マールブルグ病-タンザニア連合共和国

Disease Outbreak News 2023年6月2日

発生状況一覧

 2023年6月2日、タンザニア連合共和国(以下、「タンザニア」という。)保健省は、同国史上初のマールブルグ病(MVD)のアウトブレイクの終息を宣言しました。3月21日から5月31日の間に、合計9例の患者(検査確定8例および可能性例1例)が報告されました。すべての患者はカゲラ(Kagera)州ブコバ(Bukoba)地区から報告されていました。このアウトブレイクでは、合計6例の死亡(致死率67%)が報告されました。 
 
WHOの勧告に従い、終息宣言は、最後の接触者が、マールブルグ病の可能性が高い症例または確定症例との最終接触があった可能性がある日から42日後、つまりマールブルグ病の最大潜伏期間の2倍にあたる期間を観察したのちに行われました。 
 
WHOは、アウトブレイク終了後3ヶ月間はほぼすべての対応活動を継続するよう各国に奨励しています。これは、もし疾病が再流行した場合、保健当局が直ちに発見し、疾病の拡大を防ぎ、最終的に人命を救うことができるようにするためです。

発生の概要

 2023年3月21日、タンザニア保健省(MoH)は、同国史上初のマールブルグ病アウトブレイクを公式に宣言しました。3月21日から5月31日の間に、8例の検査確定例と1例の可能性例(初発症例)を含む合計9例が報告されました(図1)。最後の確定例は2023年4月11日に報告され、2回目のPCR検査陰性の検体採取日は2023年4月19日に行われました。すべての患者が、同国北部のカゲラ州ブコバ地区から報告されました。 
 
確定症例のうち、3例が回復し、合計6例の死亡(致死率: 67%)が報告されており、そのうち5例が確定症例、1人が可能性例でした。 
 
患者の年齢は1歳から59歳(中央値35歳)で、男性が6例(67%)と最も多く発症しています。6例は初発症例の近親者であり、2例は患者に医療を提供した医療従事者でした。 
 
2023年6月2日、タンザニア保健省は、マールブルグ病アウトブレイクの終息宣言をしました。この宣言は、マールブルグ病の可能性が高い症例または確定症例に最後に曝露した可能性がある日から42日後、つまりマールブルグ病の最大潜伏期間の2倍の期間を経てから行われました。




図1:2023年5月31日現在、タンザニアにおけるマールブルグ病症例(確定例および可能性例)の症状発現日別分布。
*発症日が不明の場合、診察日次いで報告日を使用。



図2:2023年5月31日現在、タンザニアのマールブルグ病確定例および可能性を報告している地区の地図


 

マールブルグ病の疫学

マールブルグ病は、感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液、およびこれらの体液で汚染された、寝具や衣類などのような物と、傷のある皮膚や粘膜を介してヒトからヒトに感染します。医療従事者が、マールブルグ病の疑い患者および確定患者を治療中に感染した記録もあります。また、故人の身体に直接触れる形をとる埋葬の儀式も、マールブルグ病の伝播につながる可能性があります。
 
潜伏期間は2日から21日と広範です。マールブルグウイルスによる症状は、突発的で、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感です。重症の出血性症状は、発症から5日から7日の間に現れることがあります。一方、全ての症例で出血症状が現れるわけではなく、致命的な症例の場合では通常、何らかの出血があり、多くの場合複数の部位から出血しています。
 
早期の支持療法(経口または静脈内輸液による水分補給)、特定の症状や併発する感染症の治療により、生存率を向上させることができます。血液製剤、免疫療法、薬物療法など、さまざまな治療法の可能性が評価されています。  
 
今回の発生は、タンザニアで報告された最初のマールブルグ病のアウトブレイクです。赤道ギニアではマールブルグ病のアウトブレイクが続いています(詳細は、2023年5月8日に赤道ギニアとタンザニアで発表されたアウトブレイクニュースをご覧ください)。 その他、ガーナ共和国(2022年)、ギニア共和国(2021年)、ウガンダ共和国(2017、2014、2012、2007年)、アンゴラ共和国(2004~2005年)、コンゴ民主共和国(2000、1998年)、ケニア共和国(以下、「ケニア」という。)(1990、 1987、1980年)、南アフリカ共和国(1975年)でマールブルグ病アウトブレイクが過去報告されています。
 

