マールブルグ病-赤道ギニア共和国

Disease outbreak news 2023年6月9日

発生状況一覧

2023年6月8日、赤道ギニア共和国(以下、「赤道ギニア」という。)保健省は、新たな確定例の報告がない状態で42日間(潜伏期間の2倍の期間)を経過したため、WHOの勧告に従い、マールブルグ病(MVD)の終息宣言を行いました。4州の5地区から合計17例の確定例と23例の可能性例が報告され、17例の確定例のうち12例が死亡、可能性例はすべて死亡が報告されました。

WHOとパートナー機関は、このアウトブレイク封じ込めのために、WHO国別事務所を通じて政府に技術支援を提供しました。

WHOは、アウトブレイク終了後3ヶ月間はほぼすべての対応活動を継続するよう奨励しています。これは、もし感染症が再流行した場合、保健当局が直ちに発見し、感染症の拡大を防ぎ、最終的に人命を救うことができるようにするためです。

発生の概要

2023年1月7日から2月7日の間にウイルス性出血熱の疑いのある死亡例が報告され、同2月12日にセネガル共和国のダカール(Dakar)にあるパスツール研究所でリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によってマールブルグウイルスが陽性となった症例を受け、赤道ギニアの保健社会福祉省はマールブルグ病(MVD)のアウトブレイク発生を宣言しました。
 
アウトブレイク宣言から2023年6月7日までに、赤道ギニアの大陸地域で17例の確定例と23例の可能性例が報告されました。確定例中12例が死亡し、可能性例全例で死亡が報告されました(確定例の致死率は、転帰不明の確定例1例を除き75%となっています。)。
 
リトラル(Litoral)州バタ(Bata)地区のマールブルグ治療センターに入院していた最後の確定患者は、マールブルグウイルスのPCR検査が2回連続で陰性となり、4月26日に退院しました。2023年6月8日、新たな確定例が報告されることなく同感染症の潜伏期間の2倍にあたる42日が経過したため、赤道ギニア保健省はアウトブレイクの終息宣言をしました。
 
国内8州のうち4州、サントル・スール(Centre- Sur)州、キエンテム(Kié-Ntem)州、リトラル州、ウェレ・ンザス(Wele-Nzas)州にある5地区バタ、エベビイン(Ebebiyin)、エヴィナヨング(Evinayong)、ノソック・ノソモ(Nsock Nsomo)、ノソーク(Nsork)から、確定例または可能性例が報告されました。
 
医療従事者の間では5例(全体の31%)の発生が確認され、そのうち2例が死亡しました(致死率:40%)。
 
4例の患者は回復し、生存者ケアプログラムを通じて、心理社会的およびその他の回復後のサポートを受けることができました。

図1. 2023年6月7日現在、赤道ギニアにおける症状発現週別*、症例分類別マールブルグ病症例
*発症日が不明の場合、診察日次いで報告日を使用。


図2. 赤道ギニアにおいてアウトブレイク宣言下でマールブルグ病確定例および可能性例を報告した地区の地図

マールブルグ病の疫学

マールブルグ病は、感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液、およびこれらの体液で汚染された、寝具や衣類などのような物と、傷のある皮膚や粘膜を介してヒトからヒトに感染します。医療従事者が、マールブルグ病の疑い患者および確定患者を治療中に感染した記録もあります。また、故人の身体に直接触れる形をとる埋葬の儀式も、マールブルグ病の伝播につながる可能性があります。

潜伏期間は2日から21日と広範です。マールブルグウイルスによる症状は、突発的で、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感です。重症の出血性症状は、発症から5日から7日の間に現れることがあります。一方、全ての症例で出血症状が現れるわけではなく、致命的な症例の場合では通常、何らかの出血があり、多くの場合複数の部位から出血しています。

治療のためのワクチンや抗ウイルス治療で現在承認されたものはありませんが、レムデシビル(Remdesivir)は人道的介入の元に使用されています。経口または静脈注射による水分補給による支持療法と各症状に対する対症療法が生存率を向上させます。血液製剤、免疫療法、薬物療法など、さまざまな治療法の可能性が評価されています。

今回の発生は、赤道ギニアで報告された史上初のマールブルグ病のアウトブレイクです。直近では、タンザニア連合共和国でもマールブルグ病アウトブレイクの終息宣言が出されました(詳細は、2023年6月2日に発表されたアウトブレイクニュースを参照ください。)(※翻訳記事)。ガーナ共和国(2022年)、ギニア共和国(2021年)、ウガンダ共和国(2017、2014、2012、2007年)、アンゴラ共和国(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(1998、2000年、)、ケニア共和国(1990、1987、1980年)、南アフリカ共和国(1975年)でもマールブルグ病アウトブレイクが過去に報告されています。

