マールブルグ病-ルワンダ共和国(2024.10.11更新版)

状況概要

2024年10月10日現在、ルワンダ共和国(以下、ルワンダ)では13例の死亡例(致命率(CFR):22%)を含む合計58例のマールブルグ病の症例が報告され、確認された患者のうち15例の回復が報告されています。接触者の追跡調査が進行中であり、2024年10月9日現在、700名以上の接触者が追跡調査下にあります。世界保健機関(WHO ; World Health Organization)は、このアウトブレイクをWHO緊急対応フレームワークに基づく緊急事態の最高レベルであるグレード3の緊急事態に分類し、WHOの緊急対応チームが、疫学、保健活動、症例管理、医療品等物流、ワクチン研究、パートナーとの調整、感染予防・制御といった事態管理の機能全体にわたって、国内での対応を支援するために派遣されています。

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発生の詳細

2024年9月30日に本事象に関する最初のDisease Outbreak News(で26例の検査確定症例)が発表されて以来、ルワンダではさらに32例のマールブルグ病の検査確定症例が報告され、2024年10月10日現在、13例の死亡例(致命率22%)を含む合計58例の症例が報告されています。症例の大部分は、キガリ市内の3つの地区から報告されています。
9月27日に流行が宣言されて以来、10月10日現在、15例の確定症例が回復し、残りの30例は指定されたマールブルグ治療センターで治療を受けています。キガリ市の2つの医療施設の医療従事者が、確定症例の80%以上を占めています。過去1週間以内に報告された新たな確定症例はすべて、キガリ市の2つの病院のクラスターに関連しています。2024年10月10日現在、合計2,949件のマールブルグウイルスの検査が実施され、ルワンダ生物医学センターで毎日約200~300件の検体がマールブルグ病疑い例から検査されています。
接触者の追跡調査が進行中で、2024年10月9日現在、700名以上の接触者が追跡調査下にあります。1名の接触者がドイツに渡航したことが確認されており、現在は推奨されている21日間の追跡調査期間中のため、現地の保健当局によってモニタリングされています。ベルギーに渡航した接触者は21日間の経過観察期間が終わったため、公衆衛生上のリスクはありません。流行の感染源は現在も調査中であり、追加情報が入手でき次第お知らせします。

マールブルグ病の疫学

マールブルグ病は出血熱を引き起こす高病原性疾患で、臨床的にはエボラ出血熱と類似しています。マールブルグウイルスとエボラウイルスはともにフィロウイルス科のウイルスです。鉱山や洞窟でよく見かけるルセットコウモリ(オオコウモリの一種)がマールブルグウイルスを媒介しており、これらのコウモリと濃厚に接触することで、ヒトはマールブルグウイルスに感染します。
またマールブルグウイルスは、感染者の血液、分泌物、臓器、その他の体液、及びこれらの体液で汚染された表面や材料(寝具、衣服など)との直接接触(傷ついた皮膚や粘膜を通して)を介して、感染が拡がります。医療従事者が、マールブルグ病の疑い例や確定診断された患者の治療中に感染したという報告があります。遺体に直接触る埋葬儀式も、マールブルグウイルスの感染につながる可能性があります。
潜伏期間は2~21日です。マールブルグウイルスによる発病は突然始まり、高熱、激しい頭痛、激しい倦怠感を伴います。激しい水様性の下痢、腹痛とけいれん、吐き気と嘔吐は3日目から始まります。すべての症例が出血徴候を示すわけではありませんが、重篤な出血徴候は症状発現から5~7日の間に現れることがあり、致死的な症例では通常、何らかの出血症状がみられ、それが複数の部位に及ぶこともしばしばあります。致死的な症例では、発症から8~9日後に死亡することが多く、通常、重度の出血とショックが先行します。現在、マールブルグ病に対する承認された治療法やワクチンはありません。現在、候補となるいくつかのワクチンや治療薬が研究中です。
 
ルワンダの近隣諸国(コンゴ民主共和国、ウガンダ共和国、タンザニア連合共和国など)でも、これまでにマールブルグ病の集団発生が報告されていました。最近では、2023年2月から6月にかけて赤道ギニアとタンザニア連合共和国で発生が報告されました。タンザニア連合共和国の感染地域は、ルワンダと国境を接するカゲラ郡でした。アフリカ地域で過去にマールブルグ病の発生が報告された国には、アンゴラ共和国、ガーナ共和国、ギニア共和国、ケニア共和国、南アフリカ共和国があります。

公衆衛生上の取り組み

ルワンダで現在進行中の対応活動については、WHOルワンダ事務所業務最新情報をご覧ください 。
  • ルワンダ政府は、WHOや連携組織の支援を受け、対応を調整しています。
  • WHOは、ルワンダにおけるマールブルグ病のアウトブレイクを、WHO緊急事態フレームワークに基づく緊急事態の最高レベルであるグレード3の緊急事態に分類しました。
  • WHOの緊急対応チームが、事態管理、疫学、保健活動、症例管理、医療品等物流、ワクチン研究、パートナーとの調整、感染予防・制御の各機能において、国内での対応を支援するために派遣されています。
  • 2024年10月2日、世界発生警報・対応ネットワーク(GOARN ; Global Outbreak Alert and Response Network)の支援要請が出され、症例管理と治療薬研究の機能におけるGOARNパートナーの支援が求められました。それ以来、5名のGOARN専門家が症例管理と治療薬研究の役割で訪れています。
  • ルワンダ保健省は、WHO緊急医療チーム(EMT ; Emergency Medical Teams)事務局と連携して、マールブルグ治療センターへの派遣、または3次病院への専門医療チームの派遣のためのEMT支援を求める関心表明の要請書を発行しました。
  • ルワンダで発生したマールブルグ病の戦略的準備と対応計画WHOの要請が発行されました。
  • WHOは、検査室間の比較のために、地域のリファレンス・ラボラトリ―への検体の輸送を支援しています。
  • 生存者の数が増加していることから、WHOは前向き観察研究の実施可能性を検討することを含め、国家プログラム設立のための技術ガイダンスやプロトコルを共有することで、生存者のためのプログラム設立においてルワンダ政府を支援しています。
  • WHOは、ルワンダでの治療薬に関する臨床試験の開始において、ルワンダ政府とパートナー機関を支援しています。
  • WHOは、ルワンダやリスクのある国の公衆衛生当局に対し、エビデンスに基づいたリスクごとの保健対策の実施、入国地点や国境を越えた検出、報告、管理能力の強化、そして渡航アドバイスに関する技術的助言を行いました。
  • WHOは、ルワンダで発生しているマールブルグ病に限定されるものではありませんが、フィロウイルス感染症発生時の国境保健および入国地点への配慮に関する暫定ガイダンスを発行しました。
  • WHOはまた、現在進行中のマールブルグ病の流行に関連して、ルワンダへの渡航制限や貿易制限を行わないよう勧告する声明を発表しました。
  • WHOは、周辺国の医療施設の準備状況を評価し、特にルワンダと国境を接する地域のリスクマップを作成するため、周辺国での支援を行っています。

WHOによるリスク評価

マールブルグ病は、エボラ出血熱の原因と同じフィロウイルス科のウイルスによって引き起こされます。マールブルグ病は高い致命率(24-88%)を伴う流行を起こしやすい疾患です。発病初期は、マラリア、腸チフス、赤痢、髄膜炎、その他のウイルス性出血熱などの他の感染症との鑑別診断が難しいです。コウモリとの接触歴や、洞窟、鉱山への訪問歴を含む疫学的特徴はウイルス性出血熱の鑑別に役立ち、診断には検査での確定が重要です。
58例の確定症例が報告され、そのうち80%以上が国内の2つの異なる医療施設の医療従事者であったことは、大きな懸念点です。この疾患の医療関連感染(院内感染とも呼ばれる)は、早期に制御されなければさらなる感染拡大につながる可能性があります。医療施設を訪れるすべての人をスクリーニングし、入院患者のサーベイランスを行い、迅速な同定、隔離、告知を行うことの重要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。これに加えて、接触者の特定と、すべての疑い例、確定例のモニタリングも重要です。アウトブレイクの発生源、最初の症例の発症の可能性が高い時期、および症例に関する疫学的な追加情報については、アウトブレイクのさらなる調査が待たれるところです。
9月30日、WHOはこのアウトブレイクのリスクを、国レベルでは「非常に高い」、地域レベルでは「高い」、世界レベルでは「低い」と評価しました。しかし、アウトブレイクの進展と進行中の調査に基づき、このリスク評価は見直される可能性があります。マールブルグ病は容易に感染するものではありません(つまり、ほとんどの場合、症状を呈した患者の体液、または体液に汚染された表面との接触が必要です)。さらに、施設や地域社会における積極的なサーベイランス、疑い例の検査、接触者の追跡、症例の隔離と治療など、公衆衛生上の対策が継続的に実施されています。

WHOからのアドバイス

マールブルグ病の流行制御は、迅速な隔離と症例管理、積極的な症例検索、症例調査、接触者追跡を含むサーベイランス、検査サービス、迅速で安全かつ尊厳ある埋葬を含む感染予防とコントロール、社会的な動員やコミュニティエンゲージメントなど、さまざまな介入策に依存しており、これらはマールブルグ病の発生を効果的に制御する鍵となります。マールブルグウイルス感染の危険因子と個人ができる予防策についての認識を高めることは、ヒトへの感染を減らす効果的な方法です。WHOは、医療施設やコミュニティでのマールブルグウイルス感染を減らす効果的な方法として、以下のようなリスク低減策を助言しています。
 
  • ヒトへの感染と死亡を減らすためには、特にヒトからヒトへのマールブルグウイルス感染の危険因子と、ウイルスへの曝露を最小限に抑えるために個人ができる防御策について、コミュニティの意識を高めることが不可欠です。 これには、コミュニティでの感染のリスクを下げ、回復の見込みを改善するために、症状のある人は直ちに医療施設や指定治療センターで治療を受けるよう奨励することも含まれます。
  • マールブルグ病の症例定義の幅広い周知を含むサーベイランス活動は、接触者追跡や積極的な症例発見を含め、すべての感染地区で強化されるべきです。
  • すべての医療施設において、WHOのエボラ及びマールブルグ病に対する感染予防と管理ガイドラインに従い、重要な感染予防・管理対策を実施・強化すべきです。
  • コミュニティで死亡した個人を管理する包括的な戦略をコミュニティで実施すべきです。安全で尊厳のある埋葬を、コミュニティとの強力な連携のもとに実施すべきです。
  • 社会行動学的データを収集するために、迅速な質的評価を実施し、それを対応の指針として活用すべきです。
  • すべての疑い例について、検査室での迅速な検査を維持し、信頼できる検体輸送システムで支援する必要があります。
  • 入国地点およびマールブルグ病の症例が報告されている地域と隣接するコミュニティ並びに搬送において、国境保健の準備と対応能力を強化するべきであり、また、WHOの「フィロウイルス感染症発生時の国境保健および入国地点への配慮に関する暫定ガイダンス」に沿って、旅行者に公衆衛生上の助言を提供すべきです。
  • WHOは、すべての国に対し、マールブルグウイルス陽性と判定された初回の検体および陰性の検体の一部を、WHO協力センターまたは地域の基準検査機関に送り、検査機関間の比較を行うよう奨励しています。
  • WHOは、マールブルグ病の疑い例および確定例からの臨床データを体系的に収集し、臨床経過の限られた理解を深め、予後不良の直接的な原因や危険因子を改善することを推奨しています。これは、匿名化されたデータをWHOのウイルス性出血熱グローバル臨床プラットフォームに提供することで可能となります。
現在のリスク評価に基づき、WHOはルワンダに関する渡航制限や貿易制限を行わないよう勧告しています。詳細な情報は、ルワンダにおけるマールブルグ病のアウトブレイクに関する国際交通のためのWHOの勧告を見てください。

出典

World Health Organization(11 October 2024)Disease Outbreak News; Marburg virus disease - Rwanda
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2024-DON539


海外へ渡航される皆様へ

マールブルグ病は、マールブルグウイルスによって引き起こされる感染症で、症状や拡がり方は、エボラ出血熱とよく似ています。このウイルスは主に、鉱山や洞窟にいるコウモリからヒトに感染します。また、感染した人の血液や体液、汚染された物(例えば寝具や衣類など)に直接触れることで、感染することがあります。
発病すると、最初は高熱や激しい頭痛、強い疲労感が出ます。その後、下痢や腹痛、嘔吐といった症状が現れ、重症になると体のいろいろな部分から出血することもあります。致命率が高く、重症例では致命的となることがあります。現在、この病気には特別な治療法やワクチンがありません。
 
  1. 1.コウモリが生息する場所を避ける
    洞窟や鉱山など、コウモリがいる場所への立ち入りは控えてください。また、コウモリに触れたり、コウモリ由来の食品を摂取したりしないようにしましょう。
  2. 2.体液との接触を避ける
    マールブルグ病患者、感染疑いのある者や動物の血液、体液に直接触れないように注意してください。
  3. 3.感染対策を徹底する
    手洗いをこまめに行い、手指消毒剤を携帯することをおすすめします。滞在中、もし体調不良を感じたら、すぐに現地の医療機関に連絡し、医師の指示に従ってください。
  4. 4.渡航中・渡航後の健康管理を徹底する
    渡航中・渡航後の体調の変化に注意し、発熱や体調不良があれば、すぐに医療機関を受診し、最近の渡航歴を伝えましょう。また、入国の際に体調に異状がある場合は、検疫官にお知らせください。
 
マールブルグ病は過去にアフリカのいくつかの国などで報告されています。マールブルグ病が発生中の国を確認し、発生地域やその周辺への渡航予定のある方は十分に注意してください。安全な渡航のため、最新情報の確認と十分な感染対策を心がけましょう。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。
 
For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Marburg virus disease - Rwanda . Geneva: World Health Organization; 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “Marburg virus disease - Rwanda“. Geneva: World Health Organization (WHO); 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.