ジフテリアーナイジェリア連邦共和国

Disease outbreak news 2023年9月13日

発生状況一覧

2023年7月2日までの疫学第26週以降、ナイジェリア連邦共和国(以下、「ナイジェリア」という。)では複数の州でジフテリアの患者が異常に増加しています。2023年6月30日から8月31日までに、11州の59の地方行政地区(LGA)から合計5,898人の疑い例が報告されました。第34週(2023年8月27日まで)には、5州の20の地方行政地区から234例の疑い例が報告され、22の検体から1例の検査確定例が報告されました。これらの症例のうち18例が疫学的に関連を有し、141例が臨床的に適合すると分類されました。

ジフテリアは、主にジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)によって引き起こされる感染力の強い感染症であり、5~10%の症例で致死的となる可能性があり、幼児では死亡率が高くなりますが、ワクチンで予防可能です。

ナイジェリアで発生したジフテリアに関するWHOの最新のリスク評価では、国レベルでのリスクは高く、地域レベルおよび世界レベルでは低いとしています。ナイジェリア疾病管理センター(NCDC)は、WHOやその他のパートナー機関と協力して、ワクチン接種、症例の早期発見のためのサーベイランス強化、症例管理、リスクコミュニケーションなどの公衆衛生対策を実施しています。

発生の概要

ナイジェリアにおけるジフテリアに関する前回のDisease Outbreak News(英文)※翻訳記事)が2023年4月27日に発表されて以来、ナイジェリアは毎週ジフテリアの疑い例をWHOに報告してきました。しかし、2023年6月30日から8月31日にかけて、ナイジェリアではジフテリアの確定症例数が異常に増加しました(図1)。2023年6月30日から8月31日までに、11州、59の地方行政地区から合計5,898例の疑い例が報告されました。疑い例の大部分(99.4%)は、カノ(Kano)州で1,816例、それ以外にはカツィナ(Katsina)州で234例、ヨベ(Yobe)州158例、バウチ(Bauchi)州79例、カドゥナ(Kaduna)州45例、ボルノ(Borno)州33例から報告されました。
 
2022年に初めてアウトブレイクが報告されてから累積8,353例の疑い例が報告され、そのうち、4,717例(56.5%)が確定例であり、その内訳は検査確定169例(3.6%)、疫学的関連117例(2.5%)、臨床的に合致4,431例(93.9%)でした。1,857例(22.2%)はジフテリアと適合しないとして除外されましたが、1,048例(12.5%)は分類保留、731例(8.8%)は診断不明でした。致死率は前回の更新時の6.7%から6.1%にわずかに低下しました。確定症例4,717例のうち、3,466例(73.5%)が1~14歳で、そのうち0~4歳が699例、5~9歳が1,505例、10~14歳が1,262例でした。半数以上にあたる2,656人(56.3%)が女性でした。確定症例のうち、ジフテリアの予防接種を完全に受けていたのは1,074例(22.8%)のみで、299例(6.3%)は部分接種でした。症例の半数以上(2,801人;59.4%)はワクチン未接種でした。


図1:ナイジェリアにおけるジフテリア症例数(年/疫学週別)2022年5月1日~2023年8月27日
 
検査機関での分子生物学的検査による確定診断の結果、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)およびコリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)の分離株がこのアウトブレイクを引き起こしている種であり、特にコリネバクテリウム・ジフテリアが今回のアウトブレイクに関連する主要な病原体であることが特定されました。コリネバクテリウム・ジフテリアの62の分離株について抗生物質感受性試験を行った結果、すべての分離株がペニシリンに耐性を示し、大部分がトリメトプリム-スルファチアゾールとシプロフロキサシンに耐性を示しましたが、エリスロマイシンには感受性を示しました。従って、エリスロマイシンがこのアウトブレイクに対する治療薬として選択されました(図2)。


図2 ナイジェリアで分離された毒素原性コリネバクテリウム・ジフテリアの薬剤感受性結果(2022年5月~2023年7月 )
出典 :ナイジェリア疾病管理予防センター

ジフテリアの疫学

ジフテリアは、主にコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、あるいはコリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)によっても引き起こされる、ワクチンで予防可能な感染力の強い疾患です。主に直接接触か、呼吸器飛沫を介して空気中に空気中に広がることで感染が広がります。本疾患はすべての年齢層が罹患する可能性がありますが、予防接種を受けていない小児が最もハイリスクです。
 
症状は多くの場合、喉の痛みと発熱から始まり、徐々に進行します。重症の場合は、細菌が毒素を産生し、喉の奥に灰色や白色の厚い斑点ができます。これが気道を塞ぎ、呼吸や飲み込みが困難になり、犬が吠えるような咳が出ることもあります。リンパ節腫脹のために首が部分的腫れることもあります。
 
治療には、ジフテリア抗毒素(DAT)の投与と抗生物質の投与が必要です。ジフテリアに対するワクチン接種により、ジフテリアの死亡率や罹患率は劇的に低下しています。一方、感染者全体の5~10%の確率で致死的となり、幼児では特に死亡率が高くなります。また、ジフテリア抗毒素の入手が困難な環境では、致死率が40%になることもあります。
 
ナイジェリアでは過去にジフテリアの大流行を記録しており、特に2011年と2022年に顕著でした。2023年には、1月から4月にかけてジフテリアの流行が記録され、36州のうち21州と連邦首都地区(FCT)感染者が発生していす。このアウトブレイクの詳細はDisease Outbreak News(英文)に掲載されています。

公衆衛生上の取り組み

連携:WHOの国別事務所のインシデント管理システムの改訂、国家緊急オペレーションセンター(EOC)の始動に加え、ジフテリアの高発生地域であるカドゥナ、カツィナ、ボルノの各州のEOCも同様に始動、パートナー機関によるマッピングを継続中です。
サーベイランス:以下の監視活動について強化しています。毎週の状況報告書とラインリストを提出するための定期的な州へのフォローアップ。WHOと他のパートナー機関は、NCDCの支援を行い、連絡先の追跡と、統合したラインリストのフォームを開発しました。また、各州が対応活動を報告するためのデータベース、対応のモニターと評価のための情報を集約するためのダッシュボードを開発中です。
検査機関:必要物資の調達、州レベルでの検査と培養を行うためのカノにある研究所の稼働、検体の輸送など行っています。
ワクチン接種:対応的ワクチン接種として、カノでは第1、2段階、カツィナ、バウチ、ヨベ、カドゥナの各州では第1段階を実施しました。
リスク・コミュニケーションとコミュニティ活動:地域のリーダーとの関わり、地域社会の意識向上、情報教育コミュニケーション資料の作成、風評のモニタリング、公共広告の放映などを実施しています。
症例管理:症例管理とサーベイランスに関する国家ガイドラインの策定を支援し、症例管理に関する技術指導を行い、耳鼻咽喉科(ENT)専門医を治療センターに派遣しました。
感染予防対策:治療センターでの感染予防管理(IPC)対策をモニタリングしています。
活動支援とロジスティクス:ジフテリア抗毒素10,050バイアル、エリスロマイシンETA28/08 15,000バイアル、研究用物資の調達を行っています。また、優先度の高い州へ個人用保護具の配送計画を準備しています。
性的搾取、虐待、ハラスメントの防止と対応:性的搾取、虐待、ハラスメントの防止と対応(PRSEAH)にかかる リスクアセスメントを実施しました。
職員の健康確保と福利:一般的な治安や安全に関する説明と、報告テンプレート、ジフテリアに関するFAQ を準備しています。

WHOによるリスク評価

ジフテリアは、主に外毒素を産生するコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae)によって引き起こされますが、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)によっても引き起こされるワクチンで予防可能な疾患です。 ジフテリアは5~10%の症例で致死的であり、幼児では死亡率が高いです。治療にはジフテリア抗毒素の投与と抗生物質の投与が必要です。ジフテリアに対するワクチン接種により、ジフテリアの死亡率と罹患率は劇的に低下します。
 
ナイジェリアでは現在、2022年第52週(2023年1月1日)から2023年第20週(2023年5月22日)にかけて第一波のジフテリア流行が記録された後、第二波のジフテリア流行に直面しています。第31~33週に報告された確定症例数と関連死亡数の増加により、罹患人口が増加しています。新たに感染が発生した地方行政地区では、クラスターやアウトブレイクが報告され、感染拡大リスクが高まっています。過去3週間に感染者が発生した15の地方行政地区に関連して現在、27の地方行政地区で、臨床的に合致する症例1例が報告されています。
 
