コレラ - 世界の状況

Disease outbreak news  2023年2月11日

現在の状況

2022年12月16日に世界のコレラの状況に関する最初のアウトブレイクニュースが発表されて以来、世界的に状況はさらに悪化し、更にいくつかのの国から患者や疾病の発生が報告されています。
 
2021年半ば以降、世界は第7波のコレラ患者の急増に直面しています。この流行の特徴は、複数の集団発生の数、規模、同時発生、数十年間コレラの発生していない地域への拡大に加え、驚くほど高い死亡率です。
 
2021年には、主にアフリカと東地中海のWHO地域で、23カ国がコレラの発生を報告しました。この傾向は2022年に入っても続き、WHOの6地域のうち5地域の30カ国がコレラの患者または流行発生を報告しました。その中で、非流行国であったレバノンやシリアでも発生が報告され、3年以上症例報告がなかったハイチやドミニカ共和国などでも症例報告がありました。2021年にコレラの発生報告がなかった国で、2022年に発生を報告したのは上記を含む14カ国でした。他の、2021年に症例報告のあった国のほとんどが前年より高い症例数および症例致死率(CFR)を報告しています。
 
2023年2月1日現在、少なくとも18カ国からコレラ患者発生の報告が続いています。(参照:英文表)。季節性パターンから発生を予測すると、世界の大部分は現在、低流行期または中程度の流行期であるため、この数は今後数カ月間にわたって流行期の訪れに合わせて増加する可能性があります。
 
多くの国が例年より高いCFRを報告しており懸念事項となっています。2021年に世界で報告されたコレラの平均CFRは1.9%(アフリカでは2.9%)で、許容範囲(1%未満)を大幅に上回り、過去10年以上と比較しても最高値を記録しています。予備データでは、2022年、2023年についても同様の傾向が示唆されています。
 
前回のDisease Outbreak Newsでは、コレラ発生の潜在的な要因と、対応活動に影響を及ぼす課題について取り上げました。複数の場所でのコレラ感染が同時に進行し、複雑な人道的危機に直面している国々や脆弱な医療制度、気候変動による影響が重なり、発生時の対応に課題が生じ、さらに他国へ感染が拡大する危険性があります。
 
経口コレラワクチンなどの資源が世界的に不足していることに加え、公衆衛生や医療従事者が手一杯で、複数の病気の発生に同時に対処していることが多いため、複数かつ同時発生に対応する全体的な能力が損なわれ続けています。
 
発生件数の増加や地理的拡大、ワクチンやその他の資源の不足などの現状を踏まえ、WHOは世界レベルでのリスクを非常に高いと評価しています。

コレラの疫学

コレラは、急性の腸管感染症です。重症化すると、極端な水様性の下痢を呈し、致命的な脱水症状に陥る可能性があります。ビブリオコレラ菌に汚染された食物や水を摂取することで感染します。潜伏期間は短く、12時間から5日程度です。ほとんどの人は症状が出ないか、軽度から中等度ですが、約20%の人が重い脱水症状を伴う急性水様性下痢を発症し、死亡する危険性があります。コレラは、経口補水液で容易に治療できるにもかかわらず、適切な医療を受けられない脆弱な人々における高い罹患率と死亡率のため、依然として世界的な健康上の脅威となっています。
 
過去2世紀にわたり、7回のコレラの大流行が記録されています。現在も続いている7回目のパンデミックは、1961年に始まったと考えられています。 最初の20年間は、流行の発生後、多くの国がコレラの常在国になりました。1990年代後半に世界的な流行は大きく減少しましたが、アフリカやアジアの一部では依然としてコレラが流行しています。
 
コレラの世界的な被害は、そのほとんどが報告されていないため不明ですが、これまでの研究により、年間290万人の患者が発生し、9万5千人が死亡していると推定されています。

図1:2023年2月1日時点のコレラおよび急性水様性下痢症の世界的な流行状況
注:白抜きの国は、2023年2月1日現在、コレラの(継続的な)発生報告をしていません。


図2:WHOに報告されたコレラ患者*の年別・大陸別、世界における致死率、1989-2021年**。

* 2017年および2019年、イエメンはコレラ患者全体の84%および93%をそれぞれ占めた(週次疫学レポート2018、2020年)。
**2022年のデータは、(i)不完全(2022年11月30日までのデータ)、(ii)暫定的な推定のため、流行曲線に含まれていません。WHOへの国別患者数の正式な報告は年末に予定されており、年次報告書への反映待ちです。
留意点:コレラに関するデータは不完全であることが多く、過少報告もよく見られます。また、コレラに関する報告システムを持たない国もあります。このため、コレラが発生している国の完全なリストや、正確な患者数および死亡数を提供することができません。

地域別概要

WHOアフリカ地域

コンゴ民主共和国(DRC)の北キヴ(North Kivu)州で紛争が続いており、2022年の最後の数ヶ月間、ゴマ(Goma)に近い国内避難民(IDP)キャンプへの人の流入が増加しました。キャンプでは水と衛生設備が十分に利用できないため、コレラの発生に拍車がかかっています。さらに、雨季は他の東部の州におけるコレラの状況を悪化させ、地域的な広がりのリスクを高めています。ブルンジ(Burundi)は最近、タンガニーカ湖畔のブジュンブラ(Bujumbura)市とコンゴ民主共和国の南キヴ(North Kivu)州との国境付近でコレラの発生を宣言しました。カメルーンやナイジェリアなど、2022年に広範囲でコレラが発生した一部の国では現在、患者報告数が減少していますが、マラウイでは2023年初頭、1日あたり600人を超える新規患者が報告され、状況は悪化の一途をたどっています。同国では2022年3月以降、継続的に高い、3%以上の症例致死率(CFR)を記録し、史上最も深刻なコレラの流行を経験しています。また、隣国のモザンビークでは、2022年12月中旬以降、患者数とアラートの数が急増し、マラウイに隣接する州を含む5つの州から患者数が報告されています。
 
2023年1月26日、ザンビアはマラウイとモザンビークに接する東部(Eastern)州でコレラが発生したとWHOに通知しました。タンザニアやジンバブエなど、この地域の他の国々に広がる高いリスクが残っています。さらに、アフリカの角の3カ国(エチオピア、ケニア、東地中海地域のソマリア)では、コレラの発生が続いていることが報告されています。継続的な干ばつに伴う人の移動はコレラ感染拡大のリスクを高め、更に結果としてこの干ばつが人々のコレラ重症化のリスクを高める深刻な栄養失調を引き起こしています。複数の緊急事態が発生しており、コレラ以外にも公衆衛生上の緊急事態である新型コロナウイルス感染症やサル痘、栄養失調などにより、医療資源と人的資源がひっ迫していいます。多くの感染発生地は非常に治安も悪く、住民の医療へのアクセスがかなり制限されています。また、気候変動により、アフリカの一部の地域では干ばつが、他の地域では洪水が発生しており、それに伴う人口の移動が増加し、清潔な水へのアクセスが難しくなっています。各流行地から高いCFRが報告されています。雨季やサイクロンの季節が近づいている南部アフリカと、治安の悪さから対応能力に制限のあるチャド湖流域の両方において、地域的な広がりのリスクが高くなっています。

WHOアメリカ地域

ハイチのポルトープランス(Port-au-Prince)の大都市圏を含む西(Ouest)県の状況は安定しつつあります。同県では、2022年10月から11月のピーク時だけで、報告されている全確定症例の3分の1が発生していました。しかし、流行はまだコントロールされておらず、国内の全10県でコレラの疑い例と確定例が引き続き報告されています。さらに、隣国ドミニカ共和国の首都サントドミンゴ(Santo Domingo)から輸入症例や限定的な地域感染が報告されています。
 
現地の人々の移動は、国内の深刻な治安の悪化と燃料不足のために限定的ですが、国内外にコレラが広がるリスクは続いています。ハイチからアメリカ大陸の他の国や地域への新たな症例輸出の可能性があります。2022年12月2日のAMROによる迅速リスクアセスメントによるとイスパニョーラ島でのリスクは「非常に高い」と評価され、地域のリスクは「中程度」と評価されています。同地域では、サーベイランスと検査機関の能力を向上させるための努力が続けられています。イスパニョーラ島では、コレラ予防接種キャンペーンが実施されています。
 
WHO東地中海地域

東地中海地域の多くの国では、サーベイランスシステムが不十分でセンチネルポイント(特定の主要な地域での調査)や病院ベースの調査等だけが実施されています。このデータの不足が解釈を困難にしています。この地域の特徴は、様々な人道的危機のためにスタッフの処理能力が追い付かず、更には訓練を受けたスタッフが国外に流出していることです。 この地域でのコレラの発生は、紛争、気候変動、干ばつ、洪水等の理由によって増加している人の移動に伴い、広がっています。2022年には、レバノンとシリアで10年以上ぶりのコレラの発生が報告され、パキスタンでは過去数十年で最大の発生を記録しました。 アフガニスタン、レバノン、パキスタン、ソマリアでの感染者は現在減少しており、イラクやイラン・イスラム共和国など、2022年に発生が報告された地域の他の国々は、引き続き監視下に置かれています。 シリア・アラブ共和国の一部では広範な流行が続いており、コレラが同東地中海地域の他の国や国外にさらに広がるリスクは依然として残っています。
 
