麻しん(はしか)‐アメリカ合衆国(2025年3月27日)

状況概要

2025年3月11日、世界保健機関(WHO ; World Health Organization)は、アメリカ合衆国(米国)の国際保健規則(IHR)(2005)国家連絡窓口(NFP ; National Focal Point)から、同国で発生中の麻しんアウトブレイクに関する報告を受けました。この事象は、公衆衛生に重大な影響を及ぼす可能性のある異常事態であり、2025年の症例数および死亡数が過去数年を上回っているため、IHR(2005)に基づき通知されました。さらに、米国テキサス州での発生に関連する症例がメキシコでも報告されています。麻しんは感染力が強く、空気感染するウイルス性疾患であり、重篤な合併症を引き起こして死に至ることもあります。2025年1月1日から3月20日までに、17州で合計378例の麻しん患者が報告され、うち2例が死亡しました。米国で麻しんによる死者が確認されたのは10年ぶりです。患者の大半はワクチン未接種または接種状況が不明な小児であり、全患者のうち17%が入院しました。2025年には、より大規模な公衆衛生上の事象として、3つの異なる麻しんアウトブレイクが報告されており、これらで報告された症例の90%(341/378)を占めています。米国疾病予防管理センター(CDC)およびその他の政府機関は、これらのアウトブレイクを封じ込めるために活動しています。2000年、米国では麻しんの排除が宣言されましたが、それ以降も、麻しんは世界の多くの地域で流行しているため、輸入例が確認されています。WHOはWHO南北アメリカ地域の国々と緊密に協力し、麻しんの蔓延と再侵入の防止に努めています。
 
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発生の詳細

2025年3月11日、米国のNFPはWHOに対し、米国で麻しんの流行が継続していることを通知しました。
2025年1月1日から3月20日までに、以下の17州から378例の患者が報告されました: アラスカ州、カリフォルニア州、フロリダ州、ジョージア州、カンザス州、ケンタッキー州、メリーランド州、ミシガン州、ニュージャージー州、ニューメキシコ州、ニューヨーク州、オハイオ州、ペンシルバニア州、ロードアイランド州、テキサス州、バーモント州、ワシントン州。死亡2例が報告されており、1例はテキサス州で確認済み、もう1例はニューメキシコ州で調査中です。症例の大半はワクチン未接種または接種状況不明の小児で、入院率は17%です。
 
報告症例の90%(341/378)は2025年に報告された3つの地域でのアウトブレイク(3例以上の関連する症例と定義される)に関連して報告されており、残りは散発的な症例です
 
2025年1月下旬から3月14日までに、テキサス州保健局はテキサス州のサウスプレインズおよびパンハンドル地域で259例の患者を報告しました。このうち入院した患者は34例で、257例(99%)がワクチン未接種または接種状況不明でした。2025年2月、テキサス州のアウトブレイク発生地域に住むワクチン未接種の学童が麻しんで死亡しました。これは米国で10年ぶりの麻しんに関連した死亡例でした。
 
3月14日現在、ニューメキシコ州保健局は35例の麻しん患者を報告しています。35例のうち、28例はワクチン未接種、2例はワクチン接種済み、5例はワクチン接種状況が不明でした。
 
2025年1月1日から2025年3月20日までに、米国CDCは128株の麻しんウイルスのDNA配列を報告しました。テキサス州は遺伝子型D8で92株の同一DNA配列を提出し、ニューメキシコ州の10株のDNA配列とカンザス州の1株のDNA配列はテキサス州のものと同一でした。またテキサス州は、これらの配列から1塩基のみ異なる遺伝子型D8の配列を3株報告しました(合計19のD8配列が、麻しん感染が確認された州から報告されています)。さらに、アラスカ州、カリフォルニア州、フロリダ州、ケンタッキー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、テキサス州、ワシントン州から、合計5種類の異なる遺伝子型B3の配列が報告されました。
このアウトブレイクの発生源は不明です。現在のところ、ワクチン効果の低下や重症化をもたらすようなウイルスの変化を示す証拠はありません。
2000年に米国で麻しんの排除が宣言されましたが[1]、その後も麻しんは世界の多くの地域で流行しており、米国では輸入例が検出されています。米国が最後に麻しんの排除が継続できていることを確認したのは2024年です。2023年、米国の5-6歳児(幼稚園年長児)における麻しん・流行性耳下腺炎・風疹(MMR)混合ワクチン2回接種の接種率は92.7%でした。

麻しんの疫学

麻しんは感染力の強い急性ウイルス性疾患で、あらゆる年齢の人が感染する可能性があります。感染経路は、空気感染や感染者の鼻、口、喉からの飛沫感染です。初期症状は通常、感染後10~14日目に現れ、高熱、鼻水、目の充血、咳、口の中の小さな白い斑点などを伴います。発疹は通常、感染から10~14日後に現れ、頭部から体幹、下肢へと広がります。感染力があるのは、発疹が現れる4日前から4日後までです。麻しんに対する特異的な抗ウイルス治療はなく、ほとんどの人は2~3週間以内に回復します。麻しんは通常、軽症から中等症ですが、肺炎、下痢、中耳炎、脳の炎症(脳炎)、失明、死亡などの合併症を引き起こすことがあります。感染後脳炎は、報告された1000例に1例の割合で発生する可能性があります。また、報告された1000例に対して2~3例程度の割合が死亡します。麻しんの予防接種は、麻しんとその合併症を予防します。

公衆衛生上の取り組み

米国の連邦、州、地域の保健当局および地域パートナーは、アウトブレイクを制御するために以下の公衆衛生対策を講じています: 米国CDCは、2025年3月3日にレベル3のインシデント管理体制に移行し、診断、曝露後予防、医療関連感染対策、症例調査・確認、情報発信支援に関する遠隔技術支援を提供しました。テキサス州では、州保健局が調査を主導しています。米国CDCは、この対応を支援するために専門家を派遣しました。WHOは、2024年に始まったWHO南北アメリカ地域の数カ国における麻しん患者の増加を受けて、疫学的警告を呼びかけ、最新情報を提供しました。WHOは引き続き状況を監視し、南北アメリカ地域の国々と緊密に協力し、麻しんの蔓延と再流行を防ぎ、全住民の健康を守るために、ワクチン接種、サーベイランス、迅速なアウトブレイク対応の取り組みを支援していきます。

WHOによるリスク評価

麻しんは感染力の強い急性ウイルス性疾患で、あらゆる年齢の人が感染する可能性があり、未だに世界中で幼児の死亡の主な原因の一つです。感染経路は、空気感染や感染者の鼻、口、喉からの飛沫感染です。初期症状は通常、感染後10~14日目に現れ、高熱、鼻水、目の充血、咳、口の中の小さな白い斑点などを伴います。数日後に発疹が現れ、頭部から体幹、下肢へと広がります。周囲の人に感染させる期間は、おおむね発疹が現れる4日前から4日後までです。麻しんに対する特異的な抗ウイルス治療はなく、ほとんどの人は2~3週間以内に回復します。ただし、失明、脳炎、重度の下痢、中耳炎、肺炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあり、5歳未満の小児や20歳以上の成人に多くみられます。麻しんは予防接種により予防可能です。
2016年、南北アメリカ地域は、麻しん、風しん、先天性風しん症候群の記録と検証のための国際専門家委員会によって、麻しんの地域内伝播がないことが宣言された最初のWHO地域となりました。とはいえ、麻しんのない地域を維持することは、ウイルスの持ち込みや再侵入のリスクが常にあるため、継続的な課題となっています。
輸入症例によるウイルスの循環が持続し、限定的なアウトブレイクが繰り返され、複数世代の感染が発生し、新たな地域にも感染が広がっているため、アメリカ大陸地域における麻しんの公衆衛生上のリスクは高いと考えられます。さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックなどの要因に関連したワクチン接種率の持続的な低さ、一部の地域や社会層におけるワクチン忌避の増加、特に社会的弱者に対する保健サービスへのアクセスの制限などにより、感受性人口が増加しています。

WHOからのアドバイス

WHOは、麻しん含有ワクチン(MCV;measles-containing vaccine)の1回目と2回目の接種率を少なくとも95%に維持し、麻しんおよび風しんの統合的な疫学サーベイランスを強化するとともに、公的・私的医療機関で疑われる症例を迅速に発見する体制を整えるよう求めています。WHOは、麻しんの疑いがある症例を迅速に発見し対応するために、人の移動が多い国境地帯における疫学的サーベイランスとアウトブレイクに対する準備・対応能力を強化することを推奨します。輸入症例に迅速に対応し、再び国内流行が定着するのを避けるために、この目的のために訓練された迅速対応チームを活性化し、輸入症例がいる場合には迅速な対応のためのプロトコルを実施します。一旦、迅速対応チームが活動を開始した後は、国、地方、地域レベル間の継続的な連携を確保し、すべてのレベルにわたる継続的かつ効果的なコミュニケーションチャンネルを確保しなければなりません。アウトブレイク時には、医療関連感染の拡大を防ぐために、適切な病院症例管理と感染予防管理能力を確立することが推奨され、どのレベルの医療機関においても、患者を適切に空気感染隔離室へ収容し、待合室や他の病室での他の患者との接触を避けることが必要です。
WHOは、MMRワクチン接種への幅広いアクセスを提供し、一般住民の高い接種率を維持するとともに、医療・介護従事者や海外渡航者など、曝露のリスクが高い人々が、このワクチン接種を最新の状態に保てるようにすることを推奨しています。米国内の流行地域に住んでいる人は、地域の公衆衛生当局の指示に従うことが推奨されます。世界全体では、2000年から2023年の間に、ワクチン接種によって推定6,000万人の死亡を防ぐことに成功し[2]、麻しんによる死亡者数は2000年の800,062例から2023年には107,500例へと87%減少しました[3]。
どのような状況においても、感受性のある接触者には曝露後予防を提供することが考慮されるべきであり、その中には、MCVまたはリスクがありワクチンが禁忌である人に対する正常ヒト免疫グロブリン(NHIG;normal human immunoglobulin)(入手可能な場合)の投与が含まれます。十分な資源がある環境では、感受性のある接触者には3日以内にMCVを接種します。ワクチン接種が禁忌であるか、あるいは曝露後3日以内に接種できない接触者には、曝露後6日までNHIGを提供することを考慮します。乳幼児、妊婦、免疫不全者を優先するべきです。
WHOは、輸入症例に対応するため、麻しん風しん(MR)ワクチンやMMRワクチン、ワクチン接種に必要な注射器などの備品の十分な在庫を確保することを推奨しています。国内外を問わず、麻しんの流行が続いている地域、避難民、先住民族、その他の脆弱な人々の中で活動を行う予定の人を含め、出入国する外国人旅行者が国のスキームに従ってワクチン接種サービスを受けられるようにすることを奨励しています。
WHOは、米国への渡航を計画している場合を含め、海外渡航者に対し、出発前に麻しん含有ワクチン接種状況を確認し、更新するよう助言しています。米国内で麻しんが流行している地域出身のワクチン未接種の人で、麻しん患者との接触歴や、麻しんウイルス感染と一致する徴候や症状がある人は、海外渡航に出る前に現地の保健当局に相談すべきです。現時点では、海外渡航を厳格に制限するような追加措置は必要ありません。

出典

[1]Measles elimination is defined as “[t]he absence of endemic measles transmission in a defined geographical area (e.g. region or country) for ≥12 months in the presence of a well-performing surveillance system.”
https://www.who.int/publications/i/item/measles-and-rubella-strategic-framework-2021-2030

[2]Progress Toward Measles Elimination — Worldwide, 2000–2023.
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/73/wr/mm7345a4.htm?s_cid=mm7345a4_w

[3]World Health Organization. Measles Fact sheets.
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/measles?gad_source=1
 
World Health Organization(27 March 2025)Disease Outbreak News; Measles - United States of America
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON561


海外へ渡航される皆様へ

麻しんは非常に感染力の強いウイルス性疾患で、空気感染や飛沫感染で広がります。通常は感染後10~14日で高熱、鼻水、結膜炎、咳などの症状が現れ、続いて発疹が頭部から全身に広がります。多くは回復しますが、肺炎、脳炎、失明などの合併症を引き起こし重症化する可能性があり、特に5歳未満や20歳以上で合併症を起こしやすいことが知られています。特異的な治療法はありませんが、ワクチン接種で麻しんとその合併症を予防します

1.ワクチン接種
 麻しん含有ワクチン(MRワクチン(麻しん・風しん混合)、MMRワクチン(麻しん・流行性耳下腺炎・風しん混合、国内未承認)、麻しんワクチン)を接種済みか確認しましょう。麻しんを予防するためには原則2回以上の麻しん含有ワクチン接種が必要とされています。

2.ワクチン未接種の方や接種歴が不明な方は、渡航前に医療機関で相談し、必要に応じて接種を受けましょう。

3.麻しんの症状のある人との接触はできる限り避け、リスクがある場所(混雑した空港、公共交通機関、大規模イベントなど)では、マスクの着用や手洗いを徹底しましょう。

4.帰国後に麻しんを疑わせる症状が出た場合は、すぐに医療機関に連絡し、最近の渡航歴と症状を伝えましょう。感染を広げないため、病院を訪れる際は事前に電話し、指示を受けてから受診するようにしましょう。

5.特に、米国など麻しんの流行が報告されている地域に行く場合や、妊婦、小さなお子さん、免疫不全のある方など重症化のリスクが高い方は、これらの注意を心がけましょう。 

現在のところ、麻しんの流行を理由とした渡航制限はありませんが、流行状況に注意し、安全な渡航を心がけましょう。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。

For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Measles - United States of America. Geneva: World Health Organization; 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “Measles - United of America.Geneva: World Health Organization (WHO); 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.