旅行前の準備

旅行前には診察を受けよう

「元気だから旅行に行くのに、何で医者にかからなきゃいけないの?」と思う方は多いのではないでしょうか。でも、少し考えてみませんか。あなたは旅先ではやる病気のことを知っていますか。怖い感染症でもワクチンを打てば防げるものもあります。感染症などの予防についても、専門家から要領を得た説明を聞けばうまく実践できます。また、もしあなたが普段管理してもらっている病気をお持ちなら、旅先で病気が悪くならないように、また悪くなった場合に備えて、かかりつけの先生や専門家に詳しく対処法を聞いておいた方がよいでしょう。このように、予防接種、感染症の予防、ご自分の病気に対する管理や投薬のため、旅行前に診察を受けることにより、海外旅行にともなう危険を減らすことができます。
旅行前には診察を受けよう

では、どのような医療機関に相談すればよいでしょうか。

まず、かかりつけの先生に体調管理について詳しくお聞き下さい。旅行先によって行った方がよい予防接種について、また、旅行先での注意点、携帯した方がよい薬については、旅行に関する医療を専門に扱っている、病院の渡航外来やトラベルクリニックに相談することも考慮しましょう。医療機関にかかる前には、自分の旅行日程やそこでの活動内容(たとえば観光、フィールドワークなど)、これまでかかった病気、受けた予防接種などについて整理しておいてください。予防接種を行うことを考えれば、旅行の少なくとも6週間前には受診することをお勧めします。しかし、それに遅れても受診によって対処できることはたくさんあります。

医療機関受診前のチェックリスト

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命を守る予防接種


命を守る予防接種
感染症には、その病原体に対して直接治療する手段がないものがあります。このため、予防接種で防げる感染症の場合、予防接種によりあらかじめ免疫をつけておくことが望まれるものがあります。特に、命に関わるような感染症については、予防接種は最も重要な対抗手段となります。

渡航者にとって必要な予防接種は、旅行地、そこでの滞在期間、また、滞在地で何をするかによって異なってきます。その地域で流行する疾患については誰でも予防接種の対象として考えるでしょう。一方、黄熱予防接種のように、国や地域によっては例えその地域で流行がなくても受けていなければ入国できなくなるものもあります。また、破傷風に対する予防接種の場合のように、渡航を機会にご自分に免疫があるか見直し、必要に応じて追加で接種をした方がよいものもあります。 地域別情報、疾患別情報についてもご参照下さい。

予防接種(ワクチン)

もしもの時に備えて-旅行用セット

海外旅行中にちょっとした病気になるのはごくありふれたことです。例えば旅先で下痢になる人は、目的地によっては70%にもなると言われています。旅行期間が長くなれば長くなるほど、病気になる危険性は高くなります。また、慢性の病気がある場合には、旅行によるストレスや不規則な生活によって症状が悪化する可能性があります。
症状が比較的軽い場合、前もって旅行用の医療セットを用意しておけば十分対応が可能です。「具合が悪くなったら海外で買えばいいじゃない。」と感じられるかもしれませんが、海外で薬や衛生物品を買うのは、言語の問題もあり簡単なことではありません。また、自分の体に合うかどうか確実ではありません。さらに、海外ではニセ薬が横行している地域もあります。

もしもの時に備えて-旅行用セット
それでは何を準備し、何に注意したらよいでしょうか。次のリストをご参考にしてください。

 薬
 携帯すべき薬  慢性的な病気のため普段から飲んでいる薬
 携帯を考慮する一般薬  ・痛みどめ、解熱剤(アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)
 ・咳止め
 ・抗ヒスタミン剤*1
 ・下痢に対する薬*2
 ・胃の不調に対する薬:制酸剤、H2ブロッカー
 渡航先によって考慮する薬  マラリア予防薬、高山病の薬
 応急処置用品
   消毒薬、ガーゼ、救急絆創膏(大小)、弾性包帯とテープ、綿棒、ピン セット、 はさみ(小)*3、かゆみ止め軟膏、デジタル体温計、点眼液
 その他
   虫除け剤(DEETなどの有効成分を含有するもの)、日焼け止め、 アルコールを含んだハンドジェル、スペアのメガネ、生水を消毒する薬
 連絡先住所と電話番号
(現地の人も分かるように)  ・日本在住の家族、あるいはよく連絡を取る人
 ・かかりつけ医
 ・目的地の日本大使館、領事館

*1 かぜ薬の成分です。市販のかぜ薬は解熱剤や咳止めを含んでおり、他の薬と併用できない場合がありますので、ご注意ください。
*2 いわゆる「下痢止め」は、感染性腸炎の病原体を体内に停滞させてしまいます。使用に際しては十分にご注意ください。下痢に対する抗生物質の使用については、かかりつけ医、トラベルクリニックにご相談ください。
*3 チェックインする荷物の中につめること。機内持ち込み荷物に入れると、セキュリティによって没収される可能性があります。

旅行用セット携帯に際しての注意点

▶薬は内容が容易に分かるように、元のパッケージのまま携帯します。これは、入国に際し、内容の確認が求められることがあるからです。

▶処方された薬については、薬剤の商品名および薬剤名が記載された処方箋のコピー、およびその翻訳文を携行します。

▶かかりつけ医のメモ:規制された薬剤や注射薬について、処方した医師からレターヘッドつきの便箋に書いてもらうことを推奨します。

▶ある種の薬剤は渡航先への持ち込みが認められないことあります。前もって目的地の在日本大使館や領事館に連絡することを推奨します。

▶旅行用セットは手元にあって初めて役立ちます。持ち込み禁止物以外は、機内持ち込み手荷物に入れるようにしてください。また、荷物は紛失する可能性もあります。薬については十分な手持ち量を確保しておいてください。

目的地別の旅行用セットの例

(1)旅行-タイプ1 都市部・一般観光地・リゾ-ト地で感染症が少ない地域

 対象地域:欧州・北米・オセアニア
 かぜ薬  総合かぜ薬、痛み止め・解熱剤
 胃腸薬  一般胃腸薬、整腸剤
 その他  よい止め、救急絆創膏

(2)旅行-タイプ2 都市部・一般観光地・リゾ-ト地で感染症がある地域

 対象地域:アジア・中近東・アフリカの一部(エジプト・ナイロビ・南アフリカ・モロッコ)・南米の一部(アルゼンチン・チリなど)
 かぜ薬  総合かぜ薬、痛み止め・解熱剤
 胃腸薬  一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
 その他  よい止め、かゆみ止め、消毒液、イソジン、救急絆創膏、虫除けスプレー、 蚊取線香(マラリアやデング熱流行地域)

(3)旅行-タイプ3 感染症が多い地域

  対象地域:アフリカ全域・中南米
 かぜ薬  総合かぜ薬、痛み止め・解熱剤
 胃腸薬  一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
 マラリア予防薬  メフロキンなど(前もって処方してもらうこと、服用期間は指示どおりに)。 現地で薬剤を購入する場合には、耐性について注意すること。 また、にせ薬のリスクにも注意。
 その他  よい止め、かゆみ止め、消毒液、イソジン、救急絆創膏、虫除けスプレー、 蚊取線香、弾性包帯、滅菌ガ-ゼ、脱脂綿、体温計、ハサミ、ピンセット、毛抜き。

(4)旅行-タイプ4 感染症の蔓延している地域(冒険旅行/未開地踏破型)

 対象地域:アジア(山間部、森林地帯)・アフリカ・南米(山間部、森林地帯)
 かぜ薬  総合かぜ薬、痛み止め・解熱剤
 胃腸薬  一般胃腸薬、整腸剤、下痢止め、便秘薬
 マラリア予防薬  メフロキンなど(前もって処方してもらうこと、服用期間は指示どおりに)。 現地で薬剤を購入する場合には、耐性について注意すること。 また、にせ薬のリスクにも注意。
 その他   よい止め、かゆみ止め、消毒液、イソジン、救急絆創膏、虫除けスプレー、 蚊取線香、弾性包帯、湿布薬、目薬、滅菌ガ-ゼ、脱脂綿、体温計、ハサミ、 ピンセット、毛抜き。毒ヘビに咬まれた場合の救急セット(入手可能なら持参も考慮)。

慢性の病気のある方に

高齢の方が旅行される機会が増えたこともあり、慢性の病気のコントロールをしながら旅行する必要がある方が多くなっています。このような方が楽しく旅行するためには、前もっての準備が重要です。以下の点に注意しましょう。
慢性の病気のある方に

旅行前に十分にゆとりを持ってかかりつけ医を受診し、旅行日程や前準備についてご相談ください。

かかりつけ医に慢性の病気が安定していることを確認してください。早め(少なくとも4から6週間前)に受診することによって、必要なワクチンを受けたり、適切な薬の処方を受けたりすることが可能になります。病気が安定していない場合には、決して無理をしないようにしてください。

かかりつけ医に英文で紹介状をもらってください。

紹介状には、現在の医療的問題、これまでにかかった主な病気、アレルギー、薬剤の一般名(ジェネリックネーム)を明記した処方内容、また、使用している医療用器具が、簡潔に記されている必要があります。

薬剤を十分量確保してください。

チェックインする荷物はなくなる危険があります。機内に持ち込める手荷物の中に、十分な量の薬剤を用意しましょう。薬剤を詰め替えると、薬剤の内容がわからなくなり、入国審査で問題となる場合があります。薬剤は詰め替えず、元パッケージのままで準備した方が無難です。

旅行保険、社会保険の適用範囲、請求に必要な書類についてお確かめください。

旅行保険に加入する方がほとんどだと考えられますが、慢性の病気に対する治療費はカバーされない可能性があります(たとえば透析費用など)。ご自分が加入している旅行保険が適用される範囲について保険会社に確認してください。
日本で加入している社会保険が一部適用できることがあります。適用を受けるためには、請求に必要な書類について前もって確認し、受診の際に入手する必要があります。

医療上重要な情報を、カードやメディカルIDブレスレット(リストバンド)にして携帯しましょう。

糖尿病や心臓病、アレルギーのある方は、意識を失ってしまうことがあります。その際に迅速で適切な治療が受けられるよう、英語で問題点をカードやブレスレットに記載し、携帯しましょう。

その他、病気に応じて細かい準備が必要である可能性があります。くれぐれも早めにかかりつけ医にご相談されてください。

いざという時の旅行保険

海外でも日本と同じような医療を受けられると思っていらっしゃいませんか。実際のところ、国によっては大きなケガをした場合など、十分な治療ができない場合もあります。ご自分で動くことができなくなってしまったなら、治療設備の整った地域(場合によっては日本)への空輸などに1,000万円を超える多額の費用がかかることもありえます。日本からご家族を呼ぶ必要も出てきます。
いざという時の旅行保険

また、一般に海外での医療費は日本と比べると非常に高額です。かぜのような症状で、ちょっと検査をしたら数万円は普通です。また、治療に先立って所持金の確認をされたり、一時金を要求されたりすることもあります。

もしもの場合に現金で解決できる方は少数でしょう。そこで力を発揮するのが旅行保険です。旅行保険で医療に関係する項目として注目していただきたいのが、治療費用および救援費用に関する補償です(一般に、クレジットカードに付帯する保険の補償額は比較的低額となっていることに注意が必要です)。また、治療費を一旦立替払いする必要があるのか、サポート体制が十分なのかなど、保険を利用する際に重要なチェックポイントもあります。万が一のことを考え、補償内容を十分にご検討の上、旅行保険への加入をご考慮ください。

旅行保険(医療に関する部分)のチェックポイント

▶治療・救援費用の補償限度額

▶補償が受けられる医療サービスの範囲

▶以前から持っている病気の治療に対して、補償されるかどうか

▶妊娠合併症に対する補償の有無

▶高リスクの活動(登山など)に関連する健康問題に対する補償の有無

▶サポートの充実度

▶個人的に立替払いしなくてもよいかどうか(キャッシュレスサービスの有無)

▶給付対象となる医療機関