鳥インフルエンザA(H9N2)- ガーナ

状況概要

2024年8月26日、ガーナの国際保健規則(IHR)国家連絡窓口(NFP ; National Focal Point)は、同国で初めて報告された動物由来インフルエンザウイルスによるヒト感染例について、世界保健機関(WHO ; World Health Organization)に通知しました。その後の検査で、鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスが検出されました。疫学調査によると、この患者は5歳未満で、発症前に家きん類への曝露歴や同様の症状を有する人との接触はありませんでした。ガーナ政府は、状況のモニタリング、予防、制御を目的とした一連の対策を実施しました。IHR(2005年)によれば、インフルエンザAの新たな亜型による人への感染は、公衆衛生に大きな影響を与える可能性のある事象であり、WHOに通知されなければなりません。現在入手可能な情報に基づき、WHOは、現時点でA(H9N2)ウイルスが一般住民にもたらすリスクは低いと評価していますが、これらのウイルスと世界的な状況のモニタリングを続けています。

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発生の詳細

2024年8月26日、ガーナIHR NFPは、鳥インフルエンザA(H9N2)ウイルスによるヒト感染例が1例確認されたことをWHOに通知しました。これは、ガーナからWHOに報告された動物由来インフルエンザウイルスによる最初のヒト感染例です。
 
患者は、ブルキナファソとの国境に位置するアッパー・イースト州に住む5歳未満の小児です。発症は2024年5月5日で、咽頭痛、発熱、咳の症状を認めました。5月7日、患者は地元の病院を受診し、インフルエンザ様疾患と診断され、解熱剤、抗ヒスタミン剤、抗菌薬による治療を受けました。
5月7日に採取された呼吸器検体は、5月15日に野口記念医学研究所のガーナ国立インフルエンザセンター(NIC ; National Influenza Centre)でポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査により季節性インフルエンザA(H3N2)ウイルス遺伝子陽性と判定されました。
7月9日、ガーナNICが行ったゲノム配列解析の結果、鳥インフルエンザA(H9)ウイルスが検出されました。その後、追加検査と確定診断のため、検体が英国(フランシス・クリック研究所)と米国(米国疾病対策予防センター、米国CDC ;  Centers for Disease Control and Prevention)にあるWHO協力センター(WHO CC ; WHO Collaborating Centres)に送られました。8月6日、米国CDCは検体がインフルエンザA(H9N2)ウイルス陽性であることを確認しました。
A(H9N2)ウイルス感染が確認された時点で、アッパー・イースト州保健総局は患者を訪問し、新たに呼吸器症状を発症していることを確認しました。その日のうちに血清と呼吸器検体が採取され、さらなる分析のためにNICに送られました。検査結果はインフルエンザ陰性で、患者はその後完全に回復しました。
患者には、発症前に、家きんへの曝露歴も、同様の症状を呈する病人との接触もありませんでした。濃厚接触者の呼吸器検体はインフルエンザ陰性でした。この症例に関連するインフルエンザA(H9N2)ウイルスによるヒト感染例は、地域社会では確認されていません。
アッパー・イースト州では家きんの疾病が報告されていますが、報告時点では家きんの疾病の原因は確認されていません。しかし、インフルエンザA(H9N2)低病原性鳥インフルエンザウイルスは、2017年11月以降、ガーナの養鶏場において報告されています。

動物インフルエンザウイルスの疫学

動物インフルエンザウイルスは通常、動物の間で循環していますが、ヒトにも感染することがあります。ヒトへの感染は主に、感染した動物や汚染された環境との直接的な接触によって起こります。元の宿主動物の種類によって、インフルエンザAウイルスは、鳥インフルエンザウイルス、豚インフルエンザウイルス、その他の動物インフルエンザウイルスに分類されます。
ヒトにおける鳥インフルエンザウイルス感染は、軽度な上気道感染からより重度の症状までを引き起こし、併存疾患の有無にかかわらず、インフルエンザ関連の死亡例も報告されています。呼吸器感染のほかに結膜炎、胃腸症状、脳炎、脳症も報告されています。
ヒトのインフルエンザ感染を診断するには、臨床検査が必要です。WHOは、PCR等の分子生物学的手法を用いた人獣共通インフルエンザの検出に関する技術ガイダンス指針を定期的に更新しています。

公衆衛生上の取り組み

ガーナ政府は、状況のモニタリング、予防、制御を目的とした一連の対策を実施しています。
疫学調査の実施や濃厚接触者のモニタリングと並行して、症例サーベイランスの強化が確立されています。
国民の意識を高めること、特に曝露のリスクが高い主要な職業グループに対して感染予防策の実施を促すため、継続的なリスクコミュニケーション活動が実施されています。

WHOによるリスク評価

この事例は、ガーナから報告された動物由来インフルエンザウイルスによる初のヒト感染例です。検査により、ウイルスはインフルエンザA(H9N2)ウイルスであることが確認されました。
A(H9N2)ウイルスのヒトへの感染の大部分は、感染した家きんや汚染された環境との接触により発生し、通常、軽度の臨床症状を呈します。家きんの集団からウイルスが検出され続けていることから、感染した動物や汚染された環境への曝露により、さらなるヒトへの感染が予想されます。現在までのところ、A(H9N2)ウイルスのヒトからヒトへの持続的な感染は報告されていません。
既存の疫学的およびウイルス学的知見は、このウイルスがヒトの間で持続的伝播能力を獲得していないことを示唆しています。したがって、ヒトからヒトへの持続的伝播の可能性は低いと考えられています。一方、感染地域から感染者が海外に渡航した場合、渡航中または到着後に他国で感染が検出される可能性がありますが、このような事態が発生しても、地域レベルで感染が拡大する可能性は低いと考えられています。

WHOからのアドバイス

今回の症例発生によって、現在のWHOの公衆衛生対策とインフルエンザのサーベイランスに関する勧告の変更はありません。
インフルエンザウイルスの継続的な変異を考慮し、WHOは引き続き、ヒトや動物の健康に影響を及ぼす可能性のある新興又は既に流行しているインフルエンザウイルスに関連するウイルス学的、疫学的、臨床的変化を検出してモニタリングするための世界的なサーベイランスと、リスク評価のための迅速なウイルス共有の重要性を強調しています。
鳥インフルエンザウイルスを含む、パンデミックを引き起こす可能性があるインフルエンザAウイルスの新たな亜型によるヒトへの感染が確認された、又は疑われた場合、動物への曝露歴や渡航歴の徹底的な疫学調査(検査室での診断結果を待つ間でも)を、接触者の追跡調査とともに行うべきです。疫学調査には、新たなウイルスのヒトからヒトへの感染を示唆するような異常な事態の早期発見も含まれるべきです。ヒトへの感染が疑われる症例から採取された臨床検体は、検査後、WHO  CCに送られ、さらに詳細な検査が行われるべきです。
家きん、野鳥、その他の動物で発生が確認されているA型インフルエンザウイルスにヒトが曝露された場合、又はそのようなウイルスにヒトが感染した症例が確認された場合、曝露される可能性のあるヒト集団におけるサーベイランスの強化が必要となります。サーベイランスを強化する際には、集団の医療受診行動を考慮する必要があります。これには、地域のインフルエンザ様疾患(ILI ; influeza-like illness)/重症急性呼吸器感染(SARI ; severe acute respiratory infection)システムにおける強化されたサーベイランス、病院や職業上曝露リスクが高いと思われる集団における積極的なスクリーニング、伝統的ヒーラー、民間開業医、民間検査機関などといったさまざまな情報源の組み込みなど、幅広い能動的・受動的な医療及びコミュニティベースのアプローチが含まれます。
一般市民は、生きた動物の市場や農場、生きた家きん、家きんの糞で汚染されている可能性のある物の表面など、リスクの高い環境との接触を避けるべきです。
さらに、石鹸を使用した頻繁な手洗いやアルコールベースの手指消毒剤を使用し、手指衛生を保つことが推奨されます。
一般市民やリスクのある人は、動物が病気になった場合や、予期せず死亡した場合、直ちに獣医当局に報告すべきです。病気の家きんや、予期せず死亡した家きんの取り扱い(と殺、食肉処理、食用の準備を含む)は避けるべきです。
感染した可能性のある動物や汚染された環境にさらされ、体調不良を感じた人は、速やかに医療機関を受診し、医療提供者に感染の可能性を伝えるべきです。
WHOは、ヒトと動物の接点におけるインフルエンザウイルスの現状から、入国地点での特別な渡航者スクリーニングやその他の制限を実施しないよう助言しています。
IHR(2005年)の締約国は、インフルエンザウイルスの新たな亜型によるヒト感染例が検査診断された場合、症状の有無にかかわらず直ちにWHOに通知することが義務付けられています。

出典

World Health Organization (20 September 2024). Disease Outbreak News; Avian Influenza A(H9N2) - Ghana

海外へ渡航される皆様へ

現在、動物の間で流行が見られる鳥インフルエンザウイルスについては、ヒトからヒトへ容易に感染する能力を獲得していないと考えられています。しかし、感染した動物との接触により鳥インフルエンザウイルスに感染した事例は各地で報告されています。
鳥インフルエンザウイルスに対するヒト用ワクチンは一般的に使用されていません。そのため、感染リスクのある場所や物、動物との接触を避けることが最も効果的な予防法です。FORTHウェブサイトで訪問先の国の感染症流行情報を確認し、鳥インフルエンザが発生している国へ旅行される際には、以下の点にご注意ください。
 
1.動物との接触を避ける:
  • 養鶏場、鳥の羽をむしるなどの処理をしているところ、生きた動物を売買している市場に不用意に近づかないようにしましょう。
  • 弱った鳥や死んだ鳥にさわったり、鳥のフンが舞い上がっている場所 で、ホコリを吸い込んだりしないようにしましょう。
2.手洗いの徹底:
  • 渡航期間中、日常的に流水、石鹸で手を洗うなど、基本的な感染症予防を心がけましょう。
3.帰国後の留意点:
  • 発生国からの帰国時に発熱や咳がある方、鳥インフルエンザに感染した動物(死んだ動物を含む)や患者に接触したと思われる方は、検疫所の担当者に相談してください。
  • 動物で鳥インフルエンザの発生がみられる地域から帰国された場合、帰国後10日間は、発熱や咳や痰などの呼吸器症状に注意を払いましょう。症状がみられる場合は、医療機関受診時に、海外渡航歴及び動物との接触歴を伝えてください。
 
これらの対策を徹底し、安全と健康に留意して渡航しましょう。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。
 
For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Avian Influenza A(H9N2) - Ghana . Geneva: World Health Organization; 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “Avian Influenza A(H9N2) - Ghana . Geneva: World Health Organization (WHO); 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.