病気になったら

旅先で下痢になったら

海外旅行に行った人の半数以上の人が旅行先へ到着してから5日以内に下痢をすると言われています。もちろん、旅行する国や地域によって若干の違いはありますが、旅行先を発展途上国に限った場合には、この数字は更に多くなり、7~8割に達するとも言われます。

下痢の原因と予防

下痢の原因には次のようなものがあります。
(1)旅行による疲労やストレスなどによるもの。
(2)渡航先の食べ物、飲み水の違いによるもの。
(3)ウイルスや細菌あるいは寄生虫などの感染によるもの。

下痢にならないようにするためには、
・体を十分に休め、疲労やストレスを避けましょう。
・海外の水はミネラル分が多いことがあり、一時的に下痢を起こすことがあります。また、油や香辛料も下痢の原因になることから、とり過ぎに注意が必要です。(このような下痢では、3~4日で慣れる人もある一方で、10日以上も続く人もいます。)
・発展途上国に旅行した際の下痢の原因として多いのが、ウイルスや細菌、寄生虫などの感染です。原因となった病原体をはっきりさせることは容易ではありません。病原体への感染を防ぐために、食べ物、水に注意しましょう。(残念ながら、渡航先によってはレストランなどの施設の衛生状態が悪いため、個人的な注意では限界もあります。)

下痢になったら

水分補給

最も重要なのが水分補給です。重大な下痢をきたすコレラの場合でも、口から十分な水分や電解質(ナトリウムなど)がとれる限りは対処が可能と言われています。
飲み水として最もよいのは、「経口補水液(ORS)」と呼ばれているものです。難しい名前ですが、ほとんどの国の売店や薬局で、液体として、あるいは水に溶かす薬として手に入れることができます。これが手に入らない場合にも、食塩と砂糖があれば、次のような方法で代用することができます。

吸収のよい水の作り方

水1リットル+食塩ティースプーン1杯+砂糖ティースプーン6杯

下痢の間は、とにかく十分に水分を補給するようにしてください。

抗生物質の使用

感染による下痢の8割から9割が細菌によるものとされています。細菌による下痢については抗生物質が有効なことがあります。下痢になった場合に備えて抗生物質を携帯するかどうかについては、かかりつけ医あるいは渡航外来の医師とよく相談をしてください。

下痢止め

一般の人が「下痢止め」と言う場合、腸の動きを抑える薬(薬品名 ロペラミドなど)をイメージしていることが多いようです。このタイプの下痢止めは、バス移動などトイレに行くことが難しい場合に有効ですが、下痢を根本的に治す薬ではなく、病原体を体内に留めてしまう問題も持っています。使用に際しては十分に注意してください。

次の症状がみられたら注意!

激しい下痢、頻回の下痢、血液が混じっている下痢の場合、高い熱がみられる場合には、すみやかに医師と相談することをおすすめします。
また、帰国後に下痢が続く場合には、かかりつけ医にご相談ください。

高地で気分が悪くなったら-高山病

高い所では気圧が下がり空気がうすくなります。体がそのような環境に慣れることができず、「頭が痛い。」「眠れない。」といった特徴的な症状がみられるのが高山病です。ひどい場合には死に至ることもあります。高山病は、標高2,500mくらいから起こる可能性があります(富士山に登る人でも起きます)。海外のトレッキングコースには、標高4,000mを超えるものもあるので、経験が豊富な人でも十分な注意が必要です。
また、高山病は登山に伴うものばかりではありません。チベットや南米では、標高3000~4000mの高地にある都市(チベットのラサ = 3,810 m、ペルーのクスコ = 3,326 m、ボリビアのラパス = 3,660 m)へ、飛行機で直接行くことがあります。このような場合、突然の変化に体が慣れにくいため、高山病になる可能性が高くなってしまいます。

高山病の症状

高地で、「頭痛」に加えて、以下の1から4までの症状のどれかがあれば、急性の高山病にかかったと考えられます。
1.食欲不振、吐き気、吐くなどの消化器の症状
2.疲労感、脱力感
3.めまい、ふらつき
4.眠れない、息苦しい、目が何度も覚めるといった睡眠の異常
重くなると、脳がむくみ、すぐに眠ってしまう、日時や場所がわからなくなるなどの精神状態の変化や、まっすぐ歩けないなどの運動の異常が生じたり、肺がむくんで安静にしていても呼吸が苦しくなったりし、放置すると死に至ることがあります。

高山病の治療

最も基本的で効果的な方法は、高度を下げることです。同じ場所で次第に具合が悪くなる場合には、ただちに高度を下げるべきです。重い症状が現れた場合には、ヘリコプターなどを使っても、ただちに高度を下げなければ危険です。
やむを得ない理由ですぐに高度を下げられない場合には、酸素吸入や内服薬による治療を考えますが、時間かせぎできるに過ぎないことも多いです。病状が急速に悪化することがあるので、具合の悪い人を一人きりにしてはいけません。

高山病の予防

まず、ゆとりのある旅行日程を組み、体調が悪い場合には休息できる日を設けるようにしてください。体調が悪い場合には、決してさらに標高を上げてはいけません。
ヒマラヤ救助協会が提唱している予防4か条は以下のとおりです。
1. 標高3000m以上では、眠る場所の高度を前日に比べて300m以上あげないこと。
2. 高度を1000m上げるごとに、1日休息日をとること。
3. 自分が背負う荷物を重くしすぎないこと。
4. ゆっくり歩くこと。

アルコールや睡眠薬、安定剤等は睡眠中の呼吸を悪くし、高山病を起こす原因ともなりますので、高地では控えましょう。
高地は乾燥しており、水分が失われやすい傾向があります。水分は小刻みに十分に摂取するようにしてください。
高山病の予防や治療に用いられる薬として、ダイアモックスがあります。必要かどうか、状況に応じて渡航外来の医師にご相談ください。

(参考)日本登山医学会 急性高山病

耳が痛い-航空性中耳炎

列車でトンネルを通過した時や車で高い山に登った時など、耳が詰まった感じがしたり、耳が痛くなった経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
特に飛行機では、上昇、降下の際に機内の気圧が変化するため、耳が痛くなることが非常に多く見られます。これを航空性中耳炎と呼んでいます。特に飛行機が下降する際に多くみられます。

症状

軽い場合には、耳が詰まるような感じや軽い痛みだけで、数分から数時間で治ってしまいます。しかし、風邪やアレルギー性鼻炎などがある方は、針で刺されるような激しい耳の痛みやゴーと言う低い耳鳴りが現れ、適当な治療や処置を行わなければ、症状が数時間から数日間続くこともあります。更に重症になると鼓膜の内側に血液が混ざった液がたまり、痛みも激しくなります。

対処

軽症の場合には、(1) 水を飲む 、(2) アメをなめる、(3) ガムを噛む、(4) あくびをする、などで改善します。これで改善しない場合には、スキューバダイビングで用いられる、いわゆる「耳抜き」をします。

耳抜きの方法

最初に鼻をかみ(この時、偶然治ることもあります)、次に鼻をつまんで空気を吸い込み、口を閉じて吸い込んだ息を耳へ送り込みます。これを耳が抜ける感じがするまで数回繰返します。(あまり強くやると鼓膜に傷をつけ、逆効果となりますので注意して下さい。)効果のない場合、血管収縮剤を含んだ点鼻薬(日本の航空会社では、機内に常備されていることがあります。)を噴霧し、10分ほどしてから繰り返します。
地上に着いても治らない場合は、すぐに耳鼻科を受診しましょう

予防

完全に予防できる方法はありませんが、アメをなめたり、ガムをかむなどしておけば、航空性中耳炎になりにくいと言われています。風邪やアレルギー性鼻炎の人は、飛行機の搭乗前や着陸前(ベルトサイン点灯前)に点鼻薬を使用しておくと、軽くて済むこともあります。眠っていると唾を飲み込むことが極端に少なくなるので、気圧の変化が大きい降下時には起きていることも重要です。

痒い!痛い!皮膚の異常

皮膚の異常は、海外旅行でもっとも頻繁にみられる問題の一つです。ウイルスや細菌による全身の感染に伴って異常が起こることもあれば、寄生虫、細菌、真菌(カビ)などが局所に感染して起こることもあります。皮膚の異常に際しては、医療機関での診察時に原因がわかりやすいように、旅行に関する下記の情報を整理しておきましょう。

・旅行先と旅行期間
・旅行先での活動内容(水浴び、海水浴、草原でのハイキングなど)
・虫に刺されたかどうか
・皮膚の異常が起こり始めた時期、起こり方(徐々に・突然など)
・全身の異常(発熱、腹痛など)の有無とそれが起こり始めた時期

症状によって分けると、海外旅行者に多い皮膚の病気には次のようなものがあります。

発熱にともなって発疹がみられるもの(速やかに医療機関におかかりください)
デング熱
熱帯、亜熱帯に旅行した後に発熱と発疹がみられる場合、もっとも疑わしい病気です。蚊に刺されることによってうつります。熱がでてから3~4日して体の中心部から手足や顔に発疹が広がっていきます。
リケッチア感染症
野山や畑、草むらでダニやノミに刺されることによってうつります。種類によって異なりますが、典型的なものでは発熱、頭痛、吐き気などの全身の症状と、少し盛り上がった赤い発疹がみられます。
チクングニア熱
流行地で蚊に刺されることによってうつります。発疹は通常発熱の後に起こります。典型的には少し盛り上がった赤い発疹が、体の中心部や四肢に生じます。
腸チフス
食べ物や水からうつります。感染して1~3週間で高熱や頭痛がみられ始め、熱が高くなった際に胸や背中、お腹に淡いピンク色の発疹がみられます。

かゆみが強い発疹
疥癬
人からうつる、旅行者がかかる可能性の高い病気です。非常にかゆい、ニキビのような発疹が、手の肘の関節、腋の下、鼡径部、乳房、ウェスト、おしり、指の間などにみられます。全身のかゆみが生じることもあります。夜間にかゆみが悪化します。
・虫刺され
蚊、ダニ、南京虫(トコジラミ)など。
・シガテラ中毒
熱帯の魚介類がもつ毒による病気で、魚介類を食べて数時間で起きます。かゆみとともに、冷たいものに触ると感電したような痛みを感じます。消化器の症状や筋肉痛、全身のだるさをともないます。
皮膚幼虫移行症
寄生虫の幼虫で汚染された土の上を歩くことなどにより、幼虫が皮膚に侵入し生じる病気です。足やおしりに生じることが多く、激しいかゆみや発赤が生じます。蛇行した筋状の発赤がみられ、少しずつ移動します。

痛みをともった発疹
・化膿性の発疹
皮膚の表面から黄色ブドウ球菌などの細菌が侵入し、増えることで起こります。虫刺されがきっかけとなることがよくあります。いわゆる「おでき」から、皮膚の深いところから脂肪組織まで炎症がおよび、広い範囲で腫れと熱がみられる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」まで、さまざまな状態があります。抗生物質による治療を行いますが、入院が必要な場合もあります。

むずむず感のある発疹
・ハエウジ症
皮膚に植え付けられたハエの卵や、衣類やシーツについた卵から幼虫(ウジ)がかえり、皮膚に寄生します。
皮膚幼虫移行症

この他にも海外旅行に関連して、多くの病気で皮膚の異常が生じます。海外旅行後、特に熱帯・亜熱帯を旅行後に皮膚の異常が続く場合には、必ず医療機関におかかりください。