公衆衛生上の取り組み

連携
・赤道ギニアでの公式なアウトブレイク宣言後、同国政府は、支援パートナー機関とともに同国大陸地域での対応を管理する緊急対応組織を設立し、初期3ヶ月間の運用対応計画を策定しました。
・また、1年間の移行・復旧計画も策定されました。この計画は、保健省のリーダーシップのもと、WHOを含むパートナー機関の支援を受けながら実施される予定です。
・地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN)のパートナー機関が動員され、対応活動を支援しました。WHOを通じて数名の専門家が派遣され、症例管理、検査機関、疫学、監視の機能をサポートしました。
・WHOは保健省を支援し、症例調査、接触者追跡活動、医療施設やコミュニティでの積極的な症例探索、現場チームの監督など、監視活動のためのトレーニングを提供しました。
・WHOを含む国連システムは、コミュニティにおける活動を行うための政府の合意を待つ間も、「性的搾取と虐待の防止」のための提唱を継続しています。

パートナー機関によるサポート
・複数のパートナー機関が、技術的、財政的、運営上の支援の提供を通して、政府主導の対応を支援しました。WHO、米国疾病対策予防センター(US CDC)、キューバ医療旅団(the Cuban Medical Brigade)、アフリカ疾病対策予防センター(Africa CDC)、国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)、国連児童基金(UNICEF)などが協力した機関です。

サーベイランス
・WHOは、マールブルグ病のアラート通知管理のための警報センターの設立を支援しました。
・WHOは、症例調査や接触者追跡活動、積極的なサーベイランスのための医療施設との連携など、サーベイランス活動の訓練と支援監督を行いました。

検査機関
・米国疾病管理予防センターとWHOの支援により、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)検査能力を持つ研究所が、最初はエベビインに、次にバタに設立されました。
・その後、ダカール・パスツール研究所とWHO、その他のパートナー機関の支援により、マラボ(Malabo)のバネー(Baney)研究所でマールブルグ病診断と配列決定が実施されました。
・WHOは、感染性物質の運送業者のトレーニングなどを通じて、検査機関の運営や検体の輸送を支援し続けています。

治療
・WHOは、保健省がバタにモンドン(Mondong)治療センターを設立し、地域のどの地区からでも疑いや確定患者をモンドン治療センターに搬送できる救急車3台を含む紹介システムの連携を支援しました。
・WHOは、生存者に医療や心理的ケア、検査を提供する生存者のための診療所の設立においても保健省を支援しました。

感染予防と制御(IPC)と水と衛生(WASH)
・WHOは、IPC活動の連携のための保健省の地域IPCタスクフォースの設立を支援し、毎日会合が開かれました。
・WHOは保健省と米国疾病管理予防センターと協力し、IPC対応のための国家戦略の開発と実施を支援しました。この戦略は保健省によって承認され、UNICEFとアフリカCDCを含む主要パートナー機関によって実行されました。
・WHOは、IPC技術ガイダンスや、標準作業手順書、チェックリスト、研修資料、ツールなどのその他の製品を必要に応じて開発しました。
・WHOは、医療施設で実施されているIPC対策(スクリーニングや隔離能力など)に関する迅速な医療施設評価ツールを開発し、このツールをオンラインで利用できるようにするなど保健省を支援しました。
・WHOは、マールブルグ病の状況を考慮したIPCトレーニングプログラムを提供し、主要な実施パートナー機関によって導入されただけでなく、すべての感染地区で保健員のトレーニングに使用されました。
・WHOの業務支援とロジスティクス(OSL)とUNICEFは、必要な主要IPC用品(個人用保護具、アルコールベースの手指消毒具などを含む)を特定しました。
・WHOはパートナーと協力し、医療施設における水と衛生の改善、特に給水と廃棄物管理の改善を提唱しました。
・WHOは、除染チームと安全で尊厳のある埋葬を実施するチームの設立、訓練、実施を支援しました。
・WHOは、バタ、エべビイン、モンゴモ(Mongomo)、エヴィナヨング、マラボの5つの国家IPC連絡窓口を招集し、トレーニングを行いました。

リスクコミュニケーションとコミュニティ活動(RCCE)
・WHOは、保健省がRCCE国家計画を策定し、主要パートナー機関であるUNICEF、IFRC、アフリカCDCなどとリスクコミュニケーションやコミュニティ活動での連携を確立し、そのメッセージや活動が感染者や感染リスクのある人々に適時かつ適切で実行可能なものになるように支援しました。
・リスクコミュニケーションやコミュニティ活動の国内専門家、社会動員、コミュニティ・リーダーのための集中的かつ個別の広報活動、戦略的ネットワーク構築、能力開発が、感染の発生した全地区で実施されました。
・宗教指導者、意思決定者、学校代表者、ボランティア、メディア関係者などが、感染症への対応におけるコミュニティの関与を向上させるために参加しました。

国境での医療と入国地点管理
・2023年4月26日、WHOは米国疾病管理予防センター(US CDC)と国際移住機関(IOM)の支援のもと、マールブルグ病アウトブレイクの状況下で必要な国境保健の準備と対応活動について、感染発生国と近隣国の認識を高めるためのウェビナーを開催しました。

