エムポックス-スウェーデン

状況概要

2024年8月15日、世界保健機関(WHO)は、スウェーデンの国際保健規則(IHR)担当部局(NFP ; National Focal Point)から、クレードIbモンキーポックスウイルス(MPXV)によるエムポックス の検査診断例について通知を受けました。患者はアフリカ地域の流行国への渡航歴がありました。最近、コンゴ民主共和国から近隣諸国へクレードIbのMPXVが国際的に広がっていますが、アフリカ地域以外で報告されたクレードIbの症例はこれが初めてです。スウェーデン当局は対応策を実施しています。特定された唯一の濃厚接触者は監視されており、スウェーデン当局は、国内における感染拡大のリスクは非常に低いと評価しています。2024年8月14日、WHO事務局長は、IHR緊急委員会の助言に基づき、コンゴ民主共和国およびアフリカで増加している国々におけるエムポックスの急増は、改正国際保健規則(IHR(2005))のもと、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC ; Public Health Emergency of International Concern)に該当すると判断しました。2023年8月に出されたWHO事務局長の常設勧告に基づき、 WHOは各国に対し、特にエムポックスの疫学サーベイランスと検査診断能力を強化するように、引き続き強く勧告しています。

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発生の詳細

2024年8月15日、スウェーデン当局はWHOに対し、30から40歳の人物のクレードIb MPXVによるエムポックス確定例を通知しました。
8月12日、この患者はアフリカ地域の流行国からスウェーデンに渡航し、軽症のエムポックスの臨床症状を呈しました。渡航日程には複数回の乗り継ぎがあり、途中降機もありました。8月13日、旅行者はスウェーデンで診察を受け、検査診断とウイルスの特性解析のために検体が採取されました。8月14日、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法によりエムポックスと診断されました。8月15日、スウェーデン公衆衛生局による全ゲノム配列決定の結果、クレードIb MPXVの感染が明らかになりました。患者はスウェーデンで隔離され、治療を受けています。
スウェーデンでは、患者は濃厚接触者(旅行同伴者)を1人報告しており、その接触者は監視中で、同国の保健当局と連絡を取っています。この接触者は咽頭痛がありましたが、2024年8月16日の検査ではエムポックスは陰性でした。

エムポックスの疫学

エムポックスは、MPXVによって引き起こされる感染症です。MPXVには、以前はコンゴ盆地クレードと呼ばれていたクレードIと、西アフリカクレードと呼ばれていたクレードIIの2つのクレードが知られており、クレードIIにはさらに、クレードIIaとクレードIIbの2つの亜系統(サブクレード)があります。サブクレードIaとIbは、2023年にコンゴ民主共和国の南キブ州でサブクレードIbが出現したことに基づいて定義されました。サブクレードIaは現在、クレードIのIb以外のすべての系統を包含すると考えられています。
MPXVは、ヒトの間で病変部、体液、呼吸器飛沫、汚染物質との濃厚な接触によって感染し、流行地域では生きた動物との接触や汚染されたブッシュミートの摂取によって動物からヒトへ感染します。エムポックスの症状は、通常、曝露後3~7日以内に出現しますが、早ければ2日後、まれに21日後までに始まることもあります。症状は通常2~4週間続きますが、免疫力が低下している人の場合はより長く続くこともあります。一般的に、発熱、筋肉痛、咽頭痛が最初に現れ、続いて皮疹や粘膜病変が現れます。リンパ節腫脹も典型的なエムポックスの特徴で、ほとんどの症例でみられます。性的接触による感染では、時に性器病変のみが出現することが観察されています。 小児、妊婦、免疫力が低下している人は、合併症を起こしやすく、死亡するリスクもあります。
水痘、麻疹、細菌性皮膚感染症、疥癬、ヘルペス、梅毒、他の性感染症および薬物アレルギーと区別することが重要です。エムポックスが疑われる子どもや大人は、水痘にかかっている場合もあれば、エムポックスと水痘の両方の感染症にかかっている場合もあります。このような理由から、特に流行や新規の地域での最初の症例について、感染拡大を防ぐために公衆衛生や社会措置をとるべく検査診断を行うことが重要です。
エムポックスの主な診断検査は、PCR法です。診断に最も適した検体は、皮疹から直接採取したもの(皮膚、体液、痂皮など)で、綿棒を使って採取します。皮膚病変がない場合は、口腔咽頭、肛門、直腸の拭い液で検査が可能です。口腔咽頭、肛門、直腸の検体が陽性であれば、エムポックスの確定診断となりますが、陰性であってもMPXV感染を除外するには十分ではありません。ウイルス血症は通常、短期間であるため、血液検査は推奨されていません。血清学的検査は、異なるオルソポックスウイルスを区別できないため、抗体検出が後方視的な症例分類や、特別な研究に適用される可能性があるリファレンス・ラボラトリ―での利用に限定されます。 
治療は皮膚症状のケア、痛みの管理、合併症の予防が基本です。また、臨床試験や緊急またはコンパッショネート使用(未承認薬剤の危機的な状況下における使用の承認)を通じて入手可能な場合、特に重症例や合併症のリスクが高い患者に対して、テコビリマットなどの抗ウイルス薬を使用します。
現在、一部の国ではエムポックスの予防にワクチンが使用可能です。WHOは、MVA-BNまたはLC16ワクチン、あるいは他のワクチンが入手できない場合はACAM2000ワクチンの使用を推奨しています。WHOは曝露リスクの高い人にワクチン接種を推奨しています。

公衆衛生上の取り組み

  • スウェーデンはMPXVの検査と塩基配列決定能力を維持しています。スウェーデンは引き続きエムポックスの報告を監視し、疫学的および微生物学的分析を行っています。スウェーデンでは、エムポックスは届出疾患に分類されており、スウェーデン公衆衛生局への症例報告が義務付けられています。
  • この感染者が通過した関連国の当局は、公衆衛生上の措置がとられるようスウェーデンから通知を受けています。
  • 2024年8月15日、スウェーデン公衆衛生局からプレスリリースが発表されました。
  • 2024年8月16日、WHOとECDCが合同で、WHOヨーロッパ地域の加盟国を対象とした、エムポックスに関するインフォメーションセッションを開催し、加盟国に対し、エムポックスに関するWHO事務局長の常設勧告2025年8月20日まで延長された)および欧州サーベイランスシステム(TESSy)とIHRチャンネルを通じた報告義務について注意喚起を行いました。

WHOによるリスク評価

地理的地域、疫学的背景、性自認、性行動にかかわらず、個人レベルでのリスクは、潜在的な曝露や免疫状態などの個人要因に大きく左右されます。
今回の症例は、アフリカ地域以外で初めて報告されたクレードI MPXVによるエムポックスです。流行地域・国からの旅行者の間で、あるいは渡航との関連のないコミュニティでの感染を通じて、さらなる散発的な症例が発生することが予想されます。この最初の症例からのスウェーデン国内でのさらなる感染拡大は、適切な公衆衛生対策が講じられているため、スウェーデン当局は非常に低いと評価しています。ただし、この症例の渡航歴はまだ調査中であり、症例は海外渡航中に症状が出ていました(したがって感染性があった可能性が高い)。現在のところ、この症例は孤発例であり、濃厚接触者1名は監視下に置かれています。

