海外勤務健康管理センター
海外の医療費は高い
Japan Overseas Health Adiministration Center
海外在住の日本人に医療費に関してうかがうと、
といった意見が寄せられます。 ここでは、「海外の医療費が高い」と言われる理由を解説します。
治療費のばらつき
日本の場合
日本では「どこの病院を受診しても医療費はほぼ同じ」です。この裏には2種の統制があります。
- 医療サービスの単価
-
個々の医療サービスに対して、価格統制が行われています。
各サービスの料金を規定した表は、「保険点数表」と呼ばれています。
- 医療サービスの選択
- 「該当する病名」がついた患者に対して、「保険点数表に記載」されているサービスを「指定の限度内で」行なうことのみ許されます。
具体的には以下のような料金計算を行ないます。 例えば、発熱患者に、尿検査、血液検査、マラリア検査を行ったとします。 保険点数表(1995年度)で、それぞれの点数を調べると下記の点数が得られます (表に記載されていない治療はできません)。 基本的には、これらの合計点数を10倍すれば検査料になります。
尿検査 | 項目 | 一般検査 | 沈渣 | 判断料 |
---|---|---|---|---|
点数 | 25 | 30 | 22 |
血液検査 | 項目 | 血算 | 血液像 | マラリア検査 | 判断料 |
---|---|---|---|---|---|
点数 | 30 | 35 | 50 | 105 |
海外の場合
海外では、医療に対する規制が少ないのが通常です。 病院がオープン・システムということもあって、患者にとって医療の選択肢は実に多様です。 当然、医療費に大きなばらつきが発生します。
- 治療内容は患者の希望や経済状態に左右されます。
- 時間が許せば、総合病院の一般外来を受診します。多くの患者で混み合っており、あまり良い環境ではありませんが、比較的低料金で医師の診察を受けることができます。
- お金が許せば、開業医を受診するのが最良です。医師が治療の選択肢を提示し、その費用に関しても説明してくれます。この場合も、患者が医療費を考慮の上、治療法を選択することになります。
- 個々のサービスの料金は、各医療機関が自由に設定できます。
- クリニックは十分な診察時間をとる分だけ、診察料が割高。
- 専門医療を行なう医療機関は、特殊な資源(専門医、専門技術、特殊検査、稀用薬など)が必要、患者が少ない(需給が不安定)、競合が少ないといった理由から、料金が割高。
- 比較的裕福な階層を対象に行き届いたサービスを行なう医療機関(途上国の外国人向け外来など)は料金が割高。
- お金も時間もない患者は、医師の診察を受けないで、直接検査センターに行ったり、薬局で治療薬を購入します
(原則として、こういった対応はお勧めできません)。
結果として、同じ地域でも医療費に10倍以上の開きが出ます。
平均的な医療費の差
海外の医療費を下表に示します。物価水準で補正すると、日本より高めと思われる国が多いようです。
簡単な内科診療 | X線などの検査 | 虫垂炎手術 | |
---|---|---|---|
アメリカ | \16,712 | \12,367 | \1,351,500 |
カナダ | \5,571 | \7,576 | |
イギリス | \12,678 | \10,603 | \532,000 |
フランス | \7,086 | \6,614 | \745,500 |
ドイツ | \4,803 | \8,806 | \637,000 |
オーストラリア | \3,696 | \6,279 | \513,450 |
韓国 | \3,466 | \2,600 | \119,975 |
香港 | \3,968 | \2,587 | \352,800 |
シンガポール | \4,803 | \12,008 | \235,830 |
タイ | \3,912 | \2,087 | \142,660 |
日本 | \11,502 | \5,001 | \216,980 |
COL日本海外派遣社員のための世界生計費調査(1992年データ)およびAIU調査結果(1991年)を参考にしました。
医療保険の支給形式
損害保険形式(患者が保険請求)
医療保険の基本形態で、海外ではこれが原則です(日本の健康保険を海外で利用する場合も含む)。
- 保険会社と契約し、定期的に保険料を納める。
- 医療機関を受診した場合、患者が料金を全額支払い、診断書・領収書等の書類を集める。
- 患者が保険会社/組合から医療費の払い戻しを受ける。
海外では、保険会社から医療費の払い戻しを受けるため、保険請求の手続きが必要となります(会社がこの手続きを代行してくれる場合もあるようです)。

現物支給形式(医療機関が保険請求)
わが国で健康保険を使って受診する場合の、医療費の流れを下図に示します。
- 保険契約は義務化されている(国民皆保険制度)。
- 保険料納入は会社が代行している(給与から天引き)
- 医療費の払い戻し請求は病院・医院が代行(社会保険では治療費の30%のみ徴収される)。
国内の病院や医院の窓口で支払っているのは「患者負担分」です。 これは治療費ではなく、「予防を怠って病気になったことに対するペナルティ」のようなものです。 本当の治療費はこの約5倍です。

海外旅行者傷害保険のキャッシュレスサービスも類似のシステムです。
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