オペレーション、サポート、ロジスティクス(OSL)
・WHOは、構造修復、電気と水の供給、サプライチェーン管理を含む、マールブルグ治療センターの運営とロジスティクスのサポートと維持を行いました。
・WHOは、バタの治療センターで24時間365日待機の救急車3台と、およそ20台の車両を含む車両管理のサポートを確立しました。
・WHOはすべての部門に必要な医薬品や物資を提供しました。
・WHOはバタに必需品のための中央倉庫を設立し、他の地域への配布を支援しています。

周辺国の準備と心構え
・カメルーン共和国(以下、「カメルーン」という。)やガボン共和国(以下、「ガボン」という。)など近隣諸国では、疑い症例をできるだけ早く検知するため、準備活動が拡大されました。これらの近隣諸国から発生したすべてのアラート通知は、マールブルグ病の除外診断のため全例調査されました。
・WHOは、近隣諸国が自国の感染症に対する準備レベルを評価し、準備不足な項目や、マールブルグ病を含むフィロウイルス科の感染症アウトブレイクの可能性がある場合に取るべき具体的な行動を特定するのに役立つチェックリストを開発しました。チェックリストはいくつかの重要な要素から構成され、平均点を算出することで、特定された国それぞれに準備レベルのスコアが提供されます。カメルーンとガボンを対象に、すべての要素を網羅した2回目の準備状況チェックが実施されました。
・評価で明らかになった不足点に基づき、不足項目の分析が行われ、カメルーンおよびガボンと共有され、優先的な準備活動に反映されました。これらの不足部分は、トレーニング、テーブルトップ演習、シミュレーション演習など、さまざまな戦略を用いて、運用能力と機能の最適化を図ることで対処されました。

WHOによるリスク評価

WHOの勧告に従い、最大潜伏期間の2倍にあたる42日間を経てアウトブレイクの終了を宣言するという基準が遵守され、新たなマールブルグ病の確定例や可能性例は検出されませんでした。
 
過去に発生したフィロウイルス関連の感染症の知識から、アウトブレイク終了宣言後も、マールブルグ病が再発生する危険性があることがわかります。マールブルグウイルスの未検出の伝播が国内に存在する可能性はゼロではなく、つまりすべての伝播の連鎖が完全に解明されたわけではなく、かつ確定例のうち1例においては伝播がどのように発生したか特定できませんでした。最初の症例も特定されておらず、動物の感染源との相互作用など、新たな感染者が現れる可能性があります。ウイルスは、生存者の精液を含む体液中に長期間存在する可能性があり、生存者プログラムへの参加とそのサポートの重要性を物語っています。
 
赤道ギニアでのマールブルグ病アウトブレイク終息宣言時に得られた情報に基づき、マールブルグ病再流行のリスクは、国レベルでは低く、サブリージョナルレベル、地域レベル、世界レベルでも低いと考えられています。

WHOからのアドバイス

現在WHOは、アウトブレイク終息宣言後も3ヶ月間はほぼすべての対応活動を継続するよう各国に奨励しています。これは、もし感染症が再流行した場合、保健当局が直ちに発見し、感染症の拡大を防ぎ、最終的に人命を救うことができるようにするためです。
 
WHOは、マールブルグ病の感染を減らす効果的な方法として、以下のリスク低減策をアドバイスしています。
 
・オオコウモリのコロニーが生息する鉱山や洞窟に長時間滞在することによる、コウモリから人への感染リスクを低減する。オオコウモリのコロニーがある鉱山や洞窟での作業や研究活動、観光時には、手袋やマスク等を含む適切な保護服を着用すること。感染症の発生時には、すべての動物性食品(血液、肉類)を十分に加熱してから摂取すること。
・医療施設は、マールブルグ病患者のスクリーニング、IPCの実践に関する医療従事者のトレーニング、安全な注射手技、環境洗浄と消毒のプロトコルの実施、再利用可能な医療機器の消毒作業、安全な廃棄物管理などの感染・予防・管理対策(IPC)プログラムが実施されていることを確認するとよいです。
・マールブルグ病が確定または疑われる患者をケアする医療従事者は、標準予防策に加えて、患者の血液やその他の体液、汚染された表面や物体との接触を避けるために、個人用保護具(PPE)の適切な使用やWHOの手指消毒が励行される5つの場面(WHO 5 moments)に従った手指衛生などの感染予防策を適用すべきです。
・サーベイランス活動を強化し、将来の患者の早期発見を確実にすること。
・マールブルグウイルスの感染につながる危険因子と、ウイルスへの曝露を減らすために個人ができる防護策について、地域社会の認識を高めることが、人への感染と死亡を減らす鍵になります。これには、症状がある人に対し、市中感染のリスクを減らし、治療を受けることで回復の可能性を高めるために、すぐに医療機関を受診するよう注意を促すことが含まれます。地域住民や家族は、自宅で症状のある人の世話をすることを避け、マールブルグ病と思われる症状で死亡した人の体やその他の汚染されている可能性のある物に触れることを避け、診断と治療のために医療機関を受診するよう勧める必要があります。
 
WHOは赤道ギニアへの渡航および貿易措置を行わないよう勧告しています。

出典

Marburg virus disease - Equatorial Guinea
Disease Outbreak News 9 June 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON472