ウエストナイルウイルス-バルバドス

状況概要

2024年9月13日、バルバドスの国際保健規則(IHR : International Helath Regulations)国家連絡窓口(NFP ; National Focal Point)は、世界保健機関(WHO ; World Health Organization)に対し、ウエストナイルウイルス(WNV;West Nile Virus)のヒト(小児)への感染が確認されたことを通知しました。ウエストナイルウイルスは一般に渡り鳥によって運ばれ、蚊を媒介してヒト、馬、その他の哺乳類に感染します。ウエストナイルウイルスに感染した場合、一般的には軽症ですが、神経症状が出ることもあり、場合によっては死に至ることもあります。今回の事例はバルバドスで検出された初めてのウエストナイルウイルス感染例です。さらに、バルバドスではこれまで鳥や馬での感染についても確認されておらず、今回の事例は異例であると同時に予想外でした。しかし、ウエストナイルウイルスは感染した渡り鳥を介してカリブ海全域に広がっています。ウイルスが検出されずに鳥や馬の間で循環している可能性もあります。しかし現段階では、報告されたヒト感染例は1例のみであり、適切な公衆衛生対策が実施されているため、公衆衛生への全体的な影響は限定的です。WHOは、ウエストナイルウイルスによる現在のリスクは低いと考えていますが、バルバドスの疫学的状況を引き続き評価する予定です。

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発生の詳細

2024年9月13日、バルバドスのIHR NFPは、小児1例のウエストナイルウイルスのヒト感染が確認されたとWHOに通知しました。これは、バルバドスから報告されたウエストナイルウイルスの初めてのヒト感染例です。
この患者は、6月10日に頭痛、発熱、嘔吐、首の痛み、膝の痛みなどの症状を訴え、6月14日に診療所を受診しました。同日実施されたデング熱検査は陰性でした。
6月16日、関節痛、腹痛、精神状態の変化、ろれつが回らないなどの症状が悪化したため、病院の小児集中治療室(PICU ; Pediatric Intensive Care Unit)に入院しました。脳脊髄液検査の結果、いくつかの細菌およびウイルス病原体は陰性でした。治療にもかかわらず、患者の状態は悪化しました。
2024年9月3日、血液検体が採取され、ウエストナイルウイルス検査のために米国のメイヨークリニックに送られました。2024年9月4日にウエストナイルウイルス抗体(IgG)の存在が確認されました。患者は現在も治療を受けており、回復しています。
患者は、2024年2月に馬小屋を、発症の2日前の2024年6月8日には馬が頻繁に出入りする海岸を訪れたと報告しています。これらの馬との接触はウエストナイルウイルス感染の危険因子と考えられましたが、正確な感染源は特定されていません。他にウエストナイルウイルス感染が疑われる症例は確認されていませんが、公衆衛生当局は引き続き状況を注意深く監視しています。

ウエストナイルウイルスの疫学

ウエストナイルウイルスは主に感染した蚊に刺されることでヒトに感染しますが、ヒト由来の医療製剤(輸血、臓器移植など)を介して感染することもあります。ウイルスは一般に渡り鳥によって運ばれ、蚊によってヒト、馬、その他の哺乳類に感染します。重要な点として、馬やヒトが新たに蚊にウイルスを感染させることはありません。
ヒトがウエストナイルウイルスに感染した場合、通常は軽症で、感染者の約80%は無症状です。潜伏期間は通常3~14日です。ウエストナイルウイルスに感染したヒトの約20%が「ウエストナイル熱」を発症します。症状としては、発熱、頭痛、倦怠感、体の痛み、吐き気、嘔吐があり、時に皮疹(体幹部)やリンパ腺の腫れを伴うこともあります。
ウエストナイルウイルス感染例の約150例に1例が重症化すると推定されています。重症化(神経侵襲性疾患とも呼ばれ、ウエストナイル脳炎や髄膜炎、ウエストナイル小児麻痺など)の症状には、頭痛、高熱、項部硬直、昏迷、振戦、痙攣、筋力低下、麻痺などがあります。重症化は年齢に関係なく起こりえますが、ウエストナイルウイルスに感染した際の重症化リスクが最も高いのは、50歳以上の人と一部の免疫不全者(移植患者など)です。現在、使用可能なヒト用のウエストナイルウイルスに対するワクチンは存在しません。
これはバルバドスで検出された最初のウエストナイルウイルス感染例です。さらに、この国ではこれまで鳥や馬での感染は記録されておらず、今回の症例は異例かつ予想外のケースでした。しかし、ウエストナイルウイルスは感染した渡り鳥を介してカリブ海全域に広がっています。2007年に実施されたバルバドスへのウエストナイルウイルス侵入に関する定量的リスク評価では、渡り鳥と蚊の存在がウイルス侵入における差し迫った脅威であることが明らかになっていました。

公衆衛生上の取り組み

バルバドスの保健当局は、以下の公衆衛生対策を実施しました:
  • 患者の両親から聞き取り調査を行い、ウエストナイルウイルスを媒介することが知られている動物への曝露、最近の渡航歴、その他の関連要因などの危険因子を調査しました。
  • 継続的な疫学的サーベイランスと検査が実施され、さらなる症例の見落としを防止すると共に、この地域における感染の潜在的リスクが評価されています。

WHOによるリスク評価

国内では鳥や馬でウエストナイルウイルスの感染例は記録されていませんが、ウイルスが検出されずにこれらの個体群で循環している可能性があります。しかし、報告されているヒト感染例は現在1例のみであり、上記のように適切な公衆衛生対応策が実施されていることから、現段階では公衆衛生への全体的な影響は限定的です。
バルバドスからウエストナイルウイルスが国際的に伝播するリスクは低いと考えられます。ウイルスは主に蚊に刺されることで感染し、自然宿主は鳥類です。ウエストナイルウイルスがヒトからヒト、もしくは馬から蚊へ容易に伝播することを示唆する証拠はありません。したがって、国際的に広く感染拡大する可能性は低いと考えられます。
これらの基準に基づき公衆衛生に関する総合的なリスクは低いと評価されていますが、WHOは、バルバドスの疫学的状況を引き続き評価する予定です。

WHOからのアドバイス

ウエストナイルウイルスは、IgGおよびIgM抗体のELISA法、中和アッセイ、RT-PCR、細胞培養でのウイルス分離など、さまざまな検査によって診断することができます。IgM抗体は臨床症状発現時にほぼすべての感染患者で検出され、1年以上持続することもあります。この疾患に対する特異的な治療法はなく、入院、点滴、呼吸補助などの支持療法が行われます。罹患したほとんどの人や動物は自然に回復します。ヒト用のワクチンはありません。
ウエストナイルウイルスは、主にイエカが関与する蚊-鳥-蚊の感染サイクルによって維持されます。鳥類は自然宿主となり、馬とヒトは終末宿主(感染の拡大に寄与しない宿主)です。馬についてはワクチンが開発されており、治療は支持療法によります。
蚊帳や忌避剤の使用、足や腕を覆う衣服の着用、蚊に刺されやすい時間帯の屋外活動の回避、危険因子や曝露を減らすための対策に対する認識を高めるなど、予防が重要です。蚊の発生源の減少、水の管理、生物学的および化学的防除法など、包括的な蚊の監視および防除プログラムが不可欠です。医療現場では、医療従事者は標準的な感染予防策を実施し、適切な設備のある検査室で慎重に検体を取り扱うべきです。
WHOは、今回の事例に関する入手可能な情報に基づき、バルバドスへの渡航や貿易の制限を勧告していません。

出典

World Health Organization (3 october 2024). Disease Outbreak News;West Nile virus – Barbados
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON538

海外へ渡航される皆様へ

ウエストナイルウイルスは、感染した蚊に刺されることでヒトに感染します。このウイルスは主に渡り鳥によって広がり、鳥を刺した蚊がそのウイルスを運んで、ヒトや動物に感染させます。感染した人のほとんど(約80%)は無症状ですが、約20%の人は症状を呈し、ウエストナイル熱を発症します。主な症状は、発熱や頭痛、倦怠感、体の痛み、吐き気などで、時には皮疹やリンパ腺の腫れを伴うこともあります。重症化のリスクは、特に50歳以上の高齢者や免疫不全がある方で高いとされています。
FORTHウェブサイトで訪問先の国の感染症流行情報を確認し、ウエストナイルウイルス流行地へ旅行される際には、安全な渡航を心がけ、以下の点に注意して感染リスクを減らしましょう。

蚊に刺されないことが予防に効果的
ウエストナイルウイルスは蚊によって運ばれます。以下のような対策で感染のリスクを下げることができます。
  • 屋外など蚊のいる環境では、露出した皮膚には虫除け剤(忌避剤)を使用してください。
  • 屋外など蚊のいる環境では、長袖のシャツや長ズボンを着用し、裸足でのサンダル履きをしないなど、できるだけ肌の露出を避けましょう。
  • 屋内では網戸やエアコンを使用し、蚊の侵入を防ぎましょう。
  • 蚊のいる環境では、就寝時には殺虫剤処理された蚊帳を利用し、昼寝の際も使用することをお勧めします。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。
 
For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “West Nile virus - Barbados. Geneva: World Health Organization; 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “West Nile virus - Barbados. Geneva: World Health Organization (WHO); 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.