公衆衛生上の取り組み

・保健省は、WHOやその他のパートナー機関とともに、アウトブレイクを制御し、国内の他の地域や近隣諸国への感染のさらなる拡大を防ぐための対応策を開始しました。定期的な調整会議が開催され、対応の調整が行われました。 
・積極的な症例検索とアラート管理が実施され、5月30日時点で合計243件のアラートを受理し、その中から62例のマールブルグ病疑い例が検出されました。検査のために検体が送付され、検査により8例の患者が確定し、残りの検体は陰性と判定されました。 
・合計212人の接触者が特定され、健康観察が実施されました。210人が21日間のフォローアップ期間を終了し、症状もありませんでした。残りの2人の接触者のうち、1人は症状が現れ、その後マールブルグ病検査で陽性となり、もう1人は他の原因により死亡しました。 
・回復した3人の症例にはケアが提供され、その親族とともに生存者プログラムを通じてメンタルヘルスと心理社会的支援サービス(MHPSS)を受けることができました。 
 
 

WHOによるリスク評価

2023年6月2日、タンザニア保健省は、カゲラ州ブコバ地区で発生したマールブルグ病アウトブレイクの終息を宣言しました。 これは、同国史上初のマールブルグ病のアウトブレイクでした。 
 
マールブルグ病は、高い致死率(CFR 24-90%)を伴う流行性の疾患です。マールブルグ病は、エボラウイルス病(EVD)と同じ科となるフィロウイルス科(Filoviridae)によって引き起こされ、臨床的にも類似しています。発症初期には、臨床症状が類似しているため、マールブルグ病の臨床診断は他の熱帯熱性疾患と区別することが困難です。他のウイルス性出血熱、特にエボラウイルス病(EVD)のほか、マラリア、腸チフス、デング熱などの除外診断をする必要があります。疫学的な特徴は、疾患の鑑別に役立ちます(例:コウモリとの接触。洞窟や鉱山への立ち入りがあった等)。 
 
マールブルグウイルスは、タンザニアおよび感染者が見つかったカゲラ地域に隣接する国に存在するオオコウモリ(Roussettus aegyptiacus)から分離されているため、この地域では同じコウモリ種がウイルスを保有している可能性があります。 

WHOからのアドバイス

WHOは、アウトブレイク終了宣言後も3ヶ月間はほぼすべての対応活動を継続するよう各国に奨励しています。これは、もし疾病が再流行した場合、保健当局が直ちに発見し、疾病の拡大を防ぎ、最終的に人命を救うことができるようにするためです。 
 
WHOは、マールブルグ病の感染を減らす効果的な方法として、以下のリスク低減策をアドバイスしています。

・オオコウモリのコロニーが生息する鉱山や洞窟に長時間滞在することによる、コウモリから人への感染リスクを低減する。オオコウモリのコロニーがある鉱山や洞窟での作業や研究活動、観光時には、手袋やマスク等を含む適切な保護服を着用すること。感染症の発生時には、すべての動物性食品(血液、肉類)を十分に加熱してから摂取すること。 
・医療施設は、マールブルグ病患者のスクリーニング、IPCの実践に関する医療従事者のトレーニング、安全な注射手技、環境洗浄と消毒のプロトコルの実施、再利用可能な医療機器の消毒作業、安全な廃棄物管理などの感染・予防・管理対策(IPC)プログラムが実施されていることを確認するとよいです。
・マールブルグ病が確定または疑われる患者をケアする医療従事者は、標準予防策に加えて、患者の血液やその他の体液、汚染された表面や物体との接触を避けるために、個人用保護具(PPE)の適切な使用やWHOの手指消毒が励行される5つの場面(WHO 5 moments)に従った手指衛生などの感染予防策を適用すべきです。 
・サーベイランス活動を強化し、将来の患者の早期発見を確実にすること。 
マールブルグ感染病の危険因子と、ウイルスへの曝露を減らすために個人ができる防護策について、地域社会の意識を高めることが、人への感染と死亡を減らすための鍵となります。 

WHOは、タンザニア連合共和国への海外渡航および/または貿易措置を行わないよう勧告しています。 
 

出典

Marburg virus disease - the United Republic of Tanzania 
Disease Outbreak News 2 June 2023 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON471