近渡航した人と接触した可能性のある、関連する症状や徴候を持つ患者に対して警戒を怠らないようにしなければなりません。これには、エンデミック国、特に現時点ではナイジェリアからの渡航や、最近サル痘が報告された他の国からの渡航が含まれますが、これに限定されるものではありません。最近、複数の性的パートナーと濃厚な個人的接触を持った人は、それが地域内であろうと最近の渡航と関連していようと、リスクがあるかもしれません。アウトブレイクが展開する中で、リスクがあると確認された地域に対しては、出向による活動を実施する必要があります。現時点では、MSMとその密接な接触者の社会的ネットワークに対する出向保健活動がこれに含まれます。どの地域でも、最初に確認されたサル痘の患者は、地域での濃厚な個人的接触によって感染した可能性があることに注意することが重要です。あまり一般的な状況ではありませんが、狩猟により獲得した肉類やブッシュミートの最近の調理・準備や消費もリスクとなる可能性があります。

○届出(レポート)

報告日、報告場所、患者の氏名、年齢、性別、居住地、最初の症状の発症日、旅行地と旅行日を含む最近の旅行歴、可能性症例または確定症例患者への最近の接触、可能性症例または確定症例患者との関係および接触詳細(該当する場合)、最近の複数または匿名の性的パートナーとの交渉歴、種痘の接種状況、発疹の有無。症例定義に従った他の臨床症状または徴候の有無、確定日(確定した場合)、確定方法(確定した場合)、ゲノム解析(可能な場合)、その他の関連する臨床または検査所見、以上、特に症例定義に従った他の発疹疾患の除外診断のための診療情報、入院の有無、入院日(入院した場合)、報告時点の転帰。

全世界共通の症例届け出様式は現在作成中です。

症例調査に関する留意点

○根拠

ヒトにおけるサル痘発生時には、感染者との密接な物理的接触がサル痘ウイルス感染の最も重要な危険因子となります。サル痘が疑われる場合、調査は、(i)適切な感染予防及び管理(IPC)措置を用いた患者の臨床検査、(ii)考えられる感染源及び患者の地域社会や接触者における同様の疾患の存在に関する患者への質問、(iii)サル痘の検査所における検査のための検体の安全な採取及び発送の3つから構成されるべきです。把握すべき最低限のデータは、上記の「届出」の項に記載されています。 曝露調査は、症状発現の5日から21日前までの期間を対象とする必要があります。サル痘が疑われる患者は、推定感染期間と既知感染期間、すなわち、それぞれ病気の前駆期と発疹期に隔離されるべきです。疑い症例の検査確定は重要ですが、公衆衛生上の措置の実施を遅らせてはなりません。 患者の地域社会または接触者の中に同様の疾患があると疑われる場合は、さらに調査を行う必要があります(「後方接触者追跡」としても知られています)。

積極的な調査により発見された患者は、もはやサル痘の臨床症状を呈していない(急性疾患から回復している)場合もありますが、瘢痕などの後遺症を示すことがあります。進行中の症例だけでなく、回復後の症例からも疫学的情報を収集することが重要となります。

サル痘の疑いのある人またはサル痘ウイルス感染の疑いのある動物から採取された検体は、適切な設備を備えた研究所で働く訓練を受けたスタッフによって安全に取り扱われる必要があります。検体の梱包や検査機関への輸送の際には、感染性物質の輸送に関する国内および国際的な規制に厳格に従わなければなりません。国内の検査機関の検査能力を考慮し、慎重な計画が必要となります。臨床検査室は、サル痘の疑いまたは確定患者から提出される検体について事前に知らされ、検査室職員のリスクを最小限に抑え、必要に応じて、臨床治療に不可欠な検査を安全に実施できるようにする必要があります。以下の検査と検体取扱いに関する留意点にある、詳細な情報を参照してください。


遡及的症例は、検査での確認ができませんが、遡及的症例の血液検体を採取し、抗オルソポックスウイルス抗体を検査することにより、症例分類の一助とすることが可能です

接触者追跡調査に関する留意点

○根拠

接触者追跡は、サル痘ウイルスのような感染症病原体の蔓延を抑制するための重要な公衆衛生対策です。接触者追跡は、感染連鎖の阻止を可能にし、また、重症化するリスクの高い人々がより迅速に接触者を特定し、健康状態を監視し、症状が出た場合にはより迅速に医療を受けることができるようにすることができるものです。現在の状況では、疑い患者が特定されたらすぐに、接触者の特定と接触者の追跡が開始されるべきです。患者と面会し、接触者の名前と連絡先を聞き出すべきです。接触者は、特定後24時間以内に通知されるべきです。

○接触者の定義

接触者とは、感染源となった患者の最初の症状の発生から、すべてのかさぶたが剥がれ落ちるまでの間に、サル痘の疑い例、あるいは確定した患者と、以下の1つ以上の接触をした人と定義します。
・性的接触を含む、直接的な身体的接触または濃厚接触
・対面での接触(適切なPPEを行っていない医療従事者を含む)
・衣服や寝具などの汚染された物品との接触

○接触者の連絡先の特定

患者には、家庭、親密なパートナー、性的接触者のほか、広範な個人ネットワークが参加者を危険にさらす可能性のある身体接触を伴う活動を行うイベントや社会的集会、祝祭、スポーツ、バーやレストラン、その他の集会場、輸送や閉鎖された車両での移動、保健医療施設(検査室での接触を含む)、職場、教会寺社院、学校/保育園、その他の記憶にある社会交流など様々な状況における接触を確認できるよう促すことが可能です。例えば、出席者名簿や乗客名簿などは、接触者を特定するために活用することができます。

○接触者のモニタリング

接触者は、感染期間の患者との最後の接触から21日間、少なくとも毎日、徴候・症状の発現を監視する必要があります。懸念される徴候・症状には、体調不良、頭痛、発熱、悪寒、口や喉の痛み、倦怠感、疲労、発疹、リンパ節症(リンパ節の腫れや炎症)などが含まれます。接触者は、1日2回体温を測定する必要があります。症状のない接触者は、自己観察期間中または症状観察中に、献血、細胞移植、組織、臓器移植、母乳ドナー、精子ドナーなどをするべきではありません。症状のない接触者は、出勤や通学などの日常生活を続けることができます(すなわち、隔離の必要はありません)が、観察期間中は自宅近くで待機しましょう。しかし、未就学児に関してはデイケア、保育園、その他の集団生活から隔離することが良識的かもしれません。

公衆衛生当局によるモニタリングの選択肢は、利用可能なリソースに依存します。接触者は、自己監視することもできますし、アクティブモニタリングや、あるいは直接モニタリングをされることもできます。自己監視の場合、接触者には、注意すべき徴候・症状、許可された活動、徴候・症状が現れた場合の保健当局への連絡方法に関する情報が提供されます。アクティブモニタリングは、モニタリング対象者が自己申告した徴候・症状があるかどうかを、公衆衛生職員が少なくとも1日1回確認する責任を負う場合です。直接モニタリングは、アクティブモニタリングのバリエーションで、少なくとも毎日家庭訪問するか、安全に実施できる場合は保健施設や公衆衛生部門に出向いたり、ビデオでモニタリング対象者の病気の兆候を目視で確認したりすることです。

発疹以外の初期症状や徴候が現れた接触者は隔離し、その後7日間、発疹の徴候がないか注意深く観察する必要があります。発疹が生じない場合、その接触者は21日間の残りの期間、体温のモニタリングに戻ることができます。発疹が出た場合は、適切な方法で隔離するか自己隔離し、疑い例として十分に評価し、サル痘を検査するために検体を採取して検査室で分析しなければなりません。

○曝露した医療従事者とケアワーカーのモニタリング

患者との直接の接触がなくても、汚染された可能性のある物質の管理を含め、サル痘の疑い例患者の世話をした医療従事者や家族は、最後に世話をした日から21日以内に、サル痘の感染を示唆する症状の発現に特に注意する必要があります。医療従事者は、感染管理、産業保健、公衆衛生当局に通知し、医学的評価について指導を受けるべきです。

サル痘患者への無防備な曝露(適切なPPEを着用していないなど)や汚染された可能性のある物品との接触があった保健医療従事者は、観察期間中に症状がなければ勤務から外す必要はありませんが、曝露後21日間は少なくとも1日2回の体温測定を含む症状の監視を受ける必要があります。毎日出勤する前に、保健医療従事者は、上記のような関連する徴候/症状の有無について聞き取りを受けるべきです。

推奨される感染予防策を遵守しながら、サル痘患者の世話をした、あるいは直接または間接的に接触した医療従事者は、地域の公衆衛生当局の決定に従って、自己監視またはアクティブモニタリングを受けることができます。

○接触者及び/又は医療従事者のワクチン接種

国によっては、サル痘ワクチンや種痘を保有している場合があり、国のガイダンスに従って使用を検討することができます。可能であれば、国は曝露後の予防として、近親者への適時のワクチン接種を検討することができます。国によっては、同じ世帯に住む家族、親しい人や性的接触者、適切なPPEを着用せずに曝露した医療従事者など、よりリスクの高い接触者に対して、現地で入手可能なサル痘ワクチンまたは種痘の曝露後接種(理想的には曝露後4日以内)を検討することがあります。ワクチン接種とどのワクチンを使用するかは、国のガイダンスに基づいて決定されるべきです。サル痘患者の接触者へのワクチン接種に関する個別の決定は、公衆衛生ガイダンス、リスク・ベネフィット評価、医療従事者と患者接触者との臨床的意思決定の共有に基づいて行われるべきです。また、検査所職員を含む特定の医療従事者やその他のリスクのある人に対しても、曝露前のワクチン接種が検討される場合があります。

ワクチンに関するあらゆる要請は、国レベルの保健当局を通じて行われるべきです。

○旅行関連の接触者追跡

公衆衛生担当者は、旅行会社や他の地域の公衆衛生担当者と協力して、潜在的なリスクを評価し、移動中に感染性の患者と接触した可能性のある乗客やその他の人に連絡を取る必要があります。
世界共通の接触者追跡調査用紙は近日中に公開される予定です。

リスクコミュニケーションと地域社会動員の留意点

サル痘に関連するリスクを伝え、予防、発見、治療について、リスクのあるコミュニティや影響を受けるコミュニティ、市民社会組織、性感染症専門医療機関などの医療従事者と関わることは、さらなる二次感染の防止と現在のアウトブレイクを効果的に管理するために不可欠です。病気の感染経路、症状、予防策に関する公衆衛生上のアドバイスを提供し、最もリスクの高い人口集団に的を絞ってコミュニティの関与を向けることは、蔓延を最小限に抑えるために非常に重要です。

親密な関係や性的接触を含め、感染者と直接接触した人は誰でもサル痘にかかる可能性があります。自己防衛のための措置としては、その人との身体的接触を避けることです。また、局所的な肛門性器発疹や口腔内潰瘍のある人との親密な接触や性的接触を避けることが重要です。情報がまだ収集されていないこのアウトブレイクの初期段階では、性交渉の相手を限定し、水と石鹸またはアルコールベースのジェルで手を清潔に保ち、呼吸器のエチケットと手の衛生を維持することが賢明でしょう。

発熱や不快感、体調不良を伴う発疹が出た場合は、医療機関に連絡し、サル痘の検査を受けてください。サル痘が疑われた場合、または確定された場合は、かさぶたが剥がれるまで自宅や適切な施設に隔離し、オーラルセックスを含む性交渉を控える必要があります。この間、痛みやかゆみなどのサル痘の症状を和らげるための支持的医療を提供する必要があります。また、合併症の早期発見のため、患者の状態を観察する必要があります。サル痘の患者を介護する人は、適切な個人防護策を講じる必要があります。

旅行中や帰国後に発疹のような病気になった場合は、最近のすべての旅行歴、性生活歴、天然痘の予防接種歴を含めて、直ちに医療専門家に報告する必要があります。

サル痘流行国の居住者及び旅行者は、サル痘ウイルスを保有している可能性のあるげっ歯類、有袋類、非ヒト霊長類(生死を問わず)等の病気の哺乳類との接触を避け、野生鳥獣(ブッシュミート)を食べたり扱わないようにすることです。

医療現場における臨床管理と感染予防・管理に関する留意点

これらの予防策は、外来サービスや病院を含むあらゆる医療施設に適用されます。
サル痘が疑われる、あるいは確認された患者をケアする医療従事者は、標準予防策、接触予防策、飛沫予防策を実施する必要があります。これらの予防策は、外来診療所や病院を含むあらゆる医療施設に適用されます。標準予防策には、手指衛生の厳守、汚染された医療機器、洗濯物、廃棄物の適切な取り扱い、環境表面の清掃と消毒が含まれます。

WHOは、サル痘の疑い例または確定例に対して、接触および飛沫感染に基づく予防措置を最低限実施するよう勧告しています。これには以下が含まれます。

●すべての医療従事者は、PPEを装着する前と外した後を含め、WHOの「手指衛生の5つの瞬間」に従って手指衛生を行う必要があります。
・患者を専用のバスルームまたはトイレのある、風通しのよい個室に入れる。個室が利用できない場合は、確認された患者をコホート化し、患者間の距離を1mに保つことを検討する。
・指定された病室/区域の入り口には、接触/飛沫に関する注意事項を示す看板を設置すること。
・病室に入る者は、手袋、ガウン、フィットした医療用マスク、目の保護具を含む個人用保護具(PPE)を着用すること。
・他の人が病室にいるときや搬送が必要なときは、患者にフィットした医療用マスクを着用し、呼吸衛生と咳エチケットを守り、露出した病変部を覆うように指導する。
・サル痘が疑われる人、あるいは確認された人の不必要な移動は避ける。患者を施設内外で移動または搬送する必要がある場合は、リスクに応じた予防措置が維持されていることを確認し、患者によくフィットした医療用マスクを装着する(患者が耐えられる場合に限る)。
・受け入れ側の施設/病棟/ユニットは、職員に知らせ、隔離区域または指定区域を準備するために、必要な感染予防措置について知っておく必要がある
・エアロゾルを発生させる処置が患者のケアのために必要であり、延期できない場合、医療従事者は患者の分泌物や他の物質のエアロゾル化を避けるために必要なすべての予防措置を取り、処置中に自分自身を守るために必要な適切なPPEを着用する必要がある。

PPEは、患者が入院している隔離区域を出る前に廃棄されなければなりません。医療施設内で患者が頻繁に使用する場所、または患者の治療行為が行われる場所、および患者の治療器具は、国または施設のガイドラインに従って清掃および消毒する必要があります。  リネン、病院用ガウン、タオル、その他の布製品は、振動してかさぶた等が落ちるのを避けるために慎重に取り扱い、回収する必要があります。
 
感染予防と管理に関する中間ガイダンスの全文は、近日中に発表される予定です。

○臨床管理及び治療

サル痘患者の臨床的ケアは支持的なものです。発熱、痛みを伴うただれや皮膚病変、リンパ節の腫れに関連する不快感、その他の懸念事項を含め、すべての症状に注意する必要があります。全身症状(発熱など)は脱水につながり、局所症状(口内炎やリンパ節の腫れなど)は十分な食事や水分の摂取が困難になる可能性があるため、患者は十分な休息と水分補給をする必要があります。目などの粘膜に触れないように注意し、病変部の二次感染を防ぐか、現地の医療プロトコルに沿って治療する必要があります。眼や皮膚の適切なケアは、合併症や瘢痕などの後遺症を軽減するのに役立ちます。また、リンパ節の腫れや口やのどの膿瘍が呼吸能力を低下させたり、呼吸器閉塞につながらないように患者さんをモニターしておく必要があります。他の原因による基礎疾患や関連する感染症はすべて、速やかに十分な治療を行う必要があります。

特定の抗ウイルス剤(サル痘で承認されているが、まだ広く使用されていないテコビリマットなど)を含む医薬品の対策は、特に症状が重い人や予後不良のリスクがある人(他の疾患により免疫抑制がある人や幼児など)に対して、治験または同情的使用プロトコルに基づいて検討することが可能です。
 
サル痘の臨床ケアと治療法に関する完全な中間ガイダンスは、まもなく発表される予定です。

ラボ試験と検体管理に関する留意点

詳細は、WHO Laboratory testing for monkeypox virus: Interim guidance, 23 May 2022をご参照ください。

サル痘ウイルス(MPXV)は、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属に属する二本鎖DNAウイルスです。ポックスウイルスは、ヒトおよび他の多くの動物に病気を引き起こします。感染すると、通常、病変、皮膚結節または播種性発疹が形成されます。ヒトに病原性を持つ他のオルソポックスウイルス(OPXV)種には、牛痘ウイルス、バリオラウイルス(天然痘の原因、現在は撲滅されている)などがあります。ワクシニアウイルスもOPXVの一種で、人に免疫をつけるためのワクチンの製造に使われ、1980年に達成された天然痘の根絶のための重要な手段となっていました。

サル痘の確認に推奨される検体は、皮膚病変の表面および/または滲出液のスワブ、複数の病変の表面組織、または病変の痂皮を含む皮膚病変の材料です。あるいは、ウイルス輸送媒体(VTM)に入れたスワブも使用できます。検体は採取後1時間以内に冷蔵または冷凍保存し、採取後できるだけ早く検査室に輸送する必要があります。検査する検体の輸送が7日を超える場合、検体は-20℃以下で保管する必要があります。

輸送する全ての検体は、適切な三重包装、ラベル付け、文書化を行い、適用される国内および/または国際的な規制を遵守して輸送する必要があります。発送には危険物取扱者認定を受けた発送人が必要です。感染性物質の輸送要件については、WHOの感染性物質の輸送規制に関するガイダンス2021-2022を参照されたい。

サル痘感染の確認は、リアルタイムまたは従来のPCRを用いた核酸増幅検査(NAAT)により、MPXVウイルスDNAの固有の配列を検出することに基づいています。MPXVに特異的な検査(望ましい)が利用できない場合、非エンデミック国では、ヒトにおける他のオルソポックスウイルスの循環がほとんどないため、オルソポックスウイルス陽性のPCRをもって確定とみなすことができます。PCRは単独で、あるいはシークエンスと組み合わせて使用することができます。

血漿または血清からの抗体の検出は、サル痘の診断に単独で使用すべきではありません。しかし、最近の急性疾患患者からIgMを検出するか、少なくとも21日間隔で採取した一対の血清検体(最初の検体は発病後1週間に採取)からIgGを検出すれば、検査検体で結論が出ない場合に診断の助けになることがあります。最近または過去の天然痘ワクチン接種が、血清学的検査の妨げになることがあります。

電子顕微鏡は、検体中の潜在的なポックスウイルスを可視化するために用いることができますが、分子分析が利用可能であり、高い技術力と設備を必要とするため、この方法は実験室での確認に日常的に用いられることはありません。

ウイルスの分離は、日常的な診断方法としては推奨されず、適切な経験と封じ込め設備のある研究室でのみ実施されるべきです。サル痘感染の確認は、臨床的及び疫学的情報を考慮する必要があります。すべての検査結果は、陽性、陰性にかかわらず、直ちに国家当局に報告されるべきです。この新興感染症の診断と監視には、調査中の症例から採取した検体を適時かつ正確に検査することが不可欠です。すべての国で、国内またはOPXVやMPXVの検出を行う意思と能力のある他国の検査機関に紹介することにより、信頼性の高い検査を受けられるようにする必要があります。WHOは、地域事務所を通じて、加盟国が紹介により検査を受けられるよう支援することができます。各国は、今回の流行における疫学とサル痘の進化をよりよく理解するために、一般にアクセス可能なデータベースを通じて配列データを取得し、共有することが奨励されます。

現時点で入手可能な情報に基づき、WHOは加盟国に対し、入国者または出国者のいずれに対しても、国際旅行関連のいずれの措置の採用も勧告していません。

WHOは今後、症例管理と感染、予防と管理、ワクチンと予防接種、リスクコミュニケーションとコミュニティの関与に関する暫定的なガイダンスを追加で提供する予定です。
 
WHOは、すべての加盟国、あらゆるレベルの保健当局、臨床医、保健・社会セクターのパートナー、学術・研究・商業パートナーが、サル痘の複数国での発生を食い止めるために迅速に対応するよう要請しています。ウイルスが、エンデミック地と非エンデミック地の両方において、効率的な人から人への感染を行うヒト病原体として定着する前に、迅速な行動を取らなければなりません。天然痘の根絶や他の新興の人獣共通感染症の管理から学んだ教訓を、これらの急速に進行する事象に照らして早急に検討しなければならないと考えています。

出典

Multi-country monkeypox outbreak in non-endemic countries: Update
Disease Outbreak News 29 May 2022
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2022-DON388