定期予防接種における五価ワクチン(Penta3)の接種率が57%と全国的に低く、小児における接種率も対象の43%がワクチン未接種と最適とは言えない状況であることから、今後さらに感染が拡大することと、国内に集団免疫が最適でなく、感染しやすい集団が多く蓄積される危険性があることを浮き彫りにしています。地域社会を確実に守るためには、80~85%のワクチン接種率を維持しなければなりません。
 
特にカノのような最も影響を受けている州において、ジフテリアワクチン接種率を全国的に向上させることが早急に必要となります。さらに、北西部のような治安が悪化している地域では、ワクチンへのアクセスが妨げられているため、特に注意が必要となります。また、特にナイジェリア北東部では治安が不安定なため、ワクチン接種率は依然として最適とはいえません。
現在、製造業者の数は限られており、世界のさまざまな地域で大規模なアウトブレイクが報告されていることから、ジフテリア抗毒素の供給は非常に限られており、現在の需要に応えるには不十分となっています。 NCDCは、WHOやその他のパートナー機関の支援を受けて、今回のアウトブレイクに対応するため、症例管理用に10,050バイアルのジフテリア抗毒素を調達しました。
 
ナイジェリアではジフテリアの発生が過小報告されています。2021年ナイジェリア多指標クラスター調査および全国予防接種率調査によると、2021年の五価ワクチン(Penta3)の3回目の接種率は57%となっています。
 
ナイジェリアにおけるジフテリアのWHO第2回迅速リスクアセスメントでは、国レベルでは高リスク、地域および世界レベルでは低リスクと再評価されています。

WHOからのアドバイス

ジフテリアの対策は、ワクチン接種による高い集団免疫を確保することによる疾病の一次予防と、感染者の迅速な治療を確保するための濃厚接触者の迅速な調査による蔓延の二次予防に基づきます。
 
ジフテリアの発生を早期に発見するための疫学的サーベイランスはすべての国で実施されるべきであり、すべての国は毒素原性ジフテリア菌を確実に同定するための検査施設を利用できるようにすべきです。また、十分な量のジフテリア抗毒素が、症例の医学的管理のために全国的または地域的に入手可能となるべきです。
 
ワクチン接種は患者発生や流行を防ぐための鍵であり、適切な臨床管理には、毒素を中和するジフテリア抗毒素の投与と、合併症と死亡率を減少させる抗生物質の投与が含まれます。
 
WHOは、ジフテリアが疑われる症例を早期に報告し、症例管理を行うことで、症例の適時治療と接触者のフォローアップを開始し、ジフテリア抗毒素の供給を確保することを推奨しています。
 
WHOは、医療現場において以下の感染予防・管理対策を実施するよう勧告しています。
1) 手指衛生、個人防護具、器具・環境洗浄・消毒飛沫・接触予防策を中心とした標準予防策を適用する(常時)。
 
2) スクリーニング/トリアージ時に、上気道感染症の症状がある患者は、検査が行われるまで直ちに別の場所に隔離する。疑い例であれば、同じ診断の患者と同室にする。隔離エリアは他の患者ケアエリアから隔離する。
 
3) 患者と患者の間隔を1メートル保つ。患者ケアエリアは換気をよくする。
 
4) 隔離区域外への患者の移動や搬送を避ける。隔離区域外への移動が必要な場合は、患者に医療用マスクを使用させ、患者の身体の傷や病変を覆う。
 
症例管理はWHOのガイドラインに従って行われるべきです。さらに、5歳未満の幼児、学童、高齢者、ジフテリア患者との濃厚接触者、医療従事者などのハイリスク集団は、優先的にワクチン接種を受けるべきです。協調的な対応と地域社会の関与は、現在進んでいるアウトブレイクのさらなる伝播を阻止し、制御の助けとなります。
 
予防的抗生剤投与(ペニシリンまたはエリスロマイシン、薬剤感受性により決定)は、確定症例の濃厚接触者に7日間投与します。培養で毒素原性コリネバクテリウム属菌が陽性であった場合、その接触者は患者として2週間の抗生物質投与で治療されるべきです(無症候性症例や偽膜のない症例にはジフテリア抗毒素は必要ありません)。
 
旅行者がジフテリアに感染する特別なリスクはないですが、ジフテリアが流行している地域に渡航する旅行者に対しては、渡航前に各国の予防接種計画に従って適切な予防接種を受けるよう、各国当局が注意を喚起することが推奨されます。前回の接種から5年以上経過している場合は、追加接種が推奨されます。

出典

Diphtheria - Nigeria 
Disease Outbreak News 13 September 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON485