インフルエンザA(H1N1)変異型ウイルス - ベトナム

状況概要

2024年8月19日、ベトナムの国際保健規則(IHR ; International Health Regulation)担当部局(NFP ; National Focal Point)は、ラオス人民民主共和国と国境を接するベトナム北部の山岳地帯、ソンラ省で、豚由来のインフルエンザA(H1N1)変異型(v)ウイルスによるヒト感染例が検査室で確認されたことを世界保健機関(WHO)に通知しました。これはベトナムで初めて報告されたインフルエンザA(H1N1)vウイルスによるヒト感染です。ウイルスへの曝露の機会は現在のところ不明です。
IHR(2005年)によれば、新しいA型インフルエンザウイルスの亜型によるヒト感染は、公衆衛生に大きな影響を与える可能性のある事象であり、WHOに報告されなければなりません。現在入手可能な情報に基づき、WHOは、現時点でこのウイルスが一般住民にもたらすリスクは低いと評価しています。WHOは引き続き、ヒト(または動物)の健康に影響を及ぼす可能性のあるインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のためのタイムリーなウイルス共有の重要性を強調しています。

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発生の詳細

2024年8月19日、ベトナムIHR NFPは、インフルエンザA(H1N1)vウイルスによるヒト感染が検査室で確認されたとWHOに報告しました。患者は、ラオス人民民主共和国と国境を接するベトナム北部の山岳地帯、ソンラ省の、基礎疾患のある70歳の女性です。
患者は、フンイエン省の故郷の村で1ヵ月を過ごした後、帰宅して1週間後に発熱、倦怠感、食欲不振の症状を認めました。2024年6月1日、症状が持続したため地区病院に入院し、基礎疾患に加えて肺炎と診断されました。6月5日、迅速検査にてインフルエンザAと診断されました。同日、彼女は国立熱帯病病院に移送され、6日間の治療を受けましたが、6月11日に死亡しました。
6月5日に採取された検体が逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR ; reverse transcription-polymerase chain reaction)で検査され、6月18日にA型インフルエンザウイルスが確認されましたが、亜型は決定されませんでした。8月1日、ゲノム配列決定によりインフルエンザA(H1N1)vウイルスが同定され、この結果は、8月5日、米国疾病対策予防センター(US CDC ; United States Centers for Disease Control and Prevention )のインフルエンザWHO協力センター(WHO CC ; WHO Collaborating Centre )により確定されました。現在、このウイルスのさらなる性状解析が行われています。
疫学的調査の結果、患者はソンラ省で一人暮らしをしており、数人の村人や介護者との限られた接触しかなかったことが判明しました。6月から8月11日まで、医療従事者を含む患者の接触者の間で呼吸器症状が報告されたり、患者が住んでいたソンラ省のコミュニティで集団感染が発生したりしたという報告はありません。ソンラ省の患者居住地周辺では、豚を含む家畜の間での疾病発生はありません。患者の故郷であるフンイエン省の村からは、公式・非公式を問わず報告はありません。報告時点では、ウイルスの感染源は不明のままです。

A型インフルエンザウイルスの疫学

インフルエンザA(H1)ウイルスは、世界のほとんどの地域の豚で流行しています。A(H1N1)、A(H1N2)、A(H3N2)は、ブタで流行するA型インフルエンザウイルスの主な亜型であり、通常はブタや汚染された環境にヒトが直接または間接的に曝露された後に、時々ヒトに感染することがあります。通常豚で流行するインフルエンザウイルスがヒトに検出された場合、「変異型インフルエンザウイルス」と呼ばれます。変異型のウイルスにヒトが感染した場合、軽症となることが多いですが、重症化して入院した例や、死亡した例もあります。
豚のA型インフルエンザウイルスの積極的サーベイランスの結果によると、ベトナムでは2010年以降、豚からA型インフルエンザウイルスが検出されています。しかし、ベトナムでヒトからインフルエンザA(H1N1)vウイルス感染が確認されたのは今回が初めてです。

公衆衛生上の取り組み

  • ベトナムの公衆衛生部門は以下のような対応措置をとりました。
    • 国家当局は、特に地方レベルにおいて、サーベイランスの強化、人と動物の保健分野での連携、アウトブレイク調査の強化を呼びかけています。
    • ソンラ省疾病管理センターは、さらなる調査と接触者追跡のため、地元の公衆衛生および動物衛生当局と協力しています。
    • 8月11日、ソンラ省疾病管理センターは、地方保健・動物衛生当局への勧告とともに、過去の事例調査、予防、管理活動に関する公式報告書を提出しました。

    WHOによるリスク評価

    近年、豚由来のインフルエンザA(H1N1)vウイルスによるヒトへの感染が多くの国で報告されています。インフルエンザA(H1N1)vウイルスに感染したヒトの症例のほとんどは、感染した豚との直接的な接触や、汚染された環境を介した間接的な豚インフルエンザウイルスへの曝露によるものです。しかし、発病前の数週間に豚に接触したことが明らかでない症例も少数報告されています。これらのウイルスは世界中の豚の集団から検出され続けているため、感染した豚との直接的または間接的な接触によるヒトへの感染例がさらに増えることが予想されます。
    変異型のインフルエンザウイルスの限定的かつ持続しないヒトからヒトへの感染が報告されていますが、コミュニティ内での継続的な感染は確認されていません。現在のところ、これらのウイルスはヒトからヒトへ継続的に感染させる能力を獲得していないことが示唆されています。これまでに得られた情報によれば、この症例に関連するインフルエンザA(H1N1)vウイルスに感染したヒトの症例は検出されていません。入手可能な情報に基づき、WHOは、現時点でこのウイルスが一般住民にもたらすリスクは低いと評価しています。現在、ウイルスのさらなる性状解析が進行中です。このリスク評価は、疫学的またはウイルス学的情報が入手可能になった時点で見直されます。

    WHOからのアドバイス

    サーベイランス :
    • 今回の事例は、季節性インフルエンザの公衆衛生対策とサーベイランスに関する現在のWHOの勧告を変更するものではありません。
    • WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの状況から、特別な渡航者制限や入国地点でのスクリーニングは推奨していません。
    • インフルエンザウイルスは常に変異を繰り返しているため、WHOは引き続き、ヒトまたは動物の健康に影響を及ぼす可能性のある循環するインフルエンザウイルスに関連したウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出するための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス共有の重要性を強調しています。

    通知と調査:
    • IHR(2005年)により新しい亜型のインフルエンザウイルスによるヒトへの感染はすべて届出対象となっており、締約国はパンデミックを引き起こす可能性のあるA型インフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確定された場合、直ちにWHOに通知することが義務付けられています。通知には発症の有無は関係ありません。
    • パンデミックを引き起こす可能性のある変異型ウイルスを含む新しいインフルエンザウイルスによるヒトへの感染が確認された、または疑われた場合には、渡航歴や動物への曝露歴を含む徹底した疫学調査を行い、接触者を追跡する必要があります。疫学調査には、新しいウイルスのヒトからヒトへの感染を示す可能性のある、平時には検出されないような異常な呼吸器系疾患に関連する事象の早期発見も含まれます。症例の発生時、採取した臨床検体は検査され、さらなる性状解析のためWHO CCに送られるべきです。

    渡航と貿易 :
    • WHOは、現在入手可能な情報に基づき、ベトナムへの渡航および/または貿易の制限の推奨はしていません。
    • 動物に触れる前後の石鹸でのこまめな手洗いや、病気の動物との接触を避けるなど、一般的な衛生対策を遵守する必要があります。

    旅行者の予防対策 :
    • 動物のインフルエンザの発生が確認されている国への渡航者は、農場、生きた動物を扱う市場での動物との接触、動物がと殺される場所への立ち入り、動物の排泄物で汚染されていると思われる物との接触を避ける必要があります。また、渡航者は石鹸と水での手洗いが励行されます。旅行者は、食品の安全性と食品衛生に関する適切な習慣に従うべきです。
    • 豚に感染するインフルエンザウイルスは、ヒトのインフルエンザウイルスとは異なります。ヒトに使用できる、動物由来のインフルエンザに対するワクチンはまだ認可されていません。しかし、WHOが調整する新しい動物由来のインフルエンザのためのインフルエンザワクチン候補ウイルスの開発は、インフルエンザの世界的大流行に備えるための全体的な世界戦略の重要な要素であることに変わりはありません。通常、ヒトのインフルエンザウイルスに対するワクチンによって、豚に流行するインフルエンザウイルスのヒトへの感染を予防することは期待できません。それでもWHOは、流行するインフルエンザウイルスへの感染による重症化を避けるために、季節性インフルエンザのワクチン接種を推奨しています。

    出典

    World Health Organization (4 September 2024). Disease Outbreak News; Influenza A(H1N1) variant virus - Viet Nam
    https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON532

    海外へ渡航される皆様へ

    現在、動物の間で流行が見られるインフルエンザウイルスについては、ヒトからヒトへ容易に感染する能力を獲得していないと考えられています。しかし、感染した動物との接触によりインフルエンザウイルスに感染した事例は各地で報告されています。
    動物由来のインフルエンザウイルスに対するヒト用ワクチンは一般的に使用されていません。そのため、感染リスクのある場所や物、動物との接触を避けることが最も効果的な予防法です。FORTHウェブサイトで訪問先の国の感染症流行情報を確認し、豚インフルエンザが発生している国へ旅行される際には、以下の点にご注意ください。
     
    1.動物との接触を避ける:
    • 農場や畜場、生きた動物を売買している市場に不用意に近づかないようにしましょう。
    • 弱った豚や死んだ豚に触れたり、動物の排泄物で汚染されている場所 で、埃を吸い込んだりしないようにしましょう。
    2.手洗いの徹底:
    • 渡航期間中、日常的に流水、石鹸で手を洗うなど、基本的な感染症予防を心がけましょう。
    3.帰国後の留意点:
    • 発生国からの帰国時に発熱やせきがある方、豚インフルエンザに感染した動物(死んだ動物を含む)や患者に接触したと思われる方は、検疫所の担当者に相談してください。
    • 動物で豚インフルエンザの発生がみられる地域から帰国された場合、帰国後10日間は、発熱や咳や痰などの呼吸器症状に注意を払いましょう。症状がみられる場合は、医療機関受診時に、海外渡航歴及び動物との接触歴を伝えてください。
     
    これらの対策を徹底し、安全と健康に留意して渡航しましょう。

    備考

    厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。

    For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Influenza A(H1N1) variant virus - Viet Nam . Geneva: World Health Organization; 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
    For adaptations: “This is an adaptation of an original work “Influenza A(H1N1) variant virus - Viet Nam . Geneva: World Health Organization (WHO); 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.