WHOからのアドバイス

2024年8月21日、WHOはIHR(2005年)に従い、エムポックスの流行によるPHEICを受けて、事務局長によるエムポックスに関する常設勧告の延長を発表しました。
さらにWHOは、コンゴ民主共和国、ブルンジ、ケニア、ルワンダ、ウガンダを含む(ただしこれらの国に限定されない)、エムポックスが急増している加盟国に対し、暫定勧告を発表しました。これらはすべてWHOのウェブサイトで公開されています。
WHOは、2023年8月に発表されたWHO事務局長の常設勧告に基づき各国が、特にエムポックスの疫学サーベイランスと検査診断能力の強化に引き続き従うことを強く勧告しました。さらに、各国はMPXVのクレードとサブクレードの両方を検出できる診断能力を確保しなければなりません。
それぞれの状況に適したリスクコミュニケーション、コミュニティエンゲージメント、インフォデミックマネジメントの持続的な実施、曝露リスクのある人に対するワクチン接種の維持または開始(可能な場合)、最適な症例管理、感染予防管理措置の遵守、異なる状況における感染様式をよりよく理解するための研究の強化、患者のニーズに適応した迅速診断法と治療法の開発に対する持続的な支援が必要です。
ウイルスの循環が少ない場合、保健当局は、人から人へのエムポックスの感染をなくすよう努力し、アウトブレイクへの対応能力を維持できるようにすべきです。医療施設は、医療従事者が高い警戒心を維持し、エムポックスの疑いまたは確定症例を迅速に特定・隔離できるようにすべきです。
臨床診断または検査でエムポックスと確定診断された人は、エムポックスの症状がなくなり、痂皮がはがれ、新しい皮膚の層ができるまで(通常2~4週間)、医療施設または自宅に隔離するなど、現地の状況に応じて保健当局の指示に従うべきです。(2022年6月10日発出のWHO Clinical management and infection prevention and control for monkeypox: interim rapid response guidanceに説明されています)
エムポックス患者は、緊急の治療や人道的な理由で渡航が必要な場合を除き、感染期間が終了するまで、海外渡航を含め、渡航を避けるべきです。感染が確認された患者の接触者は、健康状態を監視し、最大潜伏期間および症状が出現する可能性のある監視期間である21日間は、不要不急の渡航を含め、移動を制限すること(関連する場合は、性的接触を控えること)が求められます。
リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメントに関しては、各国は以下を行うことが奨励されます。
  • 男性と性交渉を持つ男性やセックスワーカーを含め、影響を受けたコミュニティと密接な関わりを持ち続け、感染予防策の実施を促進します。
  • すべての渡航者、特に現在エムポックスが報告されている国への渡航者、またはその国からの渡航者に、入国地点での公衆衛生上のアドバイスを含む情報を提供します。
  • すべてのコミュニケーションと介入がスティグマのない方法で行われ、尊重し、包括的で、否定的な固定観念や差別を強化しないような情報伝達が行われるようにします。
WHOは、WHO予防接種専門家戦略諮問グループ(SAGE ; Strategic Advisory Group of Experts on Immunization)の勧告を考慮し、本疾患に罹患するリスクが最も高い人々に対して、本疾患に対するワクチン接種を推奨しています。
テコビリマットなど、現在エムポックスに対する有効性が評価されている特定の抗ウイルス治療薬については、WHOのMEURIプロトコルに基づき、WHOに国から要請を行うか、コンパッショネート使用、または製造元から直接購入することで入手が可能です。
加盟国は、当局、医療・介護従事者、地域団体などに対して、エムポックスがリスクをもたらす可能性のあるイベントや集会への渡航前、渡航中、渡航後に、渡航者自身や他者を守るための関連情報を提供するよう奨励されます。
WHOは、いかなる渡航や貿易の制限も行わないよう勧告しています。

出典

World Health Organization (30 August 2024). Disease Outbreak News; Mpox - Sweden
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON531


海外へ渡航される皆様へ

エムポックスは、モンキーポックスウイルス(MPXV)によって引き起こされる感染症です。症状には特徴的な発疹発熱、頭痛、筋肉痛、リンパ節の腫れ、疲労感が含まれます。
 
1. 情報収集:
  • 渡航先のエムポックスの発生状況や、FORTHウェブサイト、現地の保健当局が発表する最新の情報を確認してください。
  • WHOや各国の保健機関のウェブサイトを定期的にチェックしましょう。
    例)2022-24 Mpox (Monkeypox) Outbreak: Global Trends
https://worldhealthorg.shinyapps.io/mpx_global/


2. 個人防護:
  • 体調不良や明らかな皮膚病変のある人との接触、不特定多数、見知らぬ人やコマーシャル・セックスワーカーとの性交渉を避けましょう。
  • 肌と肌が触れ合う可能性が高い、参加者の露出度が高いような感染のリスクが高い場所やイベントへ行くことは避けるようにしましょう。
  • 一般的な感染対策として、公共の場では、手指衛生を徹底し、手洗いを頻繁に行いましょう。
 
3. 健康管理:
  • 渡航中に特徴的な皮疹をはじめ、エムポックスを疑うような症状があらわれた場合は、エムポックスの可能性を伝えたうえで、すぐに医療機関を受診してください。
  • 渡航後21日間は、自身の健康状態を観察し、発熱、皮疹、リンパ節の腫れなどの症状が現れた場合は医療機関に事前に連絡をした上で、速やかに受診しましょう。
  • 感染が疑われる場合は、他の人との接触を避け、特に性的接触は控えてください。
  • エムポックスと診断された場合は、保健所や医療機関の指示に従い、必要な治療を受け、自宅等における感染対策を徹底しましょう。
 
これらのアドバイスに従い、安全な旅行を心がけ、エムポックスの感染リスクを減らしましょう。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。
 
For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “[Title]. Geneva: World Health Organization; [Year]. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “[Title]. Geneva: World Health Organization (WHO); [Year]. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.