チャパレ出血熱-ボリビア多民族国

状況概要

2025年1月7日、ボリビア多民族国(以下、「ボリビア」という。)の国際保健規則(IHR ; Internatioanl Health Regulations)担当部局(NFP ; National Focal Point)は、ラパス県に住む成人男性のチャパレウイルス感染症例をWHOに報告しました。チャパレ出血熱は、チャパレウイルスによって引き起こされる急性のウイルス性疾患です。このウイルスは2003年にボリビアで初めて確認され、現在までに5件のアウトブレイクが記録されており、すべてボリビア国内で発生しています。これらのアウトブレイクは、主にラパス県の農村部で発生しており、最近の事例もラパス県で確認されました。チャパレウイルスはヒトからヒトへの感染を起こし得るものの、一般住民の間で感染が生じることはまだまれであるため、この病気が国際的に広がる大きなリスクはありません。2025年1月13日現在、二次感染例は報告されておらず、すべての接触者に症状はありません。消毒やネズミ類駆除などの公衆衛生対策が実施されております。

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発生の詳細

2025年1月7日、ボリビアのIHR NFPは、ラパス県のある自治体から、チャパレウイルスのヒト感染が1例、検査で確認されたことを世界保健機関(WHO ; World Health Organization)に通知しました。患者は50~60歳の農家の成人男性です。
患者は2024年12月19日に発熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、歯茎からの出血などの症状が現れ、12月24日に医療機関を受診しました。12月30日、症状が悪化したため自治体の保健センターに移送されましたが、同日死亡しました。死亡する直前の12月30日に血液検体が採取され、国立熱帯病センターに送られ、2025年1月2日にチャパレウイルスに特異的なRT-PCR検査によりチャパレウイルス陽性が確認されました。
疫学的調査の結果、患者の自宅及びその周辺における深刻なネズミ類の大量発生を含めた人獣共通感染症の感染リスク要因が明らかになりました。患者の自宅では、木造やトタン造りの住宅、土間、ココナッツの植え込みといった環境条件がネズミ類の活動を助長する環境を作り出していました。患者は農業に従事しており、ネズミ類の巣穴に触れる機会が多く、感染リスクがさらに高まったと考えられます。
濃厚接触者2人から採取された血液検体は陰性でした。2025年1月13日現在、二次感染例は報告されておらず、すべての接触者は無症状のままです。消毒とネズミ類駆除を含む公衆衛生対策が実施され、調査が続けられています。これは、2003年にこのウイルスが初めて確認されて以来、ボリビアおよび世界で記録されている5回目のチャパレ出血熱の発生です。

チャパレ出血熱の疫学

チャパレ出血熱は、アレナウイルス科マンマレナウイルス属に属するウイルスであるチャパレウイルスによって引き起こされるまれな人獣共通感染症です。これらのウイルスは主に、自然宿主であるげっ歯類を介してヒトに感染します。マンマレナウイルス属のヒトへの感染は主に、ウイルスに感染したげっ歯類の排泄物(尿、糞便、唾液など)に汚染された微細なエアロゾル粒子の吸入によって起きます。ヒトからヒトへの感染はまれですが、特に感染予防管理対策が不十分な医療環境では記録があります。この感染様式は、感染者の血液または体液との接触によって起こり、またエアロゾルを発生させる医療処置中に増幅される可能性があります。
潜伏期間は4~21日で、その後、発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、また重症の場合には出血などの症状が現れることがあります。初期症状が非特異的であるため、チャパレ出血熱の診断は困難であり、多くの場合、RT-PCRなどの分子診断法による検査での確認が必要となります。
現在のところ、チャパレ出血熱に対する特異的な抗ウイルス療法はなく、症状を緩和し、重要な臓器機能を維持するための支持療法による管理が中心です。チャパレウイルス感染症の致命率は、未治療の場合、15%から30%であり、集団発生時には67%にも上る事例も報告されています。予防対策としては、感染リスクを軽減するために、げっ歯類との接触を避ける環境管理を徹底し、医療現場で厳格な感染予防・管理対策を実施することが重要です。
チャパレ出血熱は現在ボリビアでのみ発生が確認されています。ボリビアでは過去20年間に4件の集団発生が報告されています。最初の集団発生は2003年にコチャバンバ県チャパレ郡で報告され、1例の死亡例が含まれていました。2019年にはラパス県で2回目の流行が発生し、4例の死亡例を含む9例の患者が発生しました(致命率60%)。この2回目の集団発生は、2003年に確認されたものとは異なるチャパレウイルス株によるものでした。3回目の集団発生は2021年にラパス県で発生し、3例の患者が確認されました(2例は死亡)。最新の感染事例は2024年に発生し、検査で確認された症例は1例で、これもラパス県内で発生しました。

公衆衛生上の取り組み

地方保健当局およびボリビア保健省は、以下の公衆衛生対策を実施しました:
  • 疫学調査: 現地調査が実施され、ネズミ類の糞が検出されました。これらの糞はウイルスを媒介することが知られているネズミ(Rattus rattus:和名クマネズミ)のものではありませんでした。地域の75%でネズミ類の侵入が見られました。
  • 消毒とネズミ類駆除:消毒と殺鼠剤の使用を含む防除活動を家屋内外で実施しました。
  • 地域サーベイランス: 保健所の職員は、自治体の媒介動物駆除プログラムと協力して、この地域ではネズミ類が生息していることから、症例の近隣地域に居住する家族の追跡調査を実施しました。
  • コミュニティエンゲージメント: 2025年1月3日と4日にコミュニティエンゲージメント活動が実施されました。この活動は、自治体と保健局の職員が、対応活動への認識と参加を高めるために計画したものです。

WHOによるリスク評価

マンマレナウイルスによるチャパレ出血熱やその他の南米出血熱の探知と対応における主な課題の1つは、最初の臨床症状が非特異的であるため、早期の鑑別診断が困難であることです。チャパレ出血熱およびマンマレナウイルスによる他の南米出血熱(例えば、アルゼンチン出血熱、ボリビア出血熱、サビアウイルス病など)は、マンマレナウイルスが循環していることが知られている地域に由来する南米出血熱を想定させるような症状を呈する患者の鑑別すべき疾患として考慮されるべきです。これらの疾患は、マラリア、デング熱、黄熱、細菌感染などの他の風土病とともに鑑別診断の一部とすべきです。家庭内やその周辺でのげっ歯類の活動、げっ歯類の排泄物との接触、げっ歯類が蔓延している地域への訪問や就労などの環境曝露は、重要な疫学的危険因子として慎重に考慮すべきです。このような症例への問診では、げっ歯類への曝露やマンマレナウイルスによる出血熱の疑いがある患者との接触について、確認する必要があります。バイオセーフティ上の理由から、チャパレ出血熱が過去に報告された地域で疑われる症例から採取した検体は、鑑別診断のためであっても、すべてマンマレナウイルス検体として管理すべきです。
ボリビアでは、感染リスクの高い地域は、地理的にラパス県北部の農村部に限られており、特にカラナビ市からパロスブランコスの町を通過するテオポンテ市にかけてのジャングルの回廊沿いであり、そこではチャパレウイルスを有するげっ歯類が確認されています。
現在、チャパレ出血熱はボリビアでのみ報告されています。チャパレウイルスのヒトからヒトへの感染はあり得ますが、一般集団ではまだまれであるため、この病気が国際的に広がる大きなリスクはありません。継続的なサーベイランス、一般市民の意識向上、感染予防管理対策の遵守が、さらなる感染拡大を防ぎ、将来の流行を緩和するために重要です。

WHOからのアドバイス

WHOは、医療従事者が感染予防管理対策を厳守しながら、出血熱の症例を発見、診断、管理できるよう、警戒を怠らず、意識を高めることを推奨します。サーベイランスは、その国や地域の疫学的背景に合わせて、臨床症状、渡航歴、ウイルスへの曝露歴に基づいて、出血熱の疑いのある症例を発見することに重点を置くべきです。出血熱が疑われる、可能性がある、または確定例の血液や体液に接触したことのある人は、接触者とみなされます。接触者モニタリングは、最後の接触が確認されてから最長21日間の潜伏期間実施されなければなりません。
マンマレナウイルス感染の検査での確認は、ウイルス学的手法や血清学的手法など、さまざまな方法で行うことができます。しかし、マンマレナウイルス感染の動態(例えば、ウイルス血症の期間と抗体の出現時期)はまだ完全に理解されておらず、チャパレウイルスに対する血清学的アッセイはまだ検証されていません。すべての生物学的検体は、感染の可能性があるものとして扱い、訓練を受けた担当者のみが取り扱い、適切な設備を備えた検査室で処理されるべきです。
チャパレ出血熱が疑われる、または診断された患者は、専用の洗面台とトイレのある個室に隔離されるべきです。チャパレ出血熱が疑われる、または診断された患者の移動は最小限に制限されるべきですが、やむを得ず室外へ移動する場合には、患者は移動中に医療用マスクを着用すべきです。チャパレ出血熱が疑われる、または診断された患者と密接に接触する、または隔離室に入るすべての医療・介護従事者は、以下の個人防護具の使用を含む接触予防策および飛沫予防策を適用すべきです:ガウン、検査用手袋、医療用マスク、および眼の保護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)。チャパレ出血熱が疑われる、または診断された患者にエアロゾルを発生する処置を行う場合、その処置はドアを 閉めた陰圧空気感染隔離室で行われるべきです。エアロゾルを発生させる処置が行われている部屋にいるすべての医療従事者および介護従事者は、 接触予防策および飛沫予防策に加えて、フィットテスト済みのフィルター付き呼吸器(N95 など)の使用を含む空気感染予防策を使用しなければなりません。
チャパレ出血熱が疑われる、または診断された患者の隔離室の定期的な清掃と消毒は、1 日 3 回行うべきであり、血液や体液がこぼれたり、物質的に汚染された場合は、直ちにスポット清掃を行うべきです。清掃は、まず石鹸と水を布につけて拭き、その後0.5%の次亜塩素酸ナトリウム溶液を使用し、最低5分間湿った状態を維持した上で消毒します。病室で発生した使い捨て廃棄物はすべて感染性廃棄物として管理します。隔離室から出るリネンは袋に入れ、洗濯場への運搬中は接触予防策を使用して取り扱い、他の患者用リネンとは別に洗濯することが勧められます。チャパレ出血熱が疑われる、または診断された患者に使用された再使用可能な医療器具は、バイオハザードと明示し、輸送中および医療器具の再処理部門における再処理の際に適切に管理されるべきです。患者には、エアロゾルの飛散を防ぐため、専用トイレの水を流すときは蓋をするよう助言すべきです。
リバビリンは、一部のマンマレナウイルスによる出血熱の治療選択肢として使用が検討されていますが、その有効性と安全性は無作為化臨床試験では十分に証明されていません。水分補給、安静、合併症の治療などの支持療法が推奨されます。マラリア、デング熱、黄熱、細菌感染などの感染症との併発の評価と管理も考慮すべきです。

出典

World Health Organization(20 January 2025)Disease Outbreak News; Chapare haemorrhagic fever- the Plurinational State of Bolivia
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON553

海外へ渡航される皆様へ

2025年1月7日、ボリビアのラパス県北部の農村地域で、チャパレ出血熱の症例が報告されました。この病気は、ネズミ類の排泄物(尿、糞便、唾液)に汚染された環境で発生した微細なエアロゾル粒子を吸入することで感染します。また、感染者の血液や体液に直接触れることでも感染する可能性があります。チャパレ出血熱は、南米出血熱の一つであり、ウイルス性の急性疾患で、感染すると発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢、また重症の場合には出血傾向を認め、死亡に至ることがあります。(南米出血熱以外のウイルス性出血熱には、エボラ出血熱やラッサ熱、などがあります)。

FORTHウェブサイトで訪問先の感染症流行情報を確認し、ボリビアへの渡航を予定している方は、以下の点に注意してください。

1.ネズミ類が生息していそうな場所(農村部、森林、古い建物など)への訪問をする際は、マスクを着用し、こまめに手を洗いましょう。
2.食品を適切に保管し、ネズミ類の侵入を防ぎましょう。
3.汚染された可能性のある環境ではマスクを着用し、こまめに手を洗いましょう。
4.発熱や出血症状のある人との接触を避けましょう。
5.渡航中・渡航後の体調の変化に注意し、発熱など症状があれば、すぐに医療機関を受診し、最近の渡航歴を伝えましょう。また、入国の際に体調に異状がある場合は、検疫官にお知らせください。
これらの対策を徹底し、安全と健康に留意して渡航しましょう。

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。

For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “Chapare haemorrhagic fever- the Plurinational State of Bolivia. Geneva: World Health Organization; 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “Chapare haemorrhagic fever- the Plurinational State of Bolivia. Geneva: World Health Organization (WHO); 2024. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.