地域における集団死亡事例:コンゴ民主共和国、エクアトゥール州バサンクス(2025年3月3日)

状況概要

2025年2月9日、コンゴ民主共和国の当局者は、エクアトゥール州バサンクス保健地域のエコト保健区域の1つの村で、24例の原因不明の集団死亡が発生していることを地域保健当局に報告しました。2月25日現在、合計53例の死亡が報告されており、最後の死亡は2月22日に発生しました。死亡例はすべての年齢層で発生していますが、最初に報告されたクラスターでは、特に若年成人の男性に偏って罹患する傾向が見られました。病気の進行は早く、発症から死亡までの期間の中央値は1日でした。報告された死亡数の急激な減少、地理的なクラスター化、死亡例の年齢分布、初期クラスターにおける病状の急速な進行を考慮すると、この地域の風土病であるマラリアやその他の感染症が背景にある、化学物質中毒や急性の細菌性髄膜炎が有力な仮説として考えられます。これまでの検体検査により、エボラウイルスとマールブルグウイルスは陰性であることが確認されています。
脳脊髄液の検査や、化学的原因を探るための水やその他の環境検体の毒物学的分析など、現地調査と追加の検査が進行中です。地元当局は、病気のパターンをよりよく理解するために、発熱と他の症状を少なくともひとつ有することを広範な症例定義として、強化サーベイランスを開始しました。2025年2月25日現在、症例定義に合致する1,318例の疑い例が確認されました。これらの症例に対して実施されたマラリア検査の約50%が陽性であったことから、この強化サーベイランスによって特定された症例は、この地域の様々な発熱性疾患を反映していると考えられます。これまでに入手された情報から、WHOは現地の公衆衛生リスクは中程度であり、国および世界の公衆衛生リスクは低いと評価しています。

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発生の詳細

2025年2月9日、コンゴ民主共和国エクアトゥール州バサンクス保健地域エコト保健区域の1つの村から、24例の原因不明の集団死亡が報告されました。これをきっかけに、保健省がWHOの支援を受けて調査を開始しました。
最初のクラスターの症状や進行状況、人口統計その他の特徴の詳細が限られていたため、広範な症例定義を用いた強化サーベイランスが迅速に実施されました。2月25日現在、合計53例の死亡が報告されています(図1)。死亡例は全年齢層で発生しましたが、年齢・性別の人口分布と比較すると、特に初期クラスターでは青年および若年成人男性に偏りが見られました(図2)。この地域では通常、マラリアなどの感染症の疾病負荷が大きく、一般的な死因による死亡は高齢者と幼児(5歳未満)で最も多いため、この事例が異常な出来事であることが示唆されています。死亡者の大半(50例)は同じ村で発生しています(図3)。さらに、死亡の発生率は最初のクラスターの後、急速に減少しており(図1)、これは時間や場所的に広がる事象ではないことを示唆しています。
 
詳細な分析の結果、初期クラスターにおける症状発現から死亡までの期間の中央値は1日、平均は2日でした。報告された症状には、発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、腹痛、下痢、発汗、めまい、息切れ、興奮などが含まれます。
 
図1:2025年2月9日から2月25日までに報告された死亡例を示す流行曲線(コンゴ民主共和国、バサンクス保健地域)。*

*2025年2月25日時点での死亡例(n=53)のラインリストに基づいています。

図2:2025年2月9日から2月25日までに報告されたコンゴ民主共和国、バサンクス保健地域の患者と死亡例の年齢性別分布。



図3:2025年2月9日から2月25日までに報告された全症例(左)と死亡例(右)の地理的分布(コンゴ民主共和国、バサンクス保健地域*)。


*2025年2月25日時点での疑い例(n=1198)のラインリストに基づいています。

強化サーベイランスの開始以来、症例定義に合致する1,318例の疑い例が報告されました。しかし、症例定義(発熱と、一般的な呼吸器、消化器、神経症状などその他少なくとも1つの症状)が広範であるため、症例の傾向を解釈することは困難であり、コミュニティにおける様々な発熱性疾患の有病率を反映している可能性が高いと考えられます。このことは、年齢分布が地域の人口とほぼ同じであること(図2)、検査された症例のマラリア陽性率が高いこと(迅速診断検査で約50%が陽性)からも示唆され、マラリアの高流行地域では異常ではありません。
 
図4:2025年2月9日から2月25日までに報告された疑い例を示す流行曲線(コンゴ民主共和国、バサンクス保健地域)。*



*2025年2月25日時点での疑い例(n=1198)のラインリストに基づいています。

症例は当初、広範な(すなわち非特異的な)症例定義を用いて同定されましたが、死亡群の局地的性質、死亡率の着実な低下、死亡例の人口統計学的プロファイル、および最初のクラスターにおける病状の急速な進行を考慮すると、想定される仮説は、偶発的であれ意図的であれ、化学物質による中毒、または急性の細菌性髄膜炎のクラスターの可能性が考えられます。
2025年2月13日に発表された最初の検査結果では、エボラウイルスとマールブルグウイルスは陰性であることが確認されました。さらなる検査のために追加検体(血液、尿、咽頭、鼻腔)が採取され、調査が進行中です。さらに、有機リン剤による汚染などといった化学物質を原因とした中毒の可能性も探るため、水などの環境検体も採取されています。
病気の決定的な原因はまだ特定されていません。症例と死亡例の特徴をより明確にするため、さらなる検査と現地調査が進行中です。
特筆すべきこととして、バサンクス保健地域でのこの事例は、2025年1月10日から27日にかけてボロンバ保健地域で発生した集団死亡に次いで発生したものです。ボロンバ保健地域の事例については、疫学調査の結果、12例の患者と8例の死亡例が確認されました。臨床検査では、エボラ出血熱とマールブルグウイルス病が除外され、重症マラリアが原因である可能性が示唆されました。ボロンバとバサンクスはともにエクアトゥール州内にありますが、これらの保健地域は、密林と貧弱な道路インフラを含む約175キロの険しい地形によって隔てられており、現在のところ双方の地域での事例の間に疫学的なリンクの証拠は見つかっていません。

公衆衛生上の取り組み

  • 調整: 州の緊急対応チームがバサンクス保健地域に派遣され、2月16日に到着しました。彼らはさらに、2月23日にキンシャサから到着したWHO-保健省チームの支援を受けました。
  • サーベイランス: WHOは、構造化された疫学調査プロトコルの開発や、検査のための追加検体の収集など、保健省チームを支援しています。サーベイランスが拡大される中、死亡者の特徴をよりよく理解することに重点が置かれています。WHOは、コミュニティ、教会、医療施設など、被災地での症例調査や積極的な症例探索において保健医療チームを支援しています。
  • 検査室: WHOは、キンシャサにある国内最大かつ最も設備が整った研究所である国立生物医学研究所に、採取した検体の適切な回収、保管、輸送を指導するための検査室支援を提供しています。
  • ロジスティクス: WHOは、一般的な感染症とその症状の管理、検査室での検査、および感染予防と管理に必要不可欠な医療物資を提供しました。
  • リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメント:コミュニティへの働きかけは継続中です。地域の医療従事者を対象に、症例定義に該当する人々の特定や疾病サーベイランス報告の方法に関する研修が行われています。啓発活動としては、コミュニティへの説明会やラジオ放送のほか、ケアを求める行動に特化した、村落での話し合いが行われています。
  • 感染予防と管理:バサンクスの総合病院とエコト保健センターでは、隔離室の体系的な除染が行われました。除染のための塩素溶液の調製について、感染予防・管理の担当者と衛生管理者のための現場研修が実施されました。

WHOによるリスク評価

2025年2月9日に最初の集団死亡が報告されて以来、死亡数は全体的に減少傾向にあります。最新の死亡例は2025年2月22日に報告されています。現在の疫学情報は、発生率が着実に低下している局所的な事象であること示唆しており、時間や場所が拡大しているわけではありません。この異常な集団感染における死亡者の臨床像と症状発現から死亡までの速さを考慮すると、この地域で発生率の高い他の一般的な感染症(特にマラリア)を背景として、現時点では細菌性髄膜炎の集団感染か化学物質による中毒が主な仮説として考えられます。
バサンクスは森林地帯に位置し、最も近い主要都市ムバンダカから約450キロ離れており、インフラも貧弱です。バサンクスが遠隔地であることが、適時な初期調査と対応活動を妨げ、検査室での検査に課題をもたらしています。検体を採取、保管し、検査能力のある大都市(ムバンダカまたはキンシャサ)まで長距離輸送しなければならないことから、診断に遅れが生じています。医療へのアクセスも重要な課題です。この地域では医療サービスが充実しておらず、インフラが整備されていないため近隣の保健地域への移動が困難で、治療の遅れにつながっています。
同州は、都市人口のわずか5%しか飲料水を利用できておらず、深刻な都市部の水不足に直面しています。水道網は頻繁に漏水に見舞われ、一度も修復されたことがありません。多くの世帯は、井戸、湧水、小川など、規制のない独自の水源に頼っており、これらは汚染のリスクがあります。
調査が進行中であり、クラスターの原因がまだ特定されていないことから、この事象に起因する公衆衛生上のリスクは依然として残っています。そのため、影響を受けたコミュニティ全体の公衆衛生リスクレベルは中程度と評価されています。
しかし、国家レベルでは、事象が局地的であり、発生率が明らかに低下していることから、リスクは低いと考えられます。同様に、地域レベルおよび世界レベルでも、現時点ではリスクは低いと考えられます。

WHOからのアドバイス

WHOは、バサンクス保健地域における本事例の影響を軽減するため、以下の対策を助言します: 
  • アウトブレイクをよりよく理解するために、収集された情報に基づき、症例の定義を改善するとともに、臨床症状および転帰を慎重に分析すること。
  • 症例の早期発見と報告を強化するため、特に死亡例、重症の発熱症例、原因不明の重症症例に焦点を当て、サーベイランスを強化すること。
  • 特に重症例や死亡例について、髄膜炎および/または毒素/中毒事象に関する現在の仮説を評価するため、検査室での検査と環境評価(水源を含む)を継続すること。
  • リスクコミュニケーションとコミュニティエンゲージメントを通じて、本事象に関する一般市民の認識を高め、症状と速やかな受診の重要性を説明すること。また、コミュニティに流布している、本事例に関する間違っている可能性がある情報に対処することも重要である。

出典

World Health Organization(3 March 2025)Disease Outbreak News; Cluster of community deaths in Basankusu, Equateur- Democratic Republic of the Congo 
https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2025-DON557

海外へ渡航される皆様へ

2025年2月9日、コンゴ民主共和国エクアトゥール州バサンクス保健地域のエコト保健区域の1つの村で、24例の原因不明の集団死が発生していることが報告されました。2月25日現在、合計53例の死亡が報告されており、最後の死亡は2月22日に発生しました。
この地域の風土病であるマラリアやその他の感染症が背景にある、化学物質中毒や急性の細菌性髄膜炎のクラスターが有力な仮説として考えられていますが、現在も現地調査と追加検査が行われています。WHOの評価では、この事象は局地的であり、発生率は明らかに低下しているとされていますが、以下に注意して渡航してください。
 
1.健康管理渡航前に健康診断を受け、必要な予防接種を済ませてください。またトラベルクリニック等でマラリアの予防内服もご相談ください。ただし、予防内服をしていても防蚊対策は必要です。

2.衛生対策手洗いやアルコール消毒を徹底し、感染予防に努めてください。

3.井戸、湧水、小川など、規制のない独自の水源からの飲料用水及び生水は飲まないようにしてください。

4.医療情報の確認: 渡航先の最新の医療情報を確認し、緊急時に備えて現地の医療機関の連絡先を把握しておきましょう。

5.症状が出た場合: 渡航中に発熱などの症状が出た場合は、速やかに医療機関を受診し、現地の保健当局に報告してください。

海外へ渡航される際には、以上の予防対策を心がけてください。また、現地で体調に異変を感じた場合は、速やかに医療機関での診断を受けることをお勧めします。安全と健康に留意して渡航しましょう。 

備考

厚生労働省委託事業「国際感染症危機管理対応人材育成・派遣事業」にて翻訳・メッセージ原案を作成。
 
For translations: “This translation was not created by the World Health Organization (WHO). WHO is not responsible for the content or accuracy of this translation. The original English edition “ Cluster of community deaths in Basankusu Equateur-Democratic Republic of the Congo.Geneva: World Health Organization; 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO” shall be the binding and authentic edition”.
For adaptations: “This is an adaptation of an original work “ Cluster of community deaths in Basankusu Equateur-Democratic Republic of the Congo. Geneva: World Health Organization (WHO); 2025. Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO”. This adaptation was not created by WHO. WHO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original edition shall be the binding and authentic edition”.