WHOヨーロッパ地域

WHOヨーロッパ地域でのコレラの流行はありません。地域社会や医療施設における適切な衛生・公衆衛生の基準順守や監視・対応能力を含む現在の強固な公衆衛生システムにより、疾病が輸入されたとしてもその後のさらなる感染のリスクは低くなっています。しかし、シリアやレバノンに隣接する国では、現在も継続して大規模な集団発生が報告されており、特にトルコ共和国の難民や避難民の間など特定の環境において、疾病の輸入とその後の伝播のリスクが高まっている可能性があります。トルコでは、2023年2月6日に同国南部と中央部を襲った大地震がインフラに壊滅的な影響を与えたことから、今後コレラの発生リスクの高まりが予想されます。また、2022年11月、イスラエルは、ヤルムーチ川のイスラエルへの流入地点での環境サンプルから毒素原性ビブリオコレラO1が検出されたことをWHOに報告しました。イスラエルはコレラの侵入と感染発生を防ぐために実質的な積極策をとっており、その結果、全体的なリスクは低いと考えられています。ウクライナで継続中の戦争は、この地域の環境と衛生状態をさらに悪化させ、保健衛生基盤を弱める可能性がありますが、冬季にはコレラの発生リスクは低くなります。
 
2022年11月、WHOヨーロッパ地域の国際保健規則(IHR)は加盟国に対し、世界的な流行のモニタリングを支援するため、輸入または自国のコレラ患者を任意で報告するよう呼びかけました。 2022年12月27日現在、8つのヨーロッパ地域加盟国から28例のコレラ患者がWHOに報告されており、そのうち24例はコレラ感染国への渡航と関連しています。

WHO東南アジア地域

予想されたモンスーン後の流行のピークは2022年にはありませんでした。2023年、バングラデシュのコックスバザール(Cox’s Bazaar)では、特にミャンマー国民強制移住者(FDMN)の間で小規模の感染が続いています。2022年に発生が報告されたインドとネパールの両国は、引き続き監視下にあります。サーベイランスは限られており(主要地からの収集に限られ)、報告も少ないです。他の地域へ輸出されるリスクは引き続き存在します。

WHO西太平洋地域

フィリピンでは、2022年にコレラの再発生が報告され、記録された累積患者数は2021年の3倍となりました。 この地域の国々は全体的に疾病の制御が行われていますが、飲料水の水質のモニタリングは不十分です。
 
表(英文):2023年1月現在、報告されているコレラ発生状況の概要では、モニター調査中の国について説明しています。ここには、コレラの発生が続いている国や、2022年に発生が報告された国が含まれます。発生期間や影響を受ける脆弱な人々の規模、全体的な状況的課題などの他の要因も考慮されています。

公衆衛生上の取り組み

WHOは、世界、国、地域レベルのパートナーと協力し、以下のコレラ発生対応活動において加盟国を支援しています。

連携

・コレラに対する本部危機管理対策チーム(IMST)が設置されました。
・2023年1月26日、多地域にわたるコレラ発生のが、グローバルにおいて緊急事態の中でも最高等級のグレード3と認定されました。
・コレラ対策国際タスクフォース(GTFCC)の調整を通じた技術的専門知識の交換、およびコレラ関連活動に関する協力の場を提供し、コレラの予防と制御のための国の能力を向上していきます。
・発生しているすべての流行に対し、技術支援を提供します。(対象は、検査機関、症例管理、経口コレラワクチン、IPC、WASHなど)。
・主要なパートナー機関(ユニセフ、MSF)と協力し、物資の供給と最適な利用環境を調整していきます。
・コレラ流行の国際モニタリングの支援、各国への技術支援の提供、データ収集と報告の強化、アドボカシーの強化、医療・非医療品の必要な国への提供(特に症例管理と診断のため)を実施するために資源を活用します。
・地球規模感染症に対する警戒と対応ネットワーク(GOARN: Global Outbreak Alert and Response Network)および 待機機関を通じた専門家の派遣を支援します。
・Collective Serviceを通じて、パートナー機関を通したリスクコミュニケーションとコミュニティへの参画を行っています。
・国、地域、世界レベルでコレラの予防と対策を支援するためのアドボカシー活動や資源調達活動を実施しています。

サーベイランス

・診断基準の見直し、迅速診断キットの使用、検体の収集と輸送、コレラ菌を培養する検査施設の性能の増強など、サーベイランスの向上をします。

ワクチン

・供給が急減している状況下で、ワクチン接種の対象者を見極め、国際調整グループ(ICG: International Coordination Group)機構を通じてワクチンを申請するための指針を示します。
・経口コレラワクチンの生産量を増やし、新たなワクチン製造業者を巻き込むための支援活動を実施します。
・ワクチン接種が最も必要とされる地域・流行の中心を見極めるために、各国と協力します。

治療

・コレラ治療センター(CTC)およびコレラ治療ユニット(CTU)を設置し、患者へのアクセスを向上し、治療の質を向上させること。これらの施設では、質の高いトリアージ、集中的で手順化された臨床管理、合併症の特定と管理が実施されます。また、そのために、熟練した人材と明確なクリニカルパスが必要であり、医療従事者へのトレーニングや技術指導の提供を通じて担保されます。さらに、コレラが疑われる人々への迅速な水分補給のサポートと、迅速な医療ケアの提供を確実にするために、地域社会への働きかけが必要です。
・経口補水液ポイント(ORP)を対応に組み込み、早期介入を行うことで、重症化のリスクを低減し、入院が必要な場合の入院先への紹介プロセスを改善する。
・臨床データの収集と報告の調整、症例報告書と書式を統一した文書による報告書の質の向上と評価を実施します。
 
感染予防と制御(IPC)

・医療と関連したコレラ感染のリスクを軽減するために、医療施設における安全性と医療の質に焦点を当てた介入を評価し、実施する国を支援します。
 
リスクコミュニケーションとコミュニティ活動(RCCE)

・コミュニティ、加盟国、パートナー機関と緊密に連携し、流行拡大に対応するため、リスクコミュニケーションとコミュニティ活動(RCCE: Risk communication and community engagement)の調整体制を確立し、パートナー機関のマッピング、リスクのあるコミュニティと信頼できる情報伝達ルートやインフルエンサーの特定(特にWASH介入、ケースマネジメント、ワクチン接種キャンペーン、コミュニティベースの監視)を行います。
・疾病やその症状、関連するリスク、注意事項、十分な水分補給を確保し、症状が現れたら治療を受けるべき時期の見極めなどについて、コミュニティ間の信頼を維持・構築し、リスク認識と知識を管理するためのサポートを提供していきます。
・社会的・行動的データの収集、分析、利用は、感染の行動的要因、効果的な介入策、知識、態度、慣行を時系列で理解し、流行発生時の対応に必要な情報提供するために実施すべきです。

水・衛生・保健(WASH)

・加盟国やパートナー機関、コミュニティと緊密に連携し、IPCや飲用水の水質モニタリングに関する指針など、多部門の枠組みを通じて水・衛生・公衆衛生のシステムを向上します。
効果的なコレラ対策戦略の実施と進捗状況のモニタリングのために、各国を支援します。
・コレラ発生のリスクを軽減し、対応活動を支援するために、持続可能なWASHの介入を提唱し、計画・実施するコミュニティを支援します。

オペレーション、サポート、ロジスティクス(OSL)

・コレラキットの確保、その他のWASH用品の調達、大規模な物品調達経路の確立のため、供給業者と緊密に連携しています。

WHOのリスク評価

コレラのリスクは、地域間、国家間、国内でも均等に分布しているわけではありません。コレラのリスクは、清潔な水と衛生設備へのアクセスが低下するにつれて増加します。
 
しかし、WHOの6つの地域(アフリカ地域、アメリカ地域、東地中海地域、ヨーロッパ地域、東南アジア地域、西太平洋地域)すべてで同時に発生している多くの疾病があり、全体的な疾病の流行対応能力をひっ迫させています。コレラの発生が長期化すると、公衆衛生対応を実施する人々が疲弊し、世界や地域が消耗していきます。
 
カメルーン、エチオピア、ハイチ、レバノン、ナイジェリア(北東部)、パキスタン、ソマリア、シリア、コンゴ民主共和国(東部)などいくつかの国は、脆弱な保健システム、清潔な水と衛生設備への不十分なアクセス、疾病発生に対応する能力が不十分で、かつ、深刻な人道危機の真っ只中にあります。また、気候変動や開発の遅れも、疾病の流行を助長しています。
 
さらに、多くの感染発生国では人の移動が激しく、近隣諸国にコレラが広がる可能性があります(例えば:マラウイとモザンビークの間、更にはタンザニア、ザンビア、ジンバブエに広がるリスクが高く、また、コンゴ民主共和国の北キヴ州と南キヴ州における患者の急増は、ブルンジ、ルワンダ、ウガンダに感染が拡大するリスクを高めています。ソマリアでは、近隣諸国、特にエチオピア、ケニア、ジブチ、イエメンとの難民・亡命者を含む無秩序な越境移動により感染拡大が懸念されます。パキスタン-アフガニスタン、イラク-イラン間の激しい人口移動も高リスクです。また、シリアからの発生はレバノンに広がり、ヨルダンへの拡大リスクが継続中しています)。また、コレラ発生のリスクが高いシエラレオネやリベリアなどの国への海外渡航により、現在感染の発生していない地域にまで感染が広がるリスクもあります。2022年10月から2023年1月の間にハイチから少なくとも10件の輸入例が報告された後、2023年には隣国のドミニカ共和国で、現地での感染に関連した症例が報告されています。アメリカ大陸でさらに感染が拡大する危険性があります。国境を越えた人の移動と、新型コロナウイルス感染症関連の行動制限が終了したことに伴う世界的な旅行の増加は、疾病のさらなる国際的な広がりのリスクを高めることになります。
 
2022年10月、ICGは、経口コレラワクチンの世界的な不足を理由に、流行対応のための経口コレラワクチン2回目投与を一時的に停止するという前例のない決定を下し、これは2023年も継続されています。単回投与でもワクチンは有効ですが、特に5歳以下の小児ではワクチンによる免疫の持続期間が短くなり、接種翌年にはコレラの予防効果がほぼなくなると考えられます。
 
現在の状況として、特に以下のことを踏まえて、世界レベルでのリスクは非常に高いと評価されています。1)発生件数の増加と地理的拡大、2)多くの深刻な人道の危機的状況、3)継続的な感染拡大のリスク、4)ワクチンの不足と限られた対応能力(物資、人材)などの現状から、コレラは依然として公衆衛生に対する世界的脅威、不平等や社会発展の欠如の指標となります。

WHOからのアドバイス

WHOは、コレラ患者の適切かつタイムリーな治療や、安全な飲料水と衛生設備へのアクセスの改善、医療施設における感染予防と管理の改善を推奨しています。これらの対策に加え、コレラ感染の可能性がある患者への迅速な水分補給と、彼ら自身の治療を受けようとする意識の向上、感染が発生したコミュニティにおける予防衛生習慣と食品の安全性が、コレラを抑制する最も効果的な手段であるとしています。コミュニティの不安やニーズ、課題や対応能力に耳を傾け、理解し、対応策の計画と実施においてコミュニティをパートナーとして位置づけることが重要となります。これには、予防行動の実施を妨げる要因や、感染者や疾病への偏見や差別の影響、保健システムおよび関係者や当局への信頼などを考慮したうえで対処することが含まれます。コミュニティの知識と能力を認識し、WASH、コミュニティベースのサーベイランス、治療、安全で尊厳ある埋葬の実践の遂行にコミュニティを体系的に関与させることは、信頼を築き、保健システムの対応努力とコミュニティのニーズとを一致させるのに役立ちます。コミュニティと協力し、迅速に治療を求めるよう促し、かつ安全で尊厳のある埋葬を実現するために、保健ワーカーを育成することは、コミュニティと保健システムの間の信頼を維持するために不可欠です。


経口コレラワクチンは、コレラの発生を抑制するために、水と衛生の改善と合わせて、コレラ発生のリスクが高い対象地域での予防のために使用すべきです。経口コレラワクチンの供給が世界的に限られていることを考えると、リスクコミュニケーションとコミュニティ活動を、ワクチン需要を満たす活動と併せて取り組むことは、最大限のワクチン数を確保するためにワクチン接種キャンペーンの重要な部分となるはずです。
 
WHOは加盟国に対し、コレラが疑われる患者を早期に発見し、適切な治療を行い、拡大を防ぐために、特に地域レベルでのコレラのサーベイランスを強化・維持するよう勧告しています。早期かつ適切な治療により、患者のCFRは1%未満に抑えることができます。
 
WHOは、現在入手可能な情報に基づき、加盟国に対して渡航や貿易の制限を勧告していません。しかし、この感染の流行は国境を越えた移動が多い地域にも影響を及ぼすため、WHOは加盟国に対し、国境を越えた広がりを迅速に検知し封じ込めるため、組織のあらゆるレベルにわたる協力と定期的な情報共有を確保するよう促しています。

出典

Cholera – Global situation
WHO Disease Outbreak News 11 February 2023
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